言葉の意味と影響
こんにちは。明治大学で生涯学習講座の講師をしています、遠藤美保です。この番組では、社会人や学生向けの生涯学習講座を10年以上行ってきた私が、日常生活でも活かせる心理学を、ポッドキャストでお伝えしていきます。
今回のテーマは、こちら。
『仕方がない。言えない、できない。言わない、しない。』。
今回は、「仕方がない。言えない、できない。言わない、しない。」のお話です。
お伝えしている心理学ですが、皆様にとっての日常的で身近な話題とも、自然とつながっています。
その見方、活かし方をご紹介します。
今回は、「仕方がない。言えない、できない。言わない、しない。」について。
何気なく使っている言葉、「仕方がない。」 「言えない、できない。」
「言わない、しない。」との違いは何なのか、どんな意味があるのか、何が起きているのか、気づくヒントが得られます。
第1回目「承認欲求は誰もが持っている原点」ともリンクするお話です。
よく聞く言葉、「仕方がない」。「仕方ない」、「しょうがない」とも言う言葉。
変形すると、「そういうもんだから」、「そういう人だから」、とか。「どうせ変わらないから」、「どうなるもんでもない」、とか。
エピソード
皆様はこの言葉、言う人ですか？聞く人ですか？あるいは、気にしない人、予定調和で受け入れている人、聞くとかえって「やってやる」と、なぜか燃える人もいるでしょうか。
この「仕方がない」が出てくるとき、場面は、裏を返せば、「このまま」であることを、本人が自分に言い聞かせているか、周りに合意させようとしているか、辺りでは？
少なくとも、その先につながる何かを起こさせない、そんなつながる何かを「しない」という、「行動・思考・感情」を表す言葉。ある意味、呪文とも言えるかもしれません。
大学生の頃のお話。ちょっと憧れもありまして、アルバイトで費用を貯め、夏休み期間を利用して、アメリカにホームステイをしたときのこと。
ある会社が用意していた、1ヶ月程度のホームステイプログラムに参加。
同じように申し込んだ、色々な大学の学生同士、10名前後のグループで語学研修に参加したり、最後は1週間程度の観光もできる、というコースでした。
最初はもちろん、お互いによく知らない者同士。とは言え、これから一緒に過ごすメンバーですから、いろいろ話しかけて、まずは親睦を深めるために交流。
ちなみに、私の当時の英語レベルは、それなりに復習はしたものの、愛嬌で乗り切るぞ！レベル。
メンバーの中には英語が得意そうな人もいて、うっかり何かを落としたとき、「Oh my gosh!」。それを聞いて思わず、「え～、すごい。もうアメリカなんだなあ。」 「何かあったら、頼っちゃおう。」と、密かに思ったりもしていました。
そんなメンバーと一緒にいた、乗り継ぎか何かで少し時間のあった、アメリカの空港での出来事。
切手の自動販売機がありまして、メンバーの中の一人が、「記念にもなるし、買いたい」。そう言って、コインを入れたのですが、待てど暮らせど切手が出てきません。
あちこち押してみたり、多少揺すってみたり。それでも、出てこない。金額は合っているのに、出てこない。
がっかりして、半べそ状態のその子を見まして、「あっ、そうだ！」と、「Oh my gosh!」の子のところに駆け寄りました。状況を話して、何とかしてもらおう、そんな考え。
これこれこうでと話し、状況は伝わったのですが、「え、いや、でも、お金を入れて出てこないんだよね」。そう言いつつ、一向に動いてくれる気配はなし。
その時、「仕方がない。」と言ったかどうかは、実はちょっと覚えていません。
ただ、私には「仕方がない。」という言葉や気持ちが、伝わってきました。「もう、ここまで。それでいいじゃない。仕方ないよ、外国だし。」そんな流れ。「そんなの、嫌」。
自販機にお金を入れたのは、自分ではないのに。そしてもともと、自分で何とかしようともせず、人を頼って何とかしてもらおうと、調子の良いことを考えていただけのくせに。「仕方なく、なんかない」。スイッチが入ってしまったようです。
その後は、空港のカウンターの人のところにダッシュ。状況を伝え、何とかしてほしいと訴えました。すると、自販機は空港管理ではなく、何かあれば、自販機に掲示されている会社の記載された電話番号に電話するように、とのこと。
ここまでは、愛嬌レベルの英語と身振り手振り、実際の愛嬌も駆使しながら、やっとたどり着いたものの、ものの、です。ものの、その上で、身振り手振りのジェスチャーなしの電話で状況を伝えるには、ちょっと英語力が不足し過ぎている。
そして、仮に伝えられたとして、短い乗り換え時間内で業者さんが来て、対応してもらうのは、さすがに難しいと判断。結局、切手もお金も手に入れられなかったわけですが、いい経験、勉強になり、なんだか清々しい気持ちにもなりました。「仕方がない。」と諦めなくて、良かった。そんな思い出の一つです。
自己認識と選択
承認欲求を満たす刺激=ストロークは、それを受けた行動が強化される。そして、それによってその人が形作られます。「仕方がない」、この言葉自体がストローク。そして、それにまつわる行動や人との関わりも、ストローク。それによって、私たち自身が形作られる。「仕方がない」、それはどんなものでしょうか。
一度の経験で決めてしまったとか、その言葉が口癖の人と関わるうちに諦めてしまったとか。無意識の、自動的に流される状態の言葉として「仕方がない」を使っているのか、自分の意思で選択した言葉として「仕方がない」を使っているのか。そこには、大きな違いがあります。
それは、「言えない、できない」という言葉にも通じる違い。本当の意味で「言えない、できない」のは、例えば、ある言語の言葉は、その国の言葉を知らないから「言えない」。
飛行機の操縦は、知識、経験、資格、どれもないから「できない」。これは、実際に「言えない、できない」こと。でも、例えば、謝罪しなければならない、謝罪したいのに「言えない」。資格試験に挑戦したいのに、忙しくて「できない」。ここには、大きな違いがある。
謝罪する言葉を知っている。発声できる声帯もある。謝罪する時間も場所も調整できる。資格試験に挑戦したいなら、隙間時間でも取れる時間はある。ゲームや動画に使っている時間、この時間を使うこともできる。
ということは、「言えない」のではなく「言わない」。「できない」のではなく「しない」。それは、自分が選んでいる、ということ。本当に「仕方がない」んでしょうか。この言葉自体で「行動・思考・感情」が停止状態になっているなら、もったいない。
安心、安全な場所、相手で、他の方法や可能性を試してみることをお勧めします。ささやかでも良い。そこからストロークを得ることで、その行動が強化される。違う選択肢や可能性が広がります。そして、「言えない、できない」。本当にそうでしょうか。
これは「言わない、しない」と、言い換えてみることが、ささやかな第一歩。例えば、「謝れない。ごめんなんて、言えない」から、「謝らない。ごめんなんて、言わない」。「勉強できない、勉強時間が取れない」から、「勉強しない、勉強時間を取らない」。こんなふうに、言い換えてみてください。
自分が選んでいる、決めているのは自分。そのことを自覚して行動する、大切な第一歩。それ自体が、ストローク。それを受けた行動が、強化される。選んでいるのも、決めているのも、自分。それなら、自分が選び、決めることで、別の道を進むこともできる。
セルフコントロール力のアップに、つながります。
では、今回覚えていただきたいポイントは、「仕方がない。言えない、できない。言わない、しない。」。まずは、気づくこと。そして、いつもと違う変化を味わってみませんか？
ここまで聞いていただき、ありがとうございます。
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お相手は、遠藤美保でした。ありがとうございました。
