寛政時代の風俗と月食
寛政時代の娘納涼風俗、植村翔園。
月食は今まであまり多く描かれておりませんから、一度描いてみたいと胸に浮かびましたのが動機です。
あの絵は寛政の頃の涼家の娘さんの風俗で、夏の良い広い庭に降り立って涼を入れております時に、
今夜は月食だわ、とふと思いついて、最も見やすいように鏡を持ち出して写しとっているところです。
空を仰いで眺めているのでは落ち着きがなくて、いかにも軽くなりますので、
あしてうつむきがちのところを描きましたが、あまり夜深になりますと、かえってすごうなりますから、
酔いの口で月食というものを題にして、夏の夕方の農業気分を表しただけにすぎません。
私の絵はモデルはあまり用いませんが、ただ顔の優しい肩を取りたいために、
技工の満流班とお久さんを最初に2時間ほど来てもらいまして、顔の形を整えましただけです。
これがモデルといえば、まずそうかもしれません。
月食の酔いは9月に入ってかかりまして、出品間際にやっと出来上がりましたばかりで、
とくと見ている間もないくらいでありました。