舞台『イェルマ』の脚本家、オノマリコさんの言葉に、人が生きる意味について、深く考えさせられました。
曰く、
「多くの場合、登場人物への共感は演出する上で大きな原動力になりますが、私は当初イェルマに共感ができませんでした。
でも、それがなぜかを深掘りしていくと、どうやらイェルマの中に惨めな自分自身を見つけたからだと気付いたんです。
私自身も子どもがいません。いくら仕事を持ち、自立して生きている自負があっても、家庭を築いていないと『一人前じゃない』みたいな考えがこびりついている。
そうした価値観が根深くあるこの社会に生きていると、『どこまでいっても自分は無価値であると考えてしまう』人はまだまだいるのではないか……。
このことを念頭に、イェルマを構築してみたらどうなるか、そして『自分は存在価値がない』と罪悪感を感じてしまう社会構造に思いを巡らせ、ここを念頭にイェルマを再構築してみようと思ったんです。」
私は思いました。
1、共感できない違和感を大切にする
2、自分の中の「正解」を疑う
3、条件付き自己価値をピボットする
1、共感できない違和感を大切にする
オノマリコさんが、最初、イェルマに共感できなかったということは、私も良くわかるなあと思いました。
「自分には存在価値がない」と考えてしまうことには、私は常々「誰もが創造者である」と言っているので、全く反対の考え方なので、少し違和感があるなあと思ってました。
だから、もうこの作品は見ない、という形で切り捨てることは簡単ですが、でもこの違和感はなんなんだろうと、あえて切り捨てずに、切り込んでいくことが、新たな気づきを得るためにも、もっと言えば、イノベーション活動においても、とっても大切なんだよなあと、改めて思わせて頂きました。
それは、ある意味、自分の中にある、正解って、本当に正解なの?と、違和感を自分に向けてみること。
その上で、改めてフラットに話を聞いてみて、その違和感の正体や、実は共感できる部分があるんじゃないかを探ることが大事と思いました。
2、自分の中の「正解」を疑う
「生産性のない人には価値がない」とは、全く思いませんでしたが、私自身、独身で子供もいないので、オノマリコさんの「家庭を築いていないと『一人前じゃない』みたいな考えがこびりついている」という言葉には、とても共感しました。
誰に言われたわけではありませんが、「こう生きることが正解」で、自分はそうではないかもなあ、みたいな感覚をふと持つことがあります。
社会心理学者のマイケル・ウェンゼルとリディア・ウッディアットは、社会規範とは、
「人は何をすべきか、何をすべきでないかについて、社会で共有されている見方」
だと述べています。
そして、その社会規範は、
「内面化を通じて、人の行動に強い影響を与えうる」
と指摘しています。
つまり、社会の「こうあるべき」が、いつの間にか、自分自身の「こうあるべき」になっていく。
大切なのは、社会の価値観が存在する、ということよりも、それがいつの間にか、自分自身の価値観になってしまう、ということかと思いました。
だからこそ、「なぜ私は、そう思っているんだろう」と一度、問い直してみて、自分の中にある「正解」は、本当に自分自身がパッションの源から選んだものなのか、確認することが大切な気がしました。
イノベーション創発も実は同じで、世の中の常識を疑うことだけではなく、自分の中に入り込んだ常識を疑うことからも始めると、強いイノベーションへの問いが生まれる。そんなことかもしれないなあと思いました。
3、条件付き自己価値をピボットする
心理学者ジェニファー・クロッカーとコニー・ウルフは、「条件付き自己価値」という考え方を提示しています。
「人は、自分の価値を置いている領域で成功すると自尊感情が高まり、失敗すると低下する。」
つまり私たちは、知らないうちに、「こうなれたら、自分には価値がある」という条件を、自分自身につけてしまうことがあるということです。
結婚できたら。子どもを持てたら。仕事で成功したら。誰かから認められたら。何かを成し遂げられたら。。。
そしてクロッカーらは、その後の研究で、
「失敗がもたらす学びのために、失敗を受け入れる意欲」
が、より良い自己調整につながると述べています。
つまり、「できたか、できなかったか」で自分の価値を決めるのではなく、それを「何を学べるか」に変えていく。
これは、まさにイノベーション推進と同じで、例え思った通りに行かなくても、そこから得た失敗を学びとして、次へのピボットへと繋げていく。
そうすると「条件付き自己価値」は、さまざまな挑戦のステップ、学びのステップ、次への自己価値へのステップと、どんどんピボットしていくことができる。
自己価値の無限ピボットができていくのではないかと思いました。
その挑戦が、自分の存在価値を取り戻すための冒険になるのかもしれない。
一言で言えば、
存在価値を取り戻すノベーション
そんな話をしています。
参考
舞台『イェルマ』
世田谷パブリックシアター
マイケル・ウェンゼル、リディア・ウッディアット
「社会規範の力と落とし穴」
『アニュアル・レビュー・オブ・サイコロジー』2025年
ジェニファー・クロッカー、コニー・T・ウルフ
「条件付き自己価値」
『サイコロジカル・レビュー』2001年
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