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S2E38 脳の細胞をリセットする;シーズンフィナーレ
2025-04-24 23:58

S2E38 脳の細胞をリセットする;シーズンフィナーレ

iPS細胞を生み出す山中因子を、生きている動物の脳で働かせたという研究の話です。

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1934590924003278


シーズン2最終回です。お聞き頂きありがとうございました。

感想

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今日は、ヤマナカ因子を脳で働かせるとどうなるか、という話になります。
その、私たち生き物の体は、一つの細胞、受精卵から始まります。
この細胞が分裂を繰り返して、2、4、8と細胞数を増やします。
受精後5日から6日経つと、細胞の塊が肺板法と呼ばれる構造になります。
この肺板法の中には、胎板などになる部分と、将来、体を作る内部細胞界と呼ばれる部分があります。
この内部細胞界の細胞は、多能性を持っていて、体のあらゆる細胞に変化することができるんですね。
ですから、細胞分裂を繰り返しながら、徐々に性質を変えていって、最終的には体の全ての細胞、例えば皮膚とか心臓とか神経などへと変化していきます。
このように、特定の機能・性質を持つ細胞に変化することを分化と呼びます。
通常、一度分化してしまった細胞は、元のどんな細胞にでもなれる状態には戻れません。
だから、例えば一度皮膚の細胞になったものから、心臓の細胞とかができることはないんです。
つまり、最初はどんな細胞にでもなることができたんだけど、途中で多能性と呼ばれる能力を失うんです。
この最初にいたどんな細胞にでもなれる多能性を持つ内部細胞界の細胞を、発生初期の肺から取り出して培養するということができるんですね。
ES細胞、あるいは肺性幹細胞と呼ばれるんですけど、この細胞は、培養液中でほぼ無制限に増やすことができます。
理論的には、ES細胞はうまく刺激を与えてやれば、どんな細胞にでも分化することができるんですね。
だから、試験管内で特定の臓器とか細胞を作って移植するという、再生医療への応用が期待されています。
しかし、ES細胞には受精卵から取ってこないといけないという制約があるので、人で行う場合には倫理的な問題があるわけです。
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さらに、臓器移植を考えると、他人の細胞を使うと拒絶反応が起こるという問題もあります。
なので、理想的には、臓器移植が必要な患者自身の、例えば皮膚の細胞を取ってきて、その細胞の分化を初期化して、ES細胞みたいに多能性を持った状態にできれば都合がいいわけです。
2006年、山中信也らは、これを行う方法を発見し、人工的に多能性を持つ細胞を作り出しました。これがiPS細胞です。
この発見により、2021年にノーベル賞を受賞しています。
どのようにこの方法を発見したかですが、まず、多能性を持つ細胞で共通して働く遺伝子を約24種類選び出しました。
そしてそれらを組み合わせて、分化後の細胞に導入して、どの組み合わせが細胞を初期化するのかを検証していったんです。
そしてその結果、最終的に必要な遺伝子は4つであることが判明しました。
OCTO4、SOX2、KLF4、C-MYC、この4つの遺伝子は後に山中因子と呼ばれるようになります。
ですから、皮膚の細胞みたいにすでに分化してしまった細胞に山中因子を導入して発現させれば、細胞が未分化の状態に戻って、様々な細胞が作れるようになるということがわかったわけです。
iPS細胞は、再生医療や創薬など様々な分野で応用が期待され、研究が行われています。
少し別の方法の研究というのも進んでいます。
ここまで話してきたのは、分化した細胞を取り出してきて、山中因子を入れて初期化して、その後別のものに分化させて移植するというものなんですが、
そうではなくて、動物の中にいる細胞に直接山中因子を入れるというものです。
山中因子は細胞を生まれた時のような状態にするわけなので、言ってみれば細胞を若返らせるわけです。
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なので、老化による障害を改善することができるのではないかというアイデアがあるんです。
ただし、山中因子の導入は細胞を元化しやすくするという特性があります。
山中因子を細胞内でずっと発現させていると、数週間で元化して致命的になるんです。
でも最近になって、山中因子を断続的に発現させて細胞を部分的に初期化することで、元化することなく老化による変化を改善することがマウスで示されました。
すでに筋肉であったり皮膚だったり肝臓での改善の報告があるんです。
ですから、山中因子の導入によって、老化による異常から回復できる可能性が示されているというわけなんです。
他に、山中因子でマウスの視神経を障害から回復させたという報告があるんですが、神経に対する影響についてはまだあまり調べられていません。
神経細胞が障害されて起きる認知症は、高齢化社会での深刻な問題であって、神経細胞の老化による異常から回復される因子の発見は絶望されています。
今日は、脳の中の神経細胞に山中因子を導入した研究について話していきます。
ホットサイエンティストへようこそ。サトシです。
今日紹介するのは、マックス・プランク研究所のイール・シェンラニオル研究で、2024年12月にセル・ステムセルに発表されたものです。
今回の研究では、マウスの前身もしくは体の特定の一部で、断続的に山中因子を働かせているんですが、まずその仕組みについて簡単に話していきます。
ここで使っているのが、テッド・オン・システムというものです。
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もう30年くらい前に開発されたものなんですが、これはドキシサイクリンという薬物を投与すると、遺伝子の発現がオンになるシステムなんです。
このシステムでは、まず発現させたい遺伝子を導入します。
でも、この遺伝子は何もないときには働かないようになっています。
さらに、RTTAというタンパク質を細胞の中で作らせるんですが、このタンパク質にドキシサイクリンが結合したときだけ、導入した遺伝子に作用して、遺伝子の発現が起きるという形です。
この導入する遺伝子を山中因子にするわけですが、そうすると、ドキシサイクリンをマウスに投与したときだけ、山中因子が働くということになります。
これで時間的にコントロールするわけです。
この論文では、時間を区切ってドキシサイクリンを投与するんですね。
これによって部分的に細胞を初期化することで、がん化しないようにしているわけです。
さらにもう一個工夫があって、このRTTAが作られる細胞を限定することによって、空間的にコントロールしています。
RTTAを全身のすべての細胞で作られるようにしておくと、ドキシサイクリンを投与すると、全身で山中因子が働くんですが、脳だけでRTTAを作らせれば、脳だけで山中因子が働くというわけです。
最初の実験では、まず全身もしくは神経系だけで山中因子をONにするという実験をやっています。
どの時期にやったかなんですけれども、対時期に4日間だけやっています。
だから、母親にドキシサイクリンを飲ませて、子供への影響を見るということです。
さっき話していた、老化による障害というのとは話がずれるんですが、この論文では、まず発生の初期への影響を見ています。
結果ですが、山中因子を発現させると、神経細胞が増えて、脳が大きくなることがわかりました。
脳の中の細胞の蘇生がどのようになっているかなども調べているんですが、
ここから神経細胞になるゼンク細胞という細胞が増えていることと、
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普通のマウスには見られない、成熟しきっていない神経細胞がたくさん見られたということでした。
その進化を考えると、脳が大きい生物は概ね認知機能が高くて複雑な行動をすることができるわけです。
それで、この山中因子によって脳が大きくなったマウスを大人になるまで育てて、行動に変化がないかも調べています。
結果としては、運動機能を測るテストでスコアが良くなっていました。
さらに、他のマウスに関心を示すかを調べるテストでは、社会的関心が向上しているという結果でした。
ですから結論としては、発生途中では山中因子は神経細胞を増やす作用があるということ、
さらに運動機能と社会性を高くするということがわかったわけです。
次に、老化との関係を調べる実験を行っています。
ここで使っているのが、5×FADマウスというものです。
その人でアルザイマ病を起こす遺伝子変異というのがいくつか知られているんですが、
その変異をマウスに5個導入したものになります。
アルザイマ病患者では、プラークと呼ばれる異常な分子の沈着が脳の中にあるんですが、
この5×FADマウスでは、沈着が若いうちから見られるし、神経や認知機能の障害も見られるんです。
なので、アルザイマ病のモデルとして使われているマウスなんです。
実験では、このマウスの脳の特定の場所、階場に山中因子を発現させるという形にしています。
このRTTAの遺伝子を持ったウイルスを階場だけに注射することによって、山中因子が発現する場所を限定しています。
この階場というのが、記憶とか認知機能に重要な部位なんですね。
今度は、大人になった後のマウスにドキシサイクリンを投与していくんですが、
3日投与して、その後4日は投与しないというサイクルで、
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断続的に山中因子を働かせて、どうなるかを見ていくという形になります。
だから、アイデアとしては、若いうちからアルザイマ病みたいになるマウスに、
細胞を初期化する山中因子を特に重要な場所で働かせてみて、
アルザイマ病で見られるような異常が改善するかどうか調べてみるということになります。
まず、プラークという沈着がどうなっているかを見ていて、
FADマウスでは沈着が多いわけなんですが、
山中因子を発現させると沈着が減少していたということでした。
だから、アルザイマ病で見られる異常を山中因子が抑制しているということなんですね。
それから他にも、神経細胞の形とか、神経細胞の分子レベルでの変化とか、いろいろ調べています。
FADマウスには、普通のマウスと比べて変化しているところがいろいろあるわけなんですが、
その一部は山中因子を発現させると、普通のマウスみたいに戻っていたという結果を示しています。
なので、プラークを含めて脳の中を顕微鏡レベルあるいは分子レベルで見ていくと、
アルザイマ病の変異による異常を山中因子は改善するということがわかったわけです。
それから老化という観点で重要な点があります。
GO FADマウスでは、細胞レベルでの老化が見られるんですね。
細胞が老化すると、DNAのメチル化っていうんですけど、DNAに小さな分子が結合するっていう収縮が見られたりするんですが、
これがGO FADマウスでは多いんです。
でも山中因子を発現させると、これが減っていて、細胞老化の指標も改善していたっていうことでした。
じゃあ、行動レベルではどうなのかっていうのを最後に調べています。
記憶力を測るテストを何種類もやってるんですが、一つ例を挙げると、Y-Mazeっていうのをやってます。
このテストではY型の迷路を使ってマウスを自由に移動させます。
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そのY字型だから、A、B、C、3個の道があるわけなんですね。
そうすると、一つの道に入って戻ってきて、別の道に入るっていうのを繰り返すんです。
普通のマウスは直前に入った道っていうのを覚えていて、次は新しい道を選ぶ傾向があります。
だからまずAに入って、その後Bに入ったとします。
Bから出てきたときに、次にAとC、どちらでも入ることができるわけなんですが、
直前にAにいたっていうことを覚えていると、Cに入るんです。
でも記憶に異常があると、直前に入っていた場所を忘れていて、Aに入ることも多くなるんですね。
なので、入っていく道順を解析することで、記憶に異常があるかどうかを測定できるっていうテストなんです。
5、FADマウスは通常のマウスと比べてテストの成績が悪いんですね。
だけど、山中因子を会場で発言させると改善していたっていう結果でした。
その他の記憶のテストでも同じような結果で、アルサイマ病変異による記憶の異常が山中因子で改善していたということになります。
というわけで、今回の研究では2つの実験をしていました。
1つは、発達中の脳で山中因子を発言させるっていう実験で、山中因子を時間を区切って発言させると神経発生を促進して脳の発達を強化するっていう可能性を示しています。
もう1つが、アルサイマ病のモデルマウスを用いた実験です。
山中因子を発言させるとアルサイマ病を起こす変異による異常が改善することを示しています。
アルサイマ病は年を取ると発症する病気で、このモデルマウスは細胞レベルで老化が進んでいたので、
山中因子が細胞の若返りを起こすことで、老化に関係する障害を和らげているっていう可能性があります。
その最初に話したように、山中因子を導入すると、分化してしまった細胞を初期化してiPS細胞を作り出すことができます。
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iPS細胞からは理論的にはどんな細胞、臓器でも作り出すことができるので、再度分化させた細胞を移植するっていう観点から注目されていますし、応用へ向けて研究が進んでいます。
今回の脳に山中因子を導入した研究とか、過去の他の組織を対象とした研究は、山中因子を動物の中にある細胞に導入することで、特に老化関係の障害を改善できる可能性を提示しています。
ですので、移植ではなくて、遺伝子導入っていうアプローチも治療戦略としてあり得ることを示しているわけです。
ただし、細胞の初期化は、がん化を引き起こしやすいっていう問題があります。
ここでは、時間を区切って発現させることで回避しているわけなんですが、人での応用を考えると、かなり慎重になる必要があります。
なので、すぐに実用化されるわけではないと思うんですが、それでも新しい道を示す研究の一つとして、今日は紹介しました。
それから、あまり触れなかったんですが、この研究では、発達中では山中因子は神経細胞を増やすことができて、しかも出来上がったマウスは通常のマウスかそれ以上にちゃんと生きて行動することができるっていうことを示していたわけです。
これも驚きだなと個人的には思いました。
さて、今回でPodScientistシーズン2は終了になります。
これまでお聞きいただきどうもありがとうございました。再開は5月15日を予定しています。ではまたその時にお会いしましょう。
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