面白かった本について語るPodcast ブックカタリスト第3回。
今回は、『功利主義入門』について語ります。
Amazon.co.jp: 功利主義入門 ──はじめての倫理学 (ちくま新書) eBook: 児玉聡: Kindleストア
概要
倫理学とは「倫理について批判的に考える」学問である。すなわち、よりよく生きるために、社会の常識やルールをきちんと考えなおすための技術である。本書では、「功利主義」という理論についてよく考えることで、倫理学を学ぶことの意義と、その使い方を示す。「ルールはどこまで尊重すべきか」や「公共性と自由のあり方」という問いから「幸福とは何か」「理性と感情の関係」まで、自分で考える人の書。
選んだ理由
ブックカタリスト第1回、ダーウィンエコノミーについて考えているときに、Kindleセール時にこの本を買っていたのに気がついた。
自動運転にしてもコロナにしても、これからの時代のあり方などを考える際に倫理の重要性が増してきた、と感じている。ダーウィンエコノミーの内容ともつながる部分が多く、知識を補強するため基礎を学んでみようと本書を読み始めた。
読み進めていく中で、自分は高校以来倫理というものをまともに学んでいなかったことにも気がついた。
変化がますます激しくなる今の時代だからこそ、考え方の基礎となる、普遍になりうる理論を学ぶメリットは非常に大きいことではないか、と思うに至った。
読書メモ
倫理を学ぶ際に、1つ「型」を身につけておくと他を学ぶ時にも学びやすい。その中でも「功利主義」というものは、比較的習得が容易で、これをまず入門として身につけておくとよい。
この流れに沿って、前半は主に功利主義とは何か?から始まり、時代とともに功利主義がどう変化していったのか、というのが論じられる。
功利主義は「功利原理」に基づき、最大多数の最大幸福を目指すもの。この考え方に対する批判を紹介しながら、その批判への返答を書いていく、というのが本書の基本的な流れ。
その後、それを社会政策に当てはめて「自由主義(リバタリアニズム)との類似点、相違点などを語りつつ、幸福についてや、現代功利主義の主流はどうなっているか、などの話まで書かれている。
2011年に書かれた本だが、コロナ禍のこの時代に深く考えたい「公衆衛生(Public Health)」という概念についても入門的な解説があり、その部分だけでも今の時代に読む価値はあると思う。
J・S・ミルはすごい。知れば知るほどそう感じるようになった。
末尾のブックガイドも解説つきで充実しており「入門」として非常に良い本だった。この本のおかげで、他の倫理関係の本を読むのが非常にスムーズになった。
用語解説
批判的思考
これまで身に付けてきた考え方について改めてその根拠を考えたりその性格の意味を問うたりすること。倫理学、道徳哲学を学ぶ際にもっとも重要だ、と言われていること。
倫理的相対主義
絶対的に正しい答えなどない、という考え方。
例:倫理観は時代で変わる。ずるいと言われても合法ならいい。
多くの人が知らずに支持している立場でもある。
J・S・ミル
1806-1873
自然論の著者。ダーウィンエコノミーでも名前が登場。危害原理の提唱者でもある。
自然論では、自然に従うことは、不合理で不道徳である、という主張。
ジェレミー・ベンタムの弟子。
🐷この時代にここまで未来を見越した普遍性のあることを考えていたのはすごい。この人の凄さを思い知った本でもあった
ジェレミー・ベンサム
(本書では「ベンタム」と表記されている。この本の著者はベンサムの研究者)
1784-1833
功利主義の主張者。
書籍:道徳及び立法の書原理序説(序説
自然は人間を、苦痛と快楽という二人の王の支配下に置いた。
弟子にJ・S・ミルなどがいる。
功利原理
人がなすべきこと、正しい行為は社会全体の幸福を増やす行為。正しくない行為はその逆。
幸福とは快楽で、不幸とは快楽がないor苦痛のこと。
ベンタムが批判したもので「禁欲主義」というものや「共感・反感の原理」(正しいものは気に入った行為)などがある。
功利計算
快苦の量を計算しないといけない。強弱、長短がある。今すぐか、将来か、ということもある。
快には14種類、苦痛には12種類ある。(味覚や触覚、記憶や想像、親切にした喜びの共有。人の不幸を見て得られる悪意の快。身体や精神的苦痛、苦しみを共有する苦痛、他人の幸福を妬んで感じる苦痛など)
帰結主義
行為の正しさを帰結によって評価する主義
結果と帰結は違う。こう行為すると、こういうことが起きるだろう、という予測に基づいて評価する。
幸福主義
快楽を増やし、苦痛を減らすような行為が含まれる
快楽主義などもこれに含まれる。
自由や真理の価値は、それが幸福を増進するから
内在的価値を持つものは幸福だけである、と考える。
リバタリアン・パターナリズム(ナッジ)
ナッジ、と呼ばれる政治哲学的な立場。(肘で突っつく、背中を押す、という意味)
強制するのではなく、それを選ぶようにうまく誘導する。
人間はあまり合理的に行動しない、という前提に立っている(行動経済学)
ウイリアム・ゴドウィン
1756-1836
アナキスト(無政府主義者)
家族や友人を優先することは許されない、と強く主張していた。
のちにメアリ・ウォルストンクラフトと結婚。
結婚制度自体を批判していたので、多くの人に非難された。
(本人は信念を曲げることに問題を感じていなかったようだ)
妻は出産で死亡。その伝記を書いて、婚外子、自殺未遂などが明るみに出て、さらに評判を落とす。娘は駆け落ちし、フランケンシュタインを執筆。
間接功利主義
家族への義務、道徳を考慮して行為すれば、結果的に功利主義的に行動する。
功利主義者も、常に功利原理に基づいて意思決定する必要はない、という考え方。
規則功利主義
過度な道徳規則や義務を疑い、社会全体の幸福に貢献するか評価。認められる義務や規則を採用する。
最初期の功利主義は「行為功利主義」と呼ばれる。
ミルの危害原理はこういう「二次的な規則」として理解できる
↑行為功利主義者ではこの概念は通じない。
ミルは「個人の自由を保障した方が長い目で見て大きな幸福が見られる」と考えた。
あとがき
回数を重ねてブックカタリストもようやく収録から更新までの流れが安定してきました。
私の中でも、ついにようやく「このくらい準備しといたらいいんだな」というのが見えてきた感じで、本を読むという行為もいい意味でこれまでと違うものになってきています。(これは、やってよかったな、ってしみじみ思ってます)
これを読んでくださったあなたにも、ブックカタリストを面白いと思っていただけたら大変嬉しいです。
そして「いいね」「シェア」「コメント」などいただけたら、こんな嬉しいことはありません。
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