1. 100円で買い取った怪談話
  2. #31 その家の男は
2021-08-29 18:15

#31 その家の男は

時には体験した当人すらも気付いていない、その怪異の持つ別の側面に思い至ることがあります。一見、無関係ないくつかの体験が実は繋がっていて、一つの大きな怪異を構成しているということはあるものです。 一人の人が体験する様々な怪異を俯瞰して見ると、そこに隠された意味を見い出すことが出来る、そんなことがあるのです。
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次に、怪談作家の宇都郎・しかたろうです。
この番組では、私が行っている怪談売買所で買い取った、世にも奇妙な体験をされた方のお話をお届けします。
今回はオンラインで買い取ったお話をお送りします。
私は、様々な方にお会いして、怪異な体験をお聞きしています。
そうすると、時には体験した当人すらも気づいていない、その怪異の持つ別の側面に思い至ることがあります。
一見無関係ないくつかの体験が、実は繋がっていて、一つの大きな怪異を形成しているということがあります。
一人の人が体験する様々な怪異を俯瞰してみると、そこに隠された意味を見出せる、そんな場合があるのです。
この話は、バツイチのSさんという女性と飲みに行った時に聞いた話です。
僕も怪談話が好きで、そういう怖い体験ないの?みたいなことを聞いてみたところ、
彼女は実は霊感があるということを言うんですね。
そうなんだ、どういう体験したことあるの?と聞いたら、
子供の頃から実は周りには見えないものが見えるというような経験があって、
ただ小さい頃にそういうことをお母さんとかに言うと怒られたらしいんですよ。
みんなバカなこと言っちゃダメだよとか、見えないものが誰もいないでしょっていう風な形で怒られて、
それがちょっとトラウマではないけど、こういうの言ったら怒られるんだと思って、
それから彼女は見えてるけど、そういうのを周りには言っちゃいけないと思ってずっと黙ってたらしいんですね。
で、中学になって、ちょっとグレるではないけど、ちょっと飛行に走るような形で、
結構学校をサボっては、自分の自部屋で寝てたようなことがあった。
夜更かしをして、もう夜遊びをずっと繰り返してて、学校をサボって自分の部屋で寝てたことがあったらしいんですね。
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そうしたら、背中に視線を感じると。で、それがおじいさんが自分のことをじーっと見てるっていうのが分かったっていうんですよ。
それが起きて振り向いてそれを見たのか、優待離脱をしてものを確認してるのか、または夢で見てるのか、それは定かではないけど、
学校サボって自分の部屋でそうやって寝てると、毎回おじいさんがちょっと悲しげな顔して自分の背中を見てるっていうビジョンがずっと浮かんでいるっていうことがあったらしいんですね。
ただまあそれも彼女にとっては日常茶飯事というかそういうような経験なんで、親とかには全然言わなかったらしいんです。
でも成人してしばらく経ってお正月か何かに親戚の集まりがあって、そこでこうなんかみんなでこう酒盛りしてどんちゃんやってた時に、
ふとなんかちょっとその時のことを思い出して、まあそれまではなんかそういうことは言わなかったんだけど、そういえばさ、
私中学の時、まあ学校サボって自分の部屋で寝てたら、なんかね知らないおじいさんがね、実は私のこと見てたことあったんだよねって、なんか言ってみたんです。
したら、まあ案の定そのお母さんとかに何かああいうこと言ってるのって、まあバカにされたんだけど、その時にお母さんに、そのおじいさんってどんなおじいさんだったのって特徴を聞かれて、
で、その時にどんなおじいさんだったっけなって思い出した時に、まあ唯一覚えてた特徴というのが、あのループ帯ですね。
あの昔の人がしているこう紐状の首から下げるブローチがついたループ帯をしてたっていう特徴を思い出して、
その彼女はループ帯っていう単語を知らなかったんで、あの紐みたいなやつを首から下げてる昔の人がしてるやつしてたんだって言ったら、
お母さんがなんか突然こうちょっと神妙な顔になって、ああ、それあんたのおじいちゃんだよって言うんです。
その時に初めて実は彼女はおじいちゃん、写真とかを実は見たことがなかったらしくて、なぜかっていうと、まあ彼女のおじいちゃん、お母さんのお父さんにあたる人は、
お母さんが小さい頃に亡くなってるんですね。で、もうお葬式とかもその彼女が生まれる前にはもうとうに終わってて、
まあそういうちょっと不良少女だったっていうのもあって、そういう法事とかにも特に参加したことがなかったので、実はおじいちゃんの顔すら彼女は知らなかったんです、その時まで。
で、その時初めてその実家でおじいちゃんの写真というのを出してきて見てみたんです。そしたらまさに彼女が中学時代に寝てる時に後ろで悲しそうに立っていた
おじいちゃんの顔だったって言うんですよ。で、「ああ、おじいちゃんだったんだ。」っていうふうにそこで初めてわかったんだけど、その時に母親に
おじいちゃんって言ったら、なんで死んだの?って聞いてみたんです。そしたら、ああ、それがね。で、そのお母さんのお父さん、おじいちゃんは、お母さんが小さい頃に、
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事故で亡くなってるんですけど、その事故にあった日がとにかく不思議だったって言うんです。それが朝起きてきて、おじいちゃんというのはパンツを4回履きかえたって言うんですよ。
なぜか知らないけど、なんか気がついたらずっとパンツ履きかえてるから、お父さん何やってるの?って聞いたんです。そしたら、いや、なんか気持ち悪いんだって言うんです。
で、なんか気持ち悪いんだって言って、結局その4回パンツ履きかえて、それでもなんかちょっと不思議な顔しながら出勤したら、そのままダンプカーか何かに跳ねられてお亡くなりになったっていうことがあったんですって。
で、Sさんもそれを初めて聞いたんで、ああ、そんなことがあったんだっていうふうに。その時に親戚の集まりもあったので、なんか似たような経験をまた親戚の方からそこで聞いて、それが
おじさん、彼女のそのおじさんにあたる人も実は結構早くに亡くなっているらしくて、それも事故だったらしいんですけど、そのおじさんは亡くなる前の晩に自分の奥さんをちょっと話があるんだって座らせて、突然僕が死んだ後さっていう話で、自分が死んだ後の話をずっとするんですって。
それは、例えば保険のことであるとか遺産のことであるとか、なんかそういう事務的な話を突然して、で、次の日の会社に行った時にその方も事故で亡くなったっていうふうに、結構不思議な体験をされている方がいらっしゃるっていうのがあって。
で、そこまで僕も話を聞いて、彼女のそういう霊感っていうのはじゃあどこから来るものなのかなと思って、なんかお母さんもじゃあそういう霊感みたいなのはあるのって聞いたら、いやお母さんは全然そんなのはないっていうんですって。
で、じゃあお父さんはどうかなったら、お父さんはよくわからないって言うんです。彼女はお父さんとあまり喋ったことがないって言うんですね。お父さんとコミュニケーションを取った記憶がないと言ってて、お父さんはどんな人だったのって聞くと、まあとにかく喋らない人だったし、あと病院がすごく嫌いだったって言うんです。
で、病院が嫌いってどういうことって聞いたら、お父さんっていうのは病院に行くと具合が悪くなるって言うんですって。お父さんの親友の方が結構重い病気を患って、まあ割とこう危険な状態だったっていうことがあったらしいんですけど、その時ですらお見舞いにも行かなかったらしいんですね。
それぐらい病院っていうものをすごく嫌いしてたっていうことがあって。で、お父さんは実はまあ、やっぱり早くに亡くなってるんですけど、そのお父さんが亡くなったのが、まあ脳腫瘍か何かでお亡くなりになってるんですが、亡くなる1週間前ぐらいに玄関に黒いものがうろうろしてるってずっと言ってたって言うんですね。
で、まあ見に行くと別に何もないんですよ。で、何言ってるのお父さんって言うんだけど、いやなんか黒いものがうろうろしてるんだって言って。で、結局お父さんはやっぱり病院が嫌いなんで、その脳腫瘍だっていうことを直前まで、まあ結局診断も受けずに来てて、結局まあ頭が痛いという風になって病院行ったらもうすぐに入院、即手術、でも結局持たずに亡くなったっていう経緯だったらしくて。
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あ、じゃあもしかすると、その病院が嫌いっていうのも割とそういうものがお父さんにはちょっと感じられるところがあったのかなと思って。もしかするとお父さんのなんかそういう遺伝ではないけどそういうことがあるのかなと思いながら話を聞いてて、で、僕はふとそこで気がついたんですよ。そういえば彼女って、その彼女の家族っていうのは男性すごく早く死ぬなっていう、まあ言い方は悪いんですけど、おじさんもそう、おじいちゃんもそう、で、お父さんもそう。
割と若くに亡くなるなと思って、まあ何の気なしにその彼女に、そういえばあれだよね、なんかまあ男性結構早死にする家系なんだねみたいな、ちょっと言い方は悪いかもしれないけどちょっとそんな話をしたんです。そしたら彼女突然、なんかすごく怒ったようななんかすごく複雑な表情でなんでそんなこと言うのって言うんですよ。
で、まあなんか聞いて、なんかその話を聞いてたら、そういうふうに、なんかエピソードがそういう感じが多いから、そういうのあるのかなって思っただけで、なんでそんなこと言うの、なんでそんなこと言うのってずっと言うから、なんでって聞いたら、実はその彼女の旦那さんも38でガンで亡くなってたんです。
現在でも使われる一家の大国柱という言葉、これは外で働いて家族全員が生活していくためのお金を稼ぎ、家の中では家族の者たちを統率し導いていくリーダー、その位置にある父のことを指します。
古代より明治時代まで続いてきた家父調整という制度の上に成り立つ言葉であると言えるでしょう。家父調整自体は現代の日本の法律からは廃止されましたが、その名残は今でも色濃く残っています。
例えば、結婚した男女の性はそのほとんどが夫のものになる点や、家族や長子相続が社会通年として目に見えないところで生きている点などがその勝差です。
昔から社会の構造は家父調整の上に成り立っており、その構造を現代の日本社会が引きずっている以上、家父調整からの脱却はありえないのかもしれません。
家父調整という観点から見た場合、家族の中の幼たる父が若くして亡くなると大変です。家族という単位を維持していくことができなくなるばかりか、家自体の存続までもが危ぶまれるのです。
ここで言う家とは住居のことではありません。家とはその家族が持つ名字です。徳川家とか豊臣家といった家系、一族の名のことを言います。
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家は家長たる男がいて初めて成り立ちます。家族を継ぐのは男であり、男がいないとその家を次の世代に継承していくことができなくなるのです。それが日本という国が育んだ家の在り方でした。
さて、古代からある概念にたたりというものがあります。たたりとは、怒れる神物や怨霊が怒りの対象に対して災いを引き起こすことです。たたりを受けるのは個人の場合もありますが、家がその対象となることも多いようです。
家がたたりを受けると、最終的にはその家の名字を持つ人がいなくなります。家系が絶えた状態です。家系が絶えた状態にする最も手っ取り早く確実な方法は、その家の男を根絶やしにすること。
家長である父を殺し、家徳を継ぐ長男を殺し、次男、三男、四男を殺し、すべての男を殺し尽くしてしまえば、あとは放っておいても家系は絶えます。もちろん、よそから養子がもらわれてきたら、それも殺してしまう必要があります。
ここで興味深いのは、たたりの対象が家の場合、その家の人と同じ血を引く者が生きていたとしても、その人の名字が違っていれば、通常その人はたたりの対象から外れます。名字が違うということは、その人は家族ではありません。別の家の家族なのです。
血よりも家の方が重要という考え方が根底にある。これも社会が過不調性の上に成り立っているからこそだと思います。ところで、現代でもそのようなたたりを受けている人というのは実際にいます。例えば、先祖に刀鍛冶がいる人は、たたられると言われることがあります。
刀鍛冶が作るのは刀などの武器であり、それは人を殺める道具です。先祖が作った強靭に倒れた人々の無念の思いがたたりとなって、子孫の身に降りかかるというのです。
実際、私も先祖に刀鍛冶を持つ男性から話を聞いたことがあります。その方の家系では、男はやはり早死にするのだそうです。また、説話や伝承などで理不尽な殺され方をした人物が、今はの際に7台先までたたってやると言い残す場面がありますが、そのたたりの矛先が真っ先に向くのも、やはりその家の男性です。
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父や息子、そして同じ名字を持つ親類演者など家徳を継ぐことができる男性が標的になります。私がこれまで取材した中でも、そのような家系の出の方は何人かいました。中でも特に印象に残っているのが、Mさんという女性です。
私が彼女と知り合った時、彼女が持つMという性は、まさに太陽としていました。彼女の家の場合、私が知り合った時には、M家の男は一人を残してすでに死に絶えていました。
みな不審な亡くなり方であり、しかも亡くなった年齢はすべて同じ、残った一人にもその年齢が近づいていました。そして、その家の女性たちも一人、また一人と不審な死に方をしているとのことでした。
ところが、よその家にとついで苗字が変わった者には、そのようなことは起きていないのです。Mさんにはお姉さんがいるのですが、二人とも結婚の予定はなく、この先どうなるのか不安だとおっしゃっていました。
なぜ彼女の家計にそのようなことが起きているのかは、Mさん自身詳しくは聞かされていないそうです。ただ一度だけ、おばさんがこんなことを言っていたのを聞いたことがあるんだそうです。
M家一族老党を根絶やしにしてやる、と恨みの言葉を吐いて死んだ人がいた。その人はMさんから見て非おじいさんにあたる人に酷い目にあわされ自殺した。ちょうど法事で親戚一同が集まったときにそんな話をしていたんだそうです。
現在Mさんとは連絡がつきません。彼女と最後に連絡を取ったのは今から約10年前。一人残っていたおじいさんが亡くなったことを知らせるために電話してきてくれたのでした。彼女が今どうしているのか、元気にしているのか、大変気になります。
たたられた家系の出の人というのは案外多くおられるのかもしれません。人は自らがたたられているという自覚を持った瞬間からおののきながら暮らすことになります。すべての日本人がこの球体依然とした概念から解き放たれたとき、彼らを悩ますたたりは消えてなくなるのでしょうか。
もしも消えてなくなったとしたら、たたっている側の無念はどこに行くのでしょうか。
この番組では、Kさんのようにあなたが体験した怪談をオンラインで買取りしています。詳細は概要欄のリンクよりお待ちしています。それではまた次回お会いしましょう。
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