1. ゆうこ|読書ラジオ
  2. 朗読『凪を迎えるその日まで』
2023-04-03 06:37

朗読『凪を迎えるその日まで』

凪を迎えるその日まで/筆先ちひろ
筆先の世界
https://hudesaki.com/31
#読書
#読書ラジオ
#おやすみ朗読

---
stand.fmでは、この放送にいいね・コメント・レター送信ができます。
https://stand.fm/channels/63650fb3b4418c968ddbd7ab
00:06
凪を迎えるその日まで。凪という言葉は、風が止み、波が穏やかになることを言うらしい。
私の心もそうであればいいのに、それはなかなかに難しく。
右に揺れ、左に揺れ、パッと光が射したかと思えば、
突然に雨が降り出すこともある。
それは通り雨のような時もあれば、梅雨のように長引く時もあり、月に何度かは雷を伴うこともある。
まるで天気のようだと例えるにしては、晴れている時が笑ってしまうほどに少ない。
海のようだと言うにしても、どちらかといえば、それは大漆けの日本海に近い。
そういえば、あちら側の海は新鮮であった。地面が揺れるような雷鳴をまとい、ぼたぼたと雪が降る雷は、雨の時になるものだと思っていた。
私が知らぬことなど、この世に山ほどあるのだろう。
太平洋側では、なかなか目にすることのない景色。
あれには、心が踊った。
この世に生まれた、空っぽだった入れ物に、たくさんの愛情と、たくさんの新鮮を詰め込んで、都市総合の入れ物が出来上がった。
そうしていくうちに、新鮮はどんどんと減り、これまでと同じ愛情では物足りなくなり、
満たされぬ入れ物は、まだ空きの大きな若い入れ物を羨んだ。
別の新鮮が詰まった。別の入れ物に焦がれた。
03:00
そのような時は、雨が降り出す前の、真っ黒な雲が、黙々と体の中を、まだかまだかと敷き詰めていくような、そんな感覚であった。
薙という言葉は、柔らぐという漢字を使って、薙とも書くらしい。
何でも、先に薙という発音があり、そこに漢字を当てていったそうだ。
柔らがという漢字で表す薙は、主に心情に用いられる。
私に薙がやってくるのはいつだろうか。きっとそれは、死ぬ間際、私のことだ。
死ぬ間際まで、ああだこうだと、いらぬことを考えては、心を荒げているのだろうから、死んでしまった後にしか、それは来ないのだろう。
ところで、私のようなものにも、どこか草原の上に立つような、カーテンがふわりと揺れる、昼下がりの部屋のような、
そのような気分の時もある。そのような時を大切にして、そのような気分を与えてくれるものに感謝を忘れず、それ相応に生きができれば、
それで良い、それで良いと思う時もあれば、
それではダメだと、焦がれた別の入れ物を追う時もある。
それで良い。
薙という言葉は、風が止み、波が穏やかになることを言うらしい。
私の心もそうであればいいのにと、思うことも度々あるが、それはなかなかに難しく、
06:04
大漆けの日本海のような劣等も、草原の上に立つような幸福も、この入れ物の内に入れて、どうにかこうにか舵を取る、薙を迎える、その日まで。
06:37

コメント

スクロール