モーツァルト資料室
スピーカー 2
じつに丸二日かかった。 あなたがどれほどこの建物の階段を登り、どれほど警報付きゲートとレーザービームを迂回し、どれほど大勢の保安スタッフの目を飼いくぐってきたかは、神のみぞ知ることだ。
あなたはビワルディの四騎に立ち向かい、チャイコフスキーの1812年序曲の砲撃をかわし、シュトラウスの美しく青き土なうを渡ってきた。
グリーグの山の魔王の宮殿を横切り、ショパンの雨垂れを軽くあしらい、 ワグナーの炎に包まれたニーベルングの指輪を突破した。
ベートーベンの猛威に耐え、バッハのハーモニーの間をぬってやり過ごした。 そして今、あなたはここにいる。
スピーカー 1
音楽賞の最上階。 どういうわけか未だに生きている。若干濡れそぼってはいるが。
スピーカー 2
あなたは周囲を見渡す。すぐ目の前は最小限の超度品しかない一本の長い廊下。 廊下の終わりには一枚のドアがある。あのドアこそが目的地のはずだ。
保安体制と危険な音楽賞壁の分厚い層の裏に隠されている。 あの奥に重要なものが存在しないはずがない。
スピーカー 1
極秘の機密文書。あなたが抱えるすべての問いの答え。 だからこそあなたはここまで延々張ってきたのである。
答えだ。畜生。俺はただ、どうして一切がこんな有様になったか知りたいだけなんだ。
スピーカー 2
あなたはセーターに染み込んだ海水と雨水を鉢植えに絞り出してからドアへと向かう。 指紋生産のついたノブをひねる。ドアは施錠されていない。
最後に出たものが鍵をかけ忘れたのかもしれない。 直前までの保安対策がドアに施錠する必要性を否定しているのかもしれない。
あなたがあまりにも小物すぎて、何らかの認証にすら値しないだけかもしれない。 ドアを開けた先は小さな部屋だ。モーツァルトクーゲルの箱。
モーツァルトの楽譜。モーツァルトの人形。モーツァルトのポスター。 モーツァルトの土産品。モーツァルトの電気。
モーツァルトのぬいぐるみ。モーツァルトの大人のおもちゃ。 モーツァルトのダッチワイフ。その他モーツァルトに関わるすべてがむやみやたらと積み上げられている。
まるで狂信者のダンジョンのような場所だ。 いっそバカバカしいほど圧倒的にモーツァルト濃度が濃い。
スピーカー 1
反対側の壁に貼られたモーツァルトの特大ポスターは全くこの空気を緩和するものではない。
スピーカー 2
ビッグ・ブロザート・イズ・ウォッチング・ユー ビッグ・ブロザートはあなたを見ている。神よ、一体この小僧はどこまで生きがるつもりなのだろう。
あなたがこれまでの人生で見てきた中でも一際目の抜けたダサい代物である。 奴は何を考えてこんなものを作ったのか。スローガンも威圧的というにはふざけすぎている。
モーツァルトはまさか自分がモーツァルトに倒水しつつモーツァルトから監視されている状況を想像するのが好きだったりするのだろうか。
よし、あれのことは考えないようにしよう。 あなたはモーツァルトのガラクタの海からほんの少しだけ突き出している長方形に気づく。
モーツァルトクーゲルの箱とノートパソコン
スピーカー 1
近くで見るとテーブルに乗った小型ノートパソコンだ。 ノートパソコンは開いている。画面上にできた埃の膜は最後の使用者が電源を切り忘れてしばらく経っていることを示唆している。
スピーカー 2
あなたはモーツァルトクーゲルの箱の山に座りノートパソコンを調べる。 インターネットのタブが15個も開いているがどうやらすべてモーツァルト関連らしい。
あなたは驚かない。あの小僧はやはり相当な問題人物だ。 モーツァルトの元にセラピストを送ってみようかと考えてみる。
どうせ真面目に受け取ってはもらえないだろうから実現不可能だとわかってはいるのだが。 しかし一つの目立つタブがあなたの注意を引き付ける。
スピーカー 1
モーツァルトに関するものではなく SCPというイニシャルが表示されている。
スピーカー 2
グラムホンでSCP財団について聞いた話を思い出す。 最近奴らはSCP財団とかなんとかいう連中との同盟条約への署名が云々と放送している。
このSCP財団はどうも外世界の強大な組織のようなものであり、 人間と超自然の世界との関係を管理し異常な現象を研究しているらしい。
有料するような同盟ではないという点を除いてホウソウはあまりこの組織のことを語らなかった。 この同盟とはどういうものかあなたはいぶかる。
スピーカー 1
SCP財団は自分にとって助けになるだろうか。 モーツァルトの圧勝に苦しむすべての者たちの助けに。 過去の、現在の、そして未来のあらゆる作曲家や音楽家の助けに。
スピーカー 2
アイテム番号 SCP-4009 オブジェクトクラス セーフ
特別収容プロトコル SCP-4009-A人口によって行使されるカースト制度は高級的に維持されます。
財団モーツァルト同盟プロトコルは SCP-4009領域内の社会秩序を確保するために常時継続するものとします。
財団モーツァルト同盟プロトコルの詳細はレベル3、4009以上のクリアランスを持つ職員なら閲覧可能です。
SCP-4009はこれ以外の点において自己収容状態にあり、最小限の収容プロトコルのみを必要とします。
説明 SCP-4009は約900平方キロメートルの領域を包括する異次元の全体主義都市国家であり、ドイツ・オーストリア地域に位置しています。
SCP-4009は構造的にプラハの街と似通っており、ルネサンス期からビクトリア朝時代までの様々な建築様式の建造物からなっています。
SCP-4009は通常、次元間の開口部が作成されない限りは人間によるアクセスが不可能です。
SCP-4009にはSCP-4009Aと指定される人型実体群が居住しています。
SCP-4009A個体は肉体的に原生人類ホモサピエンスと似通っていますが、およそ60%が異常な重波で構成されており、物理的な栄養を必要とせず、生物学的に老化することもありません。
SCP-4009Aの特徴と誕生プロセス
スピーカー 2
SCP-4009Aが持つ独特の特徴は、各個体が現在すでに死亡している著名な古典音楽の作曲家及び、または音楽家に対応しているという点です。
例、ボルフガング・アマデウス・モーツァルト、フランツ・シューベルト、リヒャルド・ワーグナー。
スピーカー 1
SCP-4009A個体の誕生プロセスは本行執筆時点では十分に理解されていませんが、対応する人間の死亡時に自然発生的に出現すると理論上想定されています。
スピーカー 2
あなたは突然現れるのをその目で見たすべての有名な作曲家たちのことを考える。
バッハ、ハイドン、リスト、そういった人々だ。音楽が生まれいずる祝福されし地に帰り着いたような気分だと、あるいは何か似た趣旨のことを彼らが言っていたのを思い出す。
彼らをこの音楽家の天国へと迎え入れたのを思い出す。突然、あなたは自分がどれほど高齢かを自覚する。
スピーカー 1
読むのを一旦やめる。少しの間、その気づきに思いを巡らせる。記憶が頭の中に勢いよく流れ込み始める。
スピーカー 2
天国がモーツァルト付けではなかった幸福な時期の思い出。天国がずっとマシな場所だった幸せなひととき。
スピーカー 1
あなたの昔の記憶は時間とともにぼやけつつあるが、過去数十年間にわたって耳に押し込まれている大量のプロパカンダにもかかわらず、まだ頭の中に残っている。あなたは目を閉じ、昔に思いを馳せる。
スピーカー 2
束の間、あなたは平和を感じる。この土地は自由で民主的だった。作曲家と音楽家は平等に権利を持ち、平等に物を言い、そして重だった音楽家の座にいた者たちは、つまりまとめ役は、その時々の芸術的風潮に最適なスタイルと思考を常に更新し続けていた。
特定の音楽スタイルをめぐってはたびたび熱心な議論が交わされたが、音楽規範の現状を損なうほどに加熱したことはなかった。人生は素晴らしく、結局のところは誰もが古典音楽家であり、音楽と芸術に対する相互の情熱が皆を緊密に結んでいた。
今は事情が違う。あなたはどうしてこんなことになったか見当もつかず、いまだに困惑している。今では何もかもモーツァルトだ。いつこんなことが起きたかさえ、あなたにはわからない。対戦の後に始まったのだろうと見積もっては見ても、これは2年前か、それとも5年前か、10年か、20年か、50年か、どこに行ってもモーツァルトの名前が聞こえる。
いかに彼が非凡であったか。彼は4歳で初めての競奏曲を書きました。初めての公共曲は7歳の時、12歳で本格的なオペラ。いかに彼が多作であったか。35年という短い生涯で、モーツァルトは知られているだけでも626曲を手がけました。
その一つ一つが客観的に見て傑作なのです。いかに彼の音楽を聞くという行為が人々を知的にするか。いかに彼が他の作曲家たちと一戦を隠す神に愛されし天才であったか。いかに彼が古典音楽史上で最も偉大な作曲家であったか。そしてそれが果てしなく延々と続く。
すべての音楽番組にモーツァルトがいる。すべてのラジオやスピーカーからモーツァルトが演奏される。映画に、戯曲に、芸術に、文学に、モーツァルトが登場する。モーツァルト、モーツァルト、またしてもモーツァルト。モーツァルトからは逃れられない。ビッグブローツァルトはあなたを見ている。
まとおいたスローガンかもしれない。さらなる情報に好奇心をそそられ、あなたは文章を読み続ける。
SCP-4009-A個体の大半は、現実改変重破の自発的放出が可能であり、その強度は各作曲家・音楽家の大衆文化における知名度と直接比例します。現実改変の影響は各個体の個人的思考や創造的努力によって様々です。
SCP-4009-A人口は、対応する作曲家・音楽家の現実世界での相対的人気を元にして、個体が異なる社会集団に分かれるカースト制度を維持しています。
SCP-4009-A個体の階級分けとライフスタイル
スピーカー 2
一例として、最高位のSCP-4009-A個体群は、最も評判の良い作曲家に対応しており、個体群の相対的地位の再編は毎年2回行われます。
個体のライフスタイルは地位によって決まります。
後位個体には上質な料理やアルコールへの自由アクセス権があり、インフラストラクチャー、組織統治、芸術に関するプロジェクトへの強い関与が確認されています。
一方で下位個体は、平凡な物資へのアクセスのみが認められ、ハウスキーピングなどの単純労働に従事している傾向があります。
あなたは、かつての自分が評判の良い作曲家だったことを思い出す。
そう、大いに尊敬されてすらいた。
あなたは、ヨハン・パッヘルベル、大胆不敵のオルガン奏者、堂々たる作曲家、あらゆる面で模範的な人物だった。
偉大なヨハン・ゼバスティアン・バッハでさえ、あなたの作品を知って研究しなければ成功できなかっただろうと人々に語った。
あなたは、キラボシでこそなかったかもしれないが、認められ、敬われていた。
すべての芸術家がそうあるべきで、そうあるべきように、基本的な人間並みの礼節をもって扱われていた。
今、あなたは、ヨハン・パッヘルベル、誰でもないもの、きらめく荘厳な精神の海に沈むつまらない小石だ。
その人生で西洋音楽史に残した唯一特筆に値する貢献が、パッヘルベルのカノン、とかいう演奏過剰の下請け仕事である、記憶する価値もない三流の凡人。
現代の音楽規範の変更と3人の名前
スピーカー 2
現在、カノンのやつ、であること以外で注目すべき特徴といえば、要務員であること、そして時々、不可視になるらしい、ということ。
社会的な地位の最偏ですら、あなたの立場は変わらない。
あなたはいつもカーストの最底辺にへばりついている。
今以上に落ちぶれることはないという考えがせめてもの救いだった。
あなたは、自分と同胞たちが押し込められているこのカースト制度を熟考する。
音楽規範がずっと昔からどのように変化してきたかを示す一本線だ。
かつて流動的だった音楽規範は今、一貫して三人の特定人物を頂点に据えるものへと変質している。
ベートーベン、バッハ、そしてモーツァルトの名で通っている例の挨拶だ。
なぜベートーベンとバッハが古典音楽の何たるかを確立するにあたって最重要視されているのかは理解できる。
ベートーベンの作曲に対する真新しく軽有な見解は古典音楽に革命を起こし、それを工芸から芸術に変えた。
バッハの調律法、鍵盤使い、優れた技術は高い評価を得ている。
メンデルス・ゾーンというナノ作曲家が世界中で熱心にバッハの作品を宣伝して以降は特にそうだ。
しかし、モーツァルトは
奴が成したことはこんなに高い地位を得られるほど大したものなのか。
第一、奴はなぜこんなにも地位が高いのか。
あなたが最初に疑ったのはメンデルス・ゾーンだ。
あなたはこの人物についてほとんど耳にしたことがない。
聞いた話によれば彼は音楽史の研究と保存を行う重要性を確立するのに尽力し、
音楽規範の基礎を築いたという。
モーツァルトはその件で熱烈にメンデルス・ゾーンを褒め添やしている。
SCP-4009における異常技術の普及
スピーカー 2
自分たちが存在するのはひとえにメンデルス・ゾーンのおかげだとさえ言っている。
しかし肝心なのは、あなたがメンデルス・ゾーンの姿を一度も見たことがなく、
放送で話しているのも聞いたことがないという点だ。
あなたには彼が実在しているかさえわからない。場合によってはモーツァルトがプロパガンダ目的でデッチ上げた
架空の作曲家である可能性が大いにあり得る。
何と言っても事実は出そろっているのだ。
放送はメンデルス・ゾーンがモーツァルト並みに草熟な伝説的天才であり、
モーツァルト同様に10代にして傑作を書き、
若くして悲劇的に死んだと語っている。
19世紀のモーツァルト、この登場人物は全くもってモーツァルトではございません、というわけか。
あなたはモーツァルトのプロパガンダのバカバカしさを思う。
偶然にも、文章の次の段落は、モーツァルトが街のすべての作曲家にプロパガンダを届けるための技術に触れている。
あなたは読みすすれ、読み進める。
SCP-4009 A人口の上位個体は、
SCP-4009内で広く使用されている異常な技術を考案しています。
SCP-4009 Aが開発する技術には、周辺空間のヒューム安定器、記憶空間ライブラリ、輸送を容易にするため、折り畳んで可閉サイズの平板に変形できる楽器などがあります。
SCP-4009の異常技術の中でも特に普及しているのは、グラモフォンの名称で知られるラジオのような装置であり、
スピーカー 2
内地に埋め込む形式で設置されます。
この装置は、異常な重波・伝送を拾うことが可能であり、
スピーカー 2
また、ある個体の思考を同じ装置を保有している他多数の個体へ視念として伝達できます。
この装置は通常、古典音楽とニュースを放送しています。
放送は、脳・音・受信装置、CSRDに接続された1個体の思考が大規模送信されることで行われています。
財団の技術と収容用品をさらに向上させるためのSCP-4009異常技術の研究が承認され、現在進行中です。
グラモフォンによる情報伝達と情報操作
スピーカー 2
グラモフォン、どんな見た目をしているのか、いつ耳の中に入ったかもわからないが、
その機能についてははっきりと理解している。
もっぱら、グラモフォンが古典音楽とニュースを放送しているという記述は正確だ。
しかしこの装置は、人々がお互いを何と言い、どう思っているかも伝えてくる。
これが最悪の要素だ。
大抵の作曲家はおおむね肯定的な反応を受けているのに、
あなたに限って言えば、ほぼ全てが個人攻撃と申し訳程度の称賛である。
無価値、チェリスト嫌い、一発屋。
あまりにも頻繁に聞かされるせいで、全ての抽象を暗証できるほどだ。
今では侮辱にも幾分慣れてしまったが、
自分の話が持ち上がったときに感じる、わずかな心の痛みはどうしようもない。
音量を下げられるのはまだしも幸いだ。
普段あなたが放送で耳にするのは、シューベルトという作曲家のこもったテノールの声だ。
丸眼鏡をかけた優しげな顔の作曲家で、モーツァルトに浸透、浸水しており、歌うのを好んでいる。
シューベルトのやつも少しおかしい、とあなたは感じている。
陽気で取り澄ました風に振る舞っているが、彼の話し方にはどこか不自然で機械的な印象を与えるものがあった。
彼の口上も原稿を読み上げているように聞こえる。
あなたはシューベルトについてもう少し深く考える。
あの男はまるでコンピューターだ。
自律性を持たず、24時間365日自動で動き続ける機械のようで、休憩を取る様子もなければ、不満の兆しも示さない。
シューベルトがこれまで一度もどもらず、疲れず、不幸せな思いもしていない、というのは実に不気味だった。
それに、聞こえてくるのはあいつの思考のはずではないか。
なぜあいつの思考はあんなに堅苦しくて正気がないのか。
どれだけの外部情報があいつの頭を通過している。
そもそもシューベルトは自力で思考できるのか。
シューベルトは研究所バイオのバイドクトレポネーマ株で神経を増強されており、一度に最大1万人分の思考を処理、伝達することができます。
シューベルトは誰よりも信頼におけるニュースキャスター、意見メッセンジャー、そしてDJであり、常に最新情報をお届けします。
さあ、あなたのグラモフォンでシューベルトと繋がりましょう。
噂をすれば影がさす。
まさにその瞬間、シューベルトお決まりのセリフの一つがグラモフォンから響いてきた。
偶然に過ぎない、と一瞬したところで、不気味なことに変わりはない。
この程度で済んでよかった、あなたはそう思う。
少なくとも5分間不協和音ほど不穏ではない。
嫌悪に満ちた5分間不協和音
スピーカー 2
5分間不協和音は考えるだけでも少しヘキエキする代物だが、いざその時には誰もが嫌悪なしに最大音量でそれを聞かされる。
異議に対するけたたましい警告と、モーツァルトを害するという重罪を犯した過去の人々の話が語られる5分間。
通常、犯行は嫉妬と憎しみによるサボタージュ行為で、その証拠は大抵モーツァルトや当局を何らかの形式で批判したというものだった。
犯人たちはいつも呆然と恥ずかしめを受け、内蔵がホルンのようにねじれるかと思うほど痛烈な言葉でこき下ろされた。
不協和音が自分に触れることは絶対にない、とわかっていても、それが放送されるとあなたには恐怖と恥辱が押しかかってきた。
不協和音で最も頻繁に誹謗される罪人はサリエリという名の作曲家だ。
モーツァルトを延々にその権威の座から引きずり下ろそうとした嫉妬深い陰謀家たちの最初の一人であり、最も卑劣なものだったと言われている。
サリエリは残酷で人を操るのがうまく、共感性に欠けるナルシストで、音楽に対する真の感情、真の情熱を持たず、ただ注目だけを絶望していたとされている。
あなたはサリエリが捕らえられ牢獄に送られたのに安堵していた。
全く不愉快な人物であるように思われたし、そんな輩とは絶対に出くわしたくなかった。
しかし、あなたは心のどこかで5分間不協和音の最中に語られたことを信じ込んではいなかった。
あなたはずっと昔にサリエリと会ったのを漠然と覚えている。
思い出せる限りでは、彼はまともな男で、うさんくさいことなど何もしていなかった。
いくら時の流れと共に人柄が変わると言っても、サリエリがプロパガンダのために不公平に貶められ、言われのない扱いを受けているのではないか、という感覚は拭えなかった。
何しろ、あなたはサリエリが何かを告白したり、暗い一面とやらを共有したりするのを一度も聞いたことがない。
それは1から10まで、大衆向けの放送で当局が言ったことだ。
あなたはサリエリが不当に告発された可能性を受け入れている。
いや、彼の名が悪用されている可能性すらある。
あなたの一連の思考は、社会の変遷がいかに人々を変えてしまったかの、さらなる熟考へと繋がる。
行動を起こす必要性
スピーカー 2
全くのところ、すべての作曲家がサリエリやシューベルトのようになってしまったかのようだ。
操られ、優位を取られ、一切の自主性を剥ぎ取られている。
こうした学才ある人々はかつて独立した一戸人だった。
今の彼らは、一人の男の気まぐれに、いいだくだくと従っている。
彼らはかつて、大胆で自信にあふれていた。
今の彼らは、あたかも一人の男に比べれば何でもないかのように振る舞っている。
あなたは顔を歪める。
こんなのは馬鹿げている。
間違っている。
まだ誰も、これに対する行動を起こしていなかった。
皆が劣等感を押し付けられているからだ。
あなたはそう確信している。
モーツァルトはあまりにも力強く、自分たちではとても敵わないので、
あえて声を上げようとする者はいないのだろう。
あなたは血が煮え立つのを感じる。
落ち着け、ヨハン。
感触を起こせば、すべきでないことを言ったりやったりする羽目になる。
もししくじったら、お前は一貫の終わりなんだぞ。
身を隠し続けなきゃならない。
深呼吸して怒りを飲み下す。
最終段落の下には長い空白がある。
しばらくスクロールする。
中期
当ファイルは、公式なSCP-4009文書の大量配布を意図した要約版です。
完全版の文書、並びに財団・モーツァルト同盟プロトコルへのアクセスは、
レベル3、4009以上の職員に制限されています。
SCP-4009に関するさらなる質問は、プロジェクト主任のフランシス・スワード博士にEメールで提出してください。
終わり?
これがこのファイルのすべて?
多分後日に郵送で受け取るであろう要約のコピー?
あなたは騙された気分になる。
不公平だ。
とはいえ、大者たちからすれば、あなたの価値など埃の塊といい勝負なのだから、
公平な扱いなど期待できない。
あなたはウェブページを精査する。
おそらく、ある程度の権威者である財団職員、フランシス・スワード博士のEメールアドレスが、
ページの一番下に小さく印字されている。
彼らとコンタクトを取らなければならない。
この連中は、自分たちが何と手を組んでいるのか全く分かっていない。
この全体主義の凶器を食い止めて、みんなを救ってくれというメッセージを送ろう。
あなたはそう考える。他に選択肢はない。
彼らと同盟を結んだモーツァルトが、おぞましく無慈悲な独裁者である、という真実を伝えるのだ。
モーツァルトは民衆に劣悪な生活条件を強いていると、モーツァルトは民衆学系して、
今日は何とも素晴らしい日です。空は澄み渡り、万事は順調。至る所に美しい音楽。
調子はいかがですか?少し気分が落ちていたって大丈夫。
物事はきっと良くなりますし、あなたもきっと幸せになるでしょう。
あなたの思考は例のごとく、快活なシューベルトの声で都合よく遮られた。
あいつは今日だけで全く同じことを少なくとも5回は言っている。
そして、いつになったら黙ってくれるのだろう。口にチャックをしていれば、他人の考え事を邪魔する恐れはないだろうに。
あなたは彼を無視しようと努める。何かに気を取られてペースを落とせば、破滅に繋がるかもしれない。
いや失礼、脱線しました。
次の曲はモーツァルトのドン・ジョバンニ著曲です。
モーツァルトの被害者
スピーカー 2
彼の作曲家が、初演前夜までこの曲を執筆していたのを知っていましたか?
それにも関わらず、同曲は未だに時代を超えた傑作です。
これはドタン場に大急ぎで仕上げたプロジェクトでも、熱心に取り組み、かつ天性の才能をうまく使いこなせば、
依然として優れたものになるという証明でもあるのです。
ああ、いえ、
今は曲を流せません。私の信号が干渉されている。
えーっと、これは、えー、少々お待ちを。
どこから来ているのか、3つ、ああ、8分音符のパターンが聞こえます。
それと、これは2長調です。
うーん、パッヘルベルのカノンに結構似てますかね。
いや、これはどうも違ったようです。
私はどうやら人間のラジオ曲が発した音波を拾っているようだ。
こんな失敗をしてしまい申し訳ありません。次のシューベルトはもっとうまく処理できるでしょう。
それでは皆様、シューベルトとの再接続までだいたい30分ほどお待ちください。ちゃお。
うねるマントがついた式典用軍服に身を包むその姿は、例のポスターに生き移しだ。
誰かを切り捨てようとでもいうのか、剣を握っている。そして、あなたを見据えている。あなたの目を、まっすぐに。
きっと運命を受け入れるべきなのだろう。膝を屈して生き続けるよりは、立って死んでいく方がいい。
モーツァルトは床に剣を落とし、いきなり笑い始める。
おいおい、そんなまさか。一体何がのこの子罠にはまりに来たかと思えば、自分の顔を見てみなよ。
いやー、これは痛快だ。モーツァルトな大人のおもちゃを見て、君がどれだけ腹を立てたかだけでもまだ笑えるのに。
まあ、あれはね、相棒のリヒャルト・ワーグナーに感謝しなきゃいけないよ。あいつの発案なんだ。リヒャルト、この悪自衛の天才め。
ああ、そうそう、あのポスターもあいつが手掛けた。わざわざ僕のために、あのラブリーなのを書いてくれたんだから、そこは正当に評価しなきゃダメだぞ。
スピーカー 1
さらに笑う。全く心安らぐ笑いではない。
スピーカー 2
もうね、君は今日の放送のとびっきり愉快なスペシャルゲストだったからさ、これから無理やりクソみたいな場所まで連行しなきゃいけないのは本当に本当に気の毒だ。
スピーカー 1
実際、今までで最高だったと思うね。真面目な話さ、腹がよじれるぐらい滑稽だった。
なあ、リヒャルト、ちょっとこう、頼まれてくれるかな。僕はあんまり爆笑しすぎて、ケツを動かすのも億劫だ。
スピーカー 2
リヒャルト、ワーグナーも一緒にいるのか。
スピーカー 1
それ以上考える前に、オーケストラのすべての楽器が一斉に演奏される音が聞こえる。そして、もう何も聞こえない。
スピーカー 2
あれから三日、ああ、あれから二日、三日、それとも四日は経っただろうか。あなたにはもう全く見当がつかない。
アパートに帰ってきてはいるが、それ以外のことはほとんど定かでなかった。すべては悪い夢だったかのように思える。
耳に鳴り響く笛と、甲高いベルと、残響の不調和な騒音。
ねじれて舞い踊る壁の亀裂。手で辺りを、周りを探ってみるが、足元にはほとんど感覚がない。
同時に、あなたの体はどこにも存在しないように感じている。疲れ、迷い、完全な混乱状態だ。
どうやってソファーまでたどり着いたかわからない。あなたは横たわって眠ろうとするが、刺すような苦痛が背骨を下から上へと駆け上がる。
ソファーを掴んで体を支えようとしても、痛みが腕の筋肉を刺し貫く。手首が痛い。指の関節が痛い。耳が痛い。
頭も、どこもかしこも痛い。神よ、こんなことはやめてください。
スピーカー 1
痛みはわずかに薄れる。背骨は燃えているかのようだし、目と耳には糊が詰まったような感覚だが、それでも少しは落ち着く。
スピーカー 2
モーツァルトが家に、仕事に帰してくれたのが運が良かった。他の反対者たちは大抵、監獄にいつまでも閉じ込められ、あちらこちらへ引きずられては、永遠に殴りつけられるのだ。
とにかく、彼らはそれに値するのではないか。彼らはモーツァルトの座を奪うことを目論んだ。嫉妬深く、計画的な陰謀者であったのだから、その罰に値する。
改善と変化を拒んだ罪に値する。あなたは、少なくとも内省する、という基本的な人間としての品位を保っている自分は、彼らよりもまともだと知っている。
めちゃくちゃになった感覚が戻り、体が痛まなくなったら、あそこに行って、自分がより良い人間になったと証明しよう。あなたはそう心に誓う。
かすかなさりえりの記憶が脳裏をよぎる。あなたはそれを一周する。あの男は不憫な様子を装うのが上手かった。
彼はただ、モーツァルトの才能を妬み、関心を得られる物事を達成するに十分な努力の手間が面倒だったから、道場を買いたかっただけだ。
スピーカー 1
かつての自分が、さりえりは無実かもしれない、などと考えていたなんて信じられない。
スピーカー 2
ほんの少しずつ、記憶が滴るように頭の中に戻ってくる。ああ、俺は飛んだアホだった。かつて当局を疑っていたなんて信じられない。
モーツァルトを疑っていたなんて信じられない。何かを疑っていたなんて信じられない。
もちろん、モーツァルトは敵を排除する必要があった。彼は人生で苦労と苦痛に耐え続け、若き作曲家であった時期からずっと叩かれ続けていた。
生きるというのは、彼にとって全く良いものではなかった。だから彼は愛されるに値する。
記憶の転換
スピーカー 2
才能ある彼は称賛に値する。彼はすべてを達成するために努力を重ねたのだ。
もちろん、モーツァルトは高い評価を得るに値している。そして彼は決して何者も抑圧しない。
スピーカー 1
彼は他の誰よりも多くのことを成し遂げたがゆえに、他の誰よりもこの栄誉に値するのである。
テレパシー、歴史、異次元、都市、音楽、音波のタグが付いています。
スピーカー 2
はい、最終的に洗脳されちゃったってことでしょうね。
モーツァルトの独裁国家系SCPっていうことかな。 ビッグブローとモーツァルトを混ぜたビッグブローザルト。
スピーカー 2
SCP財団とモーツァルトを率いるこの国、都市、都市国家が
同盟を結んでいる。 全体主義っていうのがちょっとわかんないですけど。
スピーカー 1
そういう主義があるのかな。 全体主義都市国家。
人型、実体群、60%が異常な重波が何だろうな、縦の波。
音の、あれかな、音楽は重波みたいなものがあるのかもしれないですね。
音楽的なもので構成されている。 各個体が現在すでに死亡している著名な古典音楽の作曲家、音楽家に対応している。
その記憶があるのかな。生まれ変わりというよりは、 亡くなった
スピーカー 2
ご本人の
スピーカー 1
意志、記憶、肉体を再生させる都市
スピーカー 2
なのかな。 にしては、
スピーカー 1
どれだっけ、 ベートー弁じゃなくてモーツァルトじゃなくて、あの機械音声、シューベルトだ。
あーだからあれか、モーツァルトに洗脳された結果、シューベルトみたいな 個体も出てくるっていうことかな。
スピーカー 2
カースト制度を維持しています。
スピーカー 1
ご存命だった頃の
地位、名声に対応していると。 知名度か。大衆文化における知名度と直接比例します。
現実改変とカースト制度
スピーカー 2
現実改変の自発的放出、現実改変重波の自発的放出。 これが
音楽ってことだな。最後のモーツァルトがこの人に出した 音楽。
スピーカー 1
で、その強度がモーツァルトは一番強いから現実改変 させられたと。
疑っていたという現実が。 人口は個体が異なる社会集団に分かれる。
個体のライフスタイルは地位によって決まります。 再編は毎年2回。
で、この独白している人は カースト下の方だったんでしょうね。で、それが嫌
スピーカー 2
だったし、モーツァルトに対して懐疑的だったため 何かあるんじゃないかと調べた結果、SCP財団というのが出てきた。
スピーカー 1
同盟を結んでいる相手なので、なんとか助けを。現状のこの都市の 真実を告げることで
助けに来てくれるんじゃないかと思ったけど、連絡を取る前に
モーツァルト本人が来て 無駄な足掻きをという感じで
オーケストラを聞かされ
スピーカー 2
家に帰されたと。
スピーカー 1
ワンピースのドレスローザ編っぽいですね。なんかちょっと ホビホビの身で人形にされるとその周辺の
スピーカー 2
人はその人のことを忘れてしまうし、人形にされた奴はホビホビの身の能力者の人に 絶対復讐みたいな。あれ強すぎるよなぁ
あの能力。現実の
スピーカー 1
ドイツオーストリア地域に位置しています。 崩壊する、900平方キロメートルの領域を崩壊する異次元の全体主義都市国家
スピーカー 2
ドイツオーストリア地域に位置しています。 通常次元間の開口部が作成されない限りは人間によるアクセスが不可能です。
スピーカー 1
あーなるほどね。 ちょっと違う、軸が違うところにあるんだ。
というSCPでした。 かなり長かったですね久しぶりに。ではまた次回お疲れ様です