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家族 中原中也
朝な朝な東の空の紫色の雲の中に 一つの家族がありました。
まず、おばあさんが目を覚まし 家中のお掃除を始めます。
ちょうどその時、女中は台所でかまどの下を焚きつけています。 おばあさんはお掃除が好きで大好きで
時たま女中がお掃除をしようものなら すぐまた自分がやり直すというふうでした。
と言って、このおばあさんは何もそれ以上に ジャケンだというのでもなく
難しやでもないのでした。 そういうわけで、朝な朝な
この家ではほうきの音がするときに 台所ではかまどの中でとろとろと火が燃えているのでありました。
まもなくこのうちのお母さんは目を覚まして 兄弟の前で神を言います。
子供は床の中で目を覚まして その兄弟のある隣の部屋で
お母さんが頭の生地をきれいにするために使う布が 小さな金だらいの中の熱いお湯につけられては絞られるときの
お湯のしずくの音を聞いています。 やがてお父さんが目を覚まして
咳払いや煙草盆の音を立て始めると 急に家中活気を停止してきます。
空を渡っていくカラスの訂正までが 急にテンポを早めるように思われました。
やがて歯を磨いて ご飯を食べて洋服を着ると
子供は学校にお父さんはお役所へ行くのでありました さて
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その学校がどこにあるやら そのお役所がどこにあるやら
それは雲の中のことでわかりません だが朝な朝な東の空の紫の雲の中に
このお家があるということは確かで みなさんがやがて大きくなって
みなさんのお父さんも亡くなり おばあさんは言うに及ばず
お母さんも亡くなって みなさんが今度はお父さんになったときには
それが本当だとわかるのです