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今日は、肺癌と神経の話をしたいと思います。 人を含め、多細胞生物っていうのは、たくさんの細胞でできているんですが、
ただ細胞が集まっているだけのものではなくて、 細胞間で連絡を取りながら、細胞同士が協調して生命として機能するようになっているんです。
その一環として、それぞれの細胞が勝手には増えないようにする仕組みがあります。 細胞が無秩序に増えると臓器の機能に異常が生じてしまうので、そんな仕組みがあるわけなんですが、
この仕組みがおかしくなったのが癌です。 ですから、癌っていうのは、周りを無視して増える細胞の塊っていうイメージかもしれません。
でも、癌細胞が別の細胞とコミュニケーションを取って、 その結果、周囲に増殖しやすい環境を作って成長するっていうことがわかってきています。
この環境っていう話では免疫が特に重要です。 私たちの体には、変な細胞ができたらそれを見つけて排除する仕組みがあって、免疫細胞の一種、T細胞はその中心的な役割を果たします。
逆に言うと、癌が大きくなるためにはT細胞の攻撃を避ける仕組みが必要になるんです。 癌細胞は巧みに免疫の働きにブレーキをかけたりするんですね。
癌細胞と他の細胞のコミュニケーションなんですが、最近特に神経細胞との関係が注目されています。 神経が癌細胞の塊、腫瘍の周りにあって、神経の活動そのものが腫瘍の成長や転移に影響し得ることが次々と示されています。
ここで言う神経は、脳の中の神経細胞だけではありません。 様々な臓器の中にも痛みとか炎症を感じる感覚神経が伸びてますし、これら臓器の働きを調節する神経というのもあります。
癌細胞はそういう神経の配線の近くで育つわけなんです。 例えば2024年の論文では、感覚神経が乳がんの転移に関わることが報告されています。
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乳がんの細胞が感覚神経を過剰に働かせて、伝達物質を放出させるんですね。 そしてこの信号が転移を引き起こすという仕組みが示されたんです。
さらに2025年には、胃がんが神経と直接つながっているということも示されました。
ここでは、がん細胞により神経からCGRPという伝達物質が放出されて、これによりがん細胞の増殖が促進されるという結果でした。
ですからがん細胞が存在する部分まで神経が伸びていて、がん細胞により神経細胞が働かされると、その場に伝達物質が神経細胞から出てくる。
それでその刺激によってがん細胞が増殖するという仕組みが見つかっているわけです。
ですからがんは神経と直接つながって、神経ががんを育てるというようなイメージが見えてきます。
しかし最近、さらに複雑で予想外な相互作用が見つかりました。
今日はがんによる神経回路の乗っ取りについて紹介します。
ホットサイエンティストへようこそ、さとしです。
今日紹介するのは、ハオハン・ウェイラによる研究で、2026年2月にネイチャーに発表されたものです。
この研究ではマウスを用いて肺がんについて研究を行っています。
肺がんは大きく分けて小細胞肺がんというのと、非小細胞肺がんの2種類があります。
非小細胞肺がんが多数派で割合としては多いのですが、小細胞肺がんの方が進行が早くて危険であるというのが特徴です。
2025年の別のグループの研究で、小細胞肺がんでもここまで話したような神経細胞との連絡があることが報告されていました。
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連絡している神経細胞を働かなくすると、がんの成長が抑制されることから、このタイプの肺がんでも神経の働きによりがんの増殖が促進されることが示されています。
もう一つのタイプの肺がん、非小細胞肺がんで一番多いのが肺栓がんです。
今回の論文ではこのタイプのがんについて調べています。
まずどのようにしてマウスでがんを引き起こしたかですが、マウスに肺栓がんでよく見られる遺伝子変異を導入します。
しかしこの異常はいつでも働くわけではなくて、スイッチを入れたときだけに働くように細工がしてあります。
この状態でがん下のスイッチをオンにする遺伝子をウイルスを使って導入するという仕組みをとっています。
この引き金となるウイルスを器官から導入することによって、肺だけでがんができるという仕組みになります。
このモデルを使って肺がんのところにある神経細胞を調べていくんですが、今回の研究に関係ある神経についてお話しします。
私たちの体の中には、意識しなくても体の働きを自動的に調節している神経があって、これを自律神経と呼びます。
心臓の鼓動、血圧、消化管の運動などは、自分で考えて動かしているわけではないんですが、自律神経が自動的に調節しているんですね。
自律神経は交換神経と副交換神経の2つからなります。
これらは脳の方から何本も神経が伸びていて、様々な臓器に両方が到達しています。
多くの場合、交換神経と副交換神経は臓器に対して反対の作用を持っていて、それでバランスを保っているわけなんです。
交換神経は体を活動しやすい状態にする神経です。
例えば、緊張している時に強く働いて、心臓の鼓動を速くしたり、血圧を上げたり、気管子を広げたりして、体がエネルギーを使いやすい状態にします。
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これに対して副交換神経は体を休息状態にする神経です。
リラックスしている時に強く働いて、心拍数を下げたり、消化を進めたりします。
この副交換神経なんですが、主要な経路が瞑想神経というものです。
その名の通り、体中をぐにゃぐにゃ曲がりながら様々な臓器に到達する神経があるんですが、この瞑想神経の一部が副交換神経の神経、つまり脳の方から様々な臓器に情報を送っている神経ということになります。
瞑想神経の面白い点は、脳から臓器に命令を出すだけではなくて、臓器の状態を脳に伝える感覚神経も多いことです。
だから副交換神経とは逆の方向、体から脳へ情報を伝える神経もたくさんあるんですね。
こういった神経というのは、臓器の状態を脳に伝えるセンサーということになるわけです。
瞑想神経は肺にも到達しているんですね。
それで今回の研究では、がんと瞑想神経の関係をまず調べています。
先ほど話した肺がんモデルのマウスを調べたところ、確かにがんの中に神経の繊維が入り込んでいることが確認されました。
注目すべきことに、がんがある場所の方が、周囲の正常な肺の部分よりも神経の密度が高いことがわかりました。
このことから、がん細胞は神経が伸びてきやすい環境を作っているということが考えられます。
さらに遺伝子解析を行って、瞑想神経の中でも特定のタイプの感覚神経ががんへ連絡しているということがわかりました。
というわけで、ここまででまず特定のタイプの感覚神経が肺がんまで伸びているということがわかりました。
最初に話したように、すでに多くのがんで神経細胞とがん細胞が連絡していること、神経細胞からの刺激によってがんの増殖や転移が促進されることが示されています。
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そこで、この特定のタイプの感覚神経を働かなくすると肺がんはどうなるかを調べました。
実験としては、遺伝的なツールを使ってこの感覚神経だけを毒素で殺すということをやっています。
もしこの感覚神経が肺がんの増殖に関わっているなら、この神経を除去すると肺がんが小さくなるのでは?という考えです。
実際これをやってみたところ、感覚神経の除去により肺がんが小さくなっていました。
ではなぜ腫瘍が小さくなるのか?というところです。
免疫細胞を解析したところ、感覚神経が除去されると肺の中にT細胞がより多く入り込むようになっていました。
T細胞はがん細胞を認識して攻撃する重要な免疫細胞です。
ですから感覚神経が働いているときは、T細胞による肺での局所的な抗がん作用が弱まっているという可能性が考えられます。
これまでの多くのがんと神経の相互作用では、がんによって働くようになった神経が何らかの物質を放出させて、それががんのある場所で働いてがんが増えるという局所的な働きが知られていたわけです。
今回の肺がんのケースも同様ではないかと、まずは思いつきます。
過去の研究では、CGRPという物質が神経から放出されて、それでがんが増えるというケースがあったんですが、今回肺がんと連絡していた感覚神経は、CGRPを放出するタイプの神経であるということがわかりました。
そうなると、CGRPが肺がんの増殖を促進しているのではないかと考えられます。
この論文では次に、実際そうなのかを調べるためにCGRPの働きをブロックする実験を行いました。
そういうことをする薬物があるんです。
しかしCGRPの働きを抑えても、腫瘍の大きさも免疫の状態もあまり変わりませんでした。
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ですから今回のケースでは、神経から放出されるCGRPは関係がなさそうだということになります。
したがって、これまで知られていたがんと神経の協調のメカニズム、がんの近くで完結する局所の仕組みとは違う仕組みが、ここでは働いている可能性があります。
では、この感覚神経はどこで作用しているのでしょうか。
これを調べるためにヒッシャラは、瞑想神経の反対の端を調べます。
瞑想神経の感覚神経は肺などのいろいろな臓器から脳まで情報を伝えています。
ですから脳の方につながっているわけなんですね。
脳の中のどこにつながっているかですが、いくつか場所を経由して交換神経につながっているんです。
先ほどの話にあったように、交換神経は心臓だったり血管だったり、さまざまな臓器を調節しているんですが、その指令塔に当たる部分に感覚神経が出力をしているんです。
今回の論文では、この交換神経の指令塔に当たる部位について調べていきます。
まず肺がんのマウスでは、この部位の活動が上昇しているということがわかりました。
でも感覚神経の働きを止めると、この活動の上昇は弱まったんです。
さらに、この交換神経の指令塔の場所を人工的に抑制する実験も行っていました。
これを行うと、がんの増殖が遅くなることも示されたんです。
さらに、この研究では交換神経そのものが関与しているということも実験的に示しました。
以上の結果から肺がんがあると、感覚神経・脳・交換神経と順に伝わり、それによってがんがさらに増殖するということがわかったわけです。
ですから、これまでの局所で完結するがんと神経細胞の相互作用とは全く違う仕組み、肺がんからの情報が一端脳まで伝わり、それがまた別の経路で肺まで伝わってがんの増殖が促進されるという仕組みが示されたわけです。
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最後に交換神経がどのようにがんを増やすのかを検証しています。
交換神経はノルアドレナリンという神経伝達物質を放出することが知られています。
それから先ほど話したようにT細胞ががんを攻撃するということでした。
ここからノルアドレナリンとT細胞の関係を調べていったんですが、結論だけ述べると、まずノルアドレナリンがマクロファージという別の免疫細胞に作用します。
そしてマクロファージがT細胞の働きを抑制するというふうに作用することが明らかになりました。
ですからすべての結果をまとめると、まず肺がんがあるとそこに感覚神経が伸びてきます。
この感覚神経が働くんです。
これが脳の中まで情報を伝えて、そこから交換神経を通ってまた肺まで情報が戻ってきます。
交換神経からノルアドレナリンが放出されて、これがマクロファージに作用して、これによってT細胞の働きが抑制されます。
T細胞は通常はがん細胞を攻撃しているんですが、この仕組みによってがん細胞を除去する働きが弱くなるのでがんが成長する。このような仕組みが明らかになりました。
さて、この研究はマウスでの結果です。この仕組みは人でも起きているんでしょうか。
直接の検証は行っていないんですが、状況証拠が挙げられていました。
人の肺がんでもがんの中に神経細胞が存在していそうだということが、遺伝子発現解析から示されているんですね。
しかも、感覚神経や交換神経が多い場合はT細胞が少ないことを示唆するデータが存在するということです。
その、瞑想神経の感覚神経は肺の状態を脳に伝えて、交換神経を通じて全身の生理状態を調節するためにあると考えることができるんですね。
交換神経は肺へも伝わるわけなんですが、これが通常は何の役に立っているかというと、
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例えば肺で炎症などがあるときに、その炎症を抑える、つまり免疫の働きを抑制する、みたいな働きをしていると考えることができるんです。
今回の研究が示しているのは、がんがこの回路を乗っ取ることでがんの増殖を引き起こしているということです。
通常は別の機能を持つ神経回路をがんを増殖させるという、別の目的のためにハイジャックしているという感じです。
がんっていうのは体内で異常なものが増えるっていう点で、病原菌とかウイルスと似ていると言えます。
実際免疫の標的にされているっていう点も同じですし、免疫を回避することで増殖するのも同じなんです。
病原体は感染した動物、宿主の細胞とか分子を巧妙に利用していますし、神経をコントロールする例などもあります。
病原体はこういった仕組みを長い進化の過程で獲得してきました。
うまく感染して増えるものだけが生き残ってきたわけです。
でもがん細胞では通常は別の個体には感染しないので、病原体が減ってきたような何千何万年の進化とは性質が違います。
しかし今回の研究では、がん細胞にも病原体で見られるような巧みに神経回路を乗っ取るような仕組みがあることが示されました。
がん細胞も選択は受けているんですが、あくまでも動物一個体が生まれてから死ぬまでの間での選択です。
これによってこのように巧みに動物の中の回路を利用する複雑な仕組みが生まれるのは興味深い点だと思いました。
じゃあ今日はこの辺で終わりにしたいと思います。
最後までお付き合いありがとうございました。