秋のお寺訪問
お寺での出来事。 私たちは職員旅行で秋のお寺を訪ねた。
山は紅葉し始めていた。 草木の生い茂った山道を奥野院に向かって歩いていくと、
木漏れ日を浴びた苔の緑が目に染みた。 やがて私たちは奥野院に到着し、一休みした。
腰掛ける者もいれば、建物の周りを歩いている者も、 深い谷の向こうの山々を眺めている者もいた。
しばらく休んでいると、急に賑やかな子供たちの声がして、一人、二人と勢いよく登ってきた。
競争でもしてきたのか、息を弾ませながら、他のグループよりも早かったことを自慢しあっている。
少し休むと、次々にお堂の裏手に下っていった。 彼らは地元の中学生らしかった。
そうやって、一旦裏手に消えた生徒のうち、二人が戻ってきた。 どうしたのだろうと思っていると、
腰掛けている私のところに来て、あたりを気にしながら、
おじさん、ちょっとお願いがあるのですが、 と、一人が小声で話しかけてきた。
聞いてみると、公害が収集なので、お小遣いは持つことは許されていないという。 家を出るとき、祖母にお守りを買ってきてほしいと頼まれたそうだ。
ですから、おじさんに買っていただけないでしょうか。 その生徒の態度がいかにも素直だったので、私はとっさに手に持っていた観光地図を広げ、
小声で、この下にお金を置いてごらん、と言った。 お金を貸せると、それを地図と一緒に持って向こう側のお札どころへ行った。
お守りを求めて戻ってくると、また地図を広げ、その下にお守りを置き、 いかにも何か説明しているような様子で、
さあどうぞ、この地図の下にあるよ、と言った。 その子は、素早く地図の下からお守りを受け取ると、嬉しそうに礼を言ってかけていった。
あの子たちは、この人ならだと謝んだ相手が、 中学生の先生であることを思いもしなかっただろう。
たまたまそのおじさんが、「規則は規則、しかし事情によっては例外だって時にあっていい。」 と考え、どちらかといえば、そういうことの好きな人間であったことが幸いだった。
規則を守らなければいけないよ、君たちはどこの中学生? などと問い詰めるようなガリガリの人間だったら、目も当てられなかっただろう。
この一見は、帰校後、それにしても、なぜ私のところに頼みに来たんだろう、 というちょっとした自慢話となり、
また、お寺で禅を施した、という独りよわりの美談にもなったのである。