1. ストーリーとしての思想哲学
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2024-11-10 06:12

#95 〈悪〉とはなにか?2 惡の美学

サマリー

今回のエピソードでは、〈悪〉の美学についてダークヒーローやピカレスク小説を通じて考察されています。主人公の生い立ちや独自の哲学が、彼らの行動や命の選択にどのように影響を与えているかが述べられています。

悪の美学の背景
ストーリーとしての思想哲学 思想染色がお送りします。
前回の続きで、〈悪〉というものについて話します。 〈悪〉っていうと、宗教的な文脈だと否定的に扱われますけど、一方で
〈悪〉の美学っていうと、なんだかかっこいいものという感じがします。 〈悪〉の美学を持つダークヒーローやアンチヒーローって、だいたい人気キャラになりますよね。
僕もダークヒーローって好きなんで、よくわかります。 じゃあ、〈悪〉の美学ってなんだって話ですけど、
〈ピカレスク〉っていうのを手がかりにして考えてみます。 〈ピカレスク〉とは文学小説の一つの形式のことなんだけど、
〈ピカロ〉とは〈悪感〉、〈悪い〉に漢字の〈感〉と書いて〈悪感〉のことです。 日本語で言うと〈悪感小説〉という意味で、
要は悪者、〈悪感〉が主人公の小説です。 ピカレスクの特徴として、主人公はだいたい
下層階級の主人で、お行儀がめちゃくちゃ悪いです。 したがって社会から妻弾きにされていて、まともに生きるということができないでいます。
でもそのような境遇に追いやられているのは、不幸な生まれ育ちだったり、貧しさだったりのせいなわけです。
自分が悪いわけではないのに社会から妻弾きにされているという認知になるから、 だから社会に一心報いてやろうとします。
しかし、社会に一心報いるということは、敵対する相手は社会全体ということになるよね。
スケールの大きい、並大抵の相手ではないから、 もしそんなものを相手にしようとするんだったら、思想哲学が必ず必要になってきます。
そりゃそうですよね。何の思想も哲学もなしに、 社会を相手にしたって、ただの犯罪者として処理されて終わりだから、
社会というものを相手にするなら、一人ではできないから、 思想に共鳴する同士がたくさん必要だし、
共鳴してくれるように人を惹きつけるには、 思想や哲学がなければいけない。
だからピカレスク小説の主人公には、独自の思想や哲学があります。 もちろんそれ以外の強みもあったりはします。
主人公は、例えば話が異常に上手いとか、 正規の教育は全く受けていないが、いわゆる地頭がものすごくいいとか、
プロット上そういう強みはあったりはするわけだけど、 その背後には強固な独自の哲学があるという点がピカレスク小説、 ダークヒーローの特徴であるかと思います。
で、やっぱり圧巻小説っていうくらいだから、 最後はやっぱり負けるんですよ。
正義は勝つというと聞こえはいいけど、 むしろ社会は勝つ、あるいは多数派は勝つと言った方がいいかもしれない。
ダークヒーローは最後は報いを受けて命を落とすという構成が ピカレスクにはよく見られます。
哲学と尊厳の関係
見方を変えて別の角度から言い換えますね。
ダークヒーローって、本人が自分だけ幸せになれればいいというのであれば、 適当なところで本当だったら引退しちゃえばいいんですよ。
メタ的な話ですけど、小説という形式である以上は起承転結があります。
ストーリーが盛り上がるシーンというのがあって、 その盛り上がっているような場面では主人公は悪者ながらちょっとした成功を積んでいるという状態でいます。
心酸を舐めながらも少しずつ成り上がって、 悪者としてちょっと成功した状態という時に、
ちょっとだけ成功体験を積んだという状態のその時に、 やっぱり社会に意思報いるのはやめて、手元にあるちょっとした小金みたいなのを元にして、
引退してまともに生きるとかすれば、 主人公はとりあえずは自分の幸せをつかめるはずなんです。
でもダークヒーローはそういうことはしません。 孤悪党としてちょっと裕福なチンピラとして生きるみたいなことはしないよね。
メタ的にも、そんな孤悪党が主人公であっても、読者は魅力を感じづらいです。 ダークヒーローは必ず行き着くところまで行きます。
たとえ命を落としてしまうとしても、行き着くところまで行くからこそのダークヒーローなんですよね。
で、それは彼らの行動原理が彼ら独自の哲学に裏打ちされたものだからです。
まともに生きられなかったからこそ、生み出した自分の独自の哲学というのを、そういうのを裏切るくらいだったら、命を落としてしまうとしても、
行き着くところまで行きます。 それが彼らの生き方であり、彼らの美学だからです。
まとめると、ダークヒーローは羊、生まれ育ちが不幸なものであり、その羊ゆえに独自の思想や哲学を自らの誇りとすることなしには尊厳を維持することができず生きていかれなかった。
それゆえに自分の命以上に尊厳、誇り高さを支える哲学を裏切ることができない。
これが悪の美学の正体であろうというこういう話でした。
悪についての話はまだまだ続きます。 次回もよろしくお願いします。
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