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さて、今回は、05 ピカソのベルニカですね。反戦と抵抗のシンボルとしてあまりにも有名な、あなたが共有してくださった資料をもとに、この20世紀を代表する壁画について、今日は深く掘り下げていきたいと思います。
はい。
まずは、この絵が描かれた背景、ここからいきましょうか。
そうですね。制作されたのは1937年。スペイン内戦のまさに真っ只中です。
内戦ですか。第二次大戦とはまた違うタイミングなんですね。
そうなんです。よく第二次大戦と結びつけられますけど、実はその前で。直接のきっかけになったのは、スペインのゲルニカという町がですね、ドイツ空軍によって無差別爆撃を受けたゲルニカ爆撃。
ああ、ゲルニカ爆撃。
はい。これが資料にもありましたけど、歴史上その民間人だけを狙った初めての組織的な空爆だったと言われていますね。
なるほど。それはピカソにとって相当な衝撃だったでしょうね。
ええ、間違いなく。
しかも、送っていただいた資料にもありましたけど、驚くのは製作期間。横幅が7.7メートル以上、高さも3.5メートル近いという、とてつもなく巨大な壁画を。
そうなんです。
わずか1ヶ月ほどで。
そうなんですよ。
完成させたと。終作も45枚描かれたとか、いかにピカソが集中して力を注いだかがわかりますよね。
ええ、まさに。
ではこの強烈な作品、具体的に何が描かれているのか、資料を参考にしながら詳しく見ていきたいと思います。
はい。まず一番に目につくのは、全体がモノクローム。つまり白と黒、それとその間のグレーだけで描かれている点ですよね。
ああ、確かに色がない。これはどういう意図があるんでしょうか。
これは非常に重要で、このモノクロームはですね、当時の報道写真とか新聞記事を強く連想させる効果があるんです。
ああ、なるほど。ドキュメンタリーのような。
そうですね。色彩を使わないことで感情的な表現をあえて抑えて、むしろ戦争の冷徹さとか非人間性みたいなものを際立たせている。光と影のコントラストもすごく劇的で。
うーん。
それが画面全体の絶望感とか混乱を強調していますね。
色がないからこそ、より強く伝わってくる現実感のようなものがあると。
ええ、そう言えると思います。
では、描かれている要素についてですが、まず中央には苦しんでいる馬がいますよね。
はい、いますね。
それから左の方には亡くなった子供を抱いて嘆き叫ぶ母親。右には炎の中で叫んでいるような人物も。
それぞれが非常に象徴的な意味合いを持っていると考えられています。
例えば、中央の高い位置にあるランプとか、肌電球のような光。
ありますね。
あれは目撃者とか真実の刑事、あるいは監視の目、なんていうふうにも解釈されますね。
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なるほど。馬はやはり苦しむ民衆の象徴でしょうか。
一般的にはそうですね。民衆の苦痛、そして嘆く母親は犠牲になった人々、あるいは失われた母性、そういったものを象徴していると。
うーん。で、左端にいるあの牛、これはどうなんでしょう?
資料を拝見しても解釈が結構分かれているみたいですが。
ああそうなんです。牛は特に解釈が多様で、ある資料では残虐性とか、当時のフランコ体制の象徴じゃないかと。
ふもふも。
でもまた別の資料では、いやこれは冷静に見守る存在だとか、あるいはスペイン国民の抵抗力そのものだとか、いろいろな見方があるんですよね。
なるほど。
あと、地面に倒れている兵士の手には折れた剣と、そこから小さな芽のようなものが。
ええ、それも重情ですね。折れた剣はまあ、敗北とか破壊を表すんでしょうけど、そこから伸びる小さな芽は、破壊の中にも残る微かな希望とか再生の象徴かもしれないと。
一つの画面の中に、ものすごい密度下、苦痛や悲しみ、そしてほんの微かな希望までが凝縮されているんですね。
まさにピカソ独特な和のキュビズム。複数の視点から見た形を一枚の絵に収めるあのスタイルが、この爆撃による破壊と混乱を視覚的にものすごく効果的に表現しています。
ああ、なるほど。あのバラバラになったような感じが。
ええ、それに加えて人骨像の歪みなんかは感情を激しく表す表現主義の影響も見て取れますね。
ピカソ自身はこれらの解釈について多くは語らなかったんですよね。
そうなんです。彼は見る人それぞれの解釈に委ねるというスタンスでした。
観客が絵の中に持ち込む意味こそが重要だ、みたいなことも言っています。
深いですね。
ただ忘れてはいけないのは、この作品がですね、1937年のパリ万博、そのスペイン館に展示するために、当時のスペイン共和国政府から正式に依頼されて描かれたということです。
そうか、依頼があったんですね。
ええ、ですからその背景を考えると、やはり戦争の不条理さとか、非人間性に対する強い告発、そして平和への寄与、そういうメッセージが根底にあることは、これは間違いないと思いますね。
なるほどな。だから単なる絵画というより、時代を越えて戦争とか暴力に対する普遍的な抗議のシンボルとして、今も強いメッセージを発し続けているわけですね。
まさにその通りです。
マドリードのソフィア王妃芸術センターにある実物は、その大きさもあって見る人を圧倒すると聞きます。
ええ、実物の迫力はやはり格別だと聞きますね。タペストリーの複製でしたら、日本の群馬県立近代物図館とか、あとニューヨークの国連本部にもありますね。
そうなんですね。
ええ、陶器の板、陶板による複製も東京で見ることができますよ。
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ピカソは多くを語らなかった。そしてあなたが集めてくださった資料の中でも、特にあの牛の解釈には幅がありました。力強さの象徴なのか、それとも加害者の象徴なのか。
こうした議論を呼ぶモチーフも含めて、この作品全体を前にしたとき、あなた自身はどんな意味をそこに見出すでしょうか。
資料に答えがあるわけではないんですが、この色を配した表現だからこそ、逆にどんな色、どんな感情が見えてくるのか、少し考えてみるのもゲルニカとのまた新しい向き合い方になるかもしれませんね。