吉田まりもが主人公になれるのは、いつだって一瞬だ。 有名になりたいだけなのに、いつも空回りして痛いやつになってしまう。
一方、宇宙人のネルは、至急で何々がしたい、という夢があり。 教室にはたくさんの秘密があって、隣にいるあの子のことだって、本当はわかっていなくて、
大好きなあの子にだって伝えられないことがあって。 ほんの少し窮屈で、ほんの少し愛しい関係を描く、青春をもにばすストーリー。
ということで、今回特集として漫画の話をさせていただくんですけれども、 谷口夏子先生の『教室の片隅で青春が始まる』という作品を特集したいと思っております。
はい、よろしくお願いします。
冒頭で読ませていただいたのはあらすじなんですけれども、 教室の片隅で青春が始まるっていうタイトルの通り、学校ものですね。
主人公の吉田麻里茂ちゃんと、宇宙人のネルちゃんと、 あとはいろんな一群グループって言われる人たちがそれぞれ、話数ごとにその人の話があって、
みたいな感じで展開していく漫画ではあるんだけども、 いわゆる群蔵劇、学園ものでの群蔵劇みたいなのって言うと、
パッと浮かぶのはやっぱりどうしても映画版、 霧島部活辞めるって言う、だとは思うんですけども。
うーん、そうですね。
まあ、やっぱ学園ものって基本的には、特に最近そういう傾向が強いっていうか、
まあそういう、いわゆるそれぞれのグループみたいなものとか、 そういった人のそれぞれの立場とそれぞれの悩みがあるみたいなことを描いていくみたいな作品。
まあそういうことにチャレンジしていくっていう作品っていうのは、 すごく鉄板っちゃ鉄板なのかな?
そんなに数があるかどうかって言われると、 そんなにすぐは出せないんだけど。
うーん、主人公の方から見て、こう嫌なやつだなーみたいなやつが、
今度フィーチャーされた時に、 ああ、この人にはこういう哲学があるんだ、みたいなパターンね。
たくさんあるよね、その一つの方としては。
ただ、この谷口先生の作品って割と結構こう、 特にストーリー漫画になってからは、
ちょっとこのSF的な設定。
SFって言葉を使うとちょっとぶっ飛びすぎる感じがするので、 ちょっと難しいんだけど、
少し不思議感みたいな、普通に宇宙人が出てきたりとか、
なんかそういうことが混在してる漫画が結構あるなっていう印象はあって。
なんで宇宙人がいる世界なんかみたいな説明はないんだけども、
普通にいて、普通に学校にいるよみたいな話ではあるんだよね。
まあ、来た理由とかはそのストーリーの中で 明かされていったりはするんだけども、っていう感じのお話で。
谷口先生の作品は、やっぱりこの等身大の女性みたいな、
ちょっとその少し不思議もありつつも、 そういう今の女の子みたいなのを描くのがすごい上手いっていうか。
特にこの作品はそれぞれみんな抱えてるものみたいなのとかと、
そこが変わっていく、解決されたり考え方が変わったり、 捉え方が変わったりみたいなところのバランスみたいなのが、
すごくいい作品だと思っていて。
すごく僕も、谷口先生の漫画の中でも一番完成度というか、 高いし、すごくいい漫画だなと思って今回撮り上げたって感じなんですけれども。
はい。
寺田さん的にはどうですかね。 読んでみて、どんな感じの印象と雑感というか、お持ちましたかね。
そうですね。キャラクター一人一人が、 まずめちゃくちゃ可愛いなっていうのがありますし、
各シーンの女の子たちの一話一話の話の雰囲気とかもそれぞれかなり違ってて、
塗り方とか、髪の毛の塗り方とかも、 トーンじゃないの結構多いじゃないですか。
そうだね。
宇宙人の女の子は髪の毛が結構、 これ何なのですか、絵の具っぽい感じなのかな。
なんか水彩っぽい感じのね。
塗られてたりとかして、さっきも言ってましたけど、 宇宙人が何の説明もなく普通に暮らしてるんやけど、
そういうことを全く突っ込ませないまま、 こっちも気にならないまま読み進めていけるじゃないですか。
ちょっとベタな言葉ですけど、この世界観に飲まれるっていう感じが、 すごい不思議な感じでしたね。
SFじゃない、人間ドラマなんやけど、 なんかすごい世界観に飲まれるって感じがするんですよ。
うーん、そうだね。
特に1,2話の完成度ってすごいと思ってて、僕は、この導入として。
絵もすごく気合い入ってるし、まあ初めのプロットだから みたいな感じで、すごくバシッと決まってたんかなっていう感じはするんだけど。
なんかそこがすごくしっかりしてるから、すぐ3話4話5話6話と、 それぞれの一群グループの女の子たちにカメラが当たっていって、
話としてはどれが好きとか、ここがすごくいいとかあるけど、 その初めの導入がやっぱ漫画的にちょっとすごすぎるから、
このちょっと変わった設定も、スッと飲めるようになってるんやなっていうのが、 何回か読み返して思ったとこかな。
確かに1,2話すごいですよね。
うん、1,2話やっぱすごい。
ネルちゃんが結構、この釣り目の表情じゃないですか、ずっと。
顔の形状上なんですけど、最初やっぱこの、何考えてるかちょっとわかりにくい顔なんですけど、
話を読み進めていくにすれば、どんどん表情が読み取れるようになっていくというか、
そういうのを読者側も、この子の考えてることちょっとわかってきたぞ、みたいな感じになってくるっていうのが面白いなと思いましたね。
どんどん表情豊かになっていく。
そうね。で、ネルちゃんを愛らしく思ってくるという気持ちもついていっていくっていうかね、 この1,2話をまず読むというところで。
このエッセイ漫画とか出されてる時にも、今飛ぶ教室っていうので、漫画の想定とか、
おしゃれな漫画の想定を見たら大体飛ぶ教室の森さんっていう人がやってるんやけど、
森さんは私たちの大学出身で、レコード音楽部の出身の方なんですけどね。
そうなんですか。ああ、急に振りが縮まった。
とかで、森さんが、ジオラマというのとユースカっていう、どっちが先だったかな?
ジオラマかってユースカだったかな?反対だったっけ?っていう、インディーズの漫画誌みたいなのを出してたの、言ったら。
で、そこで、それこそ、しんぞうけいごさん、谷口夏子さんの今パートナーなのかな?のしんぞうけいごさんとか、
あと西村土佳さんとか、あとは寺田さんの好きな宮崎なつしけとか、
あとエラーくんって、LINEアイコンとか、アイコンとかで今は有名なのかな?エラー40さんって、ああ、わからへんか、寺田さん。
だからあんまりピンときてないですけど。
めっちゃ流行ったんやけど、初期のツイッターとかで、一世を風靡したエラーくんとか、
今結構、漫画家としてかなり大成されてる人たちのインディー誌みたいなのがあったんですけど、
あのスカートのサーベスさんとか、その時からそういったものを評価したり、実際になんか参加したりとかもしてたかな。
えぇー。
うん。
ま、なんかその辺でも、確か谷口さんってその辺周りの人だったっていう印象があるんですよ。
あー、そうなんや。
なんか、あれなんか、あたしがわからんけど、結構サブカルっぽい感じ。
言ったらもうほんと、で、この辺って言ったらその当時の東京インディーとか、
関西で言うとマルチネ、トースさんとか、あの辺の周りの人たち。
で、とかのシーンともなんか交往してるところがあって、
ま、実際、絡んでたり仲良かったりっていうのが近いっていう、まあだけなんだけど。
だから、僕からすると、その僕が大学生とかの時の、10年代の割とイケてる、これからのクリエイターみたいな人たちの集団の中の1人っていう印象があるんだけど。
うーん、なるほどね。
ビレバンとかにも、いっぱい置いてそうな感じ。
そうね、それこそジオラマとかユスカはビレバンで売ってたかな。
うん、なんか彼女は宇宙一の表紙とか、なんかすごい見た覚えありますもん。
ここになるともうだいぶ、その活動とかはもう終わった後よ。
あー、そう、これはじゃあもう普通に。
彼女は宇宙一はもうビームから出てるから、その前ぐらいだね。10年代前半ぐらいかな。
うん、なるほど。
その辺の人らが今や結構ど真ん中に。
ど真ん中って言ってもジャンプとかじゃないけど、文化系的なコミックの中ではかなり人気のところに来てるって感じがあるんだけど。
そういう感じのところの人だったなっていう印象があって。
その時はあんまりちゃんと読んでなくて、谷口先生の作品。
でも、この彼女は宇宙一っていう、さっき寺田が言ってたコミックが2018年に出るんですけど。
その時に帯で、「夢見ねむ大水戦」って書いてあったのね。
彼女は宇宙一の帯。
で、僕も結構夢見ねむさん好きだったんで、「あー、ねむ君が言ってるんやー」みたいな感じで。
なんか電波組のグッズとかもやってたりするらしいんだけど、谷口先生が。
で、もっと言うとSNマンガの中に、もともと電波組ファンでねむ君に会ったみたいな話とかも書いてたりして。
あー、なるほどね。でもなんかすごいしっくりくるな。
教室の片隅で青春が始まるような女の子たち、並べて書いたらちょっとアイドルっぽいかなって感じするし。
すごい似合いそうですね、絵柄と。
うん。特にこの2010年代中頃ぐらいのアイドル感みたいな。
まあ電波とか出てきだした時の感じね。
うんうん。
いろんなグループが出てきた頃の感じっていう、やっぱ印象があるわ。
まあちょっと余談ですけど、その辺でねむ君をきっかけで読んで、すごいこの人のマンガ面白いなーと思って。
そっからは新刊が出る度に全部買ってるっていう感じなんですけど。
で、彼女は宇宙一の後にコミックビームで長期連載の、彼女と彼氏の明るい未来っていう作品が2020年まで連載でやってて。
で、これは今全2巻でまとまってたりしますし、そのままビームではずっと連載持ってて、
その彼女と彼氏の明るい未来の後に、この今回特集する教室の片隅で青春が始まる、連載してました。
2020年から2021年かな。
今もコミックビームでは連載してて、吹き寄せレジデンスっていう作品を連載してます。
今ドラマもやってますけども、新庁舎のバンチコミックスってところで、これはウェブで確か連載してたと思うんだよな。
クラゲバンチっていうウェブで、今夜すき焼きだよっていう作品がありまして、
これが特に話題になってたなーっていう印象もありましたし、もっと売れていくんだろうなと思ったりもしますし、
この後に、今夜すき焼きだよは1巻で終わってるんですけど、その後にも、
今夜すき焼きじゃないけどっていう、また違う同居の話みたいなのを書いてたりもしますし。
すごいですね。でもなんか1年に2,3冊ぐらいずっと出し続けてる感じなのかな。すごいな。
正直ね、今回すごくこの教室の片隅で青春が始まる話をしたかったっていうのもあるんだけど、
今一番載ってる漫画家さんの話をしたいなーとは思っていて、そう考えたら谷口先生かなーって思ったみたいな感じなんだよね。
初期に書いてたエッセイ漫画みたいな連載も、このストーリー漫画を書きつつもずっとやってて、
織田さんっていう方のレシピを作る、そういうご飯の連載もやってるし、猫の話。
猫がすごくお好きで、ちょくちょく漫画でも出てきたりするんですけど、すごいでっぷりとした猫が書ける人なんだけど、谷口先生って。
嘘をつかないみたいな。
この教室の片隅で青春が始まるにもあるけど、そういう見栄とかさ。
尊大な自意識と、ある社会と、そこにいる現実と自分と、自分の中の内面とみたいな。
そことすごく向かっていく。それぞれ向かっていき、見方が変わったり解決したりっていうのが、今回の教室の片隅で青春が始まるんだけど。
そこを言ったら、みんな漫画とか全ての表現でこれって向かっていることではあるのよ。
描かれ続けてきたものではあると思うんですよ。テーマとしてはね。
そうですね。
これって文学からずっとやってきたテーマだとは思うんだけど。
なんか、僕はなんて正直な漫画で、もうちょっと、この例えが伝わるかわからないけど、銀男ボーイズ的な方向に行きがちっていうか。
ああ、なんかちょっとこう暴走というか、暴力というか、爆発的に叫ぶような表現が出てきたりとか、
そういう感情の爆発みたいなものをさ、やっぱりインパクトもあるしさ、やりがちじゃないですか。
でもなんか、あんまそういう感じではないかもね。
そうそうそう。で、少女漫画誌、女性漫画路線で行くと、それってやっぱ岡崎京子以降の庵野萌子とか、岡崎京子以降の系譜っていうのがあるんですよね。
ジョージ・朝倉さんとか。僕らがやった中で言うと、川上純子とかもその系譜に入るけども、
暴走していくものとセキララな、生と社会とのぶつかり合いとみたいな漫画ってあるんだけど、
そこが、描いてきた大きな感情みたいな、暴走していくものみたいなのをはらみつつも、全然違うものに着地してる感じみたいなのが、
こんなの読んだことないなって思ってんな。
あー、なるほどね。確かに僕は結構、性の描き方がこれまで見たことない漫画だなって思いましたけど。
うん、まさしくその辺のことを言おうとしてるかな。
食欲とかと同じようなレベルの欲求として描かれている。
まさしくそこだと思うね。
すごいウェットやん、中身としてはさ、今回の。ウェットのはずなんだけど、なんかすごく、
今回はそこに青春っていうものの一瞬の輝きみたいなのも載ってるし、いろいろいろんな奇跡が重なってて最高だと思ってるんだけど、
なんかそこのバランスがすごい好きだね。
なんか多分そこは寺田の言ってる通り、性っていうもの。
言ったらセックスって言葉も多分意識的によく描かれてたりすると思うんだけど、これって。
うん、そうですね。ダイレクトに描かれてるし。
なんかそういう性欲っていうものが、結構男性が描く場合って言ってますね。
暴力性とか、あとは結構自己嫌悪とか、自分の醜悪な部分として描くようなイメージがあるけど、
その性欲を全く自分のこの醜い部分とか老い目みたいなものなく、
発露してる感じがあって、なんやろ、言葉としてやってるかわかんないけど、健康的な感じがするっていうかね。
あー、でもそれはね、そうそう、多分そこなんだよな。
その健康的感みたいなのが多分好きだと思うんだよね。
うん。
だから下手しいこれ普通に中学生とかに渡しそうになるっていうか。
うーん、そうですね。
いい距離感やと思うんですよね。
学生が思う性に対するいい距離感が描かれてる感じがしますね。
確かに。全国の保健室にあってもいいような気がしてきた。
確かに。
うーん、だからそうだね、そこの健康的ってことがすごいしっくりくるな。
そこってあんまないなっていう感じが、そこの健康的な漫画って面白いね。
そういうとこに僕も面白みを感じてるんだと思う。
うん。
うーん、だし、そういうちょっとふわっとした芯の部分みたいなこと言ったけど、
もうちょっと引いて話すと、フィニッシュというかさ、少女漫画的にモノローグもガッツリ描けるんですよね、この人は。
ああ、確かに。
うんうん。モノローグ多分いっぱい少女漫画読んできて思うと思うけど、やっぱりリズム感大事やん。
トントントントン、ドーンみたいなさ。
そのセリフの枠の割り方とかも大事ですよね。
うん、大事やんか。そこもすごくいいし、この人言ってないけど、めちゃめちゃ描き込むときめちゃめちゃ描き込むやん、背景とか。
すごいここぞっていう締めがギッチリしてるから、ふわっと読んでてもすごいグッとくる漫画になってるんよね、どの漫画も。
だからすごいいいなーって思うとこなんやろうなーっていうとこかな、僕が思う特徴と描いてるものっていうのは。
確かにね、描き込みディテールもしっかりしてるからこそ、作者の代弁感がないかな、キャラクターがほんまにそういう個性の人なんやなっていう感じがするから。
実際その友達とかの言葉から思いついたような物語であるってことも多分作用してると思うんですけど。
だからSA漫画を描いてた人と思えないぐらい本当にね、作者の影を感じないというかさ、すごいな。
それはそうやん。それは寺田くんまさしくそうで。確かにその、「こんにちはー!」って出てくるタイプの漫画ってあんねんな、やっぱ。
それが良い悪いじゃなくて、それこそ岡崎京子の系譜ってやっぱちょっと見え隠れ、見え隠れするところが良いとすら思ってたから。
たぶんそこが違うな。そこのリアリティのラインみたいなのが、もうちょっとアニメ見てるぐらいの距離感がある。
あーそうですね、確かに。
けど来るみたいな。そうかもしれない。ちょっといろいろ近づけたとこもあるかなと思いながら。