00:00
【ラジオドラマ】痛風痛
大森さん、これね、痛風です。
痛風…
珍しいと思われるかもしれませんが、近年は若い女性の間でも増えてるんですよ。
何がですか?
痛風です。
あ、いやその、痛風ってのが…
あ、痛風、ご存じないですか?
はい、すいません、得て。
ああ、いえいえ、こちらこそすみません。
大森さん、親指の付け根、痛いですよね?
痛いです。
その痛みの病名がね、痛風なんです。
はあ…
痛いに風と書いて、痛風。
あ、痛いに風で…
はい。基本的には、暴飲暴食とかストレスとか、あとは運動不足も原因になるんです。
はあ、全部当てはまってます。
そういったことで、尿酸というものが関節に次第に溜まってしまって、やがて痛みになるんです。
なるほど…痛風…
諸説ありますけど、風が吹いても痛い、なんてところから名付けられたみたいですね。
ん?
それって痛風なんですか?
はい。
風が吹いて痛いなら、風痛の方が良くないですか?
え…良くないですかというのは…
病名です。
あ、提案的なことですか?
そうです。解明した方が良くないですか?
あ、まあ病名も何か問題があったら、時代とともに変わることはありますね。
ですよね。じゃあ書いてください。
あ、私に頼まれても。
え、でも先生も風痛の方が良いと思いますよね。
思う思わないとかではなく、病名は病名なので。
あ…
とりあえずあの、病名のことは一旦脇に置いて、治療の方について話していきたいんですけどよろしいですか?
脇に…
はい。
すいません。ちょっと脇には置けそうにないです。
あの、ほんと今だけで良いんです。
いや、私、おかしいって思ってることにふたしたまま生きるなんてできないです。
生きるっていうか、数分忘れるだけで良いので。
風痛にしてください、先生。
私、痛風じゃ納得いきません。
じゃあ風痛です。あなたは風痛です。
解明ですか?
はい、解明です。
では治療の話に…
あと…
はい?
カルテにも風痛って書いてくれますか?
あ、えっと…
カルテには痛風って書くんだ。
いや…
そうやってこの場だけしのけば良いと思ってたんですね。
そういうわけじゃないですよ。大森さんに一刻も早く治療を受けて欲しいんです。
綺麗ごと並べて。
そんな言い方ないでしょ。患者に治って欲しくない医者なんていませんよ。
03:03
カルテは正しい病名を書かなきゃいけないので風痛とは書けませんが、私の心はあくまで風痛ですから。
ね、今だけ我慢してもらえませんか?
今日、混んでましたね。
え?
この後も診察がたくさん控えてるから早く終わらせたいんでしょ。
いやいや、患者さんとは一人一人向き合って…
じゃあ私にも向き合ってよ。
大森さん、あんまり大声出すと尿酸値上がっちゃうので…
尿酸値なんて知らないですよ。それ痛風のでしょ。私の風痛は上がってませんよ。
ストレスも原因になるんです。
先生が病名を風痛にしてくれたらストレスなんて消えます。
病名ってそんな今すぐ変えられるものじゃないですから。大人ならそれくらいわかりますよね。
大人とか関係ありますか?
ずっとダダこねてらっしゃるので…
ダダって何ですか?
これ以上病名のことで騒がれるようでしたら小児科におつなぎしましょうか?
な、あの…
もうはっきり言いますよ。この後も診察がパンパンに詰まってるんです。
というか、ここ最近ずーっと忙しいんです。ろくに休めてないんです。医療従事者なんです。わかります?
些細なことでケチつけられるともう発球しそうになるんですよ。
風痛だか何だか知らないですけど、ほんといい加減にしてくれませんか?
すいません。
私も怒っちゃって申し訳ないですけど、大森さんのためにも早く今後の治療についてお話ししたいんですよ。
ね、ご理解ください。
じゃあ最後に先生の本音だけ聞かせてくれませんか?
はい?
今、先生は医者じゃありません。
えっと、医者です。
違います。ただの人間です。
ただの地球に暮らす一人の人間として、通風と風痛、どっちの方がいいと思いますか?
この質問に答えたら治療についてちゃんと聞きますか?
これで最後です。
わかりました。通風です。
え?
全然通風でいいです。
それは…えっと、なんでですか?
え?風痛に恨みでもあるんですか?
さっき生まれたばかりの言葉に何の恨みがあるんですか?
大森さん、もごもごしないで。これで終わりのはずですよ。
先生。
はい。
現実って通風より痛いんですね。
まずお薬の方な…
