少女の目覚め
寝落ちの本ポッドキャスト、こんばんは、Naotaroです。このポッドキャストは、あなたの寝落ちのお手伝いをする番組です。
タイトルを聞いたことがあったり、実際に読んだこともあるような本、それから興味深そうな本などを淡々と読んでいきます。
エッセイには面白すぎないツッコミを入れることもあるかもしれません。 作品はすべて青空文庫から選んでおります。
ご意見、ご感想、ご依頼は公式Xまでどうぞ。寝落ちの本で検索してください。 また別途投稿フォームをご用意しました。リクエストなどをお寄せください。
それから番組のフォローまだという方、ぜひ番組のフォローよろしくお願いします。 そして最後にメンバーシップという名前のおひねりを投げていただけるととても嬉しいです。
概要欄のリンクをご覧ください。 さて今日は、
ダザイオサムさんの 女性とです。
あらすじに言われると、
14歳の少女が朝目覚めてから夜眠るまでの1日を彼女自身の独白形式で描いた短編小説となっているそうです。
文字数が33,000字。
1時間超えますかね。 1時間半はいかないと思います。
が1時間超えるでしょう。 それではやっていきましょうか。どうかお付き合いください。
朝の独白
それでは参ります。
女性と 朝目を覚ます時の気持ちは面白い
かくれんぼの時押入れの真っ暗い中にじっとしゃがんで隠れていて突然でこしゃにガラッと 襖を開けられ日の光がじっと来てでこしゃに見つけたと大声で言われて
まぶしさそれから変な間の悪さそれから胸がドキドキして着物の前を合わせたりしてちょっと 照れくさく
押入れから出てきて急にムカムカ腹立たしくあの感じ いや違うあの感じでもないなんだかもっとやりきれない
箱を開けるとその中にまた小さい箱があってその小さい箱を開けるとまたその中にもっと 小さい箱があってそいつを開けるとまたまた小さい箱があってその小さい箱を開けるとまた箱が
あってそして7つも8つも開けていってとうとうしまいにサイコロくらいの小さい箱が出てき てそいつをそっと開けてみて何もないからっぽ
あの感じに少し近い パチッと目が覚めるなんてあれは嘘だ
濁って濁ってそのうちにだんだん澱粉が下に沈み 少しずつ上積みができてやっと疲れて目が覚める朝はなんだか白々しい悲しいことが
たくさんたくさん胸に浮かんでやりきれない 嫌だ嫌だ朝の私は一番見にくい
両方の足がクタクタに疲れてそうしてもう何もしたくない熟睡していないせいかしら 朝は健康だなんてあれば嘘朝は灰色いつもいつも同じ一番虚無だ
朝の寝床の中で私はいつも遠征的だ嫌になる いろいろ見にくい後悔ばっかり一度にどっと固まって胸を防ぎ見問題しちゃう
朝は意地悪 お父さんと小さい声で読んでみる
変に気恥ずかしく嬉しく起きてさっさと布団を畳む 布団を持ち上げるときよいしょと掛け声してハッと思った
私は今まで自分が良い所なんて下痢た言葉を言い出す女だとは思っていなかった よいしょなんておばあさんの掛け声みたいでいやらしい
どうしてこんな掛け声を発したのだろう私の体の中にどこかにばあさんが一ついるよう で気持ちが悪いこれからは気をつけよう
人の下品な歩き格好を貧縮していながらふと自分もそんな歩き方をしているのに気がついた 時みたいにすごくしょげちゃった
朝はいつでも自信がない寝巻きのままで兄弟の前に座る 眼鏡をかけないで鏡を覗くと顔が少しぼやけてしっとり見える
自分の顔の中で一番メガネが嫌なのだけれど他の人にはわからないメガネの良さもある
メガネを取って投稿を見るのが好きだ全体が霞んで夢のように覗き絵みたいに素晴らしい 汚いもんなんて何も見えない大きいものだけ鮮明な強い色光だけが目に入ってくる
メガネを取って人を見るのも好き 相手の顔が皆優しく綺麗に笑って見える
そしてメガネを外している時は決して人と喧嘩をしようなんて思わないし悪口も言いたく ない
ただ黙ってポカンとしているだけ そしてそんな時の私は人にも人良しに見えるだろうと思えば
尚のこと私はポカンと安心して甘えたくなって心も大変優しくなるんだ だけどやっぱりメガネはいやメガネをかけたら顔という感じがなくなってしまう
川河原生まれるいろいろの情緒ロマンチック美しさ 激しさ弱さあどけなさ哀愁
そんなものメガネがみんな遮ってしまう それに目でお話しするということもおかしなくらいできない
メガネは青化け 自分でいつも自分のメガネが嫌だと思っているゆえか目の美しいことが一番いいと思わ
れる 鼻がなくても口が隠されていても目がその目を見ているともっと自分が美しく生き
なければと思わせるような目であればいいと思っている 私の目はただ大きいだけで何にもならない
じっと自分の目を見ているとがっかりする お母さんでさえつまらない目だと言っている
こんな目を光のない目というのであろう たどんと思うとがっかりするこれですからねひどいですよ
鏡に向かうとそのたんびに潤いのあるいい目になりたいとつくづく思う 青い湖のような青い草原に寝て大空を見ているような目
時々雲が流れて映る島の影まではっきり映る 美しい目の人とたくさん会ってみたい
今朝から5月そう思うとなんだか少しウキウキしてきた やっぱり嬉しいもう夏も近いと思う庭に出るとイチゴの花が目に止まれ
お父さんの死んだという事実が不思議になる 死んでいなくなるということは理解できにくいことだ
腑に落ちない お姉さんや別れた人や長い間に会わずにいる人たちが懐かしい
どうも朝は過ぎ去ったこと毛線の人たちのことが嫌に身近に お宅はんの匂いのように味気なく思い出されて叶わない
ジャピーと母 可哀想な犬だから母と呼ぶんだと2匹も連れ合いながら走ってきた
未来への思索
日記を前に並べておいてジャピーだけをうんと可愛がってやった ジャピーの真っ白い毛は光って美しい母は汚い
ジャピーを可愛がっていると母は側で泣きそうな顔をしているのをちゃんとしている 母が片羽だということも知っている
母は悲しくて嫌だ 可哀想で可哀想でたまらないからわざといじわらくしてやるんだ
母はのラインみたいに見えるからいつ犬殺しにやられるかわからない 母は足がこんなだから逃げるのに遅いことだろう
母早く山の中にでも行きなさいお前は誰にも可愛がられないのだから早く死ねばいい 私は母だけでなく人もいけないことをする子なんだ
人を困らせて刺激する本当に嫌な子なんだ 縁側に腰掛けてジャピーの頭を撫でてやりながら目にしみる青葉を見ていると
情けなくなって土の上に添えたいような気持ちになった 泣いてみたくなったうんと息を詰めて目を充血させると少し涙が出るかもしれないと思って
やってみてがダメだった もう涙のない女になったのかもしれない諦めてお部屋の掃除を始める
お掃除しながらふと当人大吉を歌う ちょっとあたりを見回したような感じ普段モーツァルトだのバッハだのに熱中しているはずの自分が
無意識に当人大吉を歌ったのが面白い 布団を持ち上げ時よいしょと言ったりお掃除しながら当人大吉を歌うようでは自分ももうダメかもと
思う こんなことでは寝言なのでどんなに下品なことを言い出すか不安でならない
でもなんだかおかしくなってほうきの手を休めて一人で笑う 昨日縫い上げた新しい下着を着る
胸のところに小さい白いバラの花を刺繍しておいた 上衣を着ちゃうとこの刺繍が見えなくなる
誰にもわからない 得意である
お母さん誰かの縁談のために大笑わ朝早くからお出かけ 私の小さい時からお母さんは人のために尽くすので慣れっ子だけど本当に驚くほど始終
動いているお母さんだ関心する お父さんがあまりにも勉強ばかりしていたからお母さんをお父さんの分もするのである
お父さんは社交とかからはおよそ縁が遠いけれどお母さんは本当に気持ちの良い人 たちの集まりを作る
2人とも違ったところを持っているけれどお互いに尊敬し合っていたらしい 醜いところのない美しい安らかな夫婦とでもいうのであろうか
ああ生意気生意気 お水付けの温まるまで台所口に腰かけて前の雑木林をぼんやり眺めていた
そしたら昔にもこれから先にもこうやって台所の口に腰かけてこの通りの姿勢で 持ってしかもそっくり同じことを考えながら前の雑木林を見ていた
見ているような気がして 過去現在未来それが一瞬間のうちに感じられるような変な気持ちがした
こんな時は時々ある誰かと部屋に座って話をしている 目がテーブルの隅に入ってコトンと止まって動かない
口だけが動いている こんな時に変な錯覚を起こすのだ
いつだったかこんな同じ状態で同じことを話しながらやはりテーブルの隅を見ていた またこれから先も今のことがそっくりそのままに自分にやってくるのだと信じちゃう気持ちになる
のだ どんな遠くの田舎の野道を歩いていてもきっとこの道はいつか来た道と思う
歩きながら道端の豆の葉をサッとむしり取ってもやはりこの道のここのところでこの 葉をむしり取ったことがあると思う
そしてまたこれからも何度も何度もこの道を歩いてここのところで豆の葉をむしるのだと 信じるのである
またこんなこともある ある時お湯に浸かっていてふと手を見た
そしたらこれから先何年か経ってお湯に入ったときこの今の何気なく手を見たことを そして見ながらほとんど感じたことをきっと思い出すに違いないと思ってしまった
そう思ったらなんだか暗い気がした またある夕方ご飯を室に移しているとき
インスピレーションと言っては大げさだけれど何か身内にピューッと走り去っていくものを感じて なんというか哲学の尻尾と言いたいのだけれど
そいつにやられて頭も胸も隅々まで透明になって何か生きていくことにふわっと落ち着いた ような黙って音も立てずにところ点がそろっと押し出される時のような柔軟性で持って
このまま波のままに軽く生き通せるような感じがしたんだ この時は哲学どころの騒ぎではない
盗み猫のように音も立てずに生きていく予感なんてろくなことはないとむしろ恐ろしかった あんな気持ちの状態が長く続くと人は神がかりみたいになっちゃうのではないかしら
キリストでも女のキリストなんてのはいやらしい 結局は私も暇なもんだから生活の苦労がないもんだから毎日
幾百幾千の見たり聞いたりの感受性の処理ができなくなってポカンとしているうちに そいつらがお化けみたいな顔になってポカポカ浮いてくるのではないかしら
食堂でご飯を一人で食べる今年初めてキウリを食べる キウリの青さから夏が来る
5月のキウリの青身には胸が空っぽになるような疼くようなくすぐったいような悲しさがある 一人で食堂でご飯を食べているとやたら無償に旅行に出たい
汽車に乗りたい 新聞を読む
この絵さんの写真が出ている この絵さんていい男なのかしら
私はこんな顔を好かない額がいけない 新聞では本の広告文が一番楽しい
一時一行で100円200円と広告料を取られるのだろうからみんな一生懸命だ 一時一句最大の効果を収めようとうんうなって絞り出したような名文だ
こんなにお金のかかる文章は世の中に少ないであろう なんだか気味が良い痛快だ
ご飯を済まして閉じまりして投稿 大丈夫雨が降らないとは思うけれどそれでも昨日お母さんからもらった良き雨傘
どうしても持って歩きたくてそいつを携帯 このアンブレラはお母さんが昔娘さん時代に使ったもの
面白い傘を見つけて私は少し得意こんな傘を使ってパリの下町を歩きたい きっと今の戦争が終わった頃こんな夢を持ったような古風のアンブレラが流行するだろう
ボンネット風の帽子がきっと似合う ピンクの裾の長い襟の大きく開いた着物に黒い
木のレースで編んだ長い手袋をして 大きなツバの広い帽子には美しい紫のスミレをつける
そして 深緑のところにパリのレストランに昼食をしに行く
物嘘に辛く放水して外を通る人の流れを見ていると誰かがそっと私の肩を叩く 急に音楽
日常生活の葛藤
バラのワルツああお菓子お菓子 現実はこの古ぼけた期待なえのひょろ長い雨傘1本自分が惨めでかわいそう
マッチ売りの娘さんどれ草でもむしっていきましょう 出かけに家の門の前の草を少しむしってお母さんへの勤労奉仕
今日は何かいいことがあるかもしれない同じ草でもどうしてこんなむしり取りたい草と そっと残しておきたい草といろいろあるんだろう
可愛い草とそうでない草と形はちっとも違っていないのにそれでも意地らしい草と 憎々しい草とどうしてこうちゃんと分かれているんだろう
理屈はないんだ女の好き嫌いなんて随分いい加減なもんだと思う 10分間の勤労奉仕を済まして停車場へ急ぐ畑道を通りながらしきりと絵が描きたくなる
途中神社の森の小道を通るこれは私一人で見つけておいた近道である 森の小道を歩きながらふと下を見ると麦が2000ばかりあちこちに固まって
育っている その青々した麦を見ているとああ今年も兵隊さんが来たんだとわかる
去年もたくさんの兵隊さんと馬がやってきてこの神社の森の中に休んでいった しばらくたってそこを通ってみると麦が今日のようにすくすくしていた
けれどもその麦はそれ以上育たなかった 今年も兵隊さんの馬の桶からこぼれて生えてひょろひょろ育ったこの麦はこの森はこんなに暗く
全く日が当たらないもんだからかわいそうにこれだけ育って死んでしまうんだろう 神社の森の小道を抜けて駅近く労働者4,5人と一緒になる
その労働者たちはいつもの習いで言えないような嫌な言葉を私に向かって吐きかける 私はどうしたら良いのか迷ってしまった
その労働者たちを追い抜いてどんどん先に行ってしまいたいのだがそうするには労働者 たちの間を縫って潜り抜けすり抜けしなければならない
おっかないそれと言って黙って立ちん坊して労働者たちを先に行かせてうんと距離の できるまで待っているのはもっともっと弾力のいることだ
それは失礼なことなのだから労働者たちは起こるかもしれない 体を格下してくるし泣きそうになってしまった
私はその泣きそうになるのが恥ずかしくてその者たちに向かって笑ってやった そしてゆっくりとその者たちの後について歩いていった
その時はそれ限りになってしまったけれどその悔しさは電車に乗ってからも消えなかった こんなくだらないことに平然となれるように早く強く清くなりたかった
恋愛と社会への不安
電車の入り口のすぐ近くに空いている席があったから私はそこへそっと私のお道具を置いて スカートのひだをちょっと直してそうして座ろうとしたら
メガネの男の人がちゃんと私のお道具をどけて席に腰掛けてしまった あのそこは私見つけた席ですの
と言ったら男は苦笑して平気で新聞を読み出した よく考えてみるとどっちがずずしいのかわからない
こっちの方がずずしいのかもしれない 仕方なくアンブレラとお道具を網棚に乗せ私はつり革にぶら下がっていつもの通り雑誌を読もう
とパラパラ片手でページを送っているうちにひょんなことを思った 自分から本を読むということを取ってしまったらこの経験のない私は泣きべそを書く
ことだろう そうほど私は本に書かれてあることに頼っている
一つの本を読んではパッとその本に夢中になり 信頼し同化し共鳴しそれに生活をくっつけてみるんだ
また他の本を読むととちまちくるっと変わって済ましている人のものを盗んでき て自分のものにちゃんと作り直す才能はそのズルさはこれは私の唯一の特技だ
本当にこのズルさインチキには嫌になる 毎日毎日失敗に失敗を重ねて赤端ばかり書いていたら少しは重厚になるかもしれない
けれどもそのような失敗にさえ何とか理屈をこじつけて上手に作ろい ちゃんとしたような理論を編み出し苦肉の芝居なんかトクトクとやりそうだ
こんな言葉もどこかの本で読んだことがある 本当に私はどれが本当の自分だからからない
読む本がなくなって真似するお手本が何にも見つからなくなった時には私は一体どうする だろう
でも足も出ない異色の体でむやみに鼻を噛んでいるばかりかもしれない なにしろ電車の中で毎日こんなにフラフラ考えているばかりではダメだ
体に嫌な温かさが残ってやりきれない何かしなければどうにかしなければと思うん だがどうしたら自分をはっきりつかめるのか
これまでの私の自己批判なんてまるで意味ないものだったと思う 批判をしてみて嫌な弱いところに気づくとすぐそれに甘く溺れていたわって角を
ためて牛を殺すのは良くないなどと結論するのだから批判も何もあったものではない 何も考えない方がむしろ良心的だ
この雑誌にも若い女の欠点という見出しでいろんな人が書いてある 飲んでいるうちに自分のことは言われているような気がして恥ずかしい気にもなる
それに各人人によって普段バカだと思っている人はその通りにバカの感じがすることを 言っているし写真で見ておしゃれの感じのする人はおしゃれの言葉遣いをしているので
おかしくて時々クスクス笑いながら読んでいく 宗教家はすぐに信仰を持ち出すし教育家は初めから終わりまで音音と書いてある
政治家は関心を持ち出す作家は気取っておしゃれなことを扱っている 背負っている
でもみんななかなか確実なことばかり書いてある個性のないこと神のないこと 正しい希望正しい野心そんなものから遠く離れていること
つまり理想のないこと 批判はあっても自分の生活に直接結びつける積極性のないこと
自己表現の難しさ
無反省本当の自覚 慈愛事情がない
勇気のある行動をしてもその荒れる結果について責任が持てるかどうか 自分の周囲の生活様式には順応しこれを処理することに巧みであるが自分並びに
自分の周囲の生活に正しい強い愛情を持っていない 本当の意味の喧騒がない独創性に乏しい
人間本来の愛の感覚が欠如してしまっている お上品ぶっていながら義品がない
その他たくさんのことが書かれている 本当に読んでいてハッとすることが多い
決して否定できない けれどもここに書かれてある言葉全部がなんだか楽観的なこの人たちの普段の気持ちとは
離れてただ書いてみたというような感じがする 本当の意味のとか本来のとかいう形容詞がたくさんあるけれど本当の愛
本当の自覚とはどんなものか はっきり手に取るようには書かれていない
この人たちにはわかっているのかもしれないそうならばもっと具体的にただ一言 右へ行け左へ行けとただ一言
権威を持って指で示してくれた方がどんなにありがたいかわからない 私たち愛の表現の方針を見失っているんだからあれもいけないこれもいけないと言わずに
こうしろああしろと強い力で言いつけてくれたら 私たちみんなその通りにする誰も自信がないのかしら
ここに意見を発表している人たちもいつでもどんな場合でもこんな意見を持っている というわけでもないのかもしれない
正しい希望正しい野心を持っていないと叱っておられるけれどもそんな私たち正しい理想 を追って行動した場合この人たちはどこまでも私たちを見守り導いていってくれるだろうか
私たちには自身の行くべき最善の場所生きた子思う美しい場所が自身を伸ばしていく べき場所
おぼろげながらわかっている良い生活を持ちたいと思っている それこそ正しい希望野心を持っている
頼れるだけの動かない信念をも持ちたいと焦っている しかしこれら全部娘なら娘としての生活の良い具現しようとかかったらどんなに努力が必要な
ことだろう お母さんお父さん姉兄たちの考え方もある
口だけではやれ古いのなんのって言うけれども決して人生の先輩老人 既婚の人たちを軽蔑なんかしていない
それどころかいつでも2幕も3幕も置いているはずだ 始終生活と関係のある親類というものもある
知人もある友達もあるそれからいつも大きな力で私たちを押し流す世の中というもの もあるのだ
これらすべてのことを思ったり見たり考えたりすると自分の個性を伸ばすどころの騒ぎではない まあまあ目立たずに普通の多くの人たちの通る道を黙って進んでいくのが
一番利好なのでしょうくらいに思わずにはいられない 少数者への教育を全般へ施すなんてずいぶん迷うことだと思われる
学校の就寝と世の中の大きてとすごく違っているのがだんだん大きくなるにつれて わかってきた
学校の就寝を絶対に守っているとその人はバカを見る 偏人と言われる出世しないでいつも貧乏だ嘘をつかない人なんてあるかしら
あったらその人は永遠に敗北者だ 私の力身関係のうちにも一人行い正しく堅い信念を持って理想を追求してそれこそ本当の
意味で生きている人があるのだけれど 心霊の人みんなその人を悪く言っている
バカ扱いしている私なんかそんなバカ扱いされて敗北するのがわかっていながら お母さんやみんなに反対してまで自分の考え方を伸ばすことはできない
おっかないんだ 小さい自分には私も自分の気持ちと人の気持ちと全く違ってしまった時にはお母さんに
なぜと聞いたもんだ その時にお母さんは何か一言で片付けてそして怒ったものだ
悪い不良みたいだと言ってお母さんは悲しがっていたようだった お父さんに行ったこともあるお父さんはその時ただ黙って笑っていた
そして後でお母さんに中心外れの子だとおっしゃっていたそうだ だんだん大きくなるにつれて私はおっかなびっくりになってしまった
洋服1枚作るのにも人々の思惑を考えるようになってしまった 自分の個性みたいなものを本当はこっそり愛しているのだけれども愛していきたいとは思う
のだけれどそれをはっきり自分のものとして体現するのはおっかないんだ 人々が良いと思う娘になろうといつも思う
たくさんの人たちが集まった時どんなに自分は卑屈になることだろう 口に出したくもないことを気持ちと全然離れたことを嘘ついてペチャペチャやっている
その方が得だ得だと思うからなんだ嫌なことだと思う 早く道徳が一変する時がくれば良いと思う
そうするとこんな卑屈さもまた自分のためでなく人の思惑のために毎日をポタポタ 生活することもなくなるだろう
おやあそこ席が空いた 急いで網棚からお道具とかさを下ろし素早く割り込む
右隣は中学生左隣は子供を背負ってねんねこ着ているおばさん おばさんは年寄りのくせに厚化粧して髪を流行巻きにしている
顔は綺麗なんだけど喉のところにシワが黒く寄っていて浅ましくぶってやりたいほど嫌だった 人間は立っている時と座っている時と丸切り考えることが違ってくる
育っているとなんだか頼りない無気力なことばかり考える 私と向き合い合っている席には4、5人同じ年格好のサラリーマンがぼんやり座っている
30ぐらいであろうかみんな嫌だ目がドロンと濁っている吐きがない けれども私が今このうちの誰か一人ににっこりと笑ってみせると
たったそれだけで私はズルズル引きずられてその人と結婚しなければならぬ羽目に落ちるかもしれないんだ 女は自分の運命を決するのに微笑を一つでたくさんなんだ
恐ろしい不思議なくらいだ気をつけよう 今朝は本当に妙なことばかり考える
2、3日前からうちのお庭を手入れしに来ている植木屋さんの顔が目にちらついて仕方がない どこからどこまで植木屋さんなんだけど顔の感じがどうしても違う
大げさに言えば試作家みたいな顔をしている 色は黒いだけにしまって見える目が良いのだ
眉も迫っている 鼻はすごくししっぱなだけれどそれがまた色の黒いのにマッチして意思が強そうに見える
唇の形もなかなか良い 耳は少し黒い
ってと言ったらそれこそ植木屋さんに逆戻りだけれど 黒いソフトをかぶった日陰の顔は植木屋さんにしておくのが惜しい気がする
お母さんに3度も4度もあの植木屋さんはじめから植木屋さんだったのかしらと尋ねて 姉妹に叱られてしまった
今日お道具を積んできたこの風呂敷はちょうどあの植木屋さんが初めて来た日に お母さんからもらったのだ
風呂敷と自己認識
あの日はうちの方の大掃除だったので台所直しさんや畳屋さんも入っていて お母さんもタンスのものを整理してその時にこの風呂敷が出てきて私がもらった
綺麗な女らしい風呂敷 綺麗だから結ぶのが惜しいこうして座って膝の上に乗せて何度もそっと見てみる
なでる 電車の中のみんなの人にも見てもらいたいけれども誰も見ない
この可愛い風呂敷をただちょっと見つめてさえくださったら 私はその人のところへおやめに行くことに決めてもいい
本能という言葉に突き当たると泣いてみたくなる 本能の大きさ私たちの意思では動かせない力
そんなことが自分の時々のいろんなことからわかってくると気が狂いそうな気持ちになる どうしたら良いのだろうかとぼんやりになってしまう
否定も肯定もないただ大きな大きなものががばと頭から被さってきたようなもんだ そして私を自由に引きずり回しているんだ
引きずられながら満足している気持ちとそれを悲しい気持ちで眺めている別の感情と なぜ私たちは自分だけで満足し自分だけを一生愛していけないんだろう
本能が私の今までの感情理性を食っていくのを見るのは情けない ちょっとでも自分を忘れることがあった後はただがっかりしてしまう
あの自分この自分にも本能がはっきりあることを知ってくるのは泣けそうだ お母さんお父さんと呼びたくなる
けれどもまた真実というものは案外自分が嫌だと思っているところにあるのかもしれない のだからいよいよ情けない
もうお茶飲みず プラットフォームに降り立ったらなんだかすべてケロリとしていた
今過ぎたことを急いで思い返したく勤めたけれど一向に思い浮かばない あの続きを考えようと焦ったけれど何も思うことがない空っぽだ
その時々には随分と自分の気持ちを打ったものもあったようだし苦しい恥ずかしいことも あったはずなのに
すぎてしまえば何もなかったのと全く同じだ 今という瞬間は面白い今今今
と指で押さえているうちにも今は遠くへ飛び去って新しい今が来ている ブリッジの階段をことこと登りながらなんじゃらほいと思った
バカバカし私は少し幸福すぎるのかもしれない 今朝の小杉先生は綺麗
私の風呂敷みたいに綺麗美しい青色の似合う先生 胸のシンクのカーネーションも目立つ
作るということがなかったらもっともっとこの先生好きなんだけれど あまりにポーズをつけすぎる
どこか無理があるあれじゃあ疲れることだろう 性格もどこか難解なところがある分からないところをたくさん持っている
暗い立ちなのに無理に明るく見せようとしているところも見える しかしなんといっても惹かれる女の人だ
逆をの先生なんてさせておくのは惜しい気がする お教室では前ほど人気がなくなったけれど私は私一人は前と同様に惹かれている
山中後半の古城に住んでいる例上そんな感じがある いやに褒めてしまったもんだ小杉先生のお話はどうしていつもこんなに硬いんだろう
頭が悪いのじゃないかしら 悲しくなっちゃうさっきから愛国心について長々と解いて聞かせているのだけれどそんなこと
わかりきっているじゃないか どんな人になって自分の生まれたところを愛する気持ちはあるのにつまらない
机にほうぜついてぼんやり窓の外を眺める 風の強い上から雲が綺麗だお庭の隅にバラの花が4つ咲いている
黄色が一つ白が2つピンクが一つ ポカンと花を眺めながら人間も本当に良いところがあると思った
花の美しさを見つけたのは人間だし花を愛するのも人間だもの お昼ご飯の時はお化け話が出る
安部姉ちゃんの1校7不思議の一つ開かずの扉にはもうみんなキャーキャー ドロンドローン式でなく心理的なので面白い
あんまり騒いだので今食べたばかりなのにもうペコになってしまった さっそくアンパン婦人からキャラメルごちそうになる
それからまた人しきり恐怖物語に皆さん夢中 誰でも彼でもこんなお化け話とやらには興味がわくらし一つの刺激でしょうかな
それからこれは階段ではないけれど久原房之助の話 おかしいおかしい
午後の図画の時間にはみんな校庭に出て車制納稽古 伊藤先生はどうして私はいつも無意味に困らせるんだろう
今日も私に先生ご自身の絵のモデルになるように言い付けた 私のけさ持参した古い雨傘がクラスの大歓迎を受けて皆さん騒ぎ立てるもんだから
とうとう伊藤先生にも勝ってしまってその雨傘もって校庭の隅のバラのそばに立っている よう言い付けられた
先生は私のこんな姿を書いて今度展覧会に出すのだそうだ 30分間だけモデルになってあげることを承諾する
少しでも人のお役に立つことは嬉しいものだ けれども伊藤先生と2人で向き合い合っているととても疲れる
話がネチネチして理屈が多すぎるしあまりにも私を意識している上かスケッチし ながらでも話すことがみんな私のことばかり
返事するの面倒くさく煩わしいはっきりしない人である 変に笑ったり先生のくせに恥ずかしがったり何しろさっぱりしないのにはゲットなりそうだ
死んだ妹を思い出しますなんてやりきれない人はいい人なんだろうけど ゼッシャーが多すぎる
ゼッシャーといえば私だって負けないでたくさんに持っている 私のはその上ずるくて利口に立ち回る本当にキザなのだから吉松に困る
自分はポーズを作りすぎてポーズに引きずられている嘘つきの化け物だ なんて言ってこれがまた一つのポーズなのだから動きが取れね
こうしておとなしく先生のモデルになってあげていながらもつくづく自然になりたい 素直になりたいと祈っているんだ
本なんか読むのをやめてしまい観念だけの生活で無意味な高問じきの知ったかぶりなんて 軽蔑軽蔑
やれ生活の目標がないのもっと生活に人生に積極的になればいいの自分には矛盾がある のどうのってしきりに考えたり悩んだりしているようだが
お前のは干渉だけさ自分を可愛がって長さめているだけなのさ それから随分自分を買いかぶっているのですよ
ああこんなに心の汚い私をモデルにしたりなんかして先生の絵はきっと落選だ 美しいはずがないもの
少女のアイデンティティ
いけないことだけれど伊藤先生がバカに見えてしようがない 先生は私の下着に薔薇の花のシューのあることさえ知らない
黙って同じ姿勢で立っているとやたら無償にお金が欲しくなってくる 10円あれば良いのだけれど
マダムキュリーが一番読みたいそれからふっとお母さん長生きするようにと思う 先生のモデルになっていると変につらい
クタクタに疲れた 放課後はお寺の娘さんの金子さんとこっそりハリウッドに行って髪をやってもらう
出来上がったのを見ると頼んだようにできていないのでがっかりだ どう見たって私はちっとも可愛くない
さましい気がした したたかにしょげちゃった
こんなところへ来てこっそり髪を作ってもらうなんてすごく汚らしい1話の面取り みたいな記載してきてつくづく今は後悔した
私たちこんなところへ来るなんて自分自身を軽蔑していることだと思った お寺さんは大はしゃぎ
このまま見合いに行こうかしら謎とブランボーなことを言い出してそのうちに何とか お寺さんご自身見合いに本当に行くことに決まってしまったような錯覚を起こしたらしく
こんな髪にはどんな色の花を刺したらいいのとか 服の時には帯はどんなのがいいのなんて本気にやり出す
本当に何も考えない可愛らしい人 どなたと見合いなするのと私も笑いながら尋ねると
持ち屋は持ち屋と言いますからねとすもして答えた それどういう意味なのと私も少し驚いて聞いてみたらお寺の娘はお寺へ嫁入り
するのが一番いいのよ 一生食べるのに困らないしと答えてまた私を驚かせた
金子さんは全く無性格みたいでそれ上女らしさでいっぱいだ 学校で私と席がお隣同士というだけでそんなに私は親しくしてあげているわけでも
ないのに お寺さんの方では私のことを私の一番の親友ですなんてみんなに言っている
可愛い娘さんだ 一日おきに手紙を起こしたりなんとなくよく世話をしてくれてありがたいのだけれど今日は
あんまり大げさにはしゃいでいるので私もさすがに嫌になった お寺さんと別れてバスに乗ってしまった
なんだかなんだか憂鬱だバスの中で嫌な女の人を見た 襟の汚れた着物を着てもじゃもじゃの赤い髪を串一本で巻きつけている
でも足も汚いそれに男が女かわからないようなムッとした赤黒い顔をしている それにあー胸がムカムカする
その名は大きいお腹をしているのだ時々一人でニヤニヤ笑っている 面取りこっそり髪を作りにハリウッドなんか行く私だってちょっともこの女の人と
変わらないんだ 今朝電車で隣り合わせた厚化粧のおばさんをも思い出す
あー汚い汚い女は嫌だ自分が女だけに女の中にある不潔さがよくわかって剥ぎしり するほど嫌だ
金魚をいじった後のあのたまらない生臭さが自分の体いっぱいに染みついているようで 洗っても洗っても落ちないようで
こうして1日1日自分もメスの大衆を発散させるようになっていくのかと思えばまた思い 上がることもあるので一層このまま少女のままで死にたくなる
ふと病気になりたく思う運動も病気になって汗を滝のように流して細く痩せたら 私もすっきり正常になれるかもしれない
生きている限りはとても逃れられないことなのだろうか しっかりした宗教の意味もわかりかけてきたような気がする
バスから降りると少しホッとした どうも乗り物はいけない空気が生ぬるくてやりきれない
大地はいい土を踏んで歩いていると自分を好きになる どうも私は少しおっちょこちょいだ極楽トンボだ
帰ろ帰ろと何見て帰る畑の玉ねぎ ミーミー帰ろ帰ろが泣くから帰ろ
と小さい声で歌ってみてこの子はなんて軟気な子だろうと自分ながら輝くなって 背ばかり伸びるこのボーボーが憎らしくなる
いい娘さんになろうと思った この家に帰る田舎道は毎日毎日あまり見慣れているのでどんな静かな田舎だかわからなく
なってしまった ただ木道畑それだけなんだから
今日は一つよそから初めてこの田舎にやってきた人の真似をしてみよう 私はまあ神田あたりの下駄屋さんのお嬢さんで生まれて初めて郊外の土を踏むんだ
するとこの田舎は一体どんなに見えるだろう 素晴らしい思いつきかわいそうな思いつき
私は改まった顔つきになってわざと大げさにキュルキュルしてみる 小さい並木道を下るときにはフリアオイで新緑の枝枝を眺め
まあと小さい叫びを上げてみて土場所を渡るときにはしばらく小川を覗いて水鏡に顔を 写してわんわんと犬の真似をして吠えてみたり
遠くの畑を見るときは目を小さくしてうっとりした風をしていいわねーと呟いてため息 神社ではまた一休み
神社の森の中は暗いので慌てて立ち上がって大コアコアといい 肩を小さくすぼめてそそ草森を通り抜け森の外の明るさにわざと驚いたような振りを
していろいろ新しく新しくと心がけて田舎の道を凝って歩いているうちになんだが たまらなく寂しくなってきた
とうとう道端の草原にペタリと座ってしまった 草の上に座ったらつい今し方までのウキウキした気持ちがコトンと音を立てて消えて
ギュッと真面目になってしまった そしてこの頃の自分を静かにゆっくり思ってみた
なぜこの頃の自分がいけないのかどうしてこんなに不安なのだろう いつでも何かに怯えている
この間も誰かに言われたあなたはだんだん族っぽくなるのね そうかもしれない私は確かにいけなくなった
くだらなくなったいけないいけない弱い弱い 出し抜けに大きな声がわっと出そうになった
チェッそんな叫び声上げたぐらいで自分の親虫をごまかそうだってダメだぞ もうどうにかなれ
私は恋をしているのかもしれない青い草原に仰向けに寝転がった お父さんと呼んでみるお父さんお父さん
少女の心の葛藤
夕焼けの空は綺麗です そして夕靄はピンク色夕日の光が靄の中に溶けて滲んでそのために靄がこんなに
柔らかいピンク色になったのでしょう そのピンクの靄がゆらゆら揺れて子達の間に潜って行ったり道の上を歩いたり
草原を撫でたりそして私の体をふんわり包んでしまいます 私の髪の毛1本1本までピンクの色はそっとかすかに照らして
そして柔らかく撫でてくれます それよりもこの空は美しいこのお空には私生まれて初めて頭を下げたいんです
私は今神様を信じますこれはこの空の色は何という色なのかしら バラカジニジ天使の翼
大がらん いいえそんなんじゃないもっともっと高豪し
みんなを愛したいと涙が出そうなくらい思いました じっと空を見ているとだんだん空が変わっていくんです
だんだん青みがかっていくんですただため息ばかりで裸になってしまいたくなりました それから今ほどこの早草が透明に美しく見えたこともありません
そっと草に触ってみました 美しくいきたいと思います
家へ帰ってみるとお客様お母さんももう帰っておられる 例によって何か賑やかな笑い声
お母さんは私と二人きりの時には顔がどんなに笑っていても声を立てない けれどもお客様とお話ししている時には顔はちっとも笑っていなくて声ばかり
感高く笑っている 挨拶してすぐ裏へ回り井戸端で手を洗い靴下脱いで足を洗っていたら魚屋さんが来て
お待ちおさま毎度ありがとうと言って大きなお魚を一匹井戸端へ置いていった 何というお魚かわからないけれど鱗の細かいところこれは北海のものの感じがする
お魚をお皿に移してまた手を洗っていたら北海道の夏の匂いがした 一昨年の夏休みに北海道のお姉さんの家遊びに行った時のことを思い出す
とまこまいのお姉さんの家は海岸に近い上か始終お魚の匂いがしていた お姉さんがあの家のガランと広いお台所で夕方一人白い女らしい手で上手にお魚をお料理していた
様子もはっきり浮かぶ 私はあの時なぜかお姉さんに甘えたくてたまらなく焦がれてでもお姉さんにはあの頃
もう年ちゃんも生まれていてお姉さんは私のものではなかったのだからそれを思えば 急と冷たいすきめ風が感じられてどうしても
姉さんの細い肩に抱きつくことができなくて死ぬほど寂しい気持ちで じっとあのほの暗いお台所の隅に立ったまま
気の遠くなるほどお姉さんの白く優しく動く指先を見つめていたことも思い出される 過ぎ去ったことはみんな懐かしい
肉芯て不思議なもの他人ならば遠く離れると次第に淡く忘れていくものなのに肉芯は なおさら懐かしい美しいところばかり思い出されるのだから
井戸端のグミの実がほんのり赤く色づいている もう2週間もしたら食べられるようになるかもしれない
去年はおかしかった 私が夕方一人でグミを取って食べていたら
ジャピー黙って見ているのでかわいそうで一つやった そしたらジャピー食べちゃったまた2つやったら食べた
あんまり面白くてこの木を結ぶってポタポタ落としたらジャピー夢中になって食べ始めた バカなやつグミを食べる犬なんて初めてだ
私も背伸びしてはグミを取って食べている ジャピーも舌で食べている
おかしかった そのことを思い出したらジャピーが懐かしくてジャピーと呼んだ
ジャピーは玄関の方から気取って走ってきた急に激しりするほどジャピーを可愛くなっちゃって 尻尾を強くつかむとジャピーは私の手を柔らかく噛んだ
涙が出そうな気持ちになって頭をぶってやる ジャピーは平気で井戸端の水を音を立てて飲む
お部屋に入るとぼっと電灯が灯っている シンとしているお父さんいない
やっぱりお父さんがいないと家の中にどこか大きい空席がポカンと残ってあるような気がして 身悶えしたくなる
和服に着替え脱ぎ捨てた下着のバラに綺麗なキスしてそれから兄弟の前に座ったら 客間の方からお母さんたちの笑い声がどっと怒って私はなんだかムカッとなった
お母さんは私と二人きりの時はいいけれどお客が来たときは変に私から遠くなって 冷たく寄せ寄せしく私はそんな時に一番お父さんが懐かしく悲しくなる
鏡を覗くと私の顔は親と思うほど生き生きしてくる 顔は他人だ私自身の悲しさや苦しさやそんな心持ちとは全然関係なく別故に自由に生き
ている 今日は方便にもつけないのにこんなに方がパッと赤くてそれに唇も小さく赤く光って
可愛い 眼鏡を外してそっと笑ってみる目がとってもいい青く青く澄んでいる
美しい夕空を長いこと見つめたからこんなにいい目になったのかしら 締めたものだ
少しウキウキして台所駅お米を研いでいるうちにまた悲しくなってしまった 線の小金井の家が懐かしい胸が焼けるほど恋しい
あのいいお家にはお父さんもいらしったしお姉さんもいた お母さんだって若かった私が学校から帰ってくるとお母さんとお姉さんと何か面白そう
に台所か茶の間で話をしている おやつをもらって人式で2人に甘えたりお姉さんに喧嘩吹っかけたり
それから決まって叱られて外へ飛び出して遠く遠くへ自転車に乗り 夕方には帰ってきてそれから楽しくご飯だ本当に楽しかった
自分を見つめたり不潔にギクシャクすることもなくただ甘えていればよかったんだ なんという大きな特権を私は享受していたことだろう
しかも平気で 心配もなく寂しさもなく苦しみもなかった
お父さんは立派な良いお父さんだったお姉さんは優しく私はいつもお姉さんにぶら下がってばかり いた
家族の思い出
けれども少しずつ大きくなるにつれて第一私自身がいやらしくなって私の特権はいつの間にか 消失して赤裸
見にくい見にくい ちっとも人に甘えることができなくなって考え込んでばかりいて苦しいことばかり多くなった
お姉さんはお嫁に行ってしまったしお父さんはもういない たったお母さんと私だけになってしまった
お母さんも寂しいことばかりなのだろうこの間もお母さんは もうこれから先は生きる楽しみがなくなってしまった
あなたを見たって私は本当はあんまり楽しみを感じない 許しておくれ幸福もお父さんがいらっしゃらなければ来ない方が良い
とおっしゃった 蚊が出てくるとふとお父さんを思い出しほど着物をするとお父さんを思い出し
爪を切る時にもお父さんを思い出しお茶が美味しい時にもきっとお父さんを思い出す そうである
私がどんなにお母さんの気持ちをいたわって話し相手になってあげてもやっぱりお父さんと は違うのだ
夫婦愛というものはこの世の中で一番強いもので肉親の愛よりも尊いものに違いない 生意気なこと考えたので一人で顔が赤くなってきて私は濡れた手で髪をかき上げる
シュッシュとお米を溶きながら私はお母さんが可愛く意地らしくなって大事にしようと シーンから思う
こんなウェーブかけた髪なんか早速解きほぐしてしまってそして髪の毛をもっと長く伸ばそう お母さんは線から私の髪の短いのを嫌がっていらしたから
うんと伸ばしてきちんと言ってみせたら喜ぶだろう けれどもそんなことまでしてお母さんをいたわるのも嫌だ
やらしい考えてみるとこの頃の私のイライラは随分お母さんと関係がある お母さんの気持ちにぴったり沿ったいい娘でありたいし
それだからとて変にご機嫌の通るのも嫌なんだ黙っていてもお母さん私の気持ちをちゃんと わかって安心していらしたら一番いいんだ
私はどんなにわがままでも決して世間の物笑いになるようなことはしないのだし 辛くても寂しくっても大事のところはきちんと守ってそうしてお母さんとこの家と愛して
愛して愛しているのだからお母さんも私を絶対に信じて ぼんやりのんけにしていらしたらそれでいいんだ
私はきっと立派にある身をこにして勤めるそれが今の私にとっても一番大きな喜び なんだし生きる道だと思っているのにお母さんたらちっとも私を信頼しないでまだまだ
子供扱いにしている 私が子供っぽいこと言うとお母さんは喜んでこの間も私が馬鹿らしいわざとウクレレ
持ち出してポンポンやってはしゃいで見せたらお母さんは真から嬉しそうにして 親雨かな雨だれの音が聞こえるネットをとぼけて言って私を怒らかって
私が本気でウクレレなんかに夢中しているとでも思っているらしい様子なので 私は浅ましくて泣きたくなった
お母さん私はもう大人なんですよ 世の中のことなんでももう知っているんですよ
安心して私に何でも相談してください うちの経済のことなんかでも私に全部打ち上げてこんな状態だからお前もと言って
くださったなら私は決して靴なんかねられはしません しっかりしたつましいつましい娘になります本当にそれは確かなんです
それなのにあーそれなのにという歌があったのを思い出して一人でクスクス笑ってしまった 気がつくと私はぼんやりお鍋に両手を突っ込んだままで馬鹿みたいにある頃考えて
いたんである いけないけないお客様で早く夕食差し上げなければさっきの大きいお魚はどうするんだろう
とにかく3枚におろしてお店につけておくことにしよう そして食べるときっと美味しい
料理はすべて噛んでいかなければいけない キュウリが少し残っているからアレでもって3倍ずそれから私の自慢の卵焼き
それからもう1品あそうだろここ料理にしよう これは私の考案したものでございましてお皿一つ一つにそれぞれハムや卵やパセリや
キャベツほうれん草 お台所に残ってあるものを一切合切
色とりどりに美しく配合させて手際よく並べて出すのであって 手数はいらず経済だしちっとも美味しくはないけれどもでも食卓はずいぶん賑やかに
華麗になってなんだか大変贅沢なごちそうのように見えるんだ 卵の影にパセリの青草そのそばにハムの赤い珊瑚礁がちらと顔出していてキャベツの
黄色い葉はボタンの花弁のように鳥の羽のセンスのようにお皿に敷かれて 緑したたるほうれん草は牧場か湖水かこんなお皿が2つも3つも並べられて食卓に
出されるとお客様はゆっくり泣く類王朝を思い出す まさかそれほどでもないけれどどうせ私は美味しいごちそうなんて作れないのだからせめて
体裁だけでも美しくしてお客様を幻惑させてごまかしてしまうんだ 料理は磨けが第一である
大抵それでごまかせますけれどもこのロココ料理にはよほど絵心が必要だ 色彩の配合について人一番敏感でなければ失敗する
せめて私くらいのデリカシーがなければね ロココという言葉をこないだ事前に調べてみたらカレー飲みにて内容空疎の装飾様式と
定義されていたので笑っちゃった 冥頭である美しさに内容なんてあってたまるもんか
純粋の美しさはいつも無意味で無道徳だ決まっている だから私はロココが好きだ
いつもそうだが私はお料理してあれこれ味を見ているうちになんだかひどい虚無に やられる
心臓に疲れて陰鬱になるあらゆる努力の飽和状態に陥るのである もうもう何でもどうでもよくなってくる
次にはヘイッとやけくそになって味でも体裁でもめちゃめちゃに投げ飛ばしてバタバタ やってしまって実に不機嫌な顔してお客に差し出す
今日のお客様はことにも憂鬱大盛りの今井田さんご夫婦に今年7つの吉尾さん 今井田さんはもう40近いのに高男子みたいに色が白くていやらしい
なぜ四季島謎を吸うんだろう両切りのタバコでないとなんだか不潔な感じがする タバコは両切りに限る
四季島謎を吸っているとその人の人格までが疑わしくなるんだ 一時天井を向いて煙を吐いて母なるほどなんて言っている
今は夜学の先生をしているそうだ 奥さんは小さくておどおどしてそして下品だ
つまらないことにでも顔を畳にくっつけるようにして体をくねらせて笑いむせぶんだ おかしいことなんてあるもんか
そうして大げさに笑い払うのが何か上品なことだろうと思い違いしているんだ 今のこの世の中でこんな階級の人たちが一番悪いのではないかしら
一番汚いプチブルというのかしら 子役人というのかしら
主人公の葛藤
子供なんかも変にこましちゃくれて素直の元気なところがちっともない そう思っていながらも私はそんな気持ちをみんな抑えてお辞儀をしたり笑ったり話したり
吉尾さんを可愛い可愛いと言って頭を撫でてやったり まるで嘘をついてみんなを騙しているんだから今井のご夫婦なんかでもまだまだ私よりは
清純かもしれない 皆さん私の六穀料理を食べて私の腕前を褒めてくれて私は眩しいやら腹立たしいやら
泣きたい気持ちなんだけれどそれでも勤めて嬉しそうな顔をしてみせてやがて私もご 商売して一緒にご飯を食べたのであるが今井田さんの奥さんのしつこい無知なお世辞
にはさすがに目がむかしてよしもう嘘はつくまいときっとなって こんなお料理ちっとも美味しくございません何もないので私のよう給与の一策なんですよと
私はありのまま事実を言ったつもりなのに 今井田さんご夫婦は給与の一策とはうまいことをおっしゃると手を打たんばかりに笑い
教じるのである 私は口惜しくて和紙とお茶碗を放り出して大声上げて泣こうかしらと思った
じっとこらえて無理にニヤニヤ笑ってみせたらお母さんまでが この子もだんだん役に立つようになりましたよとお母さん
私の気持ちちゃんとわかっていらっしゃるくせに今井田さんの気持ちを迎えるために そんなくだらないことを言ってほほっと笑った
お母さんそんなにまでしてこんな今井田なんかのご機嫌を取ることはないんだ お客さんと対している時のお母さんはお母さんじゃないただの弱い女だ
お父さんがいなくなったからってこんなにも卑屈になるもんか 情けなくって何も言えなくなっちゃった
帰ってください帰ってください私の父は立派なお方だ 優しくてそして人格が高いんだお父さんがいないからってそんなに私たちをバカにする
社会との関わり
んだったら今すぐ帰ってください よっぽど今井田にそう言ってやろうと思ったそれでも私はやっぱり弱くて
吉尾さんにハムを切ってあげたり奥さんにお漬物を取ってあげたり奉仕をするのだ ご飯が済んでから私はすぐ台所へ引っ込んで後片付けを始めた
早く一人になりたかったのだ何もお高く止まっているのではないけれども あんな人たちとこれ以上無理に話を合わせてみたり一緒に笑ってみたりする必要もない
ように思われる あんなものにも礼儀をいやや
閉鎖を致す必要なんて絶対ね嫌だもうこれ以上は嫌だ 私は勤められるだけは勤めたんだお母さんだって今日の私の我慢は愛想よくしている
態度を嬉しそうに見ていたじゃないか あれだけでも良かったんだろうか
強く世間の付き合いは付き合い自分は自分とはっきり区別しておいて ちゃんちゃん気持ちよく物事に対応して処理していく方がいいのか
または人に悪く言われてもいつでも自分を失わず倒壊しないで行く方がいいのか どっちがいいのかわからない一生自分と同じくらい弱い優しい温かい人たちの中で
生活していける身分の人は羨ましい 苦労なんて苦労せずに一生済ませるんだったらわざわざ求めて苦労する必要なんてないんだ
その方がいいんだ 自分の気持ちを殺して人に潜めることはきっといいことに違いないんだけれどこれから
先毎日今井田ご夫婦みたいな人たちに無理に笑いかけたり 相槌打たなければならないのだったら私はキチガイになるかもしれない
自分なんてとても監獄に入れないなとおかしいことをふと思う 監獄どころか女中さんにもなれない奥さんにもなれない
いや奥さんの場合は違うんだ この人のために一生を尽くすのだとちゃんと確保が決まったらどんなに苦しくとも真っ黒
になって働いてそうして十分に生きがいがあるのだから希望があるのだから 私だって立派にやれる当たり前のことだ
朝から晩までくるくる駒ネズミのように働いてあげる じゃんじゃんを洗濯をするたくさん汚れ物が溜まった時ほど不愉快なことがない
内面的な変化
イライラしてヒステリーになったみたいに落ち着かない 死んでも死にきれない思いがする
汚れ物を全部一つも残さず洗ってしまって物欲しざるにかけるときは私はもうこれで いつ死んでもいいと思うのである
今井田さんお帰りになる何やら用事があるとかでお母さんを連れて出かけてしまう はいはいついていくお母さんもお母さんだし今井田が何かとお母さんを利用するのは今度だけ
ではないけれど 今井田ご夫婦の厚かましさが嫌で嫌でぶん殴りたい気持ちがする
門のところまで皆さんをお送りして一人ぼんやり夕闇の道を眺めていたら 泣いてみたくなってしまう
郵便箱には郵管とお手紙についつはお母さんへ松坂家から夏物売り出しの子案内 いつは私へ
いとこの順次さんから今度前橋の連帯へ転任することになりました お母さんによろしくと簡単な通知である
商工さんだってそんなに素晴らしい生活内容などは期待できないけれど でも毎日毎日
原告に無駄なく帰居するその規律が羨ましい いつも身がちゃんちゃんと決まっているのだから気持ちの上から楽なことだろうと思う
私みたいに何もしたくなければ一生何もしなくても済むのだしどんなに悪いことでも できる状態に置かれているのだし
また勉強しようと思えば無限と言っていいくらいに勉強のできる時間があるのだし 横を行ったらよほどの望みでも叶えてもらえるような気がするし
ここからここまでという努力の限界が与えられたらどんなに気持ちが助かるかわからない うんと固く縛ってくれると帰ってありがたいのだ
戦地で働いている兵隊さんたちの欲望はたった一つそれはぐっそり眠りたい欲望だけだ と何かの本に書かれてあったけれどその兵隊さんの苦労をお気の毒に思う反面
私はずいぶん羨ましく思った いやらしい反差な堂々巡りの根も葉もないシアンの洪水から綺麗に分かれてただ眠りたい眠り
たいと渇望している状態は実に清潔で単純で思うさえ爽快を覚えるんだ 私などこれは一度軍隊生活でもして散々鍛われたら少しははっきりした美しい娘になれるかもしれない
軍隊生活しなくても新ちゃんみたいに素直の人だってあるのに私はよくよくいけない女だ 悪い子だ新ちゃんは12さんの弟で私とは同じ年なんだけれどどうしてあんなにいい子なんだろう
私は心霊中でいや世界中で一番新ちゃんを好きだ 新ちゃん目が見えないんだ若いのに失明するなんてなんということだろう
こんな静かな晩はお部屋にお一人で癒してどんな気持ちだろう 私たちならは美しくても本を読んだり景色を眺めたりいく分それを紛らかすことができる
けど新ちゃんにはそれができないんだ ただ黙っているだけなんだ
これまで人一倍頑張って勉強してそれからテニスも水泳もお上手だったんだもの 今の寂しさ苦しさはどんなだろう
夕べも新ちゃんのことを思って床に入ってから5分間目をつぶってみた 床に入って目をつぶっているのでさえ5分間は長く胸苦しく感じられるのに新ちゃんは朝も
昼も夜も幾日も幾月も何も見えていないのだ 不平を言ったり感触を起こしたり
わがまま言ったりしてくだされば私も嬉しいのだけれど新ちゃんは何も言わない 新ちゃんが不平や人の悪口を言ったのを聞いたことがない
その上いつも明るい言葉遣い無心の顔つきをしているんだ それがなおさら私の胸にピンときてしまう
あれこれ考えながらお座敷を履いてそれからお風呂を沸かす お風呂番をしながらみかん箱に腰かけ
チロチロ燃える石炭の日を頼り学校の宿題を全部済ませてしまう それでもまだお風呂が沸かないので木刀旗弾を読み返してみる
書かれてある事実は決して嫌な汚いものではないんだ けれども所々作者の気取りが目についてそれがなんだかやっぱり古い頼りなさを
感じさせるんだ お年寄りのせいであろうか
でも外国の作家はいくら年取ってももっと大胆に甘く対象を愛している そして帰って嫌味がない
けれどもこの作品は日本では良い方の部類なのではあるまいか 割に嘘のない静かな諦めが作品の底に感じられて清々しい
この作者のものの中でもこれが一番枯れていて私は好きだ この作者はとても責任感の強い人のような気がする
日本の道徳にとてもとてもこだわっているので帰って反発して変にどぎつくなっている 作品が多かったような気がする
愛情の深すぎる人にありがちな義悪趣味 わざと悪い鬼の面をかぶってそれで帰って作品をよくしている
けれどもこの木刀旗弾には寂しさのある動かない強さがある 私は好きだ
お風呂が沸いた お風呂場に電灯をつけて着物を脱ぎ窓をいっぱい開け放してからひっそりお風呂に浸る
350の青い葉が窓から覗いていて一枚一枚の葉が伝統の光を受けて強く輝いている 空には星がキラキラ何度見直してもキラキラ
青むいたままうっとりしていると自分の体のほの白さがわざと見ないに長 それでもぼんやり感じられ視野のどこかにちゃんと入っている
なお黙っていると小さい時の白さと違うように思われてくる いたたまらない肉体が自分の気持ちと関係なく一人でに成長していくのがたまらなく困惑
する メキメキと大人になってしまう自分をどうすることもできなく悲しい
なりゆきに任せてじっとして自分の大人になっていくのを見ているより仕方がないんだろう か
いつまでもお人形みたいな体でいたいお湯をジャブジャブかき回して子供のフリをしてみても なんとなく気が重い
これから先生きていく理由がないような気がしてくる苦しくなる 今の向こうの原っぱでお姉ちゃんと半分泣きかけて呼ぶよその子供を声に
はっと胸をつかれた 私を呼んでいるのではないけれども今のあの子に泣きながら慕われているその
お姉ちゃんを羨ましく思うのだ 私にだってあんなにしたって甘えてくれる弟が一人でもあったなら私はこんなに
1日1日みっともなく孫ついて生きてはいない 生きることにずいぶん張り合いも出てくるだろうし一生涯を弟に捧げて尽くそうという覚悟
だってできるんだ本当にどんな辛いことでも耐えてみせる 一人力んでそれからつくづく自分をかわいそうに思った
風呂から上がってなんだか今夜星が気にかかって庭に出てみる星が降るようだ もう夏が近い
カエルがあちこちで泣いている麦がザワザワ言っている 何回振り仰いで見ても星がたくさん光っている去年のこと
いや去年じゃないもう一昨年になってしまった 私が散歩に行きたいと無理を言っているとお父さん病気だったのに一緒に散歩に
出てくださった いつも若かったお父さんドイツ語のお前100まで和車99までという意味とやら
の小歌を教えてくださったり星のお話をしたり即興の詩を作ってみせたり ステッキついて壺をぴゅっぴゅ出し出し
あのパチクリをやりながら一緒に歩いてくださった 良いお父さん
黙って星を仰いでいるとお父さんのことをはっきり思い出す あれから1年2年経って私はだんだんいけない娘になってしまった
一人きりの秘密をたくさんたくさん持つようになりました お部屋へ戻って机の前に座って頬杖つきながら机の上のゆりの花を眺める
いい匂いがする ゆりの匂いを嗅いでいるとこうして一人で退屈していても決して汚い気持ちが
起こらない このゆりは昨日の夕方駅の方まで散歩して言ってその代わりに花屋さんから1本買って
きたんだけれど それからはこの私の部屋はまるっきり違った部屋みたいに清々しく
靴間をスルスルと開けるともうゆりの匂いがすっと感じられてどんなに助かるかわからない こうしてじっと見ていると本当にソロモンの映画以上だと実感として肉体感覚として
手工される ふと去年の夏の山形を思い出す
山に行った時崖の中腹にあんまりたくさんゆりが先見られていたので驚いて夢中になって しまった
でもその急な崖にはとてもよじ登っていくことができないのがわかっていたからどんなに 惹かれてもただ見ているより仕方がなかった
少女と花の思い出
その時ちょうど近くに合わせた見知らぬ交付が黙ってどんどん崖によじ登っていって そして瞬くうちにいっぱい両手で抱えきれないほどゆりの花を追ってきてくれた
そして少しも笑わずにそれをみんな私に持たせた それこそいっぱいいっぱいだった
どんな豪勢なステージでも結婚式場でもこんなにたくさんの花をもらった人はないだろう 花で目眩がするってその時初めて味わった
その真っ白い大きい大きい花束を両腕に広げてやっとこさ抱えると前が全然見えなかった 親切だった本当に関心な若い真面目な交付は今どうしているかしら
花を危ないところに行って取ってきてくれたただそれだけなんだけれど ゆりを見るときにはきっと交付を思い出す
机の引き出しを開けて書き回していたら去年の夏のセンスが出てきた 白い紙に元禄時代の女の人が行儀悪く座り崩れてそのそばに青いほうずひが2つ書き
育てられてある このセンスから去年の夏が風と煙みたいに立ち上る
山形の生活汽車の中浴衣追加 川セミ風鈴
急にこれを持って汽車に乗りたくなってしまう 戦争を開く感じって良いものパラパラ骨がほどけて言って急にふわっと軽くなる
くるくるもて遊んでいたらお母さん帰っていらしたご機嫌が良い あー疲れた疲れたと言いながらそんなに不愉快そうの顔もしていない
人の用事をしてあげるのがお好きなんだから仕方がない 何しろ話がややこしくってなどを言いながら着物を着替えてお風呂へ入っ
お風呂から上がって私と2人でお茶を飲みながら変にニコニコ笑ってお母さん何を 言い出すかと思ったら
あなたはこの間から裸足の少女を見たいみたいと言ってたでしょ そんなに行きたいなら行ってもよござんす
その代わり今晩はちょっとお母さんのかと思ってください 働いていくのがなぜ楽しいでしょ
もう私は嬉しくてたまらない裸足の少女という映画も見たいとは思っていたんだが この頃私は遊んでばかりたので遠慮していたんだ
少女の内面の葛藤
それをお母さんちゃんとさせて私に用事を言いつけて私に大手を振って映画見に行ける ように仕向けてくださった
本当に嬉しくお母さんが好きで自然に笑ってしまった お母さんとこうして夜2人きりで暮らすのも随分久しぶりだったような気がする
お母さんとても交際が多いのだからお母さんだっていろいろ世間からバカにされないと思って 勤めておられるんだろう
こうして肩を揉んでいるとお母さんのお疲れが私の体に伝わってくるほどよくわかる 大事にしようと思う
戦国今枝が来ていた時にお母さんはこっそり恨んだことを恥ずかしく思う ごめんなさいと口の中で小さく言ってみる
私はいつも自分のことだけを考え思ってお母さんにはやはり親族から甘えて乱暴な態度を とっている
お母さんはその都度どんなに痛い苦しい思いをするかそんなものは天で跳ねつけている自分だ お父さんがいなくなってからはお母さんは本当にお弱くなっているんだ
私自身苦しいのやりきれないのと言ってお母さんに完全にぶら下がっているくせに お母さんが少しでも私に寄りかかったりするといやらしくすぎたないものを見たような気持ちがするのは本当に
わがまますぎる お母さんだって私だってやっぱり同じ弱い女なんだ
これからはお母さんと2人だけの生活に満足しいつもお母さんの気持ちになってあげて 昔の話をしたりお父さんの話をしたり
一日でも良いお母さん中心の日を作れるようにしたい そして立派に生きがいを感じたい
お母さんのことを心では心配したり良い娘になろうと思うんだけど行動や言葉に出る 私はわがままな子供ばっかりだ
それにこの頃私は子供みたいに綺麗なところさえない汚れて恥ずかしいことばかりだ 苦しみがあるの悩んでいるの寂しいの悲しいのってそれは一体何のことだ
はっきり言ったら死ぬ ちゃんと知っていながら一言だってそれに似た名刺一つ
形容詞一つ言い出せないじゃないか ただドキマキしておしまいにはカットなってまるで何かみたいだ
昔の女は奴隷とか事故を無視している虫けらとか人形とか悪口言われているけれど 今の私なんかよりはずっとずっと良い意味の女らしさがあって心の余裕もあったし
人中を爽やかにさばいていけるだけの h もあったし 純粋の自己犠牲の美しさも知っていたし
完全に無報酬の報酬の喜びもわきまいていたんだ いいあんまさんだ天才ですねお母さんは例によって私をからかう
そうでしょ心がこもっていますからねでも私の取り柄はあんまかみしもそれだけじゃないんです よそれだけじゃあ心細いわね
もっといいとこもあるんです 素直に思っていることをそのまま言ってみたらそれは私の耳にもとっても爽やかに響いて
この2、3年私がこんなに無邪気に物を吐き吐き言えたことはなかった 自分の分をはっきり知って諦めたときに初めて平成な新しい自分が生まれて
くるのかもしれないと嬉しく思った 今夜お母さんにいろいろの意味でお礼もあって雨が澄んでからおまけとして
クォールを少し読んであげる お母さんは私がこんな本を読んでいるのを知るとやっぱり安心するような顔をなさるが先日私が
ケッセルの昼顔を読んでいたら そっと私から本を取り上げて表紙をちらっと見てとても暗い顔をなさってけれども何にも言わずに
黙ってそのまますぐに本を返してくださったけれど 私もなんだか嫌になって続けて読む気がしなくなった
お母さん昼顔を読んだことがないはずなのにそれでも勘でわかるらしいのだ 夜静かな中で一人で声立ててクォールを読んでいると自分の声がとても大きく
間抜けて響いて読みながら時々くだらなくなってお母さんに恥ずかしくなってしまう あたりがあんまり静かなのでバカバカしさが目立つ
クォーレはいつ読んでも小さい時に読んで受けた感激とちょっとも変わらぬ感激を受けて 自分の心も素直に綺麗になるような気がしてやっぱりいいなと思うのであるが
どうも声を出して読むのと目で読むのとでは随分感じが違うので驚き 並行の形である
でもお母さんは縁利子のところやガローンのところではうつむいて泣いておられた うちのお母さんも縁利子のお母さんのように立派な美しいお母さんである
お母さんは先にお休み 今朝早くからお出かけだったゆえ随分疲れたことと思う
お布団を直してあげてお布団の裾のところをハタハタ叩いてあげる お母さんはいつでも男へ入るとすぐ目をつぶれ
私はそれから風呂場でお洗濯 この頃変な癖で12時近くなってお洗濯を始める
昼間ジャブジャブやっている時間を潰すの惜しいような気がするんだけれど反対かもしれない 窓からお月様が見えるしゃがんでシャッシャと洗いながらお月様にそっと笑いかけてみる
お月様は知らん顔をしていた ふとこの同じ瞬間どこかの可哀想な寂しい娘が同じようにこうしてお洗濯しながらこのお月様に
そっと笑いかけた確かに笑いかけたと信じてしまって それは遠い中野山の頂上の一軒や深夜黙って瀬戸でお洗濯している苦しい娘さんが今いるんだ
それからパリの裏町の汚いアパートの廊下でやはり私と同じ年の娘さんが一人でこっそり お洗濯してこのお月様に笑いかけたとちょっとも疑うところなく望遠鏡で本当に見届けて
しまったように色彩も鮮明にくっきり思い浮かぶのである 私たちみんなの苦しみを本当に誰も知らないんだもの
今に大人になってしまえば私たちの苦しさはビッサはおかしなものだったと何でもなく 追憶できるようになるかもしれないんだけれど
けれどもその大人になりきるまでのこの長い嫌な期間をどうして暮らしていったらいいんだろう 誰も教えてくれないもんだ
ほっておくよりしようのないはしかみたいな病気なのかしら でもはしかで死ぬ人もあるしはしかで目のつぶれる人だってあるんだ
放っておくのはいけないことだ 私たちこんなに毎日うつうつしたりカットなったりそのうちには踏み外し
うんと堕落して取り返しのつかない体になってしまって一生めちゃめちゃに送る人だって あるんだ
また人思いに自殺してしまう人だってあるんだ そうなってしまってから世の中の人たちがもう少し生きていたらわかることなのにもう少し
大人になったら自然とわかってくることなのにとどんなに口押しがあったって その通りにしてみれば苦しくて苦しくてそれでもやっとそこまで耐えて何か世の中から
聞こう聞こうと懸命に耳を澄ましていてもやっぱり何か当たり障りない教訓を繰り返して まあまあと斜めるばかりで私たちいつまでも恥ずかしいすっぽかし送っているんだ
私たちは決して切な主義ではないけれどもあんまり遠くの山を指してあそこまで行けば 見晴らしがいいとそれはきっとその通りで
未人の嘘もないことはわかっているんだけれど現在こんな激しい腹痛を起こしているのに その腹痛に対しては見てみぬふりをして
たださあさあもう少しの我慢だあの山の山頂まで行けば締めたもんだとただその ことばかり教えている
きっと誰かが間違っている悪いのはあなただ お洗濯を済ましてお風呂場のお掃除をしてそれからこっそりお部屋の進まわけるとゆりの
による すっとした
心の底まで遠いになってしまって数コーナーにヒルとでも言ったような具合になった 静かに寝前着に着替えていたら今までせやせや眠っているとばかり思っていたお母さん
目をつぶったまま突然言い出したのでビクッとした お母さん時々こんなことをして私を驚かす
夏の靴が欲しいと言っていたから今日渋谷へ行ったついでに見てきたよ 靴も高くなったねー
いいのそんなに欲しくなくなったの でもなければ困るでしょ
明日もまた同じ日が来るんだろう 幸福は一生来ないんだそれはわかっている
けれどもきっと来る明日は来ると信じて寝るのがいいでしょ わざと土産と大きい音を立てて布団に倒れるああいい気持ちだ
布団が冷たいので背中がほどよくひんやりしてついうっとりとなる 幸福は一夜遅れてくる
ぼんやりそんなことも思い出す幸福を待って待ってとうとう耐えきれずに家を飛び出して しまってその明るい日に素晴らしい幸福の知らせが捨てた家を訪れたがもう遅かった
幸福は一夜遅れてくる幸福は お庭をカーの歩く足音がするパタパタパタパタカーの足音には特徴がある
右の前足が少し短くそれに前足は大型でガニだから足音にも寂しい癖があるんだ よくこんな真ん中にお庭を歩き回っているけれど何をしているのかしら
カーはかわいそう 今朝は意地悪してやったけれど明日は可愛がってあげます
私は悲しい癖で顔を両手でぴったり覆っていなければ眠れない顔を追ってじっとしている 眠りに落ちる時の気持ちって変なもんだ
船かうなぎかグイグイ釣り糸を引っ張るようになんだか思い 鉛みたいな力が糸でもって私の頭をグッと引いて私がトロトロ眠りかけるとまたちょっと
糸を緩める すると私はハッと気を取り直すまたグッと引く
トロトロ眠るまたちょっと糸を離すそんなことを3度か4度繰り返してそれから初めて グーッと大きく引いて今度は朝まで
おやすみなさい私は王子様のいないシンデレラ姫 私東京のどこにいるかご存知ですか
もう再びお目にかかりません 1954年発行角川書店角川文庫女性とより独りょう読み終わりです
あの 文がめっちゃ長いんですよなんて言ったらいいですか
苦闘店の丸の方ってどっち当店 苦点
丸 全然丸にたどり着かないの
一文がすごく長い ずっと点を打っているからまあそれを少女らしさとしているのかもしれませんが
はい
ずっとおかっぱ頭の女の子をイメージしてましたけど皆さんはいかがでしょうか 髪型への厳禁あったっけなかったかな
分かっ忘れちゃった 話は変わりますが先日とある会社さんから連絡がありましてこの僕の寝落ちの本
ポッドキャストの音声データを ai に学習させてもいいですかみたいな
依頼があって ai 学習
の教科書のように使わせてもらってもいいですかみたいな ai が学習するためのサンプルに僕のこの音声を
使ってもいいですか寝落ちの本ポッドキャストを使ってもいいですかという お声がかかったのでいいですよということで契約を結びましたが
内容を読んでいるとまあ僕の音声データを分析して ai が学習して 文章構成と読み上げの能力を向上につなげてこうみたいな話と
あとは その配信者も僕ですよね僕の声に似た音声も作りますみたいなこと言ってましたね
作らせてもらいますみたいなことを言ってました 僕の声
に似た ai が生まれるかもしれないですよね 楽しみだね
時代はどんどん ai ですねうん でもそれが進めば進むほどアナログの良さみたいな回帰していくような気もするけどな僕は
手書きの手紙とかめっちゃ嬉しいフィッシャーズに感情乗ってる感じするし ね
そんな気もするんですけどいかがでしょうか よし終わりにしますか
無事寝落ちできた方も最後までお付き合いいただけた方も大変にお疲れ様でした といったところで今日のところはこの辺でまた次回お会いしましょう
おやすみなさい