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懐中時計 夢野久作
懐中時計がタンスの向こう側へ落ちて 一人でチクタクと動いておりました。
ネズミが見つけて笑いました。
馬鹿だなぁ。誰も見るものはないのに、何だって動いているんだえ。
人の見ない時でも動いているから、いつ見られても役に立つのさ、と懐中時計は答えました。
人の見ない時だけか。または、人が見ている時だけに働いているものは、どちらも泥棒だよ。
ネズミは恥ずかしくなって、こそこそと逃げていきました。