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あの、コウモリっていうのは、かなり変わった生き物なんですね。
まず、哺乳類では唯一飛ぶことのできる動物なんです。
まあ、ムササビみたいに滑空できるものは他にもいるんですが、
羽ばたいて自力で飛ぶことができるのはコウモリだけなんです。
手の指が大きく伸びて、それを膜が覆った構造の翼を持っているんですけど、
鳥の翼とは全く違う進化の道を辿って、飛行を実現しているんです。
さらには、エコロケーションっていう超音波を使った空間認識能力を持っていて、
完全な暗闇でも高精度に障害物とか獲物の位置を把握できます。
人間には想像できないような高度なセンサを持った極めてユニークな生き物なんです。
さらには、サイズの割に長寿であることが知られていて、
同じくらいのサイズのマウスは数年しか生きないんですが、
コウモリは20から40年生きる種がいます。
こんなふうに変わった生き物なんですけど、珍しいわけではなくて、
熱帯雨林から温帯地域、さらには都市部の建物の隙間まであらゆる環境に生育していますし、
確認されているコウモリの種の数は約1400種に上り、
これは哺乳類全種のうち約20%を占めるほどの多様性なんです。
そして、人間との関係で重要なのが、
コウモリは人や家畜に感染するウイルスの出どころでもあるんです。
時々起きるエボラ出血熱の流行はコウモリに由来する可能性が高いと考えられていますし、
新型コロナウイルスについてもコウモリから始まったという説がありますよね。
コウモリはコロナ、エボラの他にも実に多様なウイルスの自然宿主、いわゆるレザボアですので、
次のパンデミックに備える上でもコウモリの存在は無視できないものです。
このようにコウモリは様々なウイルスを体内に持っているわけなんですが、
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コウモリ自身はウイルスによって病気を発症することはほとんどありません。
それでコウモリ集団内にはウイルスが存在し続けるわけです。
また、コウモリがウイルスの進化や多様性に関わっている可能性も指摘されています。
コウモリの体内でウイルスが長期的に保持されることで、ウイルスの変異が蓄積して新たな型が生まれる土壌になり得ます。
このようにしてできた新しいウイルスが人や他の動物に移動して、新たな感染症として流行を引き起こすというわけです。
通常、動物にウイルスが感染すると免疫システムはウイルスと戦うために炎症反応を起こします。
炎症というのは免疫防御の重要な過程であるのですが、免疫反応そのものがウイルス感染症の症状を起こします。
さらに炎症が行き過ぎると臓器不全やショック状態という危険な状態を招くことがあります。
しかし、コウモリにはこういった免疫反応を抑える特別なメカニズムが存在しているみたいで、ウイルスに感染しても最小限の免疫応答でウイルスをコントロールして、組織を大きく損傷することなく健康を保っていると推測されています。
ですから、免疫や炎症に関わる遺伝子に、人や他の動物とは異なる遺伝子の変化が数多く存在すると考えられてきました。
2013年にコウモリの全DNA配列が決定されます。
この解析から、確かにコウモリの免疫に関わる遺伝子が独自の進化を遂げてきた可能性が示されました。
同時にこの論文では、コウモリがウイルス体制を獲得した進化的な理由についても仮説を挙げています。
これが、コウモリは飛ぶので、結果的にウイルスにも強い体制を得たのではないかという考えです。
そもそも飛行という行動は非常にエネルギー消費が大きい行為で、このために心拍数を毎分1000回程度まで上げて代謝を高めます。
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その結果、体内で大量の老廃物や活性酸素が生じて、細胞へのストレスが増大します。
通常の動物では、このような老廃物やストレスは、炎症反応を引き起こすんです。
しかし、コウモリはこの飛行に伴うストレスを克服するために免疫調節を進化させ、過剰な炎症を回避する仕組みを獲得したというのが、この仮説になります。
こうして飛行のためにできた炎症抑制のメカニズムが、ウイルス感染時にも発揮されて、結果としてコウモリが病気を発症しにくい状態を作り上げているというのが、この仮説の考えです。
しかし、このような進化の過程というのは、実験で調べることができないので、検証するのができないというところがあります。
でも少なくとも、飛ぶことに免疫の調節が必要なのであれば、コウモリの免疫が変化したのは、飛ぶように進化したタイミングの直前、もしくは同じ時期であったはずです。
これも遥か昔に起きたことなので、その検証は難しいわけです。
しかし、ここ数年で、たくさんのコウモリの種の全DNA配列が決定され、様々な種のDNAを比較することが可能になりました。
今日はこれによって、コウモリの免疫系の進化について調べた研究を紹介します。
ホットサイエンティストへようこそ。佐藤です。
2020年、23年、25年に、複数のコウモリ種のゲノム配列を決定したという論文が発表されました。
これらの論文では、先端技術を用いて高い精度でDNA配列を決定していて、このデータから免疫遺伝子の進化が解析されています。
論文へのリンクは、小ノートへ載せておきます。
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決定されたコウモリの種には、系統的にも多彩なグループが含まれています。
こうした多様なゲノムDNAを解析すると、遺伝子の変化、特に免疫など特定の機能を変えるような重要な変化がいつ起きたのかを解析することができるのです。
その結果ですが、結論から言うと、コウモリで見られる免疫に関する遺伝子の重要な変化は、
コウモリという羽を持つ動物が生まれたとき、つまりコウモリグループが共通祖先から枝分かれしたところで起きていた、ということでした。
つまり、コウモリの飛行能力と免疫システムの特殊性は、同時期に生まれた可能性が高いということになります。
先ほどの仮説は、コウモリが飛ぶので、飛行がもたらす高い代謝による炎症に対処するために、特殊な免疫系が進化したというものでした。
解析の結果、免疫系の変化がコウモリが他の哺乳類から分岐した初期の段階で起きていたということですから、
この解析は、コウモリは飛ぶために特殊な免疫系を持っているという仮説を支持する結果だったわけです。
というわけで、コウモリがウイルスへの抵抗性を持つのは飛ぶからだ、というのが論文の結論で、これは面白いですし、
この研究がマスメディアで紹介されるときには、このような説明になるのではないかと思います。
でも、今生きている生物のDNAの配列を見ただけで、なんで進化の過程について推察できるんだろう、って疑問に思いませんか。
DNAに変異が入るっていうのは絶えず起きているんです。
コウモリの特殊な免疫機能を生み出すのに重要な変化っていうことだったんですが、
重要な変化とそうでない変化をどうやって見分けているのか疑問です。
さらに、DNA配列は原存の生物について調べているのに、それを見ただけで進化のどのタイミングで重要な変化が起きたのか、なんてどうやったら解析できるんだろう、って思うわけです。
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ここからは、この解析法について大雑把にではありますが、話していきます。
人を含むすべての生き物はDNAを持っています。
これが親から子に伝わる遺伝情報なんですよね。
DNAは非常に長い分子なんですが、タンパク質の情報を高度する領域っていうのがあって、それが遺伝子です。
遺伝子が数万個あるんですが、その結果数万種類のタンパク質がDNAの情報を元に作られるわけです。
タンパク質は細胞の材料になったり、体の中で起こる様々な反応を助けたりする、いわば小さな機械のような役割を担っています。
DNAには時々変異が入ることがあって、何か役に立つ変化があった場合には、それが選択されてその変異が増えていきます。
これをポジティブセレクションと言います。
だからコウモリにとって生存に有利なように免疫が変化していったのなら、免疫関係の遺伝子ではポジティブセレクションが起きていたということになります。
DNA配列を見てポジティブセレクションが起きていたかどうかを調べる方法があるんですね。
DNAに起こる変異には大きく分けて2種類あります。
1つはタンパク質の性質や働き方を変えてしまう変異、これを非同期値間と言います。
もう1つは変化してもタンパク質には影響がない変化、同期値間です。
そうなんです。つまりDNAの配列が変化してもできてくるタンパク質には影響がないという場合もあるんです。
それも影響があるかないかはDNA配列を見ればわかるんです。
具体的にはどういうことかというと、まずDNAの配列3単位分でタンパク質の配列1単位が決まるみたいになっているんですね。
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タンパク質というのはアミノ酸がつながってできた分子なんですが、タンパク質で使われるアミノ酸が20種類あります。
DNAはATGCの4種類あってそれが長くつながっているんですけど、
例えばAAAだったらリージンというアミノ酸をタンパク質の構成要素として1つつなげて、
AGAだったらアルギニンというまた別のアミノ酸をつなげてというふうにDNA3個の組とタンパク質の構成要素の種類が対応しているんですね。
こんなふうにしてDNAの情報がタンパク質の配列に変換されるんです。
今、DNA3個の組み合わせということだったんですが、ATGC4種類が3個だから、4の3乗で64種類あるわけなんです。
でもタンパク質の方は20種類しかないんですね。
それで1対1対応ではなくて、同じアミノ酸になるDNA3個の組が複数あるんです。
つまりDNA配列がAGAはアルギニンなんですけど、AGGもアルギニンなんですね。
こんな感じです。
変異が入るということを考えると、例えばAGAの最後のAがGに変異してAGGになったとしても、AGAもAGGもどちらもアルギニンだから、最終的にできてくるタンパク質は変わらないんですね。
これが同期値間、タンパク質の配列に影響のない変異です。
でもAGAがAGCに変異すると、これは別のものセリンというアミノ酸に対応しているんです。
そうすると出来上がってくるタンパク質が変化するわけです。
これが非同期値間というわけです。
さて、生物が長い時間をかけて進化していく中で、何か生存に有利に働く変異があったとします。
そうすると、その変異を持った個体が自然選択で残りやすくなって、その変異が集団で広がっていきます。
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これがポジティブセレクションだったわけです。
つまりこれは、使える変異が積極的に蓄積していく仕組みなんですね。
使える変異は必ず非同期値間なんです。
同期値間はタンパク質に何の影響もないわけですから、それでは有利になることはないわけです。
なので、ポジティブセレクションを受けた遺伝子というのは非同期値間が多くなるんです。
逆に非同期値間が多いかどうかを調べることで、ポジティブセレクションを受けているかどうかを調べることができるというわけなんです。
これが重要な変化が起きているかどうかを見分ける方法ということになります。
じゃあ次は、どのタイミングでポジティブセレクションが起きたかを調べる手順を見ていきます。
まず、コウモリ以外も含めて多種多様な生物、さらにコウモリの中のたくさんのコウモリのDNA配列を比較するところから始まります。
具体的には、いろいろな生物の持つ同じ遺伝子を集めて、それらのDNAをきちんと並べるという作業を行います。
これは実物をというわけではなくて、コンピューター上で配列のデータを並べるということですね。
同じ遺伝子であっても別の種のものですから、配列が少し違うんです。
なので並べると、DNA上のどの部分に配列の違い、つまり変異があるかがわかります。
そうすると、この部分の配列がコウモリはどの種でも同じだけどネズミとは違うとか、
この部分はコウモリの中でもこのグループとこのグループでは違うとか、そういうのがわかります。
そしてこれをコウモリと人はこの時期に分岐したとか、コウモリのこの種とこの種はこの枝で分かれたという進化的な系統関係の情報、
系統樹っていうのと組み合わせるんです。
その系統樹っていうのは、猿と人は同じ枝にいるグループとか、手長猿は少し離れたグループとか、
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そういうどのように共通祖先から分岐したかっていうのを描いたものです。
で、系統樹はどれとどれが似ているみたいな形態的な特徴から作られたりとか、今はDNAの配列から作ったりします。
ここからがちょっとややこしいんですが、系統樹で枝分かれが一つあるとします。
その片方、右に行ったその先にもたくさん枝分かれがあるんですけど、こちら側のすべての種でDNAの特定の場所に変異があったとします。
さらに反対側、左に行った先のすべての種はどれも変異がないっていう状態だったとします。
この場合は、ちょうどその枝分かれが起きたあたりで、その変異は生まれたっていうことがわかるんです。
もしですね、枝分かれよりもずっと前に変異が入ったのであれば、右側も左側も変異があるはずなんですね。
逆に、枝分かれした後、しばらくしてから変異が入ったのであれば、右側の一部の種しか変異がないっていうことになるんです。
こういうふうにすれば、特定の変異のタイミングがわかるんですね。
これに先ほどのポジティブセレクションを見分ける方法を組み合わせるわけです。
意味のある変異、ポジティブセレクションが起きているときには、非同義知観が多いんですよね。
だから特定のタイミングで起きている変異について、非同義知観の割合が大きければ、そこでポジティブセレクションが起こった可能性が高いっていうことがわかるんです。
実際には非常に複雑な計算をしてますし、全ての遺伝子についてこの解析を行うので、計算の量も膨大になるんですけど、すごく大雑把に言うとこんな感じの解析になります。
この解析をすれば、全ての遺伝子について意味のある変化が、系統樹のどこで起きていたかがわかるっていうことになります。
さて、解析を行った結果ですが、もう最初に言ってしまったんですが、もう少し詳しく見ていきます。
まず、いずれの論文でも、免疫関連の遺伝子に数多くポジティブセレクションの跡が見られるっていうことでした。
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具体的には、ウイルスの侵入とか自然免疫、さらにはインフラマソームっていう炎症を起こすタンパク質複合体に関わる遺伝子とか、そういう様々な遺伝子で変化が起きているっていうことを示しています。
特にISG-15っていうタンパク質については、実際に細胞を使ってコウモリのタンパク質を作らせて、人のタンパク質と比較するっていう実験をして解析しています。
その結果、コウモリのこのタンパク質が、新型コロナウイルスなどに対して、より強力な体制を生み出すっていうことも確認しています。
さて、本題の免疫の遺伝子のポジティブセレクションは、どのタイミングで起きているかです。
コウモリが飛ぶので、飛行がもたらす後退者による炎症のために、特殊な免疫系に進化したっていうのが仮説でした。
もしそうであれば、コウモリっていう羽を持つ動物が生まれたとき、つまり、系統樹でコウモリグループが共通祖先から枝分かれしたタイミングで、免疫系のポジティブセレクションも起きているはずです。
解析の結果ですが、まさにその通りで、免疫関連の遺伝子におけるポジティブセレクションが、コウモリが他の哺乳類から分岐した初期の段階で起きていたっていうことでした。
つまり、コウモリの飛行能力と免疫システムの特殊性は、同時期に生まれた可能性が高いっていうことになります。
というわけで、この解析っていうのは、コウモリは飛ぶために特殊な免疫系を持っているっていう仮説を支持する結果だったわけです。
もちろん、最初にも話したように、こういう起こってしまった進化に関する謎っていうのは、直接調べることができないので、完全な証明っていうのはそもそもできないですし、
今回示されたように、飛行と免疫の進化が同じタイミングであったからといって、必ずしも因果関係があるっていうことにはならないわけです。
それでも、最新のゲノム解析によってこれまで得られたデータは、コウモリがウイルスへの耐性を持つのは飛ぶからだっていう、一見すると奇抜な説を支持しているっていうことになります。
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最後に、コウモリの研究が人間の将来にもたらし得るインパクトについて少し話したいと思います。
コウモリの免疫制御の仕組みを応用して、過剰な炎症反応を抑えるような方法につながる可能性っていうのが一つあります。
例えば、ウイルスによるサイトカインストームを防ぐような薬の開発ですね。
それから、コウモリの免疫系の研究は、コウモリが自然宿主となっている新興感染症の発生を理解するのにも重要です。
コウモリは世界中に分布していて、それぞれの地域やコウモリ種で保持されているウイルスも多様です。
なので、コウモリの遺伝子について理解していくことは、将来のパンデミックを予防するために必要なことであると言えるわけです。
今日はこの辺で終わりにしたいと思います。
最後までお付き合いありがとうございました。