浅草詣
2023-01-21 16:57

浅草詣

017 230121 伊藤左千夫 浅草詣 朗読:本田奈也花

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おしゃべり本棚 この時間は福岡のRKB毎日放送のアナウンサーによる朗読をお送りします。
浅草詣
伊藤幸代 1月11日
この日曜日に天気であればきっと 浅草へ連れて行くべく
酔ったりの子供らと約束がしてあるので。 朝6時の時計が鳴ったと思うと、半窓の障子にうすらじろく縦に筋が見えてきた。
窓の下で母人の南でに寝ておった次の子がひょっと頭を上げ、
「おとすさん、夜が明けたよ。」 外が明るくなってきました。
「今日は浅草へ行くのね?」
「そうだ、今日は連れて行くよ。」 今まで半寝ぶりで母のちぶさをくちゃくちゃしゃぶっていた末のやつが、ちょっとちぶさを話して、
「おとっちゃん、あたいも行くんだ。」
「あたいも連れて行ってよ。」 そうそう、お前も連れて行く。
みんな連れて行く。 あたい、おもちゃ買って。
雪が降ったら観音様に泊まるよ。」 幼き者のこの一言は、
うちじゅうの目をさました。 台所のばあやまでが笑い出し、
隣の六畳にそぼと寝ておった、 長女と仲人が一度に、
「おっかさん、てんきはええの?」 おっかさんってばあ。
「あい、てんきはええよ。」 ああ、うれしい、うれしいなあ。
明るくなった。 もう起きよ。
おばあさん、起きようよ。 こんなに明るくなったじゃないか。
そぼは寒いから、もう少し寝ていよという。 姉も、次なも、仲なも、
ちぶさにとっついているのも、 起きるだという。
起きようという。 起こしてという。
大騒ぎになってきた。 「ばあや、早く着物をあぶって。」
03:06
と言う。 まだ日が起こりませんから、と、
少し待ってという。 早く早く、と、
四人の子供らは、かわりがわり呼び立てる。 もうこうなっては、寝ていようとて寝ていられるものでない。
母なるものが起きる。 世も起きる。
着物もあぶれたというので、 上なが起きる。
次なが起きる。 仲なのも起きる。
旅がないと騒ぐ。 前かけがないと泣き出す。
うんこー!と言う。 おしっこー!と言う。
騒がしいの、せわしいの。 それは、名状すべからずというありさま。
超絶か、と言うが、ひと騒ぎ。 午前、食べると言うが、ひと困難。
ようやく、八時すぐるころに、 全く朝のことがすんだのである。
どうせ六人が繰り出そうというには、 支度が容易のことではない。
しかも、女の子四人というのであるから、 なおさら大変だ。
午前中に支度を整え、早昼で出かけよう というのである。
まず第一に、長女の髪を言う。
なんがよかろうということ、 髪はできぬと言う。
祖母に相談する。 なんとか、言うことに決まって出来上がった。
それから次のは、お下げに言う。
仲奈は何、末奈は何にて、書く注文がある。 これもまたひと騒ぎである。
与は、奥に新聞を見ている。 仲奈と末奈が、変わる変わる引き切りなしにやってくる。
お父さん、歩いて行くの? 車で?
長崎橋まで歩いて、それから車に乗るの? 浅草には何があるの?
06:00
観音様のお堂は、赤いの? 水族館、魚がたくさんいる?
花屋敷中は、象は怖くないの? クマも怖くないの?
早く行きたいなぁ。 お父さん、お母さんはまだ紙を言ってくれないよ。
今、紙居さんが来て、お母さんの紙を言ってるよ。 お父ちゃん、お父ちゃん。
お母さん、まだあたいに紙言ってくれないよ。 あたい、浅草へ行って、おもちゃ買って、おしるこ食べる。
あたい、お母さんと車に乗って行くよ。 雪が降れば、観音様へ泊まるよ。
いや、お母さんと寝るの。 お父ちゃんと寝ない。
あたい、お母さんと寝る。 お父さん、早くしないか。
早く着物に置き換えよ。 おたえちゃんもめいちゃんも紙言ってよ。
早く行こうよ。新聞なんかおよしよ。 紙ができれば、おしろいを着け、着物を着替えるという順序であるが、
四人の支度を一人でやる次第じゃで、大抵のことではない。 夜は着物を着替えたついでに、念頭に回り残した一、二軒を済ますべく出かけた。
空は曇りなく晴れて、風もなし。 誠にのどかな日である。
まず良い塩梅だ。 同じ行くにも、こういう日に行けば子供らにも一層面白いことであろうなど考えながら、
急ぎ足で駆け回った。 近いところであるから、一時間半ばかりで帰ってきた。
定めて子供らが大騒ぎをやって待ちかねているだろうと思って、家に入ると、
意外静かである。 日の差し込んでいる窓の下に、祖母が仲名を抱いていた。
三人の子らは、あんかによってしょげた風をしている。 夜が帰ったのを見て、三人口をそろえて、
「たーちゃん、お腹が痛いて。」 祖母は、浅草へ行くは見合わせろという。
09:02
今、熊の湯を飲ませたけれど、 まあ、今日は酔したほうがよかろうという。
民子は泣き顔をあげて、今に治るから行くんだという。 流しにいた母も上がってきた。
どうしようかという。 さすがに三人の子供らも、今は強いて行きたいとも言わない。
格別のことでもないようだから、今に良くなるかもしれぬ。 まあ、少し様子を見ようということにした。
与は何心なく、裏口の前の障子を開けてみると、 四人の切羽が四足ちゃんと並べてある。
上二人のがエビ茶の花王で、下二人のが恋紅の花王である。 与はこれを見て、一種、優べからざる感を禁じえなかった。
どれ、お父さんに少し抱かさってみぃ。 与は祖母の抱いている民子を引き取って抱きながら、
その額に手を当ててみたのであるが、 確かに、少し熱がある様子だ。
もう仕方がない。今日は見合わせだ。」 こう与が言うたので、子供たちは一斉に与を注視して、ため息をついたようであった。
「それじゃあ、今度は何日にする?」 この次の日曜?
いや、土曜日がよい。 雨が降ったら、その次の日ということに決まって。
末永。 「おたえちゃん、はねつこうよ。」と言い出したお塩に。
みなみな立って、南根の庭へ降りた。 民子は祖母の膝に寄りかかって眠ったようである。
やがて昼飯もすんだが、 与はにわかに暇があいて、むしろ手持ぶさだというような塩梅である。
奥へ引っ込んで、炉の傍らに机を据え、 ぼんやり座をしめてみたが、
何やら物を見る気にもならぬ。 妻は火をとってきて炉に入れ、
釜にも水をはってきてくれた。 与は庭に置いた梅の盆栽を炉端に運んで、
12:03
市の見計らいなどくったくしながら眺めているうち、 いつか釜も煮えだし、
しーちーという音がたってきた。 通い口の一枚からかみを細く開けて、
おとっちゃんと呼んだのは民子であった。 おーたーこ、もう治ったか?
与がこう言うと、彼はうなずいてほっくりをした。 「みかんを一つやろうか?」
「いや。」 「ビスケットをやろうか?」
「いや。」 「そうか、それじゃあもう少し寝ておいで。
また悪くなるといけないから。」 小さく愛らしき笑顔は引っ込んでしまった。
まあ安心じゃと思うと、 表のほうで羽を打つ音がしきりに聞こえる。
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