再会
作:弓枝ユズル @amanoharatsuki 様
BGM:魔王魂
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サマリー
このエピソードでは、再会した少年の持つ不思議な魅力と彼の記憶が描かれています。
少年との再会
少年の瞳は、鮮やかにその背景を焼き尽くした。 夕立が通り過ぎた境内は、すでに日暮しの鳴き声で埋められていた。
山道は色味を増し、その脇に咲く飛眼花は、雫で飾られている。 急な雨に覆われ、くぐった鳥居の近くで、
狛狐がいつい静かに佇んでいる。 しかし、俺の目にはもうその少年しか映っていなかった。
小さな音を立てて、通勤用のカバンが手から滑り落ちる。 濡れたワイシャツと前髪は肌にへばりついている。
背中に汗が滲む。 朝つけた香水など、とっくの昔に消えている。
ひょっとすれば武将ひげすら生えているかもしれない。 決して他人に見せられる様子ではなかった。
それすら気にならない。
君は…
ようやく絞り出した声が裏返る。 日暮しも山道も飛眼花も、少年の夕日色の瞳の前では、ただのモノクロームにしかなり得ない。
赤い花をのげた。 仮着ぬに、立っつけ袴と、いかにもこの場所に合わせたかのような装いで立っている。
肌は白く、髪の色素も薄い。 そして、
一目でこの世の人間ではないとわかる、キツネ耳と大きな尾。 まるでおとぎ話の差し柄から抜き出してきたかのような少年は、俺を見てにっかり笑った。
いな、と俺は唇を噛む。 昔は尖った耳も尻尾もなかったはずだ。少なくとも俺には見えなかった。
服だって普通だった。パーカーにジーンズを合わせ、少し大きなサンダルを履いていることが多かった。
それに彼はもっと無邪気に笑う少年だった。 大口を開けてゲラゲラ声を上げる。
そんな奴だったはずだ。 俺の弟分で、いたずら好きの食いしん坊で、よくコンビニのチキンをねだる子供で。
俺が唯一、なあ少年よ、と大人ぶれた相手だった。 少なくともこんな風に寂しげに笑える奴じゃなかったはずだ。
しかし、その目はちっとも変わっちゃいなかった。
夏の夕暮れのような光彩は俺を縛り付けたまま離さなかった。
どころか、その背丈も幼い顔立ちも、何もかもがあの日のまま止まっていた。
彼は俺の記憶と全く同じその声で、小さな笑い声を上げると口を開く。
もう昔みたいに少年って呼んではくれないの?
兄ちゃん
03:54
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