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2024-12-11 04:04

絵のない絵本 第八夜

朗読です。アンデルセン作、青空文庫より

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絵のない絵本 第八夜
重い雲が空一面に垂れ込めて、月は全く姿を現しませんでした。私は二重の寂しい思いに駆られながら、私の小部屋の中に立って、いつも月が輝き出てくる辺りの空を
眺めていました。私の思いは広く駆け巡りました。そして、あんなに美しい話を聞かせてくれたり、
素晴らしい絵を見せてくれたりした。偉大な友達のことに、
思いを呼びました。そうです。 今までにこの月の体験しなかったことがあるでしょうか。
ノアの大洪水の時にも、 その水の上をほばしったのです。
そして、 ちょうど今私に微笑みかけているのと同じように、
箱舟の上に微笑みかけて、 やがて花咲き出ようとする新しい世界の慰めをもたらしたのです。
イスラエルの人民が泣きぬれて、 バビロンの川辺に立った時、
あの月は縦ごとのかかっている柳の木の間から、 悲しげにそれを覗いたこともあるのです。
ロメオが露台の上にのじのぼって、 誠の愛のせっぷんが天使の思いのように、
天へとのぼって行った時、
丸い月は暗い糸杉の間に半ば隠れて、 澄みきった空に浮かんでいたこともあるのです。
また、セントヘレナの島に遊兵された英雄が、 高陵たる岩頭に立って、
胸に勇士をいだきながら、 大海原を眺め合っている姿を見たこともあるのです。
そうです。 月にとって話せないようなことが何かあるでしょうか。
この世界の生活は、 月にとっては一つのおとき話なのです。
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懐かしい友よ。 今夜私は君の姿を見ません。
君の訪問の記念に、 どんな絵も描くことができません。
こうして私が、無双にふけりながら雲の中を見上げますと、
そこが明るくなりました。 それは一筋の月の光でした。
けれども、 その光はすぐまた消えてしまいました。
黒い雲が滑っていったのです。 しかし、
それこそ挨拶でした。月が私に送ってくれた、 優しい晩の挨拶だったのです。
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