シェア90%を超えるともいわれる、高性能半導体向けの層間絶縁材ABFの開発を牽引された味の素社長、中村茂雄さんの言葉にイノベーションの真髄を感じました。
曰く、
「まずこのABFの開発でですね、よく聞かれたのが、なぜ食品会社でこんなにいいものが作れたんだ、という質問なんですね。
実はこの電子材料の領域で、この層間絶縁材というのは非常にたくさん使いますので、室温でしか保管してくれなかったんですよね。
直射日光が当たらない倉庫に保管するっていうのが当時の常識でした。私が開発した材料っていうのは室温で3日間しか持ちませんでした。冷凍保管必須です。
私どもは冷凍食品部門を持ってましたので、物流的にも倉庫的にもですね、冷凍というハードルがまずあまりなかった」
そして、
「ここで必要とされてたのは性能だったんですよね。
基板メーカー様も、冷凍庫も冷蔵庫も導入してくれまして、室温で2日で使い切るプロセスを作ってくれました。
今では層間絶縁材のそれが常識になってます。冷凍保管で使い切る。これが常識に変わりました。
常識にとらわれていたんでは、これだけ性能の良いものは作れなかったと思うんですね。そこではシンクアウトサイドボックスが必要だったと思います。」
ここから私は思いました。
1、ゴールを、常識に合わせない
2、異業種が、武器になる
3、非常識は、新しい常識になる
1、ゴールを、常識に合わせない
私はイノベーションを支援する際に、とにかく真の課題を見つけ出すことを、徹底的にやっていきますが
その真の課題の周りには、たくさんの常識と言われる壁があって、それを乗り越えない限り、真の課題には到達できないということがよくあります
それは、人が持っているバイアスだったり、商習慣だったり、規制やルールだったり、簡単には越えられない壁があるからこそ、その課題はこれまで解決されずに残っているのだと思います
その真の課題を見つけ、その解決というゴールに到達するためには、あらゆる常識を突き破らなければならない、ということを
まさに、この話は教えてくれているなと思いました
常識の世界では「室温で3日しか持たない」。通常であれば、これは商品にならないと考え、室温で長く保存できる材料を作ろうとするのではないでしょうか。
真の課題に到達し、そして突き破るためには、ゴールを常識に合わせない、それを実例を持って教えていただいた気がしました
2、異業種が、武器になる
イノベーションの世界では、越境という言葉がよく使われますが
人として越境して、新しい出会いやセレンディピティを手に入れるという言い方もありますし
企業自体が、これまでの業界の枠を超えて、新しい領域へ踏み出すということも含まれていると思います
越境によって、これまでの事業で培った強みである技術やスキル、ノウハウを別業界へ展開するのは、いうが易し行うは難しだと思います
今回のお話は、まさにその越境させるビジネスとしては、まずは技術的な強みを活かした商品開発というところではあるのですが
技術だけでなく、保管や物流まで、別事業で培った強みが新しい事業の競争力になる。まさに異業種だからこそ生まれた、強みの横展開だと感動しました
それをもともと計算して展開されたのかどうかはわかりませんが、異業種だからこそ、同業者には持ちにくい競争優位性を持った展開のお手本のようなお話だと驚愕しました
3、非常識は、新しい常識になる
番組の中では、当初、この技術は、そんなに注目されていなかったとのことでしたが
圧倒的なペインの解消をできる方法になっていたからこそ
周辺の企業がこれまでのやり方を変えてでも、これを使いたいという常識に変わっていったのだなあと思いました
そういう意味では、これまでできなかった、圧倒的な真の課題、そこにある大いなるペインを解消するゴールを達成できるものであれば
これまでの常識はひっくり返る
ということを、身をもって教えていただいたと思いました
面白いのは、常識をひっくり返したイノベーションほど、成功した後には、それが当たり前になってしまうことです。だから私たちは、それがかつて『非常識』だったことさえ忘れてしまう。
だからこそ、『常識は変えられる』という事例を語り継ぐこと自体が、イノベーションのマインドセットをつくるのだと思います
中村さんの言葉を借りれば、シンクアウトサイドボックス。
それは、常識という箱の中で答えを探すのではなく、箱の外に出て考えられるか、ということなのだと思います
一言でいうと、シンクアウトサイドボックス・ノベーション。
今日の非常識は、明日の常識になる。
そんな話をしています。
参考:テレビ東京『カンブリア宮殿』2026年8月20日放送「驚異の大進化! 味の素 世界攻略の舞台」
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