レクチャーシリーズ「パターンで学ぶ議論の仕方」(全8回)は,議論の仕方を少しずつ学び,充実した議論を行うためのスキルを高めることを目的としています。その第6回となるこのエピソード「反論の仕方(因果関係編)」では,まず,反論には二つの型(反対主張型と論証切り崩し型)があることを述べ,その後,論証切り崩し型の反論の一つとして,因果関係による論証への反論の仕方を解説しています。
なお,このエピソードは,私(たな)が大学の授業で使っている講義ビデオ「反論の仕方」を元に作成しました。したがって,「このビデオ」といった言い方が出てきます。ビデオでは,スライドを示しながら説明していますので,そのスライドを下に掲載します。文字起こし欄に,そこで参照してほしいスライドの番号を【スライド1】などと記載していますので,必要に応じて参照してください。
また,講義ビデオ自体も下に掲載していますので,必要に応じて参照してください。
スライド1

スライド2

スライド3

講義ビデオ
参考文献
反論の仕方については,次の文献を参考にしました。
・香西秀信『議論入門』ちくま学芸文庫,2015年
・香西秀信『反論の技術』明治図書出版,1995年
サマリー
このエピソードでは、反論の仕方について二つの型(反対主張型と論証切り崩し型)が紹介されています。その上で,論証切り崩し型のうち,因果関係に基づく論証に対する反論方法について、具体的な例を用いて解説しています。
反論の二つの型
【スライド1】ミニレッスンビデオ「反論の仕方」について説明します。
【スライド2】まず、反論には2つの型があるということを説明したいと思います。
皆さんは、反論をするときに、どのように反論しているでしょうか?
実は、反論には、大きく分けますと2つのやり方があるんです。
一つ目はこういうものです。
相手の主張と反対の主張を論証することによる反論。
これは反対の主張をするということで、「反対主張型」というふうにここでは言っておきたいと思います。
具体的にどういうことかというと、こういうことなんですね。
すなわち、ある人が「Aである。なぜならばBだから」という主張をしたとします。
これに対する反論として、相手の「Aである」という主張を否定する。
その反対を言う、そういう主張をするということですね。
つまり、「Aではない」というふうに言うわけです。
そしてもちろんその理由を、「なぜならばCだから」というふうに言うわけですね。
こうしますと、相手と反対の主張をしているわけですから、反論にはなっているわけです。
しかしここではですね、お互い自分の言いたいことを言っているという感じになるわけで、
場合によっては、いつまでも議論が平行線をたどるということもあります。
そうしますと、その議論は当然深まらないということになるわけですね。
ですが最終的にですね、二人の人が一方は「Aである」、もう一方は「Aではない」という主張をしたときに、
その根拠が、どちらが説得力があるかということを比べますと、
より説得力のある方が妥当だろうというふうに考えられるわけですよね。
ですので、そういう場合は決着がつきます。
しかし、どちらも同じぐらいの説得力しかない場合は、
このどちらもがもっともらしいということになりますので、
決着がつかず、それ以上深まらないということになってしまうわけです。
論証切り崩し型の反論
ではもう少しきちんとかみ合った議論、先に進めるような議論をするにはどうすればいいでしょうか。
それが2番目の反論の仕方です。
すなわち相手の主張を支える論証、これを問題にするんですね。
そしてそれを切り崩すということです。
つまりそれが成り立たないというふうに主張するわけです。
これを論証を切り崩すということで、「論証切り崩し型」の反論というふうにここでは言っておきたいと思います。
具体的に言いますとどういうことかというと、相手が「Aである。なぜならばBだから」というふうに言ったとします。
先ほどはそのAであるというのの反対の主張を、つまり「Aではない」という主張をするという形で反論しましたが、
ここではこの根拠の方のですね、「なぜならばBだから」という方を相手にしたいと思います。
これ「Bだから」と言っているんですけれども、この「Bだから」というのは成り立たない、つまり「Bではない」ということをここで主張する。
そうしますと、その根拠が否定されるわけですから、したがって「Aではない」ということになっていくわけですね。
こうしますと、論点はBが正しいのか、そうでないのか、「Bか否か」ということがですね、論点となっていくわけです。
そうしますと、この論点をめぐって議論が進んでいき、その議論が深まるということになるだろうと思うんですね。
先ほどは2人の議論がですね、交わらず、平行線をたどってしまって、いつまでも決着がつかないということもあり得ると言いましたが、
この相手の論証を切り崩すという形で相手に反論しますと、相手もですね、それを無視はできないわけですね。
ですので、こっちが「Bではない」というふうに言ったらば、相手は、「いや、Bだ」ということで返してくるだろうと思うんですね。
じゃあ、どっちが正しいんだと。Bなのか、Bではないのか、ということで議論が深められていくということになると思います。
因果関係による論証への反論
【スライド3】ではここでは、今言いました論証を切り崩し型の反論の仕方について、いくつかの論証パターンがありますので、それぞれに反論の仕方を説明していきたいと思います。
まずはこういう論証パターンです。すなわち因果関係、因果関係というのは原因から結果を導き出すそういう関係ですね。
Aという原因があるとBという結果が起きるという、そういう因果関係、これを根拠とするような論証に対して反論するときのやり方です。
これはですね、このAだからB、Aが起こればBが起こるという因果関係を切り崩せばいいわけですよね。
ですので、そういう因果関係は成り立たないんだということを言えば切り崩せるわけですが、これには2つの方法があります。
1つは、B以外の結果もある。AだからBというふうに言いましたけれども、AだからといってBだけが起こるわけではない。
B以外のCDEF、いろいろ起こるんだと。だからBだけを取り上げるというのはちょっと視野が狭いんじゃないかと。
それだけで判断していいのかという、そういう指摘による反論ですね。
例えば、例としてはこんなものがあるだろうと思います。ある人がですね、オンライン授業についてこういうふうに言ったと。
「オンライン授業は通学時間を節約できるのでとても良いものだ」と。オンライン授業賛成派ですね。
こういう意見を言った人がいたとして、これに反論するにはどうすればいいかと。
ここではですね、オンライン授業という原因が通学時間の節約という結果をもたらす。
これは良い結果ですね。良い結果をもたらすので、その原因となるオンライン授業は良いものだというふうに言っているわけです。
これは因果関係による論証になっているわけですけども。
これを反論するときにはですね、この通学時間を節約できるという結果だけが生じるわけではなくて、オンライン授業をやるといろんなことが起こるわけですね。
例えばですね、友達に会えないわけですから、対面でやっていれば友達にちょっとわからないところを聞くとかですね、そういうことができるわけですけど、
友達の助けを受けにくくなるわけですね。
そうしますとちょっとつまずいてしまうともうわからなくなってしまうというようなこともあるので、つまり悪い結果をもたらすので「オンライン授業は友達の助けを受けにくいので悪いものだ」と。
こういうふうに逆の結論を導くこともできるということですね。
こういう結果の方で他の結果に注目するというやり方があります。
もう一つはですね、Aが原因だったわけですけど、Aという原因からBという結果が起こるということですけども、A以外の原因もあるということを指摘することによって反論することもできます。
例えばある人がこう言ったとします。
「オンライン授業は友達と会えないので孤独だ」と、「寂しい」と。
これよく聞かれたことですけどね。
オンライン授業になって家にこもって誰にも会わないでパソコンの画面だけ見ているととても孤独だと気分が落ち込んでいく。
そういうことはよく言われたわけですけど、でもこれはオンライン授業が原因なんでしょうか。
ここではそういうふうに言ってるわけですね。
オンライン授業が原因となって友達と会えないということが起こり、孤独ということが起こってくる。
つまり諸悪の根源はオンライン授業みたいに思われているわけですけども、本当にそうだろうかと。
孤独という結果をもたらしたのは、それはオンライン授業というよりも登校禁止となったと。
つまりコロナをまん延させないために人と会う機会を減らす、そのために大学が閉鎖される登校(禁止)となったと。
そのことが孤独をもたらしたのであって、オンライン授業というのは関係ないんじゃないかと。
オンライン授業というのは授業を何とか登校しないでも受けられるようにするための方法であって、孤独と直接因果関係があるものではない。
だからオンライン授業そのものが悪いわけではないんだ、こういう主張もできるかと思うんですね。
つまりあることからあることが起きるというふうに言ったときの、本当にあることが原因なのかどうか、ここを吟味して、
実は別の原因があるんじゃないかということで反論するという、そういうことが可能なわけです。
ですので、因果関係による論証だなというふうに論証パターンを見抜きましたらば、その原因と結果と両方についてもう少しいろいろ考えてみて、
反論できるところはないか、そこを考えてもらうといいかと思います。
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