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2025-09-16 16:48

56 エル・グレコ「オルガス伯の埋葬」

56 エル・グレコ傑作「オルガス伯の埋葬」が語る16世紀スペインの信仰と奇跡:天と地を結ぶ色彩と物語

サマリー

エル・グレコの名画「オルガス伯の埋葬」では、地上と天上の世界が対比され、信仰や奇跡の重要性が語られています。この作品を通じて、16世紀のスペインにおける宗教的、文化的背景が浮き彫りになり、色彩や構図によって深いメッセージが伝えられています。「オルガス伯の埋葬」は、オルガス伯の信仰や功績を称え、教会への寄付の重要性を示す絵画です。奇跡の瞬間を描くことで、信仰の力や救済の希望を強調し、当時の宗教的情熱や画家の独自のスタイルが表現されています。

作品の概要と背景
さて今回はですね、エル・グレコの非常に有名な傑作
オルガス伯の埋葬、この世界をあなたからお預かりした資料と一緒に深く見ていこうと思います。
この1枚の絵画に、まあいろんなものが込められているわけですけど、
後世の妙とか、色彩の力とか、あとは16世紀スペインの雰囲気ですね。
そういうのを感じ取って、その意味を探っていくというのが今回の試みです。
画面がパッと見で、天国と地上に分かれているじゃないですか。
そうですね、はっきりと。
でもなんか、ただ2つに分けただけじゃない、もっと深い物語がありそうだなと、そんな感じしませんか?
うーん。
葬儀っていうまあ頑丈な場面なんですけど、そこに奇跡とか信仰とか、
あと画家のなんていうか個人的なサインみたいなものまで入っているかもしれないと、そのあたりを探っていきましょう。
エル・グレコっていう画家自体が、まあかなり個性的というか独特なスタイルを持っていますけど、
それだけじゃなくて、やっぱりこの作品が生まれた16世紀後半のスペイン、特にトレドですよね。
あー、トレド。
その文化的な背景というのはすごく重要だと思います。
ちょうどカトリック改革の熱気が高まっていた時代で、
なるほど。
宗教芸術っていうのが非常にまあ大きな役割を持っていた。
そういう時代の空気感、信仰が生活の中心にあった感じ、
それを想像するのがこの絵を理解する上で大事なことかなと思いますね。
絵の構成と意味
ではまず、基本的な情報から確認しましょうか。
これはスペインルネサンス期を代表する画家、本名はドメニコス・テオトコプロース、通称エル・グレコ。
そうですね、ギリシャ人という意味ですね。
彼が1586年からまあ88年にかけて描いた油彩画、彼の最高傑作だと広く言われているものですよね。
ええ、間違いなく代表作の一つです。
しかもこの絵は今もその描かれた場所であるスペインのトレド、サント・トメ教会にあるんですよね。
そうなんです。そこがまたすごいところで。
つまり作品が生まれたまさにその場所で物語と一緒にずっとあり続けているっていう。
ええ、だから実際に教会に行くと絵だけじゃなくて、その置かれている空間全体がもう作品の一部みたいに感じられるんですよ。
へえ。
これは美術館で見るのとはまた違うすごく重要なポイントだと思いますね。
特定の場所と結びついた祈りのための芸術というか。
なるほど。ではその画面、絵の構成をじっくり見ていきましょうか。
まずパッと見て一番印象的なのは画面が水平線でスパッと上下に分かれている。
ええ、明確に。
地上階と天上階ですね。
このかなり大胆な構図っていうのはエルグレコの他の作品にも見られますけど、この絵は特にそれがはっきりしてますよね。
そうですね、際立ってます。
で、まず下半分、地上階。
その中心には豪華な鎧を着たまま横たわっているオルガス博のナグザライ。
はい。
そして彼を両側から支えてまさに埋葬しようとしている二人の聖人。
これが聖ステファノと聖アウグスティヌス。
ええ。
その周りには当時のトレドの貴族とか聖職者なんでしょうか。
黒い服を着た男性たちがずらーっと並んでいる。
すごくガンガな雰囲気です。
一方で上半分、天上階に目を移すと、今度は雲の上にパーッと空間が広がっている。
ええ、全く違う世界ですね。
中心より少し上にイエス・キリストがいて、その下に向かって左に聖母マリア、右に先霊者ヨハネ。
この3人の配置はデイシスと呼ばれる形に近いのでしたっけ。
そうですね、伝統的な構図です。
その周りにはたくさんの天使とか聖人たちが集まっていて、地上とは全然違う光と栄光に満ちた世界が描かれている。
この上下に分割、天国と地上という対比はこの作品のまず基本構造ですよね。
はい。
でも、ただ2つに分かれているだけじゃなくて、エル・グレコはこの2つの世界を視覚的にもそれから心学的にも繋げようとしている感じがするんですよね。
ああ、繋ぎようとしている。
例えば、地上で亡くなったオルガス博の魂が天使によって天に運ばれていく様子。
これが作品によってははっきり描かれたりもしますけど、この絵ではどちらかというと暗示的に中央の空間を通じて示されているような。
なるほど。直接的ではないけど、示されている。
そうです。地上の厳粛さと天上の栄光というのが断絶しているんじゃなくて、繋がっているんだと。連続性がある。
ここにカトリックの指定感、つまり死は終わりじゃなくて、信仰を通じて救われて天上での永遠の命に至る道なんだっていう、そのメッセージがすごく力強く表現されているわけですね。
なるほど。ただ分けているんじゃなくて、その繋がりこそが重要なんですね。
じゃあ、その地上の人物描写、これもすごく面白くて、オルガス博自身の表情なんですけど、これ驚くほど穏やかじゃないですか?
そうなんですよ。死の苦しみとかじゃなくて、むしろこう安らかさ、開放感みたいなものすら感じますよね。
そして彼を埋葬している聖人、聖ステファノと聖アウグスティヌス、彼らの服の豪華さもすごいですけど、表情も草原さと慈悲深さが一緒になっている感じで。
ここで、なんでこの二人の聖人なのかっていうのがまたポイントで。
あ、そうなんですね。
聖ステファノはキリスト教で最初の殉教者ですよね、著祭で。だから信仰のための自己犠牲の象徴。
一方で聖アウグスティヌスは偉大な教会博者で、神学的な知性とか教会の権威を代表するような存在。
なるほど。
この二人が奇跡的に現れたっていう伝説があるわけですけど、それはつまりオルガス博の信仰の深さとか教会への貢献が天上の世界からも認められて祝福されてるんだよっていうことを示してるんですよね。
ああ、そういう意味合いがあるんですね。じゃあ周りにいる参列者たちはどうでしょう。
彼らの服装、これはもう16世紀後半のトレドの貴族の典型的な格好ですね。
ええ、まさに。
黒が貴重で、まあ疾走なんだけど威厳がある感じで、首元の白い複雑なひだ襟。
ああ、ルーシュですね。
そうですそうです。これ当時の肖像画とかでもよく見ますよね。地位を示す大事なものだったとか。
ええ。
まるでなんか当時のトレドの社交会のスナップ写真みたいですよね。
本当ですね。
表情も一人一人違うんですけど、悲しみに暮れてるっていうよりは、むしろこう厳粛な経緯とか、あとこの奇跡を目の当たりにしてるっていう異形の念みたいなものが感じられますね。
まさにこの地上部分の、なんていうかリアリズム。同時代の人物をすごく写実的に描いてるっていう点が、天井の超現実的な描写と強いコントラストになってるんです。
ええ。
でもそれは単なる対比ってだけじゃなくて、この現実の当時の貴族たちが数百年前の伝説の聖人たちとか、あるいは天井のキリストとか聖母と同じ画面の中にいる。
確かに。
これは信仰っていうものが、時間とか空間を超えて、過去の奇跡が今の出来事とか、天井の永遠性と直接つながってるんだっていう、当時の人たちの世界観、リアリティを目に見える形にしてると言えるんじゃないかと。
なるほど。
色彩と光の使い方
エルグレコは、これを見る人、特に当時のトレドの人たちに、この奇跡は昔話じゃなくて、今ここで起きてる現実なんだぞと感じさせようとしたのかもしれないですね。
その効果をさらに高めてるのが、色彩と光の使い方かなと思うんですが。
ああ、そこはもうエルグレコの新骨頂ですね。
全体としてまず、暗い地上の世界と明るく輝く天井の世界の対比がはっきりしてますよね。
ええ。
地上では貴族たちの黒い服が画面をぐっと引き締めてて、その中でオルガス博のあのドゥヌイ銀色の輝きとか。
はいはい。あと聖人たちの西服の深い赤とか黄金色がアクセントになってる。
ええ。
特に聖ステファノのあの豪華な女才服に描かれてる彼の巡響場面とか、細かいところまですごくリッチな色彩で描かれてますよね。
ほんとですね。一方で天井界はもうなんか内側から光ってるみたいで。
そうなんですよ。
キリストとか聖母、天使たちの色が白とか金色とか、あとあの独特の天井の青っていうんでしょうか。
ええ。エルグレコブルーとも言われますね。
そういう鮮やかな青が基調になってて、非物質的な霊的な光に満ちてる感じがします。
この劇的な明暗と色彩の対比っていうのは何を狙ってるんでしょうか。
これはまあエルグレコは元々ベネツヤで学んでますから、ベネツヤ派の色彩の影響を受けてるんですけど、それをさらに精神性を表現する方向に深めていった感じですね。
ふむふむ。
天井の輝く色彩とか光は、もう明らかに神聖さとか超烈性、それから救済の喜びを表してる。
対照的に地上のちょっと抑えられた色調とか影は、現世の限界とか死の厳粛さを示しつつも、でもその中に輝く鎧とか財布の色が希望の光みたいにも見える。
ああ、なるほど。
だから色彩と光はただ綺麗に飾ってるんじゃなくて、この絵の神学的なメッセージ、つまり地上での信仰とか善行がどうやって天井の栄光につながっていくのかっていうのを感情に訴えかけるためのすごく重要な言葉になってるんですよ。
色彩が言葉になってる。
ええ、エルグレコ独有の現実の色とはちょっと違う神聖風界みたいな色彩表現が見る人の精神に直接働きかけてくる、そんな感じですね。
なるほどな。色彩自体がメッセージを語ってるんですね。
では、この絵が描いているその物語の背景についてももう少し詳しく教えていただけますか。
オルガス博、本名はドン・ゴンサロ・ルイスでトレドさん。
はい。
14世紀、だから1323年に亡くなったトレドの貴族で、事前活動に熱心で、特にこのサントトメ教会にたくさん寄付をした人だったということですね。
そうなんです。彼の遺言で、彼の一族はサントトメ教会に毎年決まった額を寄付することになってたらしいんですけど、時が経つうちにそれが滞るようになってしまった。
そこで16世紀後半、つまりエルグレコの時代に、当時のサントトメ教会の司祭、アンドレス・ヌーイエスっていう人が、寄付をちゃんとしてくれって訴訟を起こして勝ったんですね。
へー、そんな背景が。
オルガス伯の奇跡の伝説
ええ。この絵画はその訴訟の勝利を記念して、オルガス博の功績とか信仰を改めて称えて、そして教区民たちに寄付って大事ですよって示すためにエルグレコに注文されたものなんです。
なるほど。じゃあ単に昔の伝説を描いただけじゃなくて、かなり具体的なその当時の教会の事情とか目的があったんですね。
そういうことなんです。
そしてその中心にあるのが、オルガス博の葬儀で起きたとされる奇跡の伝説。
はい。
彼の徳をたたえて、聖ステファノと聖アウグスティヌスが天から降りてきて、自分たちの手で流来を墓に収めたと、この絵はまさにその奇跡の瞬間を描いてるんですね。
そうです。この奇跡の物語を描くことで、教会としてはオルガス博みたいに信仰深い人はこんだけ神様に愛されて特別な恵みを受けるんですよと、だから皆さんも信仰をもって教会に貢献しましょうねと、そういうメッセージを伝えたかったわけです。
なるほど。
エルグレコの意図としても、この劇的な奇跡を描くことで、やっぱり信仰の力とか、死を超えた救済への希望っていうのを見る人に強く印象付けようとしたのは間違いないでしょうね。
地上での良い行いが直接的に天上の栄光に結びつくんだっていう、そのカトリック的な世界観をギュッと凝縮して見せてる感じです。
そして、この作品がエルグレコの最高傑作の一つだって言われる理由もそこにあるんでしょうね。
ただ物語を描くだけじゃなくて、その独特な構図、感情に訴える色彩と光、現実と超現実を混ぜ合わせた人物描写、それによって信仰っていうちょっと抽象的なテーマにものすごいリアリティと深い感動を与えてる。
まさにおっしゃる通りだと思います。
エルグレコはクレタ島でビザンティン美術の伝統に触れて、ベネツヤでティチアーノとかティントレットの色彩や劇的な構図を学んで、ローマでミケランジャロの人体表現に影響を受けて、そして最終的にスペインのトレドで全く独自のスタイルを作りあえた。
この作品にはその彼の経験全部が消化されて一つになっている感じがしますね。
特に人物をちょっと引き伸ばして描いたり、炎が揺らめくようなあの独特なフォルム、あれが精神性とか内面的な感情を証言するのにすごく効果的で、この作品の神秘的な雰囲気を高める要因の一つだと思います。
最後にもう一つちょっと面白い指摘があるんですよね。
資料によると、地上の三列車の中にカガ・エルグレコ自身、こっちを指している人物とも言われますけど、それと彼の幼い息子ホルヘ・マヌエル、前景の左端にいる少年ですね。
この二人が描き込まれてるっていう説が有力だと、少年のポケットからエルグレコのサインと製作年が書かれたハンカチが見えてるなんて話もありますね。
もしこれが本当だとしたら、カガ自身がこの歴史的で宗教的な奇跡の、いわば証人として自分を画面に登場させてるってことになりますよね。
これってただのサイン以上の意味がありそうですけど、どう解釈したらいいんでしょう?
信仰と文化のダイナミズム
これは非常に面白い点ですよね。ルネサンスの頃のカガが自画像を作品に入れること自体はまあ珍しくはないんですけど、
この場合は単に自分を目立たせたいってこと以上に、画家自身の深い信仰の表明とか、あるいはこの奇跡の物語が持つ普遍的な意味、つまり信仰を持っている人全てに関わる出来事なんだよっていうことを強調する意図があったのかもしれませんね。
あと息子さんのホルヘマヌエルを示しているように見える配置っていうのは、この信仰とか物語を次の世代にちゃんと伝えていくんだっていう、そういう一生児ともとれるかもしれませんね。
深いですね。さてここまで色々な角度からオルガス博の埋葬を探求してきました。
今回の話で見えてきた大事なポイントをまとめると、まず地上と天井を大胆に分けつつも魂の動きとか視線でたくまに繋いでいる構成力。
次に写実的な地上の描写と光と色で表現された神々しい天井の描写、その劇的な対比と融合。
そして同時代の人物と伝説の聖なる存在を同じ空間に描くことで、時間とか空間を超えた信仰のリアリティを示している点。
さらにオルガス博の伝説とその背景にある教会の意図を通して語られる、信仰とか事前そして死後の救済っていう力強いメッセージ。
あなたにとってこの絵画のどのあたりが一番心に響きましたか?
そうですね。やはりこの一枚の絵の中に16世紀後半のスペイン、トレドっていう場所の宗教的な熱気とか、エルグレコっていう画家の他に類を見ない芸術的な新しさ、
それから個人の信仰が教会っていうコミュニティの中でどういうふうに大事にされて語り継がれていくのかっていう、そのダイナミズムみたいなものが見事に凝縮されているところでしょうか。
単なる宗教画っていう枠を越えて、当時の文化とか社会、そして人間の精神性を深く知るためのすごく貴重な窓になっているなぁと感じますね。
最後に、あなた自身の考えをさらに深めてもらうための問いかけをさせてください。
この絵画って、16世紀の人たちが200年以上も前の14世紀に起きたとされる奇跡を、まるで今目の前で起きているかのように見ている場面を描いているわけですよね。
こういうふうに違う時代が一つのアート作品の中で一緒に存在して混ざり合っている。
これって私たちが歴史とか伝説、信仰みたいな過去の出来事とか考え方とどう向き合って、それをどう解釈して、今の自分たちの意味につなげているのかっていう普遍的な問いを投げかけているような気がしませんか。
この絵が示している時間の層、レイヤーについてぜひあなたも思いを巡らせてみてください。
ご視聴ありがとうございました。
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