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おはようございます。英語の歴史を研究しています。慶應義塾大学の堀田隆一です。 このチャンネルでは、英語の先生もネイティブスピーカーも辞書も答えてくれなかった英語に関する素朴な疑問に、英語史の観点からお答えしていきます。
毎朝6時更新です。ぜひフォローして、新しい英語の見方を養っていただければと思います。 今回取り上げる話題は、
nice のもともとの意味は、「愚かな」 だったということです。
昨日の放送では、silly のもともとの意味は、「幸福な」 だったという話題を取り上げたんですけれども、それと同じ意味の変化、単語の意味の変化に関する話題ですね。
昨日のsilly というのは、もともと幸福なだった、それが今愚かなになってしまったという意味では、意味が悪い方にいった、意味の悪化というふうによく言われるですね。
今日取り上げるのは逆で、nice というのは今では素敵なというプラスの意味なんですが、もともとこれは愚かなという意味だったんですね。
つまり悪い意味だったのが、現代にかけてどうも良くなってきた、これを意味の良化、良くなる方法ということですね。
こうした悪化の例、良化の例、両方あるんですけれども、昨日も述べたように、こういう形容詞が多いですね。
形容詞というのは、物事を評価するという時によく使われるわけで、その評価がプラスなのかマイナスなのかということで、当然個人によっても評価が違いますし、あるいは文化、時代によっても同じものを見ても、プラスだったものがマイナス、マイナスだったものがプラス、こういうふうに揺れ動くという特徴があって、ここが面白いところではあるんですね。
では、今日のこのNice、これもともと愚かなという意味から始まったんですが、どういった具合に良い方に素敵なというふうに展示できたのかという、この歴史を見てみたいと思います。
このNiceという単語なんですけれども、これは本来の英語ではなくて、フランス語からの釈用語なんですね。
大抵のフランス語の釈用語というのは、中英語の時代に入ってきたんですが、この語も同じで、だいたい1300年頃にフランス語から借りてきたものです。古フランス語、古いフランス語のニスという単語ですね。
まあNiceなんですが、これがもう既に愚かなという意味を持っていたんですね。さらに遡りますと、このフランス語の単語は、そのフランス語の生みの親であるラテン語に遡りまして、このネスキウスという単語ですね。
ラテン語のネスキウス。これもやはりですね、物を知らない愚かなって意味なんですが、このラテン語のネスキウスを分解しますと、まずネですね。これ否定の接頭字です。
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スキウスというのが、S-C-I-U-S、スキウスとこれで読ませるんですけれども、これが知っているということなんですね。これをネで否定するわけなんです。知っていない、つまり物事を分かっていない、知っていないということなんですね。
このスキウスの元にあるのはラテン語のスキオー、S-C-I-Oと書く動詞で、これはノーの意味なんですね。これはサイエンスのサイの部分に相当します。サイエンスというのは知っていること、知識ということなんですね。
ということで、このラテン語のネスキウス、物を知らないという形容詞、これからフランス語の単語が生まれ、それが1300年ぐらいに英語に釈用されたということで、ラテン語のある意味原理、物を知らないというものは、1300年に英語に借りられた時点ではちゃんと生き残っていたということですね。愚かな物を知らないということです。
さあ、ここからスタートしたわけなんですが、どういうふうに意味が変わっていったかというのがこの後の問題ですよね。
1300年ぐらいに借りられてから、その後の14世紀、15世紀には、この元の意味ですね、原理である愚かなという意味が優勢だったんです。
ところがですね、15世紀ぐらいから新しい意味が出てくるんですね。
基本的に愚かなってマイナスイメージの単語なんで、ありとあらゆるマイナスの低評価を表すような意味がいくつか広がっていくんですね。
とりわけ女性の振る舞いのことをナイスと言ってですね、これ臆病なとか打ち気なというふうに、つまり物を知らない、世間知らずで臆病な、打ち気なというようなマイナスイメージとしては共通するですね。
語彙を発展させていきました。他に女性の振る舞いを評価してということなので、悪い行為といえば、乱らなというような表現ですね、意味が現れてくるということですね。
つまり愚かなとか、良くないという基本的な方向性は共有しつつ、何をもって良くないのかというところで、
いくつかの語義に、悪い方の意味ですね。いくつか出てくるということです。
16世紀にはですね、性格について言われるようになって、気難しい、やかましい、あることにも細かいことに本当にぐちょぐちょ、うるさいというような意味合いですね。
これが出てくるんですね。マイナスイメージの形容詞です。
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そうすると、細かいと言いますよね。ところがですね、ここで面白いのは、日本語でもそうなんですけど、細かいと言うと、細かすぎて、何でも神経質すぎるというようなマイナスイメージの見方もあれば、もちろん細やかで繊細だという風なプラスイメージにとることもできます。
つまり細かい人と言っても、プラスから見るのとマイナスから見るの、両方の見方があるわけですよね。
どうも、この日本語で言うところの細かいにかなり近い感覚でですね、この16世紀あたりからプラスの評価にグッとですね、全体が寄っていくんですね。
細かい、これプラスで言うと細やかなということですし、繊細な、精密な、正しいというような意味が出てきます。
この頃のですね、この細かいという語彙は今でもちゃんと残っていまして、例えばNice distinctionと言うとどういう意味かわかりますかね。
これは素敵な区別ではなくて、細かい区別、非常にきめ細やかな区別という意味で、細かいの意味がちゃんと残っています。
他にはNice point of lawと言いますね。法律の微妙な点、非常にこのキビに触れる微妙な点、非常に細かいということですね。
この辺の表現に残っているわけです。
その後ですね、18世紀ぐらいにはこの細かいから細やかなとか繊細なというふうに人の性格を指して、どちらかというと良い方向に取るプラス評価が確立するんですね。
そして気が細かいということで人に気を使うということは非常に良い素敵なというふうなプラス評価にどんどん変わってくるんですね。
ただ難しいのが、このマイナスからプラスに変わりつつある16世紀、17世紀あたりですね。
このあたりは結局両方の意味があるので、つまりマイナス評価とプラス評価、非常にこれ解釈が難しいんです。
文脈を精査してもですね、これどっちの意味なのってわからないことがあったりするんですね。
非常に多義的で場合によっては意味が反転してしまうと、その評価がマイナスプラスということでなかなか難しい形容詞だったと思うんですね。
ただその時期を過ぎて完全にプラスの方向に振り切ってですね、現在は基本的には良い、素敵なという意味合いで使われています。
ただですね、現代でも文脈によって、さらにはイントネーションによってですね、実はナイスと言ってもマイナスの評価、ある意味皮肉ですね。
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例えば、You're a nice guy っていう時に、本当に良い人ねって言ってるのか、意地悪されて返したその言葉だとすると、
これは文脈上、素敵な人ねと言いながら、とても意地悪な人ねと言ってるわけで、
これ、ご要論的には皮肉だったりして、なかなか難しい単語ですよね。
絶対的に良いというわけではないかもしれないということですね。
文脈によりけりっていうことですね。
さあ、このようにプラスに転じてきたっていうのが、このナイスなんですが、名詞ナイスティー、TYをつけたナイスティーも同じような変化をパラレルにたどっています。
もともとは愚かさっていうことだったんですが、現在は繊細さ優雅さということで、プラスの意味に転じています。
それではまた。