エトワールの背景
この名画について、あなたからお預かりした資料をもとに、一緒に深く見ていきたいと思います。
はい、よろしくお願いします。
19世紀のパリ、オペラ座画舞台。華やかですけど、なんか複雑な世界を切り取った一枚ですよね。
ええ、オルセイ美術館にありますね。ドガのマー代表作の一つです。印象派の時代ですけど、彼の視点はちょっと独特で。
独特ですか?
ええ、単に美しいだけじゃなくて、その舞台の光と影、あとそこにいる人間のドラマみたいなもの、それをどう捉えたか、資料からもドガの探求心みたいなものが伝わってきますよね。
なるほど。じゃあまず、絵の中央から、スポットライトを浴びているバレリーナ。
はい。
資料で確認しましたけど、衣装は薄いジュールのいわゆるチュチュ。
ええ、チュチュですね。
これを身につけて片足で立って、優雅なポーズです。
そうですね。
表情は、なんていうか、自信がありつつもどこか儚い感じ。視線は少し下向きですね。観客を意識しているんでしょうか?
うーん、そうかもね。
で、背景を見ていくと、暗い舞台袖と、あと、どん頂裏ですかね?重厚な幕の一部。
ああ、どん頂。
それと、小さく描かれている黒服の男性。これが資料によると、舞台関係者か、あるいはパトロン。
パトロン。
はい。
で、この男性は、パトロンを見ると、これを見ると、何かが光っている。
それと小さく描かれている黒服の男性、これが資料によると舞台関係者か、あるいはパトロン
パトロン、つまり当時の裕福な支援者
そういう可能性もあると、この対比が主役の輝きを一層遮立てているわけです
その黒服の男性の存在、単なる背景じゃない感じがしますね、当時のオペラ座の裏側というか
まさに、資料からも当時の社会状況が伺えますけど、パトロンがダンサーの立場に影響を与えることもあった、と
なるほど、華やかな舞台の裏にはそういう現実もあったんですね
経済的な現実とか、人間関係とか、そういうものがこの対比に凝縮されている
ドガの観察眼は鋭いですよね
色彩と動きの表現
本当ですね、次に色彩ですけど、これはパステルを使っているんですね
そうなんです、だから全体に柔らかい印象になりますよね
バレリーナの白い衣装も、ただの白じゃなくて、光を受けて青白く光っている
肌の色も温かみがあります
パステル特有の粉っぽい質感というか、重ね塗りによってこの柔らかい光と影の表現が生まれています
背景の暗さと対照的ですね
そうなんです、背景は黒とか深緑で暗く描いて、そこに舞台照明を表す黄色やオレンジの光が、彼女を照らし出している
まさにエトワール、星のように
ええ、文字通りです、光で主題を劇的に浮かび上がらせる、これはもうドガの得意とした技ですね
そして動き、この絵止まっているはずなのに、すごく動きを感じます
感じますよね
資料にもありましたけど、ドガは動きの一瞬を捉えるためにたくさんのスケッチを残したとか
ええ、チュチュのふわりとした広がりとか、足の軽やかな感じ、ポーズが決まるその直前の一瞬という感じがします
まさに動き出しそうなその瞬間
ドガは印象派の画家たちとも交流はありましたけど、彼らが光とか空気の印象そのものを重視したのに対して
ドガは人体の形、フォルムとか線をより大事にしたんですね
ああ、なるほど、デッサン力
そうです、たくさんの素描に基づいたその正確なデッサン力と観察眼がこの一瞬の躍動感を生んでいる
静止画なのに、なんか次の動きが見えるような
描かれたのは、えっと、1876年頃でしたっけ
ええ、そのくらいですね、当時のパリオペラ座が、まあ社交の中心で
バレーは上流階級の大事な娯楽だった
その通りです、で、ドガの視線というのは、ただ華やかな舞台だけじゃなくて、その裏側、ダンサーたちの厳しい訓練とか、本番前の緊張感、時には孤独感みたいなものにも向けられていました
舞台裏の絵も確かに多いですよね
ええ、資料にもあるように、練習風景とか、出番を待つ姿とか、だからこのエトアールも、輝かしい成功の瞬間を描きつつ、そこに至るまでの見えない努力とか、当時の社会の仕組みみたいなものも含んでいる
うーん、深いですね、単に綺麗なバレリーナの絵というだけではない
そうなんです、時代の証言とも言えるかもしれません
なるほど、一瞬の動きの描写、光と影の効果、そして華やかさの裏にある現実への視点、いろいろなものが詰まっているんですね
これらが合わさって、結局この絵は何を伝えようとしているんでしょうか
やはり、ドガのそのたるい稀な観察眼を通して、芸術の美しさだけじゃなく、人生の厳しさとか、光と影が交錯するその一瞬を捉えた、時代を超える深めを持つ作品だということじゃないでしょうか
見た目の華やかさの奥に多層的な意味があると
いやー、見れば見るほど感慨させられますね
最後にですね、あなたに一つちょっと想像を巡らせてみていただきたいことがあるんです
資料にもあったように、ドガは練習風景とか、出番を待つダンサーもたくさん描いていますよね
ええ、描いてますね
もし、この絵のエトアールがスポットライトを浴びるその前、そして喝采を浴びた後の姿、それをちょっと想像してみると、この一枚の絵の見え方がまた少し変わってくるんじゃないかなと思うんです