明和電機の土佐信道(とさ のぶみち)社長社長のお話に、イノベーションスピリッツを感じました。
曰く、
「工業製品をアートにするっていうのは、もうずっと現代美術でやられてるんですが、アートを工業製品にするという、逆ベクトルは誰もやってなかったんですね」
「新しい常識を作ることによって、今の常識を変えていきたい」
「今すでにあるものの、意外な合体によって新しい価値を出す」
「孫の代まで遊べるとか、楽しみが増える。理想はそれが世界平和になれば一番いい」
私は思いました。
1、逆ベクトルに「まだない」がある
2、意外な合体が新しい常識をつくる
3、「面白い」に大義を重ねる
1、逆ベクトルに「まだない」がある
みんなが同じ方向を向いている時に、「逆はどうだろう?」と問い直すことができるか?という問いを突きつけられた気がしました。
ミラノ工科大学のステファノ・マジストレッティ准教授らは、2025年、経営学74本、心理学67本、社会科学47本、合計188本の研究を統合し、イノベーションにおける「問題の捉え直し」を研究したそうです
そこで示されたのは、答えを探す前に、そもそも「何を問題として見るのか」を問い直すことの重要性です。
問題を捉え直すには、通常とは異なる視点を探索し、既存の枠そのものを変える創造性が必要だと整理されています。
明和電機の「逆ベクトル」も、
「工業製品をどうアートにするか」
ではなく、
「アートを工業製品にしたらどうなるか」
と、関係性そのものを反転させています。
これはまさに、問題の枠を捉え直す一つの方法なのではないでしょうか。
常識の逆側に、まだ誰も見つけていない可能性がある、ということを、勇気を持って問い直し、そしてそれを実行できるか
明和電機の素晴らしさはそこにあると思いました
2、意外な合体が新しい常識をつくる
「今すでにあるものの、意外な合体によって新しい価値を出す」
これは、経済学者ヨーゼフ・シュンペーターの「新結合」と重なります。
シュンペーターが、イノベーションを、
「新しい組み合わせを実行すること」
と捉えたのは有名ですが
この「新しい組み合わせ」を実証的に研究したのが、当時ハーバード大学経営大学院のリー・フレミングという話があります
フレミングは2001年、米国特許17,264件を分析し、慣れていない要素や新しい組み合わせを使った発明ほど、平均的には成果が低くなりやすい一方で、結果の振れ幅が大きくなり、失敗だけでなくブレークスルーも生まれやすくなることを示したとのことです
つまり、
意外な組み合わせは、失敗も増やす。
しかし、ホームランの可能性も増やす。
つまり、その失敗が増えることを許容できかどうかに、かかっているということかと思いました
どんどん失敗して良いんだよ、と口でいうこととは簡単ですが、それに伴う評判、評価、出世への道のり、という仕組みがないと、誰もやらなくなってしまう
そこにイノベーションの秘密の一つがあると思いました
3、「面白い」に大義を重ねる
土佐さんが「孫の代まで遊べる」「世界平和になれば一番いい」と言われたことに関して
私は、イノベーターリップルモデルとの共通点を感じました。
リップルモデルでは、まず一人の「面白い」「やってみたい」という内発的な思いから始まり
そこに、
「誰のために」
「何のために」
という大義が加わることによって、その思いは自分だけのものではなくなり、他者が共感し、参加できる意味を持ちはじめ、その波紋がさらに広がっていく
実は、この関係と同様の研究が、ペンシルベニア大学のアダム・グラントさんと、ノースカロライナ大学のジェームズ・ベリーさんが行っていました
二人は、90人の軍施設職員、111人の水処理施設職員、さらに100人の大学生を対象とした3つの研究を行って
「面白いからやる」という内発的動機が高く、さらに「誰かの役に立ちたい」という他者志向の動機も高いグループの創造性評価は4.96。
一方、内発的動機は高くても、他者志向の動機が低いグループでは3.81でした
なぜ、この違いが生まれるのか。
グラントらが注目したのが、相手の立場に立って考えることで
「誰かの役に立ちたい」と思えば、その人が何を求めているのか、何に困っているのか、何なら本当に喜んでもらえるのかを考えるようになる。
その結果、単に奇抜なだけのアイデアではなく、
「新しい」かつ「役に立つ」アイデアを生み出しやすくなる。
ということでした。
「面白い」という自分の内側から湧き出る力「パッション」に、「誰のために」「何のために」という大義が重なる。
すると創造は社会に開かれ、共感する仲間が現れ、その人たちがまた次の波紋を生み出していく。
まさにイノベータリップルモデルと符合する関係性だなあと思いました
常識を逆のベクトルから眺めて
意外な組み合わせを試行錯誤しながら
面白いと思ったものが、誰かのためを目指し始めた時に、イノベーションが巻き起こる
一言で言うと
逆のベクトルノベーション
そんな話をしています
参考:
・NHK「100分de名著」アンドレ・ブルトン『シュルレアリスム宣言』第4回「シュルレアリスムと未来」2026年8月24日(月)放送 https://www.web.nhk/tv/an/meicho/pl/series-tep-XZGWLG117Y/ep/QMWWJ755MR
・ステファノ・マジストレッティ/クリスティーナ・トゥ・アン・ファム/クラウディオ・デレラ
「イノベーションのための問題設定の創造的プロセス―統合的レビューと研究課題」
『製品イノベーション・マネジメント誌』2025年
・ヨーゼフ・シュンペーター
『経済発展の理論』―「新結合」の概念
・リー・フレミング
「技術探索における組み合わせの不確実性」
『マネジメント・サイエンス』2001年
・アダム・グラント/ジェームズ・ベリー
「他者の必要性は発明の母―内発的動機、他者志向の動機、相手の視点に立つことと創造性」
『アカデミー・オブ・マネジメント・ジャーナル』2011年
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