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2022-08-04 13:35

#85 Tale-JP - 英雄などではない、ただの財団エージェントの収容報告書

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紹介SCP-Tale

Author: zillion_names
Title: Tale-JP - 英雄などではない、ただの財団エージェントの収容報告書
Source: http://scp-jp.wikidot.com/interlude
Year of creation:2021
CC BY-SA 3.0

SCP財団とは: https://ja.wikipedia.org/wiki/SCP%E8%B2%A1%E5%9B%A3

©︎SCP財団 http://ja.scp-wiki.net/

00:04
スピーカー 2
SCP、Tale、英雄などではない、ただの財団エージェントの収容報告書。
事案報告268-1
スピーカー 1
2000年、SCP-268-JP-106の収容掲示内に、SCP-268-JP-106-Aが渾水状態で出現しました。
スピーカー 2
消失から10年が経過していますが、その外見、健康状態は、消失時のものに一致していました。
スピーカー 1
SCP-268-JP-106は現在も更新を続けていますが、それぞれの章で危機的状況に陥っている人物が毎回変化するようになっており、それぞれの人物に一貫している共通点は発見できていません。
スピーカー 2
事案直後に、更新された章の直後に幕合いという題名で、通常とは異なる構成の章が追加されていました。
男は目を覚ます。 さあ、次は何だ。どうやって殺しに来る。
いつものように覚悟を決め、瞼を開き、辺りを見渡して、そして普段とは大きく違うその様子に硬直した。
おはよう、エージェント佐久間。 そしてようこそ、私の所在へ。
男。 エージェント佐久間が座っていたのは畳の上。
スピーカー 1
机を挟んだ向こう側には初めて目にする男の姿があった。 書生服というのだろうか。
スピーカー 2
Yシャツの上に着物を羽織った書老の男性。 唾の広い帽子をかぶり、丸い眼鏡の向こう側に見える目はぎょろりと佐久間を一別し、すぐに机の上へ視線を戻した。
佐久間が吊られて視線を落とすと、ガリガリと黒い道を残しながら万年筆が原稿用紙の上を滑っていた。
スピーカー 1
ペンを持つ節くれだった手はところどころインクで汚れており、見てわかるほどのペンダコができている。
スピーカー 2
顔も上げずに失礼するよ。何分アイデアが湧き出てくるようで筆が止まらないんだ。
スピーカー 1
興奮したような気識の混ざった声で話しかける男。 佐久間は直感的に理解した。
スピーカー 2
目の前のこれが、この男が、この悪質な英雄譚の主、SCP-268-JPだと。
スピーカー 1
反射的に立ち上がろうとした佐久間は、体がピクリとも動かないことに気づく。声さえも出てこない。
今までにない事態に対応するため、佐久間は男を睨みながら脳をフル回転させた。
03:03
スピーカー 1
そんな佐久間を見て、男はクックッと喉の奥で笑う。
安心したまえ、佐久間。ここは英雄譚ではない。いわば幕間だ。誰かが死ぬことはないし、君も死ぬことはない。
男は喜んでいた。湧き出続ける文章を目の前の原稿用紙に綴り続けながら、目の前の英雄を観察する。
三千を優に超えたというのに、その相棒は乱々と自分を睨みつけている。男の体に震えが走る。
むろん、おじけではなく歓喜の震えだ。彼はまだ壊れていない。狂っていない。折れてすらいない。
スピーカー 2
抗い、戦い、救い続けるつもりだ。その事実が嬉しかった。
今日ここに呼んだのは他でもない。今まで君にはとても感動させられた。皮肉ではない。
スピーカー 1
私の書き出した試練を、困難を、苦痛を乗り越えてきた。今までの盆族とは違う。君こそ本物の英雄だ。
スピーカー 2
男の声にだんだん熱がこもる。その賛美が本心から紡ぎ出されていることは明白だった。なおも男は続ける。
スピーカー 1
そこで、私ばかりもらっていて支払うギャランティーがないというのも失礼な話じゃないかと思い立ってね。
スピーカー 2
君にいい知らせがある。君が待ち続けていた知らせだ。
あの少女、君が命を賭して救い続けた無効なる少女。
彼女を解放した。
男が放った言葉に、作間は耳を疑った。次にその言葉を疑った。そして男の本意を疑った。
険しい顔を崩さない作間に満足したように頷き、男は続ける。
疑いは最も。とはいえ、これは私にも意味があることでね。
言ってしまえば触手気味なんだよ。少女の危機を救う君は。飽きたんだ。
スピーカー 1
そろそろ別のが書きたい。それに三千と少しばかりやってきて気づいたよ。
スピーカー 2
凡族どもは命を投げ出させるために人質を使うほかなかったが、君には他の方法があり、そちらの方がより素晴らしいはずだと。
スピーカー 1
確保、収容、保護、作間の、そして財団の掲げる三つの柱を男は呟く。
06:00
スピーカー 1
そしてこう告げた。君がここで救い続ける限り、私の作る地獄を乗り越え続ける限り、私は君だけを書こう。
スピーカー 2
この英雄譚以外の英雄譚を世界に出現させないことをこのペンに、私の誇りに誓おうじゃないか。
スピーカー 1
作間が目を見張るのを見て、男はにやりと笑った。作間は理解する。エージェントとしての経験が告げている。
奴の言葉に嘘はない。自分がここで死に続ける限り、新たな犠牲者が生まれることはないと。
スピーカー 2
その代わりと言ってはなんだが、あれだ。毎度毎度叫んでいるだろう。あれをやめてはくれないかね。
スピーカー 1
確かにあれは私にとって知られたくないことだが、それを黒塗りにするのは手間ですらない。ちょいとインクを垂らしてやるだけだ。
スピーカー 2
はったり抜きにとろうなんだよ。君の溢れるエネルギーをそんなことに使ってほしくない。
そんなことに気を取られるくらいなら、より大きな困難に立ち向かってほしいんだ。
スピーカー 1
サクマも気づいていた。仲間へと送っていたメッセージのすべてが検閲され、消し取られていたことには。
無論、だからと言ってやめる気はなかったのだが、話が変わった。
君は私を収容したいのだろう。そしてあの少女を救いたかった。
しかし、私が君を書き続ける限り、君は私を収容でき、救いたかった少女はすでに檻の外だ。
であれば、君が声を上げて無駄な労力を支払う必要もないだろう。悪い話ではないと思うが。
スピーカー 2
なあ、英雄サクマ。
スピーカー 1
サクマの答えは決まっていた。非はない。身勝手な言い分ではあるが、サクマはこの男と争っているわけではない。
ここで声を荒げて、せっかくの収容の機会を不意にするのは、財団職員としてあるまじき行動だ。
スピーカー 2
どうせ今までとやることは変わらない。自らの命を投げ打って、目の前の命を救う。それだけのこと。
スピーカー 1
気がつけば、サクマの体は動くようになっていた。男はサクマの答えを待っている。
スピーカー 2
サクマは男を見据え、ただ一つ、言っておきたかったことを口に出した。
一つ、訂正させてもらう。俺は英雄などではない。
スピーカー 1
サクマが絞り出した言葉を、男は表情の抜け落ちた顔で受け止める。サクマは続ける。
命を捨てることは恐ろしい。それでも、自らの大切な何かを守るために。
09:03
スピーカー 2
震えながら、涙しながら、自分が死ぬことを知りながら、恐怖を耐えて、死地へ向かう。その格別の勇気をたたえて、英雄と呼ぶのだ。
サクマがずっと、ずっと引っかかっていた言葉だ。英雄とは、そういう特別なもののことを指す言葉だ。だから、自分は英雄ではない。
スピーカー 1
俺にとって、財団エージェントにとって、お前を収容するために、人々を保護するために、命を差し出すことは何一つ特別なことではない。
俺は英雄ではない。ただ一人の財団エージェントでしかない。
スピーカー 2
ああ、足掻き続けてやる。死に続けてやる。それで一握りでも、向こうの人々を救えるならば、俺の命など好きなだけくれてやる。俺たちを。財団をなめるな、三流作家。
スピーカー 1
ビリビリと鼓膜を震わせるサクマの狂耳の叫び。魂からの咆哮。
それを聞いて、男は、SCP-268-JPは、青白い顔を徐々に赤くする。そして、男が鼻から垂らした一筋の血が原稿用紙を汚したとき、その顔が、いびつなほどの満面の笑みに変わった。
スピーカー 2
男の咆哮が部屋に響く。ガタガタと本棚が揺れ、ミシミシと空間が軋む。男の笑い声は重なり、響き、鼓膜だけではなく、サクマの全身の皮膚を叩いた。空間すべてが笑っている。嘲笑ではない。サクマをたたえて、笑っている。
ああ、最高だ。最高だ、エージェントサクマ。君はどれだけ私を喜ばせるんだ。
あっはっは、見ろ。血だ。この私からだ。ああ、訂正しよう。君がそう言うならば尊重しよう。すごいぞ。これほどの興奮は初めてだ。危うく達するところだった。
創作意欲がほとばしっているのに、手が震えて書けないなどということも初めてだ。こんな素晴らしいセリフを飾り一つなく聞くことができるなんて。惜しむらくはこんなちんけな幕合いではなく、私の作品の中で聞きたかった。
スピーカー 1
ふいに、サクマの意識が遠のく。目の前が闇に包まれ、男の笑い声も遠くなっていく。
12:00
スピーカー 2
また会おう、サクマ。どうかその教授を捨ててくれるな。私が筆を折るその日まで、君は財団エージェントであってくれたまえ。
サクマが部屋から消え、崩れかけの書斎には男だけが残される。興奮を抑えるように荒く息を吐き、知らぬ間に立ち上がっていた体を畳の上に座らせて、男は黒い革拍子の本を手に取った。
スピーカー 1
約束は守らねば。ああそうだ、君に財団エージェントとしての誇りがあるように、私にも物書きとしての誇りがあるからな。
男が本を撫でると、その表紙に刻まれていたタイトルが書き変わる。それを見届けて、男の姿は、書斎は、闇へと溶けていった。
スピーカー 2
また、ショーが続いているにもかかわらず、SCP-268-JP-106のタイトルが異なるものへ変化していました。
スピーカー 1
これは、SCP-268-JPが完結していない状態でタイトルが変化した唯一の例、および変化後のタイトルが分別の言葉になっていなかった唯一の例です。
スピーカー 2
表題 無子の幼き少女を救った、忠勇なる財団エージェントの英雄譚
スピーカー 1
解題後
13:35

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