その影もまた私が拾うべきなのだろう さあ
最初のページをめくってみようか この見知らぬ誰かの影が眠る最初のページを
そこに映っているのは 連続AIラジオドラマ
影を拾う人 第2話
最初のページの記憶 最初のページにはモノクロームの写真が1枚
汗だセピアの色が時間の流れを幽閉に物語っている 映っているのは若い女性だ
20代の半ばだろうか 笑っているわけでもなくかといって悲しんでいるわけでもない
ただどこか遠くを見つめているような静かな横顔
背景には古い木造の駅舎が見える 改札の向こうには短いプラットフォーム
きっとその街のどこかにあった 今はもうない小さな駅なのだろう
女性の服装からして昭和の初期か中期号だろうか 確かなことはわからない
彼女の表情から何かを読み取ろうとする
しかし 写真の中の彼女は何も語らない
ただ その瞳の奥に深い影を宿しているように私には見えた
まるで未来の私がこのアルバムを開くことを知っていたかのように
奇妙なことだ 私はこの女性を知らない
これまで生きてきた中で一度として出会ったこともないはずだ
だがなぜだろう この写真の彼女に
私はある種の奇跡感を覚える まるでずっと昔にどこかで会ったことがあるように
図書店の主人として 私は多くの人の時間に触れてきた
手紙 日記
落書きされた本の余白 それらを通して見知らぬ人々の人生の断片を垣間見てきた
喜びや悲しみ 後悔や希望
だがこのアルバムはそれらと少し違う もっと個人的で
もっと閉ざされている
ページの隅には小さな鉛筆書きがある
昭和6年 夏
水穂 水穂
それが彼女の名前なのだろうか そして昭和6年
私が生まれる ずっとずっと前の時間だ
水穂 繰り返しその名を心の中でつぶやいてみる
雨の音に混じって その響きが私の店の静寂に小さな波紋を広げていく
なぜこのアルバムは私の手元にやってきたのだろう なぜ私は今この見知らぬ女性の写真を見つめているのだろう
影を拾う人として 私はこのアルバムに隠された影の物語をどこまで辿ることができるのだろうか
水穂 彼女はこの写真の中で何を思い何を待っていたのか
その問いが 私の心に
静かに そして深く沈んでいく
連続 ai ラジオドラマ 影を拾う人
第3話 手帳のささやき
水穂 その名を心で繰り返しながら
私は次のページへとそっと指を滑らせる
だが そのページは空白だった
何枚もの空白のページが続き 唐突に次の写真が現れる
今度は 先ほどの駅舎とは違う古い港の風景だ
波止場に停泊する 小さな漁船の影
霧が深く立ち込めていて 全てが曖昧だ
そして その写真の中には水穂の姿はない
ただ遠くに見える灯台の光がぼんやりと霞む なぜ彼女の姿がないのだろう
この港は水穂にとってどのような意味を持っていたのだろう 最初の写真の駅とこの港
どちらも誰かを迎え誰かを見送る場所 始まりと終わりが交錯するような場所だ
アルバムは時に語りすぎる そして時に多くを沈黙させる
沈黙するページが何を隠しているのか その空白に私はある種の物語の予感を感じていた
アルバムを一旦閉じた このまま一気に進めるべきではないという直感が働いた
まるで古書を読み解くかのようにこのアルバムにも私の詮索が必要なのだ
手を引き取ったダンボール箱をもう一度注意深く探してみる 何かアルバムの持ち主の手がかりになるものはないか
星の山に埋もれた埃っぽい本の隙間 それは小さな革製の手帳だった
手のひらに収まるほどの古びたそれ 表紙にはやはり同じく金文字でMのイニシャルが刻まれている
水穂のMだろうか 開いてみると中はぎっしりと細かい文字で埋み尽くされている
日記だろうか それともメモ
最初のページにはこう記されていた 昭和6年7月7日
七夕の夜船は出た 七夕
そして船 港の写真とこの手帳の記述が静かに繋がっていく
水穂は あの港から誰かの船を見送ったのだろうか
それとも 彼女自身がどこか遠くへ旅立ったのだろうか
この手帳にはアルバムが沈黙していた影の物語が文字となって記されているのかもしれない
影を拾う人として 私はこの手帳のささやきに耳を傾けるべきだ
この手帳が私に何を語りかけてくれるのか 雨音だけが響く古書店で
私はその小さな革の手帳を そっと胸に抱き寄せた
連続AIラジオドラマ 影を拾う人
第4話 星屑と約束
あの手帳を開くのは少し勇気がいった 誰かの秘密を覗き見るような
わずかな罪悪感に似た感情 だが
私は影を拾う人 見つけ出してしまった影から目をそめけることは私の勝負には合わない
手帳の最初のページには 先ほどの
昭和6年7月7日 七夕の夜船は出た
という記述 その下にはこう続いていた
光は星になった 遠い海の上で
ずっと輝き続ける 私の星
光
それは水穂が見送った あるいは見送られた相手の名前だろうか
星になったという表現から察するに 彼はもうこの世にはいない
海の向こうでその命を負えたのだろう 七夕の夜に船で旅立ち
そして帰らぬ人となった 水穂は何を思いその言葉を綴ったのだろう
手帳のインクは時間の経過とともに薄れているが 文字の端々から彼女の深い悲しみとそれでも失われなかった
水穂への変わらぬ思いが伝わってくるようだ 次のページには詩のような一節が書かれていた
空には星屑が降り注ぎ 海には泡沫が咲き乱れる
あなたはその狭間で永遠の約束を抱いて眠る 水穂は水穂を失った夜にこの言葉を綴ったのだろうか
永遠の約束 それは果たされなかった約束か
それとも心の中で堅く誓われた 消えることのない誓いか
星屑と泡沫 空と海
全てが対極にありながら 彼らはその狭間で強く結びついていた
アルバムの源写真 深い霧に覆われたその風景がこの詩的な言葉によって
にわかに意味を持ち始める 手帳はアルバムが沈黙していた感情をありやりと私に語りかけてくる
水穂の心の内側がそこに確かにあった 影を拾う人として
私はこの手帳に記された彼女の影をそっと拾い上げる 光 水穂
二人の間に交わされた永遠の約束とは一体何だったのか この手帳の続きにはその答えが隠されているのだろうか
雨上がりの朝の光が店の窓から差し込む 手帳の古い皮静かに降り注いでいる
私はその光の中でさらにページをめくる そこにはきっと水穂と光のもっと深い記憶が刻まれているはずだ
連続 ai ラジオドラマ 影を拾う人
第5話 古い喫茶店の地図
手帳には 光との思い出が短い文章でいくつも記されていた
断片的ではあるがその一つ一つが水穂の心の中でいかにミツルという存在が 大きかったかを物語っている
ミツルと出会ったあの路地裏の喫茶店 壁の絵が私たちを見守ってくれていた
コーヒーの苦さはいつもあなたと同じだったわね ミツル
星が降る夜 あの喫茶店のテラスで2人の未来を語り合った
その喫茶店はどこにあったのだろう 手帳には具体的な店の名前は記されていない
ただ その記述の隅に1枚のくるびた小さな地図が挟まれていた
絵描きの地図だ インクの色を合わせているが細い線で描かれた道筋といくつかの印
この街の今は面影もない古い路地裏が描かれている その中心にコーヒーシャ
星づくよをつつましく記されていた 星づくよ
ミツルを星と呼び空と海の間で永遠の約束を交わしたミズホにとって あまりにも象徴的な名前ではないか
そして 店の名前の下には小さな日付が
昭和6年3月3日 七夕の夜にミツルが旅立つ4ヶ月前の日付だ
ル地図を頼りにその喫茶店を探してみるべきだろうか 私の店からさほど離れてない場所にその星づくよがあったらしい
今ではもう別の建物に変わってしまっているに違いないが それでもその場所に行けば何かが見つかるかもしれない
ミズホとミツルが語り合った空気の欠片がそこにまだ残っているかもしれない 影を拾う人として私はその場所に刻まれた影をも拾い上げるべきだ
ル地図をそっと手のひらに載せる 手のひらに広がるのは単なる道筋ではない
二人の時間が濃密に濃縮された小さな空だ 今日のところは店を閉めてその喫茶店の跡地を訪れてみようか
雨上がりの光がル地図の皺にキラキラと反射している まるでミズホとミツルの思い出が今もそこに輝いているかのように
連続AIラジオドラマ 影を拾う人
第6話 路地裏の痕跡
古地図を頼りにその路地裏へと足を踏み入れた 店の扉に臨時休業の札をかけ慣れない外の空気に身を晒す
地図が書かれた時代からもう何十年もの月日が流れている 町の景色は大きく変わった
古い建物は姿を消し新しいビルが立ち並ぶ だが
それでも路地裏には町の古い記憶がわずかながら残されているものだ 高速ビルの狭間にひっそりと佇む錆びついた鉄骨の階段
剥けかけた壁に残る見慣れない文字の痕跡 そんな影のようなものがこの町のどこかにきっと
地図に指し示す場所は今はもう小さなコインパーキングになっていた 無機質なアスファルトの地面に白い線が引かれている
瑞穂と光が語り合ったであろう コーヒー車星づくよの面影はそこには一かけらも残されていなかった
失われた場所 失われた時間
壁の向こうの声あの路地裏の痕跡を見つけてから 私の心はどこか満たされている
コーヒー社星月夜は消えても 瑞穂と光の過ごした時間は確かにあの場所に刻まれていた
私はその影を拾い私の古書店へと持ち帰ってきたのだ 再び手帳を開く
前回読んだ星屑と約束の詩的な一節の次のページだ そこには日付と具体的な会話の記録が記されていた
昭和6年5月15日三鶴が言った この壁の向こうに
海の音を聞くんだ いつか
君を乗せて船を出す 壁の向こうに海の音
喫茶店は海の近くにはなかったはずだ この会話が交わされたのは
おそらく星月夜の店内 三鶴は
店内の壁の向こうに遥かな海の広がりを見ていたのだろうか 船を出す
それは七夕の夜に現実となる彼の旅立ちの決意だったのだろう 瑞穂は
その言葉をどのような思いで受け止めたのだろう この手帳には瑞穂の返しの言葉は記されていない
ただ その下に瑞穂自身の筆跡でこう添えられていた
私はこの壁の絵が好き 描かれた船は絶対にどこにも行かない壁の絵
瑞穂と三鶴が出会った喫茶店は 壁の絵が二人を見守っていたと以前手帳の記述にあった
三鶴の船を出すという決意と 瑞穂の絶対にどこにも行かない船の絵
二人の思いはここで静かにすれ違っていたのではないか 三鶴は
夢や希望を海に見ていた 瑞穂は
三鶴と共にいるという日常を その喫茶店の動かない絵に見ていた
影を拾う人として 私はこのすれ違いの痛みを深く理解する
いつだって 人は本当に大切な思いを誰にも伝えられぬまま影としてこの世に残してしまうのだから
三鶴は瑞穂の静かな願いに気づいていたのだろうか 瑞穂は瑞穂の旅立ちの夢を本当に理解していたのだろうか
あの喫茶店の壁に描かれていた船の絵 それは三鶴と瑞穂の永遠の約束そのものの象徴だったのかもしれない
二人がそれぞれ異なる意味を込めて見つめたその船の絵は 手帳のページはまだ続く
このすれ違いの影が二人の運命をどのように変えていくのか 私はその真実を知るため
静かに そして慎重に次のページへと指を動かす
連続AIラジオドラマ 影を拾う人
第8話 最後の笑顔
手帳の次のページには日付だけが記されていた 昭和6年7月1日
七夕の夜に三鶴が船出するわずか1週間前の日付だ その日瑞穂は何を示したのだろう
文字はいつもより少し震えているように見えた 三鶴と最後のコーヒー
あの喫茶店で 三鶴は
いつもと変わらぬ笑顔で私の手を取った 必ず帰る
君の待つこの町へ その言葉が
嘘だとわかっていたのに 瑞穂は知っていたのだ
三鶴が必ず帰るという言葉が果たされない約束であることを それでも
彼女はその嘘を受け入れた 三鶴の最後の笑顔を胸に刻むために
どんな思いでその笑顔を見つめていたのだろう どれほどの悲しみがその言葉の裏側に隠されていたのだろう
この手帳の文字から瑞穂の心の奥底にある深い痛みがじわりと伝わってくる 影を拾う人として
私はこの瑞穂の影を静かに拾い上げる 喫茶店星津よ
二人が出会い 愛を育みそして最後のコーヒーを飲んだ場所
あの路地裏の痕跡には そうした瑞穂の痛みまでもが静かに刻まれていたのかもしれない
私は 彼らの時間に
ただそっと寄り添うことしかできない 手帳にはその日以降の記述はない
七夕の夜 美鶴が船出してから瑞穂が何を思いどう生きたのか
その後の影はこの手帳からは読み取ることができない 手帳はここで沈黙している
だが アルバムがまだ残っている
瑞穂の手帳が沈黙したとしても アルバムのページにはまだたくさんの写真が眠っているはずだ
そこに 瑞穂のその後の影がきっと
私は御書店の窓から雨上がりの街を眺める 灰色の空の下
新しい一日が始まろうとしている 瑞穂と美鶴の物語はまだ終わってはいない
影を拾う人として この未完の物語を最後までたどり続けなければならない
連続AIラジオドラマ 影を拾う人
第9話 色あせた風景
手帳は7月1日の最後のコーヒーの記述で沈黙した
美鶴が船出した七夕の夜以降 瑞穂が何を思いどう生きたのか
その心の声はもうひるあげることができない だから私は
再びアルバムのページへと戻る そこに残された視覚的な影をたどるために
手帳の記述が終わってからのページは しばらくモノクロームの風景写真が続いていた
人が写っていない 最初の写真
広い野原にぽつんと立つ一本の大きな木 葉はほとんど落ち
冬枯れの景色だ 瑞穂と美鶴が出会った頃の明るい夏の日差しとは対照的な寂しさをまとっている
次の写真 雪が積もったどこかの寺の軒下
誰も歩いていない静かな雪道 雪の白さが逆に彼女の心の空白を強調しているようだ
これらの風景は 瑞穂の心の状態を間接的に表しているのではないか
美鶴を失った後の孤独と静かな悲しみ 彼女は一人きりでこの風景の中に美鶴の影を探していたのだろうか
必ず帰るという約束が嘘になったことを静かに受け入れようとしていたのかもしれない 写真の隅には小さな鉛筆書きが残っていた
昭和6年冬 美鶴の船出から半年後の時間だ
瑞穂は悲しみを誰にも言えず一人で抱え込んでいたのだろう
アルバムに風景だけを残し彼女自身の姿を隠すことで 影を拾う人として私はこの寂しい影をも拾い上げなければならない
そして次のページ そこに初めて風景ではないものが写っていた
一枚の手紙だ 写真機でその手紙そのものを写したのだろう
差し出し人の名前は読み取れない だが
その文字は瑞穂の筆跡ではない 別の誰かの力強い筆地だ
日付は昭和7年春 美鶴が旅立っておよそ9ヶ月後の時間
手紙の冒頭にはこう書かれていた 瑞穂さん
美鶴のことは もう忘れなさい忘れなさい
水穂にとって最も残酷な言葉がアルバムの中に静かに焼き付けられていた 美鶴の影を追い続ける水穂に
その言葉を投げかけたのは一体誰だったのか この手紙は水穂の静かな悲しみをどのように変えていったのだろう
影を拾う人として 私はこの手紙に隠された
もう一つの時間をたどらなければならない 連続 ai ラジオドラマ
影を拾う人 第10話
消された名前 忘れなさい
その言葉の筆地は力強く そして有無を言わせに響きを持っていた
美鶴の影を追い風景写真に心を移していた水穂に この言葉はどれほどの痛みを与えたのだろうか
これは誰かの優しさだったのか それとも
水穂を現実へと引き戻そうとする強制だったのか 私は
アルバムのページをさらにめくる 手紙の写真の次のページだ
そこに映っていたのは 先ほどの風景写真とは一変した明るいカラー写真だった
水穂の姿もある 隣には
背が高く清潔感のあるスーツ姿の男性 2人は
結婚式の衣装をまとい 静かに微笑んでいた
昭和7年春 手紙が書かれた時期とほぼ同じ頃
水穂は水穂を忘れ新しい人生を選んだのだ それが手紙の差し出しの意思だったのか
水穂自身の決意だったのか 写真の水穂の笑顔は美しい
だが どこか水穂といた頃の遠くを見つめるような静けさとは違う
無理に作った穏やかさのように私には見えた 水穂の隣の男性
写真の隅には新たな鉛筆描きが
慶一と慶一 それが水穂の選んだ新しい夫の名前なのだろう
だが奇妙なことにアルバムのその後の写真 新婚旅行と思われる風景や
2人が共に過ごす日常の景色 そのすべての写真の隅から慶一の名前が黒いインクで丁寧に消されていた
消された名前 なぜ水穂はあるいは誰かが彼の名前を消したのだろうか
光を忘れるために選んだはずの新しい夫の名前を まるでなかったことにするかのように
これは水穂の光への変わらぬ思いの影だろうか それとも
水穂を忘れようとした彼女自身の後悔の影だろうか 慶一の名前を消すことで水穂は水穂と生きた時間だけを
アルバムに残そうとしたのではないか アルバムは水穂が忘れなさいという言葉とどのように戦ったのかを静かに物語っている
水穂への愛を無理に過去へ葬ろうとした 彼女の心の悲鳴だ
影を拾う人として 私はこの消された名前の影を拾い上げなければならない
このアルバムの結末には ミツルと水穂
そして慶一という3人の影の物語が複雑に絡み合っているに違いない 私は
その絡み合った糸を慎重に研ぎほぐしていかなければならない 連続AIラジオドラマ
影を拾う人 第11話
店の記憶 消された名前
それは水穂の心の中でミツルという存在がいかに深く根付いていたかを物語っている あるいは
新しい夫である慶一との間に何か決定的な影が落ちていたのか このアルバムは写真の情報だけではなく
その空白や消された痕跡によってより多くのことを語ろうとしているようだ アルバムだけではわからない
古書店主としての私はこの店の記憶を辿るべきではないか 父が店を営んでいた頃の古い帳簿や古文書の買取記録
もしかしたらこのアルバムの過去の記憶が残っているかもしれない 埃をかぶった古い帳簿を開く
父の貴重面な筆跡でびっしりと書かれた文字 膨大な記憶の中に水穂や慶一ミツルといった名前が見当たらない
やはり無駄なのか 影を拾う人として私はただ目の前の影を拾い上げるしかできないのか
その時帳簿のかなり後のページに一枚の古いメモ帳が挟まっているのを見つけた
日付は昭和45年秋 アルバムの時代からおよそ40年近く後の日付だ
それは店で使っていた注文書の裏紙だった そこには
鉛筆で力なくこう記されていた あのアルバム
探している 港の写真
そして 消された名前の理由を
そして そのメモの右下隅に書き残されたイニシャル
im im
いつき 誠
それは私の父の名前だ 父がこのアルバムを買い取ったわけではない
しかし父は このアルバムとその物語を長年探していた
あるいはアルバムの持ち主の誰かから 消された名前の理由について相談を受けていたのかもしれない
このメモは 父がこのアルバムの影に深く関わっていたことを示している
私は 父が残した古書店のある地だ
影を拾う人として 父の背中を追ってきた
このアルバムは見知らぬ誰かの物語ではもうない
私はこの古書店の主としてこの物語の真実を最後まで見届けなければならない
たとえそれが 私自身の知らなかった父の面影を暴き出すことになったとしても
連続AIラジオドラマ 影を拾う人
第13話 圭一という名の謎父の面目を見つけてから
私は再びアルバムの前に座り直した 瑞穂と光の物語
そして消された名前の圭一 父が追い求めたその消された理由こそがこの物語の確信に違いない
アルバムのページは圭一との結婚後の日常写真が続いた 結婚旅行の景色
二人が揃って写る新しい家での写真 どの写真も明るく瑞穂といた頃のモノクロームとは対照的だ
瑞穂は幸せに見える その笑顔に嘘はないようにも見える
だが やはりすべての写真から圭一の名前だけが黒いインクで丁寧に消されている
なぜ名前を消す必要があったのだろうか 写真そのものを破り捨てることもできたはずだ
アルバムから圭一の写るページだけを抜き取ることもできたはずだ
それなのに瑞穂は彼の名前だけを上書きするように あるいはなかったことにするように消した
それは彼との生活そのものを否定したかったのではない 圭一という人間ではなく圭一という名前が何らかの痛みを伴っていたのではないか
父のメモにあった 消された名前の理由
父はこの理由を知っていたのだろうか 私はアルバムを一旦閉じ瑞穂の手帳をもう一度手に取る
光が船出した後の記述はないが 圭一との結婚前の記述に何かヒントが隠されていないか
結婚前の昭和7年のページ 光を忘れることを促す手紙の記述の直後に短い一文があった
あの人は ミツルにとてもよく似ている
あの人 圭一のことだろうか
圭一はミツルによく似ていた それが瑞穂がミツルを忘れようと圭一を選んだ理由なのだろうか
ミツルの代わりとして瑞穂は圭一を愛そうとした しかし
その愛はミツルへの変わらぬ思いの影となって 圭一の名前をアルバムから消し去る結果となった
ミツルによく似た圭一 圭一といることは瑞穂にとってミツルとの時間を思い出させる
痛みを伴う行為だったのかもしれない だから彼女はミツルの代わりとしての圭一を愛せなかった
そして圭一という名前にその愛せなかった影をすべて背負わせたのではないか
消された名前は瑞穂のミツルへの変わらぬ愛の証であり 圭一への謝罪の影だったのだ
そう考えるとこのアルバムの悲しい真実が少しだけ輪郭を帯びてくる 私は影を拾う人として
この瑞穂の深い悲しみを静かに受け止めなければならない そして
圭一という名もなき影に光を当ててあげなければならない 連続AIラジオドラマ影を拾う人
第14話 沈黙の理由
アルバムは圭一の名前が消された写真のページが続き 唐突に再び風景写真へと戻っていた
今度は穏やかな田園風景 遠くには小高い丘の連なり
その風景の中に瑞穂の姿はなかった まるで彼女がその風景の中に自らを隠してしまったかのように
昭和13年秋 圭一と結婚してから5年が経過している
その5年間の間に瑞穂の心に何が起こったのか 手帳は沈黙し
アルバムは風景写真という空白で語っている 私はその空白の意味を考えずにはいられなかった
逸露を忘れられない瑞穂の心 そしてその瑞穂を愛した圭一の悲しい立場
彼らの間に言葉ではないもっと深い沈黙があったのではないか 次のページには一枚の小さなメモ書きの写真が挟まれていた
アルバムから抜き取られたものではなく写真機で撮られたものだ そこには
鉛筆で力なくこう書かれていた このアルバムは渡さない
光のすべてがここにある 渡さない
誰に対して瑞穂はそう言ったのだろう そして
光のすべてがここにある
それは圭一にこのアルバムを手放すことを拒んだ 瑞穂の強い意志の表明ではないか
瑞穂は圭一と生活を共にしながらも心の中では 瑞穂との時間を誰にも侵されない生意気として守り続けていたのだ
それが圭一の名前を消し風景写真に自らを隠した 沈黙の理由なのだろうか
圭一はその瑞穂の沈黙をどのように受け止めていたのだろう
彼もまた瑞穂の心の中に光という影が常に存在していることを知っていたはずだ そして
その影と彼自身が静かに戦い続けていたのではないか 私は影を拾う人としてこのアルバムが語る沈黙の理由を深く理解する
言葉にならない感情が最も重い影として人の心に残るのだから このアルバムは瑞穂の瑞穂への愛と圭一の瑞穂への愛が互いに傷つけ合い
それでも深く結びつこうとした悲しい記憶だ 悲しい記録だ
沈黙するページがその真実を私に静かに語りかけている 私はこの物語のさらに奥深くへと足を踏み入れなければならない
連続 ai ラジオドラマ 影を拾う人
第15話 もう一つの手帳
瑞穂の渡さないという言葉は まるでミスルの影を守る最後の取り出の横だった
経営者とともにある人生を選びながらも彼女の心は 決して密漏を忘れることはなかった
アルバムの沈黙は 彼女の心の奥底に燃える消えない炎なのだ
私は 再び古書店の記憶をたどる
父の遺品の中に 何かこの物語を解き明かす手がかりはないか
店の奥にある 鍵のかかった古い木箱
父が特に大切にしていたものだ 木箱の中には父が手書きで書き残した多くのメモや
未完の原稿が納められていた 父は私と同じ影を拾う人であり
同時に自分でも物語を紡ぐ書き手でもあった 読みかけの推理小説の隣に父が書き記した物語の断片がいくつも眠っている
その中に一際目を引く別の手帳があった 水穂の手帳よりも少し大きく厚みのある黒い革製の手帳
表紙には金色の白押しで 慶一という名前がはっきりと刻まれている
慶一の手帳 あのアルバムから名前を消された水穂の夫
父が残した木箱の中に 慶一の手帳が
なぜ 日付は水穂の手帳の空白期間
光が船出した後から慶一との結婚後 そしてアルバムの風景写真が続く沈黙の時期にかけてびっしりと文字が書き込まれている
最初のページにはこう記されていた 昭和六年八月八日
水穂さんと初めて会った日 あの瞳の奥に海の影を見た
水穂と慶一は水穂が船出したわずか一か月後に出会っていたのだ 海の影
慶一もまた水穂の心の中に水穂の影が強く残っていることを最初から知っていた それでも彼は水穂を愛し共に生きることを選んだ
父のメモにあった消された名前の理由 それは水穂の心が水穂の影を抱き続けたことだけが理由ではない
慶一自身がその影とどのように向き合いどのような時間を過ごしたのか そのすべてがこの手帳に記されているに違いない
影を拾う人として私はこの慶一の手帳に光を当てなければならない アルマムが語らなかった慶一の沈黙
その沈黙の奥にどのような真実が隠されているのか 父はこの慶一の手帳もまた探していたのだろうか
父の果たせなかった探求 その答えがこの手帳にあるのかもしれない
私はこの手帳を慎重に そして心を込めて読み進める
そこに3人の絡み合った影の物語のもう一つの側面が記されているはずだ
連続 ai ラジオドラマ 影を拾う人
第16話 海の影と近い
慶一の手帳の最初のページには昭和6年8月8日 水穂さんと初めて会った日
あの人の瞳の奥に海の影を見たと記されていた 三菱が船でしたわずか1ヶ月後
水穂の心に深く刻まれた海の影を 慶一は最初から見抜いていたのだ
手帳には 水穂と出会ってからの慶一の心情が
黒銘に綴られている 水穂さんはいつも遠くを見ている
まるで誰かの帰りを待つかのように 私は
その瞳の奥にある海を どうすれば埋められるのだろう
慶一は水穂の悲しみを知りながらそれでも彼女を愛した 影を拾う人として
私はその慶一の純粋な そして少しばかり痛ましい愛の影を深く理解する
彼は三菱の影に苦しむ水穂の側に寄り添い続けたのだ
次の記述にはこうあった 昭和7年3月
水穂さんが私の求婚を受け入れてくれた
あなたのそばにいれば寂しくない その言葉が私への愛であると信じたかった
水穂が慶一を選んだのは愛しているからだけではなかった 寂しくないという理由
それは三菱の影を埋めるための彼女なりの選択だったのだろう 慶一は
その水穂の言葉の裏にある寂しさをすべて受け入れたのだ そして
その下に慶一自身の言葉でこう誓われていた 私は決して水穂さんを一人にはしない
たとえ彼女の心の中に永遠の海の影が宿り続けても
この命ある限り彼女のそばにいる それは三菱が水穂に果たせなかった
必ず帰るという約束とは対照的な 現実的な誓いだ
慶一は三菱の影と戦う水穂の心をその身をもって支えようとしたのだ アルバムの消された名前
それは水穂の三菱への変わらぬ愛の証であると同時に 慶一の水穂への深い愛とその誓いの重さを示すものでもあったのかもしれない
慶一は水穂が三菱を忘れられないことを知っていた上で その名前を消すという行為を
彼女の悲しみとして受け止めていたのだろうか 影を拾う人として
私はこの慶一の無償の愛の影に深く心を打たれる この手帳はアルバムが沈黙していた慶一の物語を
雄弁に語り始める 水穂
三菱 そして慶一
三人の絡み合った影の物語の真実の姿が少しずつ明らかになっていく 連続 ai ラジオドラマ
影を拾う人 第17話
二つの約束 慶一の手帳は
彼と水穂の結婚生活の記録を 淡々と
しかし愛情深く綴っていた 水穂が三菱の影を抱き続けていることを知りながら
慶一は決して彼女を責めなかった むしろその影を含めて水穂という人間を丸ごと愛そうと務めている
水穂さんは今日も遠くの海を見つめていた 言葉は交わさずともその瞳の奥にある寂しさが私にはわかる
私はただ彼女の隣にいることしかできない それでもそれが私の水穂さんへの誓いだ
第18話 置き去りの手紙
景一の手帳には水穂から贈られた 動かない船の絵以降も二人の日常が丁寧に綴られていた
景一は水穂の心の奥底に三つるという影が常に存在していることを知りながら その隣に寄り添い続けた
決して三つるの影を消し去ろうとはせず ただ水穂が孤独ではないことをその身をもって示そうとしている
水穂さんは今日も穏やかに御方へんでくれた あの船の絵が私たちを見守っている
私はこの誓いを決して破らない たとえそれが私の人生のすべてであったとしても
景一は水穂の心の入江を守る灯台のようだったのかもしれない 影を拾う人として私はその景一のあまりにもけなげな愛の影に深く胸を
締め付けられる しかしそんな穏やかな日々に
ある日一つの影が差し込んだ 手帳の記述は昭和15年夏の日付で唐突に途切れていた
その日付の直後に一枚の古い手紙が挟まれている 手帳から抜き取られたものではなく
そのページの間にずっと大切に保管されていたのだろう それは景一の筆記ではない
女性の細やかな文字 差し出し印の名前は記されていない
だがその文面から だがその文面からそれが水穂が景一にあてた手紙であることがすぐに分かった
景一さん あなたにとても感謝しています
私の心を守ってくれてありがとう けれどもう私にはあなたの隣にいる資格がありません
私はあの海へ行かなければならないのです あの海へ
それは光が旅立ちそして命を終えた あの海の向こうを意味しているのだろうか
隣にいる資格がない 水穂は景一の深い愛を知りながら
それでも光の影から逃れることができなかった あるいは光のもとへ自らも向かおうとしていたのだろうか
手紙は景一の知らないところで彼の身に触れることなく この手帳の中に置き去りにされていた
景一はこの手紙を最後まで読むことはなかった 水穂の決意を知ることはなかったのだ
これは水穂の最後の積み上げだったのだろうか 景一の手帳がここで沈黙した理由
そしてアルバムがその後風景写真だけになった理由 そのすべてがこの手紙によって繋がっていく
影を拾う人として 私はこの置き去りの手紙の影に深い悲しみを感じる
景一の献身的な愛は水穂の心を イツルの影から完全に引き戻すことはできなかった
連続AIラジオドラマ 影を拾う人
第19話 海の先の決意
景一の手帳は水穂が去った沈黙を持って終わっていた 私は手紙をそっと手帳に戻し景一の深い悲しみを胸に抱く
彼は水穂の最後の決意を知ることもなく 残された日々をどのように生きたのだろうか
最後に残されたのは古いアルバムの終盤 まずか数枚の写真だけだ
水穂と景一の結婚後の風景写真が続き その後に唐突に一枚の海の写真が現れる
それは最初のページにあった霧に包まれた港の写真とは違う 晴れ渡った深い青色の海
遠くまで続き水平線の向こう側には白い灯台の姿が見える そして波打ち際には水穂が描いたであろう小さな動かない船の影が砂浜に立てかけられていた
水穂はあの置き去りの手紙の通りこの海へたどり着いたのだろうか そして
彼女自身の動かない船の絵を この水穂が旅立った海辺に置いた
それは水穂への別れでもあり景一への沈黙の約束を果たした 彼女なりの決意の証だったに違いない
写真の隅に鉛筆書きがある 昭和15年夏
約束の海辺にて 水穂は光鶴を忘れようと景一と結ばれ景一の愛に触れながらも最終的に光鶴の影を追いこの海へと向かった
そして景一に送った動かない船の絵をこの海に捧げることで二つの愛の影に自ら終止符を打った この写真が水穂の最後の影なのだろうか
最後のページ そこにはモノクロームの古びた写真が一枚だけ貼られていた
写っているのは一人の男性だ スーツ姿で少し俯き加減の横顔
穏やかで清潔感のあるその男性の顔は 光鶴によく似ていたという水穂の夫景一だ
その写真の隅には水穂の筆跡ではない 別の誰かの字で小さな日付が記されていた
昭和55年秋 五木堂にて
昭和55年 それは父のメモの約10年後
そして五木堂にて この写真をアルバムに加えたのは水穂ではない
景一彼自身だ そしてその時彼は私の父が営むこの古書店を訪れていた
景一はなぜこの写真を最後に加えたのだろうか そして
この写真の影は一体何を物語っているのだろうか 物語はまだ終わらない
最後の真実はこの古書店に そして父の影に深く隠されている
連続 ai ラジオドラマ影を拾う人 第20話
父と景一の対話 昭和55年秋
五木堂にて このアルバムを最後に閉じたのが景一彼自身だった
彼は水穂が去った後 長い歳月を得て父が営むこの古書店を訪れたのだ
父のメモには消された名前の理由を探しているとあった 父は水穂が去った後
このアルバムを拾った景一とここで会っていた 私は
このカウンター越しに父と景一が交わしたであろう 沈黙の対話を想像する景一は水穂が光を忘れられなかったことを知っていた
水穂が光の元へ向かう決意をしたことを知っていた 彼はそのすべてを受け入れた上で水穂が残したアルバムを持って父の元を訪れたのだろうか
店主さん このアルバムを引き取っていただけませんか
これは 私の妻の大切な思い出です
しかし 私にとっては
この中の写真を見るたびに 私自身の名前が消されていることを思い出してしまうんです
景一はそう言って苦笑いを浮かべたのだろうか 彼は水穂の愛の陰と静かに戦い続けた
そして最後に残された 水穂が守りたかった三つるのすべてが詰まったこのアルバムを
自分以外の誰かに託そうとした 父は景一のその深い悲しみを
どのように受けためたのだろう 父は景一から水穂が三つるの影を抱き続けたこと
景一自身が三つるによく似ていたこと そして
消された名前が三つるへの愛の証であり 景一への謝罪の影でもあったことをすべて聞いたに違いない
だからこそ 父はあのメモに消された名前の理由をと書き残した
それは景一の言葉の裏にある それでも水穂を愛したという
彼の純粋な思いを忘れないための影だったのだ 景一は
この古書店で父との対話を終えた後 この一枚の写真をアルバムの最後のページに加えたのだろう
いつ軌道にて と父の店で物語を終わらせた証として
このモノクロームの写真は景一自身の影だ 水穂のアルバムの最後のページに自分自身を影として残すことで
彼は水穂の愛の物語を完結させたかった それは三つるの影と戦い続けた景一の静かな
そして最後の誓いだったのかもしれない 連続 ai ラジオドラマ影を広ぐ人
第21話 手帳の空白
景一の手帳 水穂の置き去りの手紙が挟まれていたページで記述は途絶えていた
水穂が海へと向かった後景一がどのように生きたのか その後の彼の心の声はこの手帳からは読み取れない
だが 私はその空白こそが景一の物語を語っているのではないかとふと考える
水穂が去った後 景一は深い悲しみと喪失感に苛まれたに違いない
それでも 彼は水穂が残した動かない船のへの約束を守り続けた
彼の人生のすべてであった水穂が三つるの影を追って去ったという事実 その痛みは言葉にできるようなものではなかったのだろう
手帳の最後のページ そこには何らかの記述が消された痕跡が残っていた
黒いインクで線が引かれ文字が塗りつぶされている それは景一が自らの心の痛みを誰にも見せないとして消し去った影なのだろうか
塗りつぶされた文字のわずかな隙間からいくつかの単語が読み取れる 私のせいだ
三つるによく似ていたから 海へ
私のせいだ 景一は水穂が去ったのは自分の愛が足りなかったせいだと自らを責めたのだろうか
あるいは三つるによく似ていたからこそ 水穂の心を完全に得られなかったのだと
運命を呪ったのだろうか
水穂のアルバムの消された名前は 水穂の愛の影だった
そしてこの手帳の塗りつぶされた文字は景一の絶望と自己否定の影だ 彼は水穂が去った後も三つるの影と
そして水穂への愛と静かに戦い続けていた 景一が父の営む古書店を訪れたのはその戦いの果てだったのかもしれない
アルバムを父に託し 自身の写真を最後に加えることで
彼はその戦いに終止符を打った それは景一なりの水穂と三つるへの許しであり
彼自身の存在の証だったのだ 私は古書店主としてこの景一の深い悲しみの影をも静かに拾い上げなければならない
アルバムが完成したことで三人の物語は一つの結末を迎えた しかし父のメモの消された名前の理由はまだ完全に解き明かされてはいない
その理由を知るためには 私自身の家の記憶にさらに踏み込む必要がある
連続AIラジオドラマ 影を拾う人
第22話 父の秘密
父のメモ 消された名前の理由を
景一の手帳から彼が水穂を深く愛していたことはわかった そして
水穂が三つるを忘れられなかったことも だが消された名前の理由がそれだけではないとしたら
私は再び父の古い帳簿に目を戻す あのメモが挟まれていたのは昭和45年
父が景一と対話した後彼が何か別の影を追っていたのではないか 帳簿の奥深く
通常は使われない最後のページの裏に別のインクで小さな記述を見つけた それは父自身の筆跡だ
日付はない 三つるという男はこの町で船乗りの見習いをしていた
そして 彼にはもう一人この町に残されたものがいた
それは彼と同じく三つるを深く愛し彼の帰りを待っていたもの もう一人三つるを愛し帰りを待っていたもの
それは水穂のことではない 水穂は景一と結ばれた
三つるの影を追っていたのは水穂だけではなかった そして
その人物は三つるの船出から何十年も経った後も三つるの帰りを待っていた このもう一人こそがアルバムから名前を消された景一と父のメモの消された名前の理由に
深く関わっているのではないか 父は景一との対話の後このもう一人の影の存在を知り探求を深めていたのだ
そして この人物こそが景一の名前を消した真の理由を知っているのではないか
私は父が残した影の種をこの町簿から拾い上げた その種をたどれば物語は水穂三つる
景一数三人の世界からさらに広がりを見せるはずだ 父のメモは私にこの物語の真の結末を探せと告げている
アルバムと手帳は水穂と景一の物語を終えた だが
影を拾い人としての私の仕事はまだ終わらない もう一人の影に光を当てた時消された名前の理由がすべて解き明かされるだろう
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第23話 もう一人の待つ人
父の町簿に記されていたもう一人 三つるを愛し彼の帰りを待っていたもの
その人物こそが水穂三つる 景一の三人の物語の最も影に隠された存在だ
私は父が残した影の種をどうにかして育て上げなければならない 父がこの人物を探していたのはなぜか
景一がこの古書店を訪れたのはなぜか 私は再び景一の手帳に戻る
水穂が去った後景一が水穂の動かない船の絵の約束を守り続けた その深い愛の証
その手帳の塗りつぶされた文字の隙間に何かヒントはないか
塗りつぶされた文字の奥からかろうじて一つの単語が読み取れる 姉さん
姉さん 景一の姉だろうか
あるいは三つるの姉または妹 この姉さんという存在こそが父が探していたもう一人の影ではないか
三つるを愛し彼の帰りを待ち続けたもう一人の影は 景一の憎しんだったとしたら
水穂が景一と結婚した理由 三つるによく似ていたから
それは景一の姉 つまり三つるを愛したその女性が三つるの面影を追い求め
水穂と景一を結びつけたのではないか あるいは
水穂と景一の結婚生活を彼女が静かに見守っていたのではないか そして水穂のアルバムから景一の名前が消された理由
それは水穂の三つるへの愛の証であると同時に 景一の姉への配慮だったのかもしれない
三つるによく似た景一と水穂が愛し合う姿が 三つるを待ち続けた彼女を深く傷つける
水穂はその痛みを和らげるために アルバムから景一の名前だけを消し去った
消された名前は二重の意味を持っていた 一つは三つるへの愛
もう一つは三つるを愛し続けた第三者への静かな謝罪の影 景一がこの古書店を訪れた理由
父に託したアルバムだけではない 消された名前の理由を解き明かすことで
姉の長年の悲しみに終止符を打ってほしいという 願いだったのかもしれない
公然の秘密とした そうすることで三つるを愛する姉の心をこれ以上傷つけないように配慮したのだ
消された名前は単なる愛の影ではない それは水穂と景一が
三つると彼の姉 四人の間で交わした
最も悲しく そして最も深い沈黙の契約だったのだ
三つるの影を永遠に守るために 景一自身がその名前を犠牲にした父のメモにあった消された名前の理由
父は景一との対話の中でこの姉の小さな肖像の存在と その深い事情を知ったに違いない
だからこそ父はメモに理由をと書き残し その悲しい契約を忘れないように自分自身に課したのだ
水穂 三つる 景一
そして姉 四人の愛の物語はこのアルバムの中で悲しくも美しい結末を迎えた
景一が父の五木島にアルバムを託したことは この沈黙の契約を永遠にこの古書店で守り続けてほしいという最後の願いだったのだろう
影を拾う人として私はこの四人の影の物語を静かに受け継ぐ そしてこのアルバムを最も大切にこの店の記憶として守り続けなければならない
連続 ai ラジオドラマ 影を拾う人
第25話 アルバムの暗息
私は景一の写真が最後に貼られたアルバムの表紙をそっと撫でる 水穂 三つる 景一
そして三つるを愛し続けた姉 この四人の間で交わされた
悲しくも美しい沈黙の契約は 今この古書店の中で静かな安息を得た
景一がこのアルバムを父に託したのは 単に引き取ってほしいという願いだけではない
父はこの古書店の主として誰の物語も裁かす ただ静かに影を拾い上げることを景一に理解されていたのだろう
このアルバムを誰にも知らない永遠の安息の場所に置いてほしかったのだ 私は父の写真を見つめる
父が残したメモには消された名前の理由を問った 父はその理由を知った後も誰にも語らずただ胸の中に秘めた
そしてその影を私にではなくこの古書店という場所に託したのだ 私はこのアルバムをこの店の奥深く誰の目にも触れない場所に静かに
しまうべきだろうか それとも景一が最後に加えたあのモノクロームの写真に
もう少し光を当てるべきだろうか 景一がこの写真を最後に貼ったのはミツルの影に苦しみながらも
ミスホの影に寄り添い続けた彼自身の存在の証を静かに主張するためだ そして
ミスホが消し去った景一という名前をこの古書店という記憶の場所に確かに残すために 私は父の古い帳簿のページをもう一度開く
そこには景一からアルバムを受け取った後父が書き残した短い一文があった 影は消すものではない
光を当てることで初めてその真実の姿を表す 父はこの物語を沈黙させるのではなく光を当てることでその真実を永遠に守ろうとした
このアルバムを誰にも譲らずこの店の記憶として留め置くこと それが景一の影に光を当てる唯一の方法だと知っていたのだ
私は影を拾う人として このアルバムを
この古書店の最も大切な影として守り続けることを誓う このアルバムはもう商品ではない
水穂 光 景一
そして姉 四人の愛の物語が安息を得た永遠の記憶の場所なのだ
連続AIラジオドラマ 影を拾う人
第26話 店の呼吸 アルバムを元の場所に戻した
埃をかぶった古い書物たちの間に あの藍色の表紙は再び静かに眠っている
もう誰にも見つかることはない 誰にもこの四人の悲しい契約の影が暴かれることはない
父の言葉 影は消すものではない
光を当てることで初めてその真実の姿を表す 私はこのアルバムに光を当てるという父の願いを果たした
そして今 この古書店はあの四人の記憶とともに静かに息づいている
店の中に満ちる古い紙の匂い それは水穂 光 景一
そして姉の四人の時間分の匂いだ この匂いを嗅ぐたびに私は彼らが交わした沈黙の契約の重さを改めて感じるだろう
思えば私はこのアルバムの物語を解き明かすことで初めて父の影に真に触れることができたのかもしれない
私が知っていた父は万年の寡黙な古書店主だ しかし父はかつてこのアルバムの消された名前の理由を追い求め
景一と深く語り合った情熱的な影を拾う人だった 父の探求は私にこの仕事の真の意味を教えてくれた
それは単に物を売買することではない 誰かの置き去りにされた影を静かに拾い上げその真実を誰にも語らずただ守り続けること
それが影を拾う人の最も尊い役割なのだ 店の呼吸 この古書店は今日も静かに息をしている
それは父が愛した書物たちの呼吸であり 私が守る4人の影の呼吸だ
私はこの店の呼吸に耳を澄ませる 雨が上がった
雨上がりの光が埃の舞う店内に細い筋となって差し込んでいる その光の中にあの藍色のアルバムの静かな表紙がわずかに揺らめいて見える
アルバムはもう何も語らない ただ静かにそこにあるという確かな安度がある
私はこの安度を守り続ける 父から受け継いだこの影を拾う人という静かなそして重い役割とともに
連続AIラジオドラマ 影を拾う人
第27話 微かな雨音
店を開ける前一杯のコーヒーを飲む これは私が父から受け継いだ朝の儀式のようなものだ
カップを手に私はカウンターの向こう側にある棚を見つめる あの藍色のアルバムは今も埃をかぶった古い書物たちの間に静かに眠っている
もうあのアルバムを開くことはないだろう 水穂
三鶴 慶一そして姉
4人の物語は私の心の中ですでに一つの完結を迎えたのだから しかし不思議なことだ
あのアルバムの物語を知ってからというもの 私はこの店の影をより鮮明に感じるようになった
この古書店に持ち込まれる書物や小さな忘れ物 それら一つ一つが誰かの影であり誰かの時間の欠片だと強く意識する
以前は本に挟まれた古い手紙や押し花を見つけてもただの忘れ物として処理していた だが今は違う
これは誰かの水穂への手紙かもしれない この押し花は誰かの三鶴への変わらぬ思いかもしれないとその影に物語の輪郭を見てしまう
影を拾う人という父から受け継いだ役割は単なる店の看板ではない それは誰かの心のきびを察しその影を静かに守り抜くという孤独な誓いなのだ
父が啓一の影を拾いその物語を私に託したように 私もまたこの店に集う影を静かに守り続ける
雨だ 外の雨音が遠くから聞こえてくる
その音は単なる自然の現象ではない 水穂のアルバムに隠された沈黙の契約をそっと見守るような
かすかな雨音に聞こえる この雨音を聞くたびに私は4人の物語を思い出すだろう
そしてこの影を拾う人としての静かなる日常を 静かにそして大切に生きていくだろう
連続 ai ラジオドラマ影を拾う人 第28話
父の贈り物 コーヒーを飲み終え私は店の中央にある大きな書家を見上げる
父が最も愛し最も大切にしていた書物たちが並ぶ場所だ その一角に父が残したメモの帳簿が静かにしまわれている
帳簿を開く 水穂
三鶴 慶一そして姉の物語を解き明かしたあのページをもう一度静かに見つめる
父の貴重面な筆跡で書かれた最後のメモ 影は消すものではない光を当てることで初めてその真実の姿を表す
父はこの影を拾う人という役割を私に教えるためにあのアルバムを残したのではないか
単なる古書店の継承ではない それは誰かの時間と存在の証を静かに守り抜くという孤独な使命だ
父はあのアルバムを私への贈り物として残したのかもしれない 影を恐れずその奥にある光を見つめようという無言のメッセージとして
私は父が残した慶一の手帳を再び手にする 水穂が去った後慶一が水穂にあてた置き去りの手紙を
慶一自身は読まずにこの手帳の中に隠した それは水穂の愛の影を守るためであり同時に彼自身の深い悲しみを誰にも見せないとしたためだ
私は慶一の手帳の最後のページにそっと鉛筆を走らせる 慶一の塗りつぶされた絶望の文字の隣
彼の魂が安息を得た証として私自身の言葉を静かに添える あなたは水穂の心の中で消された名前ではありませんでした
あなたは彼女の心を最後まで守り抜いた愛そのものでした 誰にも読まれることのないこの古書店だけの秘密の記述
これは父が果たせなかった慶一への最後の対話だ 私が影を拾う人としてこの物語に与える静かな光だ
父の贈り物 それはこの古書店という場所に誰かの時間を永遠に留め置くという
重いそして温かい使命だった 私はこの使命を胸に今日も静かに店の扉を開ける