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おしゃべり本棚 この時間は福岡のRKB毎日放送のアナウンサーによる朗読をお送りします。
太宰治 魚服記 後編
諏訪は追憶から醒めて 不審気に目をパチパチさせた多岐がささやくのである
八郎やー サブローヤー
八郎や 父親が絶壁の赤いツタノハを掻き分けながら出てきた
巣は何本売れた 巣羽は答えなかったしぶきに濡れてキラキラ光っている花咲きを強くこすった
父親は黙って店を片付けた 住小屋までの3丁ほどの山道を
巣羽と父親はくまざさを踏み分けつつ歩いた もう店しまうべ
父親は手かごを右手から左手へ持ち替えた ダムネの瓶がカラカラなった
秋どようすぎで山さ来る奴もねえべ 日が暮れかけると
山は風の音ばかりだった ならやモミの枯葉が
折々みぞれのように二人の体へ降りかかった オド
巣羽は父親の後ろから声をかけた おめえ何しに生きてるば父親は大きい肩をギクッとすぼめた
巣羽の厳しい顔をしげしげ見てからつぶやいた わからねえじゃ
巣羽は手にしていたすすきの葉を噛み裂きながら言った くたばった方はいいんだに父親は平手をあげた
ぶちのめそうと思ったのである しかし
文字文字と手を下した 巣羽の気が立ってきたのを塔から見抜いていたが
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それも巣羽がそろそろ一人前の女になったからだなと考えて その時は堪忍してやったのであった
そだべなあ そだべなあ
巣羽はそういう父親のかかりくさのない返事がバカくさくてバカくさくて すすきの葉をべっぺっと吐き出しつつ
アホアホとどなった ぼんがすぎて茶店をたたんでから
巣羽の一番嫌な季節が始まるのである 父親はこの頃から4・5日起きに炭を背負って村へ売りに出た
人を頼めばいいのだけれど そうすると15銭も20銭も取られて大したついえであるから
巣羽一人を残してふもとの村へ降りていくのであった 巣羽は空の青く晴れた日だとその留守にキノコを探しに出かけるのである
父親のこさえる住みは1票で5・6銭も儲けがあればいいほうだったし とてもそれだけでは暮らせないから
父親は巣羽にキノコを取らせて村へ持って行くことにしていた ナメコというぬらぬらした豆キノコは大変値段が良かった
それはシダ類の密生している布木へ固まって生えているのだ 巣羽はそんな苔を眺めるごとにたった一人の友達のことを追想した
キノコのいっぱい詰まったカゴの上 青い苔を振り巻いて小屋へ持って帰るのが好きであった
父親は炭でもキノコでもそれがいいねで売れると決まって酒臭い息をして帰った たまには巣羽へも鏡のついた紙の財布や何かを買ってきてくれた
小枯らしのために朝から山が荒れて 小屋の掛けむしろが鈍く揺すられていた日であった
父親は創業から村へ降りて行ったのである 巣羽は一日中小屋へ籠っていた
珍しく今日は紙を縫ってみたのである グルグル巻いた紙の根へ
06:06
父親の土産の波模様がついた竹長を結んだ それから焚火をうんと燃やして父親の帰るのを待った
木々の騒ぐ音に混じって 獣の叫び声が幾度も聞こえた
日が暮れかけてきたので一人で夕飯を食った 黒い飯に焼いた味噌をかけて食った
夜になると風が止んでしんしんと寒くなった こんな妙に静かな晩には
山できっと不思議が起こるのである 天狗の大木を切り倒す音がめりめりと聞こえたり
小屋の口当たりで誰かの小豆を研ぐ気配がサクサクと耳についたり 遠いところから山太の笑い声が
はっきり響いてきたりするのであった 父親を待ちわびた諏訪は
藁布団着て路端へ寝てしまった うとうと眠っていると
時々そーっと入口のむしろを開けて覗き見するものがあるのだ 山太が覗いているのだと思って
じーっと眠ったふりをしていた 白いもののちらちら入口の土前舞い込んでくるのが
燃え残りの焚火の明かりで朧に見えた 初雪だと夢心地ながらウキウキした
頭痛 体が痺れるほど重かったついであの臭い呼吸を聞いた
アホ 諏訪は短く叫んだ
ものもわからず外へ走って出た 吹雪
それがどっと顔をぶった 思わずめためた座ってしまった
みるみる髪も着物も真っ白になった 諏訪は起き上がって肩で荒く息をしながらむしむし歩き出した
着物が烈風でもみくちゃにされていた どこまでも歩いた滝の音がだんだんと大きく聞こえてきた
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ずんずん歩いた 手のひらで水花を何度もぬぐった
ほとんど足の真下で滝の音がした くるい唸る冬木立の細い隙間から
オドッ と低く言って飛び込んだ
気がつくとあたりは薄暗いのだ 滝の轟きがかすかに感じられた
ずっと頭の上でそれを感じたのである 体がその響きにつれてゆらゆら動いて
身内が骨まで冷たかった 水の底だなぁとわかると
やたら無性にすっきりした さっぱりした
ふと両足を伸ばしたら すすと前へ音もなく進んだ
花頭が危うく岸の岩角へぶつかろうとした 大蛇
大蛇になってしまったのだと思った 嬉しいなぁ
もう小屋へ帰れないのだと独り言を言って 口ひげを大きく動かした
小さな船であったのである ただ口をパクパクとやって
鼻先の胃房をうごめかしただけのことであったのに 船は滝坪の近くの淵をあちこちと泳ぎ回った
胸びれをピラピラさせて水面へ浮かんできたかと思うと つと尾びれを強く振って底深く潜り込んだ
水の中の小海老を追っかけたり 岸辺の足の茂みに隠れてみたり
岩角の苔をすすったりして遊んでいた それから船は
じっと動かなくなった時折 胸びれを細かくそよがせるだけである
何か考えているらしかったしばらくそうしていた やがて体をくねらせながらまっすぐに滝坪へ向かっていった
12:14
たちまち くるくると木の葉のように吸い込まれた
バッテン少女隊のバッテンラジオ隊
バッテン少女隊の春野木梨奈と 青井梨奈です
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