乳がんの現状と治療方法
女性で最も多いがんは乳がんです。
女性の10人に1人は乳がんになると言われていて、身近ながんの1つなんです。
年を取れば取るほど発症しやすくなるっていうのは、他のがんと同じなんですが、
比較的若い世代でも見られるがんで、30代、40代での発症が乳がん全体の2割程度を占めています。
そしてこの年代で、がんによって亡くなる人の中では乳がんが最も多いんです。
乳がんの治療では、手術による切除が行われることが大半を占めています。
また手術の前後に抗がん薬による治療が行われることがあって、
手術の前に抗がん薬を投与するのを、ネオアジュバント療法と呼びます。
先に抗がん薬を投与することで、がん組織が小さくなって、乳房全体の切除ではなくて、
温存手術が可能になったり、転移のリスクを抑える効果が期待されるので、こういった治療が行われます。
月経周期と抗がん薬の効果
で、用いられる抗がん薬ですが、乳がんのタイプに合わせたものが使われます。
最も多いタイプがホルモンに反応してがんが成長するタイプで、ホルモン需要帯陽性乳がんと呼ばれます。
このタイプではホルモンの働きを抑制するような薬が使用されます。
これに対してホルモンに反応しないタイプの乳がんでは、細胞の増殖を抑制するという従来型の抗がん薬が使われます。
このネオアジュバント療法では、手術の前に数ヶ月にわたって何度か抗がん薬が投与されるのですが、その効果には個人差が大きいことが知られています。
抗がん薬だけでがんが完全に見られなくなる場合もあれば、あまり効果が見られないこともあります。
乳がんのタイプが同じであっても、このような効果の違いが見られるんです。
そしてネオアジュバント療法で効果が出なかった場合には、その予後もよくありません。
ですので、この効果の多様さの原因を突き止めて、すべての人で抗がん薬の大きな効果がもたらされるようにできれば、多くの人を救えるわけです。
この多様さの原因ですが、もちろん純粋に個人の差である可能性があります。
患者ごとに何か分子レベルでの違いがあって、それによって薬の反応性が違うんだけど、それが何かまだわからないから結果がバラバラに見えるっていうもので、きっとこれもあると考えられます。
でもそうではなくて、これはタイミングの問題ではないか、そんな仮説を立てて行った研究を今日は紹介します。
ホットサイエンティストへようこそ。佐藤です。
今日紹介するのは、オランダがん研究所のローラ・ボルネス・ラニオル研究で、2024年10月にネイチャーに発表されたものです。
この研究では、月経周期に注目しています。月経周期は、女性の体が妊娠に備えて一月前後で繰り返すホルモンとそれに伴う身体的変化の周期です。
月経周期はいくつかの期間に分けられます。
卵胞器には卵子が準備され、その後、肺卵が起きます。
胞体器にはプロゲステロンというホルモンが分泌されて、子宮内膜が厚くなって、受精卵が着症しやすい環境が作られます。
そして妊娠が成立しなかった場合には、この内膜が剥がれ、血液と共に排出されるんですけど、それが月経なわけです。
月経周期は胸にも影響があって、乳腺組織も性ホルモンの影響を受けて、周期的な変化が起きます。
このことから乳がんも月経周期の影響を受けるのではないかと論文の筆者らは考えたわけです。
この論文ではまずマウスを用いた実験を行っているんですが、マウスにも人に似たような肺卵の周期があります。
実験結果と今後の展望
出血を伴う月経がマウスにはないので、発情周期と呼ばれるんですが、卵子が準備され肺卵される発情期と、人の大体基に相当するプロゲステロンが分泌される発情間期があります。
間期の間は間で、発情期と発情期の間の期間っていう意味です。
それで発情期と発情間期で抗がん薬の乳がんに対する効果に違いはないかを調べるっていう実験を行いました。
実験対象のマウスとしては、遺伝子を導入することで人工的に乳がんになるようにした遺伝子改変マウスを用いています。
このマウスにドキソルビシンとシクロフォスファミドっていう細胞の増殖を抑制する従来型の抗がん薬を投与しているんですが、
投与するのを発情期もしくは発情間期にして、その後がん組織がどうなったかを調べています。
その結果ですが、発情期に投与した場合の方ががんが小さくなっていたということでした。
ですから、発情期と発情間期ではがん細胞の抗がん薬に対する反応のしやすさに違いがあって、発情期の方が抗がん薬によく反応するっていうことがわかりました。
人でネオアジュバント療法を行うときには、間隔を置いて何度も抗がん薬を投与します。
そうなると、月経周期とはずれてしまうっていうことも考えられるんですが、
次にマウスで繰り返しの投与をやってみてどうなるかっていうのを調べています。
人では抗がん薬による治療は月経周期を止めるっていう報告があるので、まずマウスで抗がん薬投与後に発情周期がどうなっているか調べています。
結論としては、マウスでも発情周期が抗がん薬によって止まっているっていう結果でした。
抗がん薬の効果なんですが、繰り返し抗がん薬を与えたときは、最初の投与が発情期であった場合の方が効果が高いっていうのがずっと続いていたんです。
つまり最初の抗がん薬の投与のタイミングが発情期であったときには、何らかの理由でその状態が続いていて効果が高いけど、最初の投与が発情完期のときであれば、その状態が固定されて効果が小さい状態が続くっていうことみたいなんですね。
それで結果として、発情期で最初の投与をすると抗がん薬の効果が大きいっていう、そういう結果になったんです。
じゃあなぜ発情期と発情完期で抗がん薬の感受性に違いがあるんでしょうか。
発情期はプロゲステロンというホルモンの少ない状態。発情完期はプロゲステロンの多い状態ですから、ホルモンに対する反応が抗がん薬に反応しやすいかどうかを決めているっていう可能性があります。
先ほど話したように乳がんにはタイプがあって、ホルモンに反応して増殖するものとそうでないものがあります。
それでタイプの違う乳がんについて調べてみたんですが、ホルモンに応答しないタイプの乳がんでも発情周期によって抗がん薬に対する反応性に違いがありました。
したがって、ホルモンのがん細胞に対する直接の作用は抗がん薬の効果の違いには関係ないということがわかりました。
他に発情期と発情完期の違いを色々調べているんですが、薬の効果の違いを生み出していそうな要因を3つ明らかにしています。
まず1つは血管の太さです。
発情期の方が血管が太くなってたんですね。
薬は血管を通ってがん組織に到達しますから、血管が太くなることで抗がん薬がよりたくさん作用した可能性があります。
それからがん細胞の性質自体が変わって化学物質に反応しやすくなっている可能性も示しています。
さらにもう一点注目すべきなのが免疫細胞の変化です。
抗がん薬への反応の悪い発情完期ではマクロファージと呼ばれる免疫細胞が増えているということを示していました。
乳がん治療とプロゲステロン
マクロファージは抗がん薬の効果を下げることがすでに報告されていたので、発情完期にマクロファージがたくさんあるせいで抗がん薬の効果が減っていたと考えることができます。
このようにいくつかの要因が同時に働いて抗がん薬の感受性の違いが生み出されたというのが今のところのモデルということになります。
ここまでのマウスの研究で、乳がんに対する抗がん薬の効果は、人間の下血周期に相当する発情周期のどのタイミングに薬が投与されるかによって変わるということが明らかになりました。
発情完期、人の応帯期に相当する期間だと効果が弱いのですが、最初の投与するタイミングが大事で、その後は周期が止まって効果がずっと低いままということになるということです。
では、人での乳がんはどうなのかというのが一番気になるところです。
この研究では、過去に行われた治療のデータからこの点も検証しています。
月経周期によってプロゲステロンの量が変化するわけなんですが、抗がん薬治療開始の直前に採血が行われていて、プロゲステロンの量を測定して月経周期のどこであったかが特定できた患者について調べたんですね。
プロゲステロンが少ないのがマウスの発常期にあたる乱放期の期間で、プロゲステロンが多いのがマウスの発常完期にあたる応帯期になります。
それで最初の抗がん薬の投与のタイミングでプロゲステロンが多かった人と少なかった人に分けるという形です。
さらに平成前の50歳以下の人で乳がんのタイプも同じという条件に合う人だけで比較をしていて、プロゲステロンが少ないのが17人、多いのが13人でした。
さらに重要な点として、この2つのグループでは年齢とかがんの大きさとか用いた抗がん薬の種類とか、そういう結果に重要な要因は大体マッチしていたということでした。
それぞれのグループの治療効果を見ていったわけなんですが、先ほどのマウスではプロゲステロンの少ない発常期の方が抗がん薬の効きが良かったので、もし人でも同じであればプロゲステロンの少ないグループでは抗がん薬がよく効くということになります。
結果はまさにその通りでした。
プロゲステロンが少ない時に治療を開始したグループの方が抗がん薬によってがんが大幅に減る人が多かったんです。
それからがん組織がどれだけ減ったかも比較していて、プロゲステロンが少ない人の方が減っていたんです。
また確認のために別の集団についても解析していて、こちらはトータルで25人だったんですが、同様の結果を示しています。
というわけで、プロゲステロンの量、つまり月経周期によって抗がん薬の治療効果に違いが見られるということが人でも確認されたわけです。
乳がんは比較的若い人でもなる病気で、診断される女性の30%以上は平型前です。
ですから今回の研究で示されたように、抗がん薬の開始を月経周期の特定のタイミングに合わせることで、より多くの人で高い治療効果が得られる可能性があります。
今回の研究は既にある結果からの後ろ向き研究なので、改めて綿密な臨床試験でこの効果が確認された後ということにはなりますが、将来的には多くの人の命を救う可能性のある研究だと言えます。
研究の影響と可能性
また今回の研究では乳がんを調べているわけですが、月経周期や性ホルモンは他の臓器にも影響があります。
ですから、その他の部位のがんとかがん以外の病気の薬物療法にも月経周期の影響がある可能性もあるわけで、この研究はその点も指摘していると言えます。
今日はこの辺で終わりにしたいと思います。最後までお付き合いありがとうございました。