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2023-08-04 32:28

【朗読】ximy ~明日、I miss youを思い出す~ 作:トコダ トコ

【朗読会】
ximy ~明日、I miss youを思い出す~
作:トコダ トコ

原作はこちらから読めます。
https://t.co/QAJ7HtWP7H

大ファンのトコダコトさんが、けんくらとハンナをモチーフになってる短編小説を発表しました。

あまりに感動したので、朗読してみました!
ぜひ聞いてください。

トコダトコのスタエフはこちら→ https://stand.fm/channels/607bba1cbe8d4428b9a8ab78

聴ける小説「奇跡の5秒前」でのトコダトコ3作品はこちらhttps://twitter.com/tokodatoko/status/1657418709907173376?s=46&t=Rbn05wbQCkKXDJoySfY0fQ

トコダトコの作品「プレゼント・タイム」はこちら→ https://estar.jp/novels/26003128

#トコダトコ
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00:06
【朗読】ximy ~明日、I miss youを思い出す~ 作:トコダ トコ、です。
今日も、アンナさんは綺麗だった。
コテージ風の店舗は、入口に木造のテラス空間を抱えている。
香りのしそうな木目のテラスは、 自宅を兼ねた店舗の三辺をまるっと包むように広がっていた。
万華の空、遠くの空には、セキラウン。
おぼんを過ぎても暑かった今年の夏は、 この数日で無邪気さに落ち着きを見せ始めていた。
だんだん涼しくなるな。
シャツの襟元から、スーッと空気が入り込む。
この時期らしい、 心地の良い涼しさの風を感じた。
こんな昼下がり、きっと彼女なら、 テラスのハンモックでゆらゆらと昼寝でもしてるんじゃないかと思った。
アンナさん、お待たせ。
営業者から下した木材の端材の束を抱えて、 僕はテラスに登りながら声をかける。
でも、店舗の入り口から少し離れた場所にあるハンモックは、 誰も抱いていなかった。
あれ? アンナさーん?
ぐるりとテラスを巡り、店舗の中も覗いたが、 天使の姿はどこにもなかった。
整然と、すべての壁に飾られた花を描いたアート作品は、 両も互いを見つめ微笑み合っている。
奥にアトリエスペース。こっちは整頓されず、 絵の具やら彫刻等がカラフルに散らかったままの空間が広がり、
そこに彼女はいなかった。 またか。
おかしくなって、僕は少し苦笑い。 彼女らしいいつもの光景なのだ。
それが、アンナさんの愛する。 晴れない日常。
僕はアトリエのテーブルの足のあたりに荷物を置いて、 慣れたようにそこから出入りできる裏手のドアを押した。
アンナさーん? あ、クラタさん。
そっか、もうそんな時間か。 果たして天使はやはりそこにいた。
海の見えるベンチに座るアンナさんが少しだけ僕の方を向けて言う。 今日もアンナさんは綺麗だった。
03:00
風になびく短髪の髪は彼女らしい自由さで舞っていて、 午後の日差しに乱反射するそれが中心にある微笑みを輝かしく見せた。
でも、見惚れるより早く僕はすぐに気づく。 彼女が僕を
クラタさんと呼ぶとき、それは 今僕と二人だけではないということ。
アンナさんの影に 低学年くらいの男の子が同じように並んで座っていた。
その子は涙目をアンナさんに向けてじっと見つめている。 小さな両手を包むようにアンナさんは緑色の絵具が滲んだ自分の両手を引っかってそっと握っていた。
いいですよ、アンナさん。続けてください。 アンナさんが僕に小さくうなずいた後、
男の子に向き直る。 昔話の続きを話すように彼女は少し首を曲げて視線の高さを合わせて話し始めた。
ジュン君、君は弱くないよ。 とーっても優しいだけ。
そのお友達を叩き返したら、 きっと痛いと思う。
君は痛いって知ってるから。 やり返さなかったんでしょ?
うん。 でも僕きっとそれを怖い顔で我慢してたから。
あいつ逃げてっちゃったんだ。
そっか。 そう言葉を漏らしてアンナさんは目を細めた。
男の子の目尻からぽろりと溢れる。 すると彼女は肩まで袖をまくった腕を上げ、
手のひらを返して男の子の頭をポンポンと撫で始めた。 君は偉いね。
風の温度が変わったように感じた。 錯覚なのはわかっているけど、
彼女の言葉には ないはずの体温があるのだ。
偉いよ、ジュン君。 ちゃんと我慢したんじゃん。
うん。でもうまくいかなかった。 そんなことないと思うなぁ。
うーん、じゃあさ。
ジュン君は、もしこれでそのお友達と仲が悪くなって、 もうお話ができなくなったらさ。
寂しい? ジュン君は少し考えた後、
こくんとうなずく。 だよね。
うん。 それでいいんだよ。
それでいいの。 ハンナさんは顔を海の方に向けると、
06:02
誰に聞かせるでもない声量でそう思らした。 隣でジュン君が、
首をかしげたのに気づき、 ごめんごめんと言ってからまた続ける。
えっとね、 お友達もそう思ってると思うなぁ。
ハンナさんわかっちゃうんだ、そういうの。 きっと今頃ね、
ジュン君を叩いてしまったことよりも、 ジュン君の前から逃げ出してしまったことを、
その子はとっても後悔していると思う。 絵の具で緑色に汚れた指で、
ジュン君の髪の毛を優しく触る。 そうかな、と呟いた少年に、
きっとそうだよ、と彼女は優しく返した。 君はもう寂しくなさそうだね。
太陽が角度をつけて、 テラスに日陰をつくり始めた。
男の子は店舗の入り口で見送った流れのまま、 ハンナさんはテラスに移り、
反目に身を放った。 ため息のようなものを一息吐くが、
表情はじっとも曇っていなかった。 夕日のような穏やかな微笑みを浮かべ、
ゆらゆらと揺れている。 お疲れ様。
また、ハンナさんのところによく来る子? 傍らにある椅子に座りながら、
僕は通りに視線をやる。 海の方に駆けていった背中はもう遠くにあって、
ハンナさんに悩みを聞いてもらって、 心が軽くなった様子が見てとれた。
そう、 ジュン君はね、
少し前にこの町に来たの。 また可愛いお客さんが増えたね。
うん。 私の絵を見てね。
話したくなったって。 そっか、その気持ち、
なんとなくわかるよ。 暖かいものね。
暖かいか。 うん、そうだといいな。
ジュン君はきっと優しい心を持った、 人間の子だから。
開き放った店舗の扉が、 海風を受けてパタンと閉じる。
ほんの少しだけ曇った彼女の表情を、 僕は隣でぼんやり眺めた。
2年前、 流行らなかった海の近くの元コテージカフェの空き店舗に、
ハンナさんは一人、吊り住んできた。
木材を使ってアート作品を描いているという彼女は、 どうやら海の見えるアトリエを探していたらしい。
09:09
賑わいも寂しさも半分ずつあるようなこの町が気に入り、 ここにたどり着いたのだそうだ。
海水浴やサーフィンのできる浜を持つこの町では、 そんな自由な移住者はそれほど珍しくなかった。
僕はこの町で生まれ育ち、 地元の建材業者に就職したから、
この町から離れたことがない。 だから、趣味のサーフィンでよく会う移住者の人たちとも仲良くはなれたが、
どこか卑屈な田舎者気質のせいか、 大概は深く付き合うまでの関係に至らないことが多かった。
ハンナさんと知り合ったのは、ある日の荒波に乗った時、 遠くの丘のベンチでこちらを眺めている彼女の視線に気づいた気がしたからだった。
その日の夕方、板を担いで帰りの坂道を歩き、 僕はあの丘の上の店舗に立ち寄ることにした。
海を眺める人なんていつもたくさんいるけれど、 その日の丘の彼女の視線は確かに僕だけを見つめている気がしたのだ。
自意識過剰も穴裸だしいが、 僕は彼女を知りたくて、衝動のままにエノドローした。
その時も彼女は裏口のベンチに座っていた。
僕の姿に気づいて首だけ振ると、 海風にそっと声を乗せた。
君はもう寂しくなさそうだね。 ケンクラさん。
その小さな端材の曲線、すごくいいね。
ハンナさんは普段からあまり難しい言葉は使わない。 今日も僕が持ってきた木材の端材を手に取ると、
端的にそんな感想を放った。
空が紫から紺色に色を変え始めたあたりで、 ハンナさんはアトリエに入った。
置いておいた荷物を渡すと、早速それで何かアート作品の制作に取り掛かるらしい。 ジュン君とそのお友達にね。
キーホルダーを作って贈ろうかなって。 クルクルと端材をいろいろな角度で見渡すと、
散らかった床から鉛筆と彫刻刀を手に取った。 言葉の使い方も思いのままの行動も、
12:01
彼女は常に天然色。 小さな子にああも寄り添えるのは、
ハンナさんだからできることなのだと思う。 左右対称の端材を真ん中から2つに切り分け、
鉛筆で表面に花のデザインをついに描いた。 側面にカモミールと印。
少し眺めてから一つうなずいて、 キーホルダーのチャームになる部分の加工を始めた。
この花はね。 今日の気持ちのまま枯れないの。
独り言を呟いているのだろうか。 僕はその言葉に演じをする。
そうだね。 アートは枯れない。
ぬくもりもあって、とても素敵だ。 手を止めず、それを聞いて、ハンナさんは微笑む。
ありがとう、ケンクラさん。 二人きりの時は僕のことをそう呼ぶ。
初めて会ったあの日以降、 僕らの距離が縮まって、
建材メーカーの倉田さんからケンクラさんと短く呼ばれるようになるまで、 時間はそれほどかからなかった。
彼女に惹かれながら、僕はハンナさんのアート作品にも深く興味を持った。
彼女の描く素朴で自由で無邪気なアートは、 温度があるように感じた。
彼女の物言いと同じで、 初めはまるでその心のままに気持ちや心を描いているようだと思ったのだ。
ハンナさん、このアートもギフトにするの?
うん。 そんな文化、素敵じゃない?
ハンナさんが微笑んで僕を見る。 胸が一拍跳ねたように感じた。
頬についた絵の具の汚れもチャーミング。 少し汗をかいた首筋や、毛先の跳ねた短めの髪型。
彼女に見つめられてエレテルを呼ぶ僕の目線は、 ハンナさんの魅力的なところばかりを捉えてしまう。
僕はハンナさんが好きだ。 きっと出会ってから、
ずっと 好きなんだ。
好きだ、好きだ、ハンナさん。 僕は今日もそう思いを伝えた。
檻に触れて、勇気を持って、 何度もその気持ちを彼女には伝えてきた。
15:02
ふざけているわけではなく、 いつも真剣に、そしてその勇気は、
今日も身を結ばない。 ハンナさんは
思考が停止したように、 体温をなくしたように、
今日もその表情を凍らせた。 寂しいという感情を抱くことに、彼女は安堵していた。
きっと、ハンナさんは 5年前。
目覚ましい技術の進歩で、世界各国の経済が成長していく中、 この国はそれに大きくどくれを取っていた。
当初は勤勉さと高い技術力を誇り、世界をリードしていたが、 次第にその成長速度が鈍っていった。
原因はひたすらに優しい国民性だった。 少子化の進む高齢化社会の中、この国では別れの機会が増え、
誰かを失う、という寂しさや悲しみに触れることが多くなった。
もっと心理的な影響を受けやすかったこの国の人々は、 そんな機会の度、著しく生産性が落ちた。
あなたがいなくて寂しいと思う。いわゆる、 I miss you の感情が、この国の経済成長の妨げになっていた。
そこで国は、 人工知能を埋め込んだ人型を、国内の生活圏に意図的に紛れ込ませる仕組みを
法制し、 経済成長を促すことにした。
ただし、その人型は、 愛や情を感じる回路を、あえて鈍く設定し、
特に誰かを失った時などの、 I miss you の感情は、学習しないようプログラミングされた。
I miss you に影響を受けなくなったこの国の経済は、 以降の数年で大きく成長することとなった。
結果が現れ始めたことで、 女型との共存に当初不安を抱いていた国民も、
許容し、理解を示していた。 I miss you は、成長に不要。
I miss you は、 罰。
その意識は、この5年で人々の常識になりつつある。 国内中の生活圏に放たれた人型は、
その頭文字から、
ジミーと俗称され呼ばれるようになるが、 普通に生活する中で彼らに、ジミーと人間はほとんど見分けがつかなかった。
18:11
アトリエの窓から、 沈む間際の日の残光が、
海と夜空を縁取るのが見えた。 好きだ!と僕が伝えてからその温もりが散るまでに、
いつも数十分の時間がいる。 少しずつ体をゆすり始め、うつむく顔を上げて笑いかけてくれるまで、
僕は毎回ハンナさんを見つめ続け、 自分の枯れない気持ちを反芻する。
僕のハンナさんへの恋愛は、 愛に違いない。
それを初めて彼女に伝えた時、 ハンナさんはあからさまに、
見せる感情を鈍らせた。 なんとなく、僕は初めからわかっていたのかもしれない。
ハンナさんは、酔ってくれる子供たちに、 寂しく感じるかを尋ねていた。
確認していた。 そして今日の昼間のように、
その子たちが寂しいという感情を抱くことに、 彼女は安堵していた。
きっとハンナさんは、 ジミーなのだ。
私だけは、 きっと
ジミーもいつか、 I miss you の感情を取り戻せるって、
そう、信じてるの。 アトリエの冷蔵庫に入っていたアイスティーをグラスに注ぎ、
僕は床に二つ置いた。 15分ほどたち、
通に会話ができるようになったハンナさんはそれを飲んで、 ポツポツと話し始める。
ケンクラさん。 ジュン君はね、
寂しさを知ってた。 ちゃんと人間らしい感情で、
私と心を通わせようとしてくれたんだ。 嬉しかったな。
僕の告白には触れず、 ハンナさんが虚空を見てそう呟く。
僕は言葉を選んで、今日も短く返事をした。 彼女に愛が伝わらないことを、
僕は寂しいとは思わない。 僕はもう、
またハンナさんに伝えたくなっているのだ。 ケンクラさん。
ジミーがこの国でどれくらい生きているか、 わかる?
唐突に、近畿を突かれた気がして、 僕は思わず息を呑んだ。
慌てて首を振ると、ハンナさんは僕を見つめ、 戸羽を落とし始めた。
21:02
私もわからない。 けどね、
私は、 私だけはきっと、
ジミーもいつか、 I miss you の感情を取り戻せるって。
そう信じてるの。 それは、絞り出してこぼれたような、
ハンナさんの心だった。 私の花はね、
枯れないんだ。 わかるよ、ハンナさん。
僕の気持ちも、枯れないから。 そう口には出さず、僕はハンナさんに微笑み返した。
ハンナさんの生み出す、 花のアートの数々は、
いつもその時々の感情に触れその瞬間を切り取り、
その心を、 枯れない花のギフトに残し、誰かに送って伝えようとする。
彼女たちも感情を失くしたくはないのだ。 ジミーたちは、
この国に生まれ落ちて数年が経ち、 鈍くても確実に、ようやく I miss you の心を取り戻そうとしている。
彼女の美貌も、 時折人間離れした感覚も、
今はまだ、 愛に未熟に、心を閉ざすところさえも。
僕は、それも愛おしいと思うけれど、 店舗を出て営業車に乗り込む。
もう太陽はとっくに沈んでいて、 先にある海は、
見えず波の音だけが遠くに聞こえた。 汽車が遅くて、社長が僕を心配しているかもしれない。
明日は仕事休みだから、 サーフィンに海に来るよ。
ハンナさん、 浜に見に来ない?
運転席から見送りに出てくれたハンナさんを、 そう誘ってみる。
海風でなびく髪を押さえながら、 はにかんで、小さくうなずいてくれた。
アーティストらしさを感じないこんな素振りも、 たまらなく可愛いと思った。
芸術分野の発展のために送り込まれただろう ハンナさんだが、
きっとこの町の海風や潮のせいでバグが生まれて、 寂しいという感情に著しく反応するように変化していってるのかな。
ハンナさんの心はちゃんと体温を持ち始めている。 彼女の表情にぬくもりを見る。
その肌に触れたことはないけれど、 僕は人間とジミーが心を通わせ恋をする。
24:03
初めての二人になろうとか。 考えて。
一人で顔を熱くした。 僕はまだ慎重に言葉を選び、ハンナさんに告げる。
人間がジミーを支えて生きていく。 今度はそんな社会が生まれてもいいんじゃないかな。
彼女は首をかしげて微笑んだ。 そうだ!
あの人に絵を描こう! 今のこの気持ちを
枯れない花に描こう! クラター! 遅えよ!心配すんだろうが!
記者すると先輩社員のホッタさんにどやされた。 社長は僕の姿を確認し、
しんそく安心したような顔をして、僕らのやりとりを見つめている。 すいませんと適当に言いながら、僕はデスクのPCを立ち上げた。
どこで道草してたのかと。 ホッタさんがしつこく聞いてくる。
ハンナさんのアトリエに寄ってきました。 廃棄端材を着取ってもらってて。
おお、クラターよ! ずいぶんと彼女のとこだけ圧しげく言ってるよな。
そんなんじゃないですよ! ホッタさんが僕を冷やかす。
がん感情をあらわにしないタイプの僕だが、 いつもハンナさんのことになるとムキになってしまうから、
社長やホッタさんは僕の気持ちに気づき始めているだろう。 僕はカバンの書類をしまって、
PCに向かいジミーについて検索する。 こっから少しずつジミーについて知っていこうと思った。
どうしたらハンナさんのためになるのか。 どうすればジミーとちゃんと心を通わせられるのかと。
クラター? お前、ジミーに興味あんの?
ホッタさんが少し神妙な顔つきになって、椅子ごと僕に寄って尋ねてきた。 僕は一つ、咳払いをして、モヤのかかったような思考を飛ばす。
疲れたかなぁ。 さっきからハンナさんのことを考えていると、
ぼーっとしてくる。 ハンナさんの力になりたいんです。
社長もホッタさんも、 彼女のアートをもっと知った方がいいですよ。
彼女の作り出す世界は、 ずーっと枯れないんですよ。
だから、きっと届くんだ。
27:00
人間にも、
ジミーにも、
ちゃんと、
愛を
伝え
あーーー!
社長! クラタマタ、充電切れ!
止まっちまってるよ! まだかよ。
最近、あんまり持たなくなってきちゃったなぁ。 ほら!
ホッタ、そっち持て! うん、そのコネクタ引っ張って。そう。
よいしょ! 充電開始。
これでよし。 のろけ始めたと思ったら、
いきなりプツン。 だもんな。
ですね。 クラタはもう寿命じゃないですか?
あー。 もう3年か。
でも、買い替えの時期は少し早くねえか? 社長が、
趣味設定にサンフィンなんか入力するからですよ。 海風とか潮とかで、きっとどこかバグっちまったんじゃないですかね。
この町で暮らすなら、サーフィンくらいやらせてええじゃねえか。
でもな、最近自分を人間だって思い込むようになってたからな。 恋愛しそうになってて、
ちょっと面白そうでしたけどね。 まあ、それもバグなんでしょうし。
最近充電切れがちで、やっぱりヤバいっすよ。 そうだよな。
いい奴だったんだけどな。 仕方ない。
おい、ホッタ。 最新号のジミーのカタログ持ってきてくれ。
はーい。 次はギャルみたいな人型どうでしょう?
ジュン君とその友達に贈る、 花をアートに描いたキーホルダーを完成させた。
夜はもう深くなっていて、 いつの間にか今日が昨日になっていた。
床にそのまま置かれていた2つのカラグラスを片付けようとした時、
端材の中に同じ曲線を持ったちょうどいい大きさの小さな木材があるのについた。
そうだ、あの人に絵を描こう。 今のこの気持ちを枯れない花に描こう。
モチーフは、アイリス。
心に思い浮かべるのは、頬がゆるむ。 明日はサーフィンを見に海まで降りよう。
30:05
その時に渡せるように。 そうね。
今日作ったキーホルダーくらいの小さなアート作品がいいかな。 いつまでも枯れない心を。
彼に持っていてもらえるように。 痛っ!
いけない。浮かれすぎ。 考え事しながら木材削ったら、指に当たっちゃった。
あらら。 血が出てきた。
血が真っ赤だ。 絆創膏、絆創膏。
でも痛いのは仕方ないね。 血が出るのも。
だって私は人間なんだもの。 それにしても、ケンクラさんの帰り際の言葉。
人間が自民を支えて生きていく。 今度はそんな社会が生まれてもいいんじゃないかな。
うーん。 やっぱりケンクラさんって地味なのかな。
違うかな。 そんなことないか。
私に何度も告白してくれようとしてるもんね。 あの人は愛を知っている。
私ったらいつもドギマギしちゃって、ドキドキで言葉に詰まっちゃうけどさ。
嬉しいんだよね、本当は。
でも、もしケンクラさんが地味だとしたら?
いや、同じよね。 私の愛は枯れないんだから。
でもあれは、 自分のことを支えてほしい。
って意味かなぁ。 古風なのか、最先端技術なのか。
もう面白いなぁ。 本当に変な人。
明日、サーフィンか。 楽しみだなぁ。
もう、君も私も、明日、
寂しくなさそうだ。
32:28

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