第三百十話『冷静に今を見る』-【北海道篇】作家 安部公房-
2021-08-07 12:48

第三百十話『冷静に今を見る』-【北海道篇】作家 安部公房-

第二次戦後派の旗手として前衛的な手法を開拓し、ノーベル文学賞に最も近い作家と言われた小説家がいます。
安部公房(あべ・こうぼう)。
川端康成の絶大なる評価を受け、1951年、『壁―S・カルマ氏の犯罪』で芥川賞を受賞。
映画化もされた名作『砂の女』や、ダンボール箱を頭からすっぽりかぶった男を主人公にした『箱男』など、都市に生きる人間の閉塞感や現実の不条理を、ち密に積み上げられた文章で描きました。
東京で生まれ、満州で育った安部の本籍地は、開拓民だった両親ゆかりの地、北海道。
作家としての立脚点を自ら、「故郷喪失者」と位置付けていましたが、小学2年生から3年生まで、およそ1年半過ごした、北海道旭川市、当時の東鷹栖町での日々は、くっきりと彼の心に息づいていました。
彼が通ったのは、近文第一小学校。
今年開校125周年を迎えるこの学校に通う通学路が、彼の原風景のひとつかもしれません。
冬、一面の雪景色。
道路も畑も何もかもが雪におおわれて、区別がつかなくなる。
道も、溝も、消える…。
不思議なことに、地面が見えているときよりも、学校までの距離が近く感じたと、安部は語っています。
区別なき世界。
安部少年が満州で受けた教育は、「五族協和」。
複数の民族が共存する理想国家を目指すものでしたが、現実とのギャップに戸惑います。
横行する、差別。
民族多様性に逆行する出来事が、あらゆるところで起きていました。
やがて終戦を迎え、安部は、満州と日本という二つの祖国を同時に失ってしまうのです。
常に根無し草。
常に現実と理想のギャップに悩む。
そんな寄る辺ない人生で、彼が自らに課したのは、「今を冷静に見つめる」ということでした。
慌てず、騒がず、すぐに結論を出さなくていい。
でも、今を凝視する。
そこから生まれてくる矛盾や哀しさを、小説にしたのです。
20世紀文学を牽引した文豪、安部公房が人生でつかんだ、明日へのyes!とは?

感想

まだ感想はありません。最初の1件を書きましょう!

12:48

コメント

スクロール