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耳を澄ましなさい。おそらくあなたは、完全には忘れ去られていない、往古の状態をかすかに思い出すだろう。
それはおぼろげなものかもしれないが、まったく馴染みのないものではない。まるで、当の昔に題名を忘れた歌のようであり、あなたはそれをどこで聞いたかも少しも覚えていない。
その歌の全部ではないが、特定の人や場所やものなどに付随してはいない旋律のほんの一部が、あなたと共にとどまっていた。
それでも、このほんのわずかな断片から、あなたは、その歌の麗しさや、それを聞いた時の素晴らしい情景や、その場にいて、あなたと共にそれを聞いた者たちを、自分がどれほど愛していたのかを思い出す。
その歌の調べ自体は無である。それでもあなたが、それを自分の中に抱き続けたのは、その調べそのもののゆえにではなく、それが思い出せば涙せずにはいられないほど愛おしく、大切なものの記憶をそっと呼び覚ますものだからである。
あなたは思い出せる。だが思い出せば、これまで自分が学んだこの世界を失うことになると信じて恐れているのである。それでもあなたは、これに比べれば、自分で学んだ世界の中にあるどんなものも、その半分も大切ではないと知っている。
耳をすましなさい。そして、はるか昔にあなたが知っていた往古の歌を覚えているかどうか確かめなさい。その歌は大切にするようにと、これまで自分に教えてきたどんな旋律よりもずっと大切にされてきた歌である。