でもお金にはなびかず、愛する人との結婚を望むジェーンはプロポーズを断ってしまいます。
そんな彼女にレディ・グリシャムがこんなことを言います。
老いの願いはかなえてやりたいわ。とんでもない願いでもね。
あなたは健康だし、家事も普通にこなせる。性格も好ましい。
でもあなたのような若い娘が私の老いのような紳士から求婚されたら即座に受け入れるものなのよ。
私の老いは自ら腰を深く折ってまで、一問なしの田舎牧師の娘に結婚を申し込んだのよ。
これでどんな人かわかっていただけましたか。
では、こんなレディ・グリシャムの素敵な定託を映像を思い浮かべながら見ていきたいと思います。
映画の中では印象的なシーンで3回登場します。
1回目は物語がスタートしてすぐ、ジェインと家族は歩いてレディ・グリシャムの家を訪問します。
まず彫刻が点在していて、きれいに形が整えられた木々が並ぶ美しい庭園を歩いていきます。
するとしばらくして、蓮の花が咲く大きな池が現れます。
この池が縦に長くて、奥にある定託の目の前までずっと広がっているんですね。
この池の隣にある道を今の定例をしている人たちのそばを通りながらゆっくりと歩いていく。
この日ジェインは運命のオイ・ウィースリーを紹介されるんですね。
2回目の登場はレディ・グリシャム主催の武道会です。
日が暮れ始めた夕暮れ時、池の両側にはランプが点々と置かれていて、
その柔らかい明かりが水面を反射して辺りを幻想的に照らしています。
武道会に向かう人が歩き、馬車や馬に乗った人が通り過ぎていく。
1回目の昼間とは全く別の魔法がかかったような場所になっていました。
これは本当に美しかったんですね。
招待された人々が中に入ると、まず目にするのは2階へと続く大きな階段ホールです。
その後広くてシャンデリアの輝くボールルームへと続いていきます。
この邸宅全体は赤とか青とかピンクなどの派手な壁紙は一切ありません。
巨大な壁画があるわけでもない。
落ち着いていて上品で、それでいて圧倒的な華やかさがあります。
実はここは庭園と建物の外観、そして中の部屋の数々はなんと2つの場所で撮影されています。
でも映画を見ている分には全然違和感がないんですよね。
そして3回目にこの邸宅が登場する場面。
ここは本当に胸が締め付けられるようなシーンです。
ロンドンでトムと別れ、昇進のうちに邸宅を訪れたジェーン。
婦人の老いと結婚を決めなくてはならない重苦しい空気の中で食事会が開かれています。
庭園はもう秋。あんなに美しかった緑は消えて、冷たい雨が降りしきり地面には枯葉がたくさん落ちています。
そこに一頭のハヤウマが駆け込んでくるんです。
カサンドラの婚約者が戦地で亡くなったというあまりにも悲しい知らせです。
初夏の輝くような庭園から魔法のような舞踏会の夜を経て、この冷たい雨の秋。
邸宅の表情がそのままジェーンたちの運命と重なり合っていて、
その景色が何も言わなくても彼らのやりきれない気持ちを物語っているようで、ちょっと悲しくなりましたね。
さて、前置きが長くなってしまったんですが、
ここからはレディ・グリシャムの邸宅に生まれ変わった2つの本物の邸宅をご紹介したいと思います。
今回のロケ地は実はイングランドではなくてアイルランドなんですね。
どうしてアイルランドだったのかなと最初は思ったんですが、
どうやらトムがアイルランド出身だからという理由だけではなさそうです。
実際には撮影のしやすさとか資金面のサポートなど、現実的な理由でアイルランドが選ばれたようなんですね。
そのおかげでこの時代の雰囲気が色濃く残っている素晴らしい邸宅に出会うことができたようです。
まず最初にご紹介するのは、庭園と建物の外観として使われているキルラダリーハウスです。
アイルランドの首都ダブリンから南へ車でわずか30分の場所にある邸宅です。
現在の当主は第15代ミース伯爵で、なんと1618年にここへ住み始めた直系の子孫なんですね。
400年も同じ地族に守り続けられている場所です。
今は伯爵の息子さんご夫婦が管理されていて、お二人はSNSにも頻繁に登場されています。
実はこの場所は一族が関わる前にも長い歴史があって、かつては修道院に貸し出されていた時代があり、礼拝堂や修道士たちの隠れが回ったようです。
建物自体は何度か作り直されていて、今の姿になったのは1800年代です。
中庭を囲むふるかかる大きな邸宅へ生まれ変わりました。
そして何といっても見逃せないのが庭園です。
あのベルサイユ宮殿の庭を手掛けた造園家の弟子が設計したフランス式庭園で、アイルランドの中でも最も美しい17世紀の庭園の一つとも言われています。
先ほどお話しした長い池なんですが、これ実は167メートルもある池が2つ並行して並んでいるんですね。
自然の泉からゆったりと水が流れる静かで神秘的な水の庭園、ここもフランスの庭園がモデルになっているようです。
映画の中で舞踏会の夜、庭園に一人佇むジェーンにトムが近づき、お互いの気持ちを確かめよう美しいシーンがあります。
水音が聞こえる静かな庭園で流れる音楽が本当に素敵でね、優しいピアノの旋律から2人が高まる心に合わせてドラマチックに盛り上がっていきます。
ジェーンの思いが伝わって驚くトムから愛の言葉が溢れ出す。
その告白が本当に感動的で、でもこの後の2人の運命を知っているから見ているとじわじわ切なくなってきます。
この場所で何百年もの間同じように誰かが気持ちを打ち明けてきたのかな。
たとえそれが貫くことができない間だったとしても、庭園の美しさと物語の切なさが重なって私にとって非常に印象に残っている場面です。
さて次は、邸宅の内部として使われたお屋敷を紹介します。
先ほどの邸宅の庭園を歩いて人々が中に入ると、実はそこから先はこちらのお屋敷なんですね。
場所を超えた設置になっているんですが、本当に違和感がなくて、映像の力って本当にすごいですよね。
こちらはアイルランドの中部にあるダブリンからこれまで1時間ほどのチャールビル城です。
先ほどのケルラダリーハウスがダブリンのすぐ南だったのに対して、こちらはグッと内陸に入ったところなんですね。
同じアイルランドでも全然違う場所で撮影されています。
こちらは古代のオークの森に囲まれていて、樹齢900年のキングオークという大木もあります。
そんな深い森の中に突如として現れるゴシック様式のお城です。
実はこのお城、かつての貴族の持ち主を失って一度廃墟になりかけた場所なんですね。
屋根までなくなってしまったのを、1971年から有志が修復を始めて、今も世界中からボランティアが集まって守り続けているそうです。
今回色々調べていく中で、若い日本人の男性もボランティアをしているという情報も見かけました。
建物の特徴はゴシックリバイバル、本物の中世のお城ではなくて、
いわばロマンとしてのお城ですね。
尖ったアーチやステンドグラス、木の装飾などで中世らしさを演出した19世紀に流行したスタイルです。
こちらは特に階段が見事なんですね。
舞踏会のシーンでも何度も登場していて、物語の雰囲気をしっかり作り出していました。
黒い木材の重厚な階段に、足元には白と黒の一松模様の大理石があって、
1階は木の壁なんですが、上になると白い漆喰装飾の壁になって、
そこに視線が抜けるような美しさがありました。
金ピカの豪華さではなくて、色が抑えられた素材の良さで勝負しているインテリアが
この重厚なのにどこか軽やかで上品な雰囲気になっていて、とても美しかったです。
私個人的には、こちらの建物の外観はあまり好みではなくて、
映画のような見せ方が好きだなと、かなり勝手なことを思ってしまっています。
どちらの邸宅も一般公開されています。
ただ、後にご紹介したシャールビル城は、今も修復が続いているようなので、
完璧な美しさを期待していくと、少しがっかりしてしまうのではないかと、
情報を調べていく中で、そんなふうに感じました。
今回の映画は、アイルランド映画委員会の支援もあったようなんですね。
そんなことも関係しているのか、ロケ地はほぼアイルランドです。
他にも素敵な場所がたくさん登場しています。
映画では、トム・ルフロイという人物をかなりロマンチックで魅力的な男性として描いているのですが、
ロケ地の選び方も含めて、そういった演出につながっているのかなと、ちょっと勘ぐってしまいました。
でも、トムを演じた俳優のジェームス・マカボーイの演技は本当に素晴らしくて、
私はすっかりこの映画で彼のファンになってしまいました。
さて、今日は、ジェーン・オースティン秘められた恋のロケ地をご紹介しました。
いかがだったでしょうか。
さて、最後にお知らせです。
今日お話ししたような、お屋敷の世界を楽しむオンラインお茶会を開催します。
第4回目となる今回のテーマは、絵画とカントリーハウス、お屋敷の壁に秘められた絵画のルールです。
イギリスのカントリーハウスを訪れると、壁には数え切れないほどの肖像画や風景画が飾られています。
そこには、なぜその絵画、なぜそこに飾るのという、お屋敷ならではの面白いルールのようなものがあるんですね。
今回は、そんなお屋敷の壁に隠された物語を、写真や絵画を見ながら、皆さんと一緒に紐解いていきたいと思います。
ドラマのシーンに映り込む壁の背景についても、その裏側をご紹介したいと思います。