Tale オーハイ
財団エージェントのジョージ・バーシンは、一枚岩のごとき男だ。身長は2メートル近くで、角張った肩を持ち、ブルース・ティムのキャラクターにも似ていた。
頭髪は反られ、髭はさっぱりと整えられていた。スーツは特注品だ。なぜなら、店頭に並ぶ者が彼の体育に合うことは滅多にないからだ。彼がグリーンの中心地に到着したのは、夜明け後、間もない6時のことだった。
住居は隔絶されていた。それは、オーハイから北方に伸びる高速道路の枝道の枝道を走り、ろくに整備されていない1、2エーカーの堤防地帯を抜けたところにあった。
バーシンは財団の異常宗教表現部門に所属している。カルトが担当だ。
グリーンとは、バーシンがこれから対面することになるカルトの名前ではなく、コードネームだ。その本当の名前をバーシンは知らない。
昨夜のブリーフィングによれば、セキュリティ上の合理的な理由により本当の名前が用いられないとのことだったが、理由までは説明されなかった。
バーシンも決して愚かではなく、真の名前に関わる認識災害が何かしらあるのだろう、あるいは記憶妨害現象によって記録に残せないのだろうと解釈した。
あるいは、長年にわたって財団研究職員とやり取りしてきた経験から来る想像だが、誰かが本当の名前を記録することを忘れて、それをごまかそうとしているのかもしれない。
仮にSCP番号が決まっていたとして、彼はそれを知らされていない。家は醜い白の窓柄に覆われていた。
平屋の木造で、二つと同じ様式の窓はなく、腐敗の最中にあった。
ゴミや材木、錆びた車両部品が積み上げられ、緑色の汚水の溜まったドラム缶が複数あった。
二面半の方向から柳とプラタナスが枝を伸ばし、葉や種子をはじめとした諸々の有機物を屋根いっぱいに落として、あまどいを積まらせていた。
窓の向こうに見えるのは閉じられたカーテンとブラインドだけで、正面のドアは半開きだ。
バーシンは慎重に中へ侵入する。
入口はそのまま広々としたLDKに繋がっていた。
部屋は暗く、ほとんどの光は入口から注ぎ込んでいるものだ。
バーシンはドアを開いたままにして、窓の遮蔽物の縁を手で探った。
部屋は汚れていてカビ臭い。
淀んだ空気はオーブンの中のようで、極端な静けさに支配されていた。
唯一かすかに聞こえるのは興奮気味の話し声だ。
それは廊下を進んだ場所から来ているようで、言葉を聞き取ることまではできない。
八だ。
ああ、中は鋭いもんだ。君が行動を起こしたら、それでつろいクールードスから血を流して。
バーシンは廊下を進み、壁に吊るされた、かつて鏡だった物体の脇を通り過ぎる。
鏡面は黒色の塗料で塗りつぶされていた。
彼は各部屋を一通り探索し、声の源を覗いて建物が無人であることを確認した。
最後の部屋にたどり着く。
ドアは閉じられ、熱心な雑言が中から漏れ出ている。
けなら、超簡単だ。一つ君にやるよ。
簡単な2パートのプロジェクトだ。持っていけ。
あと、下のアルサムヌスを忘れるなよ。
パート1 自分より弱い人間を見つける
バーシンは強く、2階、ドアをノックした。
早口が止む。音は無い。
バーシンはドアを開く。
部屋は暗く、窓は熱いカーテンによって遮られている。
ドアの反対側の隅にパソコンデスクがある。
デスクはこれ以上に物を置くことが現実的に不可能と思われるほどに雑然としていて、
一部分解されたハードウェア、USBキーボード、チョコレート菓子の包み紙、くず紙、ボールペンが散らされていた。
ゲーミングマウスはガラクタに動きを阻まれている。
良質なビデオカメラがセットしてあり、モニターとそれに映るビデオ映像、そして埃がある。
およそ20歳と思われる若い男が、モニターの前の安っぽい細身の回転椅子に居心地悪そうにもたれかかっていた。
痩せていて、肌は血色が悪い。
バーシンの目には栄養失調患者として映る。
かつては洒落た髪型だったものは放置されていた。
男が振り返ると、目の周りに輪のように生じたクマが見て取れる。
一年は眠っていないかのようだ。
匂いが鼻をつく。
部屋を満たす悪臭は肉眼で見えかねない濃さだ。
異常な拡散、宗教現象、すなわちこの若者を中心として金床蜘蛛のように存在するカルトがグリーンと名付けられたように、この若者はレッドの名を与えられていた。
おはよう。バーシンは言う。
配信を見させてもらったよ。
若者はヘッドホンを外した。
一体誰だお前は。
誰だお前は。
ジョージバーシンというものだ。
私の勤めている組織は、あ、
檻から解き放たれた狂犬のようにレッドは椅子から飛び上がる。
ヘッドホンを放り、拳を突き出してくる。
バーシンは自身の重心を僅かに左へ傾け、拳を避ける。
彼はレッドの腕を掴み、激しく前へ引っ張り、向けられた運動エネルギーをいなして若者の両顎をドア枠に叩きつける。
レッドは後ろによろめき、うずくまる。
彼は速やかに体勢を立て直す。
広角からは血まじりの泡が吹きこぼれる。
彼は床に散らばったガラクタをあさり、ハンダゴテを手に取る。
レッドは再び前進し、バーシンは貴重なコンマ何秒かを費やして、
ハンダゴテのケーブルがつながっているか、電源がついていて熱を帯びているかを確認する。
電源はついていなかったが、その不注意はレッドを懐に入れるには十分なもので、
若者は両手を使ってバーシンの腹に金属棒を突き込む。
電気的なうなりとオレンジ色の火花が生じる。
金属棒はバーシンの着衣をかすめたものの、
腹部からは反れ、布に長い切断口を残すことしかできなかった。
皮膚はあらわになっている。
透明な防壁は神話的な原理を一部に用いて、
彼の一見すると無防備な頭と前身の他の部位を守っていた。
バーシンはレッドをヘッドロックで捉える。
周到さを欠いた、当てのない蹴りが続く。
レッドの内には悪魔のようなエネルギーがあったが、
バーシンは身も蓋もない言い方をすれば準備ができていた。
続く何てかの動きでレッドは武器を奪われ、
意識を失い仰向けに寝かされ、
己を助ける一切の動きを封じられた。
バーシンは戦闘を吟味した。
本物の命を懸けた戦いを経験した回数はまだ二桁にも届かない。
今回の奥州はその中ほどの順位だ。
15秒の交戦、互いに判断を誤った。
良い学習経験だ。
イントロの説明は省こうか。
彼はレッドへ語りかける。
生放送型のベクターは新規性があった。
今まで見たことのないものだ。
従来の自己啓発本と収容書の組み合わせよりは遥かに効果的だ。
オリジナリティを評価して10点中1点をやろう。
しかしそれは10年前には予想されていて収容プロトコルの準備は万端だった。
放送サービスに人を置いているのだよ。
今こうして話している間にもあんたのアカウントがロックされているはずだ。
そのチャンネルを通じて接種コードをルーフする。
バーシンは着ていたシャツを整えようとする。
うまくいかない。
まあいい。
しかしあんたはそのソースだ。
彼は言う。
単なる接種コードは通じない。
物理的な鑑賞が必要だ。
彼はジャケットの中に手を入れる。
そこにはよく手入れされ、使用可能な状態の銃があったが、
今回の対面では取り出さないことを選択していた。
彼は代わりに視力検査用のスコープにも似た装置を取り出した。
彼は膝をつき、レッドの右まぶたを開き、スコープを向ける。
装置はまばゆい発光を眼球全体に照射し、目を開いた状態で固定する。
レッドのほとんど全ての筋肉が硬直し、確実に彼を床に張り付ける。
彼は歯を食いしばる。
バーシンはレッドに語る。
この男は無実だ。
あんたがそいつに与えた仕打ちを与えていい人間など存在しない。
彼を解放してこの現実を去れ。
歯を食いしばりながらレッドは言う。
お前は一体誰だ。
いいだろう。
バーシンは別のボタンを押し、照射される光のパターンは純粋な白の円盤から赤と青の複雑な渦巻く星型に変わる。
肋骨がこじ開けられるかのような滑舌音。
若者は悲鳴をあげる。
その声はレッドのそれとは違う。
全身を使って奏でられる悲鳴で苦悩と絶望が込められ、物理的に可能な最大の音量に達していた。
それは腹からこみ上がり、平坦に継続し、そして息が途切れると同時に吸気を挟んで再び始まる。
彼は背筋を折り曲げ、床に爪を立てる。
二回の深呼吸を経て、声はむせびなきに落ち着く。
ちくしょう。俺をあそこに送り返さないでくれ。お願いだ。
わかってる。大丈夫だ。
送り返さないでくれ。目が見えない。そこにいるのは誰だ。
大丈夫だ。視力は元に戻る。私の名前はジョージだ。君は?
穴があるんだ。若者は喉を詰まらせながら言う。
それでどんどん悪くなる。止まらないんだ。そこがない。
彼はしばし無秩序に喚き、そして声を静かに途切れさせた。
彼の視線は盲目的に周囲をさまよう。
今の君は相当まずい状態にある。
バーシンは言う。若者は激しく同意を示した。
何かがおかしくなった。
バーシンは語る。
そいつは、間違いの幻境のそいつは、君をさらって君になりすましていた。
今もここにいて君の皮を指人形のように扱い、歩かせ、喋らせてる。
本物と同じように。
君が経験している悪夢を十万人もの人間が今経験している。
それが悪いニュースだ。
いいニュースは君を捕まえられたことだ。
まだ君がそこにいるのが見えるよ。
いい確率でそこから助け出せるはずだ。
いい確率?