大分県の水産会社が、完全養殖ウナギを販売する
めでたいニュースがあった。
大分県の水産会社が、ウナギの完全養殖に成功し、一般向けに1匹5000円で販売するという。
https://news.web.nhk/newsweb/na/na-k10015125271000
研究開発が始まってから60年以上。
完全養殖の成功自体は2010年に発表されたが、それからさらに16年かけてようやく店頭に並ぶところまで来た。
関わってきた研究者たちの執念に頭が下がる。
---
現在の養殖ウナギは、天然の稚魚から始まっている
まず前提として知ってほしいことがある。
現在スーパーや専門店で食べられている「養殖ウナギ」は、天然の稚魚から始まっている。
シラスウナギと呼ばれる稚魚を、川や河口で捕まえて、養殖池に入れるところからスタートする。
養殖とはいっても、稚魚を自前で生み出すことはできていない。
天然に依存している。
シラスウナギは半透明で、太さは爪楊枝ほどだ。
マリアナ諸島近海で生まれ、黒潮に乗って日本の沿岸にたどり着く。
かつては年間200トン以上の漁獲があったが、2024年時点では7.1トン程度にまで落ち込んでいる。
95%以上の減少だ。
需要が増えても天然の稚魚は減り続けているから、価格は跳ね上がる。
かつて1キロ100万円を超えることもあったシラスウナギは、今では1キロ300万円前後まで高騰している。
「白いダイヤ」と呼ばれるゆえんだ。
---
香港に、シラスウナギが取れる川はない
希少で高値がつくものには、必ず闇がある。
シラスウナギも例外ではない。
鈴木智彦氏の著書『サカナとヤクザ』(小学館)は、この問題を丁寧に取材した一冊だ。
ウナギの流通に暴力団が深く関わっている実態が書かれている。
https://amzn.to/4e03uOf
大まかな構造はこうだ。
密漁や無報告で捕られたシラスウナギを、中間業者が買い取って合法的な流通に乗せる。
マネーロンダリングと同じ発想だ。
国内の養殖池に入るシラスウナギのうち、多ければ7割程度が密輸や無報告の漁獲によるものだという指摘がある。
高知県では、県に報告されている漁獲量の5倍は実際に取っているという証言もある。
もうひとつ、台湾と香港をめぐる話がある。
台湾は2007年にシラスウナギの輸出を禁止した。
ところが禁輸前に台湾から日本に入っていた量とほぼ同数が、禁輸後は香港から入ってくるようになった。
香港にシラスウナギを捕れる川はない。
漁師もいない。
それでも大量のシラスウナギが香港から日本に入ってくる。
台湾から香港を経由して産地をロンダリングしているのではないかというのが、業界最大のタブーとして『サカナとヤクザ』の中でも指摘されている。
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それでも完全養殖は、有効な「迂回路」だ
では完全養殖が普及すれば、これらの問題はすべて解決するか。
おそらく、そうはならない。
アワビやナマコなど他の水産資源でも同様のことが起きているが、養殖品が市場に出回っても、天然物というブランドは消えない。
むしろ稀少性が高まれば単価は上がり、密漁の旨味もそのまま残る。
完全養殖が普及したとしても、密漁と暴力団によるロンダリングは縮小はするだろうが、根絶はしないだろう。
ただ、「縮小する」だけでも、意味は大きい。
食文化というのは本質的に保守的なものだ。
ウナギには土用の丑の日の記憶があり、特別な日のご馳走としての情動的な蓄積がある。
絶滅危惧種だから食べるなというのは正論だが、それで食文化が変わるほど人間は合理的ではなかった。
現実がそれを証明している。
そうであれば、食べたいという本能に折り合いをつけながら問題を迂回する経路として、完全養殖は非常に有効だ。
倫理で人を変えるのではなく、仕組みで問題を小さくする。これが現実的な解だと思う。
---
コストはあと半分まで来ている
完全養殖の課題はコストだ。
かつてシラス1匹あたり4万円かかっていたコストが、現在は1800円まで下がってきている。
目標は800円だという。
あと半分まで来ている。
投資が続いているのは、需要があるからだ。
みんながいまだに食べ続けているからこそ「完全養殖が実現したら必ず売れる」という確信が生まれ、お金が集まる。
逆に言えば、絶滅危惧種だからと誰も食べなくなっていたら、このような研究に投資する人はいなかった。
食べ続けてきたことが、解決策への投資を引き寄せたとも言える。
1匹5,000円が1,500円になれば、多くの人が「天然にこだわらなくていい」と感じ始める。
品質の安定性という点でも、養殖の方が扱いやすい。
天然物はばらつきが大きく、対応には高い調理技術が必要になる。
ジビエと畜産の違いに近い。
ほとんどのウナギが完全養殖になり、品質が安定し、食文化が守られる。
そういう未来はそう遠くないと思っている。
60年かけてここまで来た研究者たちを、本当にすごいと思う。
---
本能に配慮した問題解決が、一番強い
この話を通じて改めて思うのは、本能に寄り添った問題解決の重要性だ。
「絶滅危惧種だから食べるな」は正論だ。
ただ、食欲という本能は正論で折り合えなかった。
食文化はそれほど簡単には変わらない。
であれば、その本能を否定するのではなく、本能が向かう先に正当な選択肢を用意することの方が、はるかに現実的な問題解決になる。
完全養殖は、まさにそのアプローチだ。食べたいという気持ちを悪者にしない。
食文化を壊さない。
それでいて、天然のウナギへの負荷を減らしていく。
ウナギをめぐる流通の闇がすぐに消えることはないだろうが、少なくとも今よりはマシになっていく。
そのための一手として、完全養殖の実用化は本当に意味がある一歩だ。
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めでたいニュースがあった。
大分県の水産会社が、ウナギの完全養殖に成功し、一般向けに1匹5000円で販売するという。
https://news.web.nhk/newsweb/na/na-k10015125271000
研究開発が始まってから60年以上。
完全養殖の成功自体は2010年に発表されたが、それからさらに16年かけてようやく店頭に並ぶところまで来た。
関わってきた研究者たちの執念に頭が下がる。
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現在の養殖ウナギは、天然の稚魚から始まっている
まず前提として知ってほしいことがある。
現在スーパーや専門店で食べられている「養殖ウナギ」は、天然の稚魚から始まっている。
シラスウナギと呼ばれる稚魚を、川や河口で捕まえて、養殖池に入れるところからスタートする。
養殖とはいっても、稚魚を自前で生み出すことはできていない。
天然に依存している。
シラスウナギは半透明で、太さは爪楊枝ほどだ。
マリアナ諸島近海で生まれ、黒潮に乗って日本の沿岸にたどり着く。
かつては年間200トン以上の漁獲があったが、2024年時点では7.1トン程度にまで落ち込んでいる。
95%以上の減少だ。
需要が増えても天然の稚魚は減り続けているから、価格は跳ね上がる。
かつて1キロ100万円を超えることもあったシラスウナギは、今では1キロ300万円前後まで高騰している。
「白いダイヤ」と呼ばれるゆえんだ。
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香港に、シラスウナギが取れる川はない
希少で高値がつくものには、必ず闇がある。
シラスウナギも例外ではない。
鈴木智彦氏の著書『サカナとヤクザ』(小学館)は、この問題を丁寧に取材した一冊だ。
ウナギの流通に暴力団が深く関わっている実態が書かれている。
https://amzn.to/4e03uOf
大まかな構造はこうだ。
密漁や無報告で捕られたシラスウナギを、中間業者が買い取って合法的な流通に乗せる。
マネーロンダリングと同じ発想だ。
国内の養殖池に入るシラスウナギのうち、多ければ7割程度が密輸や無報告の漁獲によるものだという指摘がある。
高知県では、県に報告されている漁獲量の5倍は実際に取っているという証言もある。
もうひとつ、台湾と香港をめぐる話がある。
台湾は2007年にシラスウナギの輸出を禁止した。
ところが禁輸前に台湾から日本に入っていた量とほぼ同数が、禁輸後は香港から入ってくるようになった。
香港にシラスウナギを捕れる川はない。
漁師もいない。
それでも大量のシラスウナギが香港から日本に入ってくる。
台湾から香港を経由して産地をロンダリングしているのではないかというのが、業界最大のタブーとして『サカナとヤクザ』の中でも指摘されている。
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それでも完全養殖は、有効な「迂回路」だ
では完全養殖が普及すれば、これらの問題はすべて解決するか。
おそらく、そうはならない。
アワビやナマコなど他の水産資源でも同様のことが起きているが、養殖品が市場に出回っても、天然物というブランドは消えない。
むしろ稀少性が高まれば単価は上がり、密漁の旨味もそのまま残る。
完全養殖が普及したとしても、密漁と暴力団によるロンダリングは縮小はするだろうが、根絶はしないだろう。
ただ、「縮小する」だけでも、意味は大きい。
食文化というのは本質的に保守的なものだ。
ウナギには土用の丑の日の記憶があり、特別な日のご馳走としての情動的な蓄積がある。
絶滅危惧種だから食べるなというのは正論だが、それで食文化が変わるほど人間は合理的ではなかった。
現実がそれを証明している。
そうであれば、食べたいという本能に折り合いをつけながら問題を迂回する経路として、完全養殖は非常に有効だ。
倫理で人を変えるのではなく、仕組みで問題を小さくする。これが現実的な解だと思う。
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コストはあと半分まで来ている
完全養殖の課題はコストだ。
かつてシラス1匹あたり4万円かかっていたコストが、現在は1800円まで下がってきている。
目標は800円だという。
あと半分まで来ている。
投資が続いているのは、需要があるからだ。
みんながいまだに食べ続けているからこそ「完全養殖が実現したら必ず売れる」という確信が生まれ、お金が集まる。
逆に言えば、絶滅危惧種だからと誰も食べなくなっていたら、このような研究に投資する人はいなかった。
食べ続けてきたことが、解決策への投資を引き寄せたとも言える。
1匹5,000円が1,500円になれば、多くの人が「天然にこだわらなくていい」と感じ始める。
品質の安定性という点でも、養殖の方が扱いやすい。
天然物はばらつきが大きく、対応には高い調理技術が必要になる。
ジビエと畜産の違いに近い。
ほとんどのウナギが完全養殖になり、品質が安定し、食文化が守られる。
そういう未来はそう遠くないと思っている。
60年かけてここまで来た研究者たちを、本当にすごいと思う。
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本能に配慮した問題解決が、一番強い
この話を通じて改めて思うのは、本能に寄り添った問題解決の重要性だ。
「絶滅危惧種だから食べるな」は正論だ。
ただ、食欲という本能は正論で折り合えなかった。
食文化はそれほど簡単には変わらない。
であれば、その本能を否定するのではなく、本能が向かう先に正当な選択肢を用意することの方が、はるかに現実的な問題解決になる。
完全養殖は、まさにそのアプローチだ。食べたいという気持ちを悪者にしない。
食文化を壊さない。
それでいて、天然のウナギへの負荷を減らしていく。
ウナギをめぐる流通の闇がすぐに消えることはないだろうが、少なくとも今よりはマシになっていく。
そのための一手として、完全養殖の実用化は本当に意味がある一歩だ。
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