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2023-02-20 05:45

#78【青空文庫】探偵小説漫想

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夢野久作「探偵小説漫想」

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Yumeno Kyusaku title:detective story ramblings

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探偵小説漫想、夢の旧作。何か書かなければならない。2、3枚でいいという。
机に肘をついて、暁の煙を輪に吹いてみる。お前が書いているのは、探偵小説じゃない、という人がいる。腹が立つような、立たないような、妙な気持ちになる。
しかし、謝るのは送刑だと思う。うっかり謝ったら、書くことがなくなる。せっかく水面に顔を出したところを、また突き沈められる義務はない。
言う奴は、自分一人が船に乗って、他の奴を乗せまいとする奴だろう。船なんか乗せてもらわなくともいい。自分一人で泳ぐばかりだ。私は、本格探偵小説が書けない。
書いても見たが、見ないけない。本格ものを書くことの味気なさが身に染みる。その癖読むのは本格もの、もしくは本格味の深いものが好きである。
だから、読者として本格ものに対する注文は相当持っている。もちろん、無理な注文も多いに違いないが、それでも自分の注文にはまった本格探偵小説を憧れ望んでいることは、決して人後に落ちないつもりである。
読者をもてあそぶ探偵小説は嫌いである。探偵小説を書くなら、正々堂々と玄関からお座敷、台所、接近まで見せてもらわなくてはいけない。しかも退屈させないように、非常な興味を持たして案内していかなければならない。
この点が本格ものの一番骨の折れどころではあるまいか。奥歯に物が挟まったような書き方をしたのはどうも面白くない。ところが本格ものを書くと、どうしてもそんな筆地を用いなければ向こうへ行けないのだからうんざりする。
除刑に行数を取られるのもありがたくない。推理と除刑を並行するとき、するりと除刑と一致するとき、本格ものの痛快味が騒然スパークを放射してたまらなく爽快なおぞん臭を放つ。このおぞん臭の近代的感覚が探偵小説の独特の生命であると思って私は心から歓喜しつつ吸入する。
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紙芝居の謎々小説よ。呪われてあれ。性格描写無用を叫ぶ者がある。性格をトリックに使う作者がある。どちらも両立し得ると私は思う。しかもどちらも作家的無量心に陥りやすいようである。探偵小説の神秘は究極するところ、神秘であってはいけないと思う。
2割る2イコール1であり、2かける2イコール4でなければ結局感心できないことになるようである。
1イコールx分のxイコール1かける1イコール0分の0イコール8割る8なんていうのを使うのは大抵素人に限るようである。
ルート-1を使うとき、本格探偵小説の価値はゼロとなるか、または性質を変じてノンセンス、ユーマー、怪奇小説の類に出すようである。
作者が一度読んだものを有意識にも無意識にも似たものは、どんなに口触りが良くても味が落ちるからすぐにわかる。
必ず自分の井戸から汲んだ水でなければいけないようである。
よその井戸水で作った酒は決して酔わない。酔えば悪酔いをする。
今まではトリック即興味と思っていた。スリル即話術とも考えていたが、これは違うようである。笑われても仕方がない。
前編のストーリーを一挙に真実化するのが本当のトリックではないか。
話術でスリルを作るのはインチキ話術ではないか。探偵小説は日常を至るところにある。
諸君がそこで呼吸していることが、すでに驚くべきミステリーであり、トリックであり、スリルでなければならぬ。
ただ、読者がそこまで高級化していないだけの話である。
少し頭がヘンテコになってきた。これ以上書くといよいよ笑われそうだから、やめる。
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