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Tale-JP 日本海溝から回収された文書
紙と鉛筆がありましたのでこれを書いています。先生にお手紙を出すためです。
勝手に使ってしまって、ここのお家の方には申し訳ありませんが、どうか許していただけますように。
私のお手紙を置いておけば、もしかしたら先生がここを通って、見つけて、お読みになって、
私がこうしていることにお気づきになるかもしれませんから、私は今まであったことを初めから全部書いておこうと思います。
大きな、お腹の底に響くような音が聞こえたのです。
お林がピタリと止んで、王子と犬ぞがざわざわと騒いでいました。
地面が震えて何度もその音が続きました。 お部屋が壊れそうなほどでした。
もしかして、米英が攻め入ってきたのかもしれないと、お役目を果たす時が来たのだと思って、私はずっとお迎えを待っていました。
でも先生も博士も軍人さんも誰もいらっしゃらなくて、
皆様はどうなさったのだろうととても心配になりました。
もしかしたら皆様はお国のために戦っておいでなのかもしれないと思いました。
だから勇気を出して自分でお外に出てみることにしたのです。 王子の言う通りに廊下を葉っぱでいっぱいにして出口に向かって進みました。
王子も犬ぞもみんな私の後ろについてきてくれました。
そうしたら簡単に出ることができました。
先生、私は帝国が危なくなる時なんて絶対来ないと信じていました。
あの音も何かの間違いだと思っていました。 私の勘違いだって、皆様がいらっしゃらなかったのも何にもなかったからなんだって。
でも違うのですね。 お外は地獄のようです。
建物は崩れて、壊れています。 右も左も綺麗な形のものはありません。
車はひっくり返っていますし、人の声は聞こえません。 地面はひび割れて、
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赤い血が水たまりのようになっています。 あちこちで火が燃えていて、焦げ臭い匂いがします。
それにそこら中に恐ろしいものがいるのです。 ふわふわとした白い虫が、倒れた人にたくさんひっついて服やらを食べていました。
道にも建物にもその虫が溢れていたので、 払いのけながら進みました。
顔のつぶれた大きな犬や猿や生地が うなりながら跳ね回っているのが見えたので、急いで反対に逃げました。
男の人の足が生えた、ぶよぶよした大きなお肉の塊が動いていました。 お人形の塊や、人がたくさんくっついたお肉もありました。
サイガ、博士に読んでもらった本の中で見たサイガ、 辺りのものをみんな壊しながら走っていました。
赤くて黒いマリが刺さった柱が、 細いおかしな紐を伸ばしながら跳ねていました。
地面いっぱいにボコボコとお地蔵様が生えてきて、何本もの道を塞いでいました。 ザリガニがたくさん、まるで赤い波のように水辺から這い上がるのを見ました。
崩れた建物の向こうには、たくさんの山がありました。 木や土ではなくて、みんな同じ顔の動かないおじいさまでした。
お空に届くほど、大きな青いトカゲが吠えていました。 一歩、トカゲが歩くたびに地面が揺れました。
ガチャガチャ、ガラガラ、 そんな音が鳴っていました。
先生、あれもみんな米英の仕業なのですか? お国をこんなにめちゃくちゃにするなんて、
私は米英が憎いです。 王子やケンゾと励まし合って、私は生きている人を探して歩きました。
一人でも多くの人をお守りしなければいけないと思ったからです。 でも、歩いても歩いても、
生きている人は見つかりませんでした。 そのうちにすっかりくたびれてしまって、私は崩れたお家に入って座って休みました。
窓から差した光が地面をギラギラ照らしていました。 すると、足音が聞こえました。
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私の方にだんだん近づいていました。 びっくりして扉の影から覗くと、
そこには軍人さんがいらっしゃいました。 私の知っている軍人さんとはずいぶん違う服をお召しになっていたけれど、
鉄かぶとをかぶって銃を担いでいらしたのでわかりました。 日本の軍人さんでした。
私はようやく生きている軍人さんにお会いできて、 安心して、本当に嬉しくて、涙が出そうなほどでした。
軍人さんと一緒にいればもう大丈夫だって、 もしかして先生のいらっしゃる場所もご存知かもしれないと思って、
私は軍人さんの方に飛び出して行きました。 大丈夫ですかって、皆様はご無事ですかって、
尋ねようとしました。 なのにあの人は私に銃をお向けになった。
気がついたら軍人さんは目や耳や鼻から 葉っぱをたくさんたくさん出して倒れていました。
どうやったのかはよく覚えていません。 なぜあの人は私に銃をお向けになったのでしょう。
お国のために戦っていらっしゃる軍人さんが どうして私を殺そうとしたのでしょう。
私にはわかりません。 あの人もきっと米英だったんだと思います。
だって私はいい子にしていました。 何もいけないことなんてしていません。
いえ、勝手にお外に出たのはいけないことかもしれません。 ですが私はただ、帝国のために皆様をお助けしたかっただけです。
とても寂しいです。
先生、それでも私は頑張ります。 私の力を必要となさっている方がいる限り頑張ります。
帝国のために一人でも多くの人をお守りし この国を脅かす米英に真罰を与えます。
先生が私に教えてくださったお役目を一生懸命果たします。 だからこれからたくさん歩こうと思います。
私は強い子ですから負けません。 王子と賢徒もいますから平気です。
行く先がどこになるかは分かりません。 町も村も歩きます。
海も山も森も全部全部歩くつもりです。
いろんな場所を探していればどこかで生き残っている人に出会えるかもしれません。 本当の日本の軍人さんが私の力を求めておられるかもしれません。
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それに早く先生にお会いしたいのです。 生きているみんなで集まって
力と知恵を合わせれば この国をまた美しい姿に戻せるはずです。
帝国は神様に守られていますからできないはずがありません。
先生 木戸先生
私は元気です。まだ大丈夫です。 私を見つけてください。
私も先生を見つけに参ります。 先生がどこにいらっしゃったとしても必ずおそばに参ります。
ですから先生、どうか私を どこかで私がお役目を果たしていることを
覚えていてください。
