00:05
スピーカー 2
テイル 悪い財団とおもちゃ屋の毒
今にも降り出しそうな重苦しい鈍色の空の下、男が一人歩いていた。
周りは住宅街のはずであったが、辺りには人っ子一人おらず、声さえも聞こえてこない。
街全体が停滞したようなどんよりとした空気に包まれていた。
男は大きなカバンを背負い、目にはメガネをかけていた。 そしてそのメガネの下には
にこやかな笑みを浮かべ、街に漂う暗い雰囲気と奇妙な対比を生み出していた。
スピーカー 1
しばらくすると男は公園にたどり着いた。 男は誰かいないものかと周囲を見渡す。
すると彼は公園の奥の方、大きな木の根元で
スピーカー 2
二人の少年がキャッチボールをしているのを見つけた。 「坊やたち、ちょっといいかい?」
男がそう声をかけると、少年たちは後ずさりし警戒する。
「えっと、あなたは誰ですか?」
「ああ、怪しいものじゃないさ。 旅のおもちゃ屋さんさ。」
「おもちゃ屋さん?」
いつの時代も子供は玩具が好きである。
スピーカー 1
そしてそれは、彼の放つ快活な空気と相まって、
スピーカー 2
少なくとも一人の少年の警戒を解くのには十分な材料であった。
スピーカー 1
「ケン君、危ないよ。」
スピーカー 2
「うーん、でもさ、悪い人じゃないっぽいよ。」
「そうとも。どれ、面白いものを見せてあげよう。」
男がそう言うと、大きな鞄をその場にどさりと下ろす。
そして鞄の中に手を突っ込み、ガサガサとかき回して、
一つのものを取り出した。
「何、それ?」
スピーカー 1
男が取り出したのは、二つの羽と細い軸を持ったプロペラ状のもの。
スピーカー 2
「そう、それは。」
「これは竹トンボって言ってね。何十年か前に流行ったおもちゃだよ。」
スピーカー 1
「トンボ?えー、似てないよー。」
スピーカー 2
「うーん、確かにトンボには似てないね。でもね、同じところがあるんだよ。こいつは飛ぶのさ。」
03:07
スピーカー 2
そう言うと、男は竹トンボを両手で擦り合わせるようにして放った。
すると、二枚の羽が風を切り、勢いよく空へと飛び上がる。
「うおー、すごい。」
「そんなにすごくはないよー。でも面白いね。」
思い思いの感想を述べる子供たちに、男は突き出した指を左右に振りながらチッチッチッと舌を鳴らす。
「これだけならただの骨董品さ。でもね、これは僕の特性なのさ。」
男はカバンの中からもう一つのもの、 アンテナを持った小さな機械を取り出し、
そしておもむろにその機械を操作し始めた。
すると、それに合わせ、竹トンボは複雑な動きをし始める。
「はっ、ラジコンだ!」
スピーカー 1
ふふ、驚いたかい?
スピーカー 2
男は得意げな表情を浮かべながら、リモコンを操り、様々な極限飛行を始める。
スピーカー 1
名付けて、プロペラトンボ。僕の自信作さ。
遊ぶかい? そう言って男がリモコンを差し出すと、
スピーカー 2
やる! 前に立っていた少年は、ほとんどひったくるようにしてそれを受け取った。
スピーカー 1
後で変わってね。 後ろから聞こえる声をよそに、少年はリモコンを手に構え、
スピーカー 2
目標を操り始めた。 しばらくして、
「ありがとうね、おじさん。楽しかったよ。」 僕のことはおじさんじゃなくて、できればドックって呼んでくれないかい?
男はそう言いながら、返されたリモコンを受け取る。
わかったよ、ドック。 いい子だね。
ドックはすごいんだね。 そうそう、おもちゃ屋さんってほんとだったんだね。
スピーカー 1
そう言われ、男はフフンとしたり顔になる。 そうだとも。
スピーカー 2
なんて言ったって僕はおもちゃ博士。おもちゃ作りの天才だからね。 博士?
男がそう言った途端、少年たちの表情が曇り始める。
博士は嫌いかい? 黙りこくってしまった少年たちに、男は声をかける。
06:03
スピーカー 2
もしかして、それには 財団が関係あるかい?
少年たちは黙ってはいたが、表情がわずかに動いた。
やはりね。 大丈夫さ、僕は財団の関係者じゃないからね。
ほんと? そしてようやく、少年たちは結ばれた唇をほどいた。
そうだとも。 もし良ければ、何があったか聞かせてはくれないかな。
いいのかな? 別に告げ口なんてしないさ。ほら、何かあったんだろう?
わかったよ。 そして少年たちは語り始める。
スピーカー 1
俺らにはもう一人友達がいたんだ。 名前は駿助。
スピーカー 2
名字は下山だよ。 そうそう、それでな、この間あいつと遊んでたら頭が痛いって言い出したんだ。
それでケン君と僕がお家か病院に連れて行こうとすると、 さっきまで投げてたボールが飛び始めたんだよ。
すると男が顔色を変え聞き返す。 ボールが飛んだって?
そう、誰も触ってないのに、まるで駿助が動かしてるみたいだった。
なるほど、まるでサイコキネシスだ。
サイ…何? 聞き慣れない単語に少年は困惑する。
ああいや、なんでもないよ。続けて。
男は情報統制が…などと呟いていたが、 少年たちは追われた通り続きを話すことにした。
スピーカー 1
それでそれを見ていた女の人がどこかに電話をかけたんだ。 たぶん救急車を呼んでくれたんだと思う。
スピーカー 2
でも変だったんだ。 来たのは白くて窓の中が見えない車だったんだ。
それが財団の?
スピーカー 1
うん。
スピーカー 2
博士って呼ばれてた人がリーダーみたいで、 駿君を押さえ込んで無理やり車に乗せたんだ。
男は苦虫を噛みつぶしたような顔をし、 なるほど、とだけ言った。
スピーカー 1
財団の人たちは正義の味方だから、逆らっちゃダメだってずっと言われてきたからさ。
スピーカー 2
動けなかったんだ、僕ら。
それで落ち着いてから、すごく後悔したんだ。
09:05
スピーカー 2
なんであの時、駿介を連れて逃げなかったんだろうって。
でもそれはきっと悪いことだから。
君たちは何も悪くないさ。悪いのは財団だ。
男のその言葉に、少年たちは困ったような表情を浮かべる。
だけどさ、独、財団は正義の味方だってみんな言ってるし、
君たち自身はどう思っているんだい?
それは…
再び沈黙が訪れる。
財団は確かに正義の味方だった。
多くの人を苦しめたが、より多くの人を救った。
スピーカー 1
しかし、それは過去の話。
スピーカー 2
今ではどうだい。多くの人を救うため、より多くの人を苦しめる。
それが正義かい?
え、えっと、難しくてよくわからないよ、独。
そう言われ、男はハッとして頭をかいた。
スピーカー 1
ごめん、つい熱くなっちゃったね。
つまり、財団をそこまでして信じることはないってことさ。
スピーカー 2
君は財団をどう思っているんだい?
本当は、嫌い。
僕もだよ。
スピーカー 1
じゃあ、それでいいさ。
スピーカー 2
無理に正義だなんて信じ込むことはないよ。
そう言って、男は二人の頭に手を置いた。
そしてその手で、わしゃわしゃと紙を書き回す。
あっ、僕の話はこれで終わり。
スピーカー 1
難しい話になってしまったね。ごめんよ。
スピーカー 2
ううん、いいんだ。
お詫びに面白いものをあげよう。
男がそう言って鞄から取り出したのは黒くて小さな粒だった。
それ何?
これは種だよ。これは僕の特別性の花でね。すぐに成長するんだ。
お花? 独は何でもできるんだね。
スピーカー 1
無邪気に称賛する少年に、男は自慢気に
スピーカー 2
もちろん博士だからね、と返した。
しかもしかも、わずかな水と光があればどんな場所でも育つんだ。とても強い。
そう言って男は種を一つそのあたりに放り投げる。
12:02
スピーカー 2
するとたちまち芽が出て、一分とせずに林道に似た紫色の花を咲かせた。
すごい、すごいよ独。
ふふ、そうだとも。君たちにもこの種をあげよう。ほら。
そう言って男は二人に一つずつ種を渡す。
大事にするんだぞ。
うん。 絶対大事に育てるよ。
二人に種を渡し終えると、男はカバンの口を閉じ、持ち上げる。
さあ、僕はもう行くよ。
えっ、もう行っちゃうの? ケン君、邪魔しちゃ悪いよ。
ごめんよ。いつかまたきっと会えるから。
じゃあね、独。 ありがとうね。
スピーカー 1
手を振る子供たちを背に、男は歩き出す。
スピーカー 2
雲はすっかり晴れ、空は夕焼け色に染まっていた。
空はもうすでに濃紺の色を示し、あたりはもう夜だ。
スピーカー 1
子供に褒められたのはいつぶりだろうな。
スピーカー 2
男は笑っていた。 今度、久しぶりにまた何か作るかな。
スピーカー 1
男は楽しいことが好きだった。 どうしようかな。
水。 水がいいな。
スピーカー 2
水鉄砲とか、船とか。
男の楽しみは、自分の作ったもので遊んでくれる人がいることだった。
スピーカー 1
水が。 どうしよう。
スピーカー 2
再現なく撃てる水鉄砲。 それは男の正義でもあった。
それで行こうか。 園芸にも使えるし、消火にも使えるぞ。
だから自分の邪魔になる財団が嫌いだった。
そして財団もまた、男が嫌いだったのだろう。
それは突然のことだった。 あたりを眩い閃光が包む。
突如として訪れた白昼の太陽のような輝きに、男は驚き、光の発生源、
彼の背後だった。 の方へと向き直った。
次の瞬間、凄まじい轟音と衝撃が男を襲う。
スピーカー 1
男は驚き、目と耳を塞ぎ、その場に鏡込む。 そしてしばらく経ち、
15:00
スピーカー 2
男が目を開くと、遠くに巨大な影が見えた。
スピーカー 1
それは、下からの赤い光に照らされ、
スピーカー 2
上へ上へと立ち上る煙、キノコグモだった。
先ほど少年たちと遊んだ街があったはずの場所は、 見る影もなく、真っ赤に燃え上がっていた。
な、なんで?
サイレンが鳴り響く。
スピーカー 1
地区にて異常性の生物の大量発生が確認され、 財団の各安全装置による無力化が施行されました。
現在、対象は無事鎮静化されています。 近隣住民の方は、冷静に避難を行ってください。
スピーカー 2
繰り返します。
スピーカー 1
なんてこと…
スピーカー 2
クソ…
そんなわけで、男は財団が大嫌いだった。