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あの、ハンチントン病っていう稀な病気があるんですね。
運動機能、そして認知機能に影響を及ぼす進行性の病気で、神経編成疾患、つまり脳の中の神経細胞が死んでいくっていう病気です。
これは遺伝子の異常によって起こる病気なんですが、異常な遺伝子を持って生まれても、若いうちにはほとんど症状がなくて、数十年間は無症状の状態が続きます。
しかし、30歳から50歳ぐらいになると、不随意運動、つまり自分の意思とは関係なく体が勝手に動いてしまうっていう症状が現れます。
このことから、かつては踊る病気、舞踏病とも呼ばれていました。
さらに病気が進行すると、認知機能の障害が現れ、精神的にも不安定になります。
最終的には寝たきりの状態になって、呼吸機能の低下などによって死に至ります。
そして現在、この病気の根本的な治療法は存在しません。
この病気を引き起こす遺伝子は、HTT遺伝子と呼ばれます。
その遺伝子の実体であるDNAというのは、ATGC4種類の構成単位の分子がつながってできた非常に長い分子なんですね。
このDNAの配列が情報を持っていて、DNAとよく似たRNAという分子として情報が読み出されます。
このRNAを元に作られるタンパク質が生命機能になっているんです。
多くの遺伝病では、特定の遺伝子のDNAの一部がなくなったり、配列が変わったりする変異があります。
そうすると、タンパク質の情報がおかしくなるので、その結果、タンパク質の機能が失われて病気が引き起こされます。
ハンチントン病の場合はどうかというと、この遺伝子の中にCAGという配列が、繰り返す部分が存在するんです。
このCAGリピートの長さが人によって違っていて、これが病気の原因なんです。
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繰り返し配列、リピート配列というのは不安定で、長さが変化しやすくて、ハンチントン病のほかにもリピートの長さの違いによる病気がいくつもあります。
ハンチントン病の場合は、病気ではない正常の人ではCAGの繰り返しの回数が15から30回です。
でも、CAGリピートが36回以上になると、ハンチントン病を発症する可能性が高まって、40回以上になるとほぼ確実に発症します。
さらに、CAGリピートの回数が多いほど、発症年齢が若くなって、症状が重くなるという傾向があるんです。
このCAGリピートが長いと何が悪いのかなんですが、このCAGという配列はアミノ酸の一種であるグルタミンをコードしているんですね。
リピートの回数が多いと、これがたくさん繋がったタンパク質が作られるわけです。
この異常なタンパク質が細胞にダメージを与えるというのが一つの考えです。
他には、リピートを持つRNAが細胞に有害であるという説も提唱されています。
ですから、遺伝子の中にある異常に長いCAGリピートが、何らかの形で神経細胞に悪影響を与えて、それが細胞の死を引き起こすので、運動や認知機能の症状が現れるというのがハンチントン病の起きるメカニズムだと考えられているわけです。
ハンチントン病は比較的よく研究されている病気なんですが、今でも解明されていない謎がいくつかあって、その一つが、なぜ発症までに何十年も時間がかかるのかなんです。
先ほども話したように、例えばCAGリピートが40回の遺伝子を持つ人であっても、若い頃には何の異常も見られません。
40歳くらいになると症状が出るんです。生まれた時からこの異常な遺伝子はあるわけですから、生まれた時から異常なRNAであったり、タンパク質であったりが作られているわけです。
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でも若い時は神経細胞は死なない。40歳くらいになると神経細胞が死んで、症状が現れるというのが説明のついていない謎なんです。
これに対する説明としては、異常なタンパク質が少しずつ溜まっていくことで、神経細胞へのダメージがゆっくりと蓄積するという考えがありました。
そして毒性が特定のレベルを超えた時に炎症か何かが起きて、異常な状態が全体に広がっていくという考えです。
しかし明確な証拠はなく、突然症状が現れる理由は不明なままでした。
今日はハンチントン病患者の死後脳を単一細胞レベルで解析することで、この謎に迫った研究を紹介します。
ホットサイエンティストへようこそ。サトシです。
今日紹介するのは、ブロード研究所のロバート・ハンズからによる研究で、2025年2月にセルに発表されたものです。
この研究ではCAGリピートが不安定であるということがポイントになります。
繰り返しのDNA配列は長さが変化しやすいという特徴があるんですね。
親から子へDNAが伝わるんですが、普通は親のDNA配列と全く同じものが子供へ伝わるんです。
でもリピート配列は、DNAのコピーを作るという時に繰り返しの回数が少し変化することがあって、短くなったり長くなったりしたものが伝わることがあります。
このように、親から子へ伝わる時だけではなくて、ハンチントン病の遺伝子は、人が生きている間にも体の細胞の中で長さが伸びることがあるんです。
しかもこの伸びるかどうかがおそらく偶然によって決まっていて、細胞ごとに違うんです。
ですから、ハンチントン病患者の脳の中では、CAGリピートが生まれた時のままの細胞もあれば、大きく伸びている細胞もあるんです。
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そうすると、CAGリピートの長さの違う細胞が混ざり合った状態、モザイクの状態になっている、そういうふうに考えられています。
しかし、これが何を意味するのかについては、長い間よくわかっていなかったんです。
その理由の一つとして、モザイクの状態の組織を解析するのが難しかったというのがあります。
以前は細胞の遺伝子を調べようと思ったら、ある程度の数の細胞を取ってきて、それなりの量のDNAとかRNAを解析する必要があったので、
一つの細胞で何が起きているのか理解するのが難しくて、どのようなモザイクになっているのか細かくはわからなかったんです。
でも、ここ10年ほどで、シングルセル解析という単一の細胞の遺伝子の解析を行う手法が急速に発展してきて、細胞一つ一つを調べることが可能になりました。
今回の研究では、パーキンソン病患者と比較の対象として正常な人の脳を調べているんですが、
死後に提供された脳の組織を用いて、このシングルセル解析を行っています。
ここで特に注目しているのが腺状態と呼ばれる部位にある運動を制御する神経細胞です。
ハンチントン病で運動の異常が見られるのは、ここの神経細胞が死ぬからだと考えられているんです。
まずやったことは、CAGリピートが40回以上の遺伝子を持っているハンチントン病患者6人の死後脳から腺状態を取ってきて、
バラバラにして解析をして、どの細胞でCAGリピートがどの程度伸びているのかというのを解析しました。
その結果、まず確認されたのが、ハンチントン病患者ではそうでない人に比べて、
この運動を制御するタイプの神経細胞が大幅に減っていたということです。
存在している神経細胞については、ほとんどの細胞でリピートが元の遺伝子よりも伸びているということが明らかになりました。
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どれくらい伸びていたかですが、
95%以上の神経細胞ではリピートの長さが60から73回で、元々の遺伝子の長さよりも20回から30回程度長くなっていました。
さらにごく一部、数パーセントの細胞では大幅にリピートが伸びていて、100から500の長さになっていたということでした。
ちなみにこの解析法では、他のタイプの神経細胞とか神経以外の細胞なんかも一緒に解析されるんですけれども、
これらの細胞ではあまりリピートは伸びていなかったということでした。
また、ハンチントン病でない人、元々リピートが30回以下という人の場合では、リピートが長くなっている細胞はほとんどなかったという結果でした。
まず、ここまでの結果で、ハンチントン病患者では神経細胞ではCAGリピートが元々の長さよりも伸びていて、
特に少数の細胞では大幅に数百まで伸びているということがわかりました。
過去の研究では、ここまで長いのが見つかることはあまりなかったんですが、
1細胞レベルで解析したからこそ、これが検出できたというところです。
次に、CAGリピートが異常に長くなることで、細胞の状態にどのような影響を与えるのかを調べる実験が行われました。
先ほどの実験では、CAGリピートの長さを細胞ごとに調べたわけなんですが、
さらに、すべての遺伝子の働きがどうなっているかを、それぞれ細胞ごとに調べています。
すべての遺伝子の発現を調べると、細胞の状態についての情報が得られるわけですね。
リピートの長さがこれぐらいの細胞では、細胞の状態はこうであったという対応を見ていくことによって、
リピートの長さと細胞の状態にどういう関係があるのかを調べたということになります。
その結果ですが、まずCAGリピートの長さが150以下の細胞では、特に異常がないということがわかりました。
でも、150回を超えると、細胞の遺伝子発現が変化することがわかったんです。
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どのような変化かというと、
まず、このタイプの神経細胞でよく働いている遺伝子が働かなくなっていました。
つまり、CAGリピートが150回を超えると、その細胞は本来の神経細胞としての特性を失い始めるということです。
さらにリピートが長くなると、通常神経細胞では働かない遺伝子が働いていて、神経細胞らしさが失われているようでした。
さらには、老化や細胞死に関わる遺伝子が働いていたんです。
しかも、このような長いリピートを持つ細胞は数も少ないわけですから、
リピートが伸びることで最終的に細胞が死んでいると結論付けています。
この結果には、これまでの仮説を覆す重要な示唆があります。
まず、生まれた時に持っている40から50のCAGリピートそのものは、特に細胞に影響がなくて、毒性がなさそうだということです。
それが時間が経つと伸びていって、60から70のものが多いということなんですが、これもまだ毒性がなさそうなわけなんです。
でも、150を超えると細胞に悪影響が出て、さらに長くなると神経細胞が死ぬということなんですね。
なので、遺伝子の中のCAGリピートが細胞の中で時間をかけて伸びていくことによって、毒性を持つようになる可能性を示したということになります。
では、どのような時系列でCAGリピートは伸びていくのでしょうか。
そして、それは発症のタイミングと一致しているのでしょうか。
今回の研究では、すでに亡くなった人の脳を調べているので、亡くなったタイミングの状態しか観察できないわけです。
なので、どう変化していくのかというのを直接調べることはできません。
そこで、コンピューターモデルを用いてシミュレーションを行っています。
亡くなった時点でどれだけの長さのリピートを持った細胞がどれだけあるのかは解析済みなので、
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どのような頻度でリピートが伸びると仮定すればこのデータと一致するのかというのを調べました。
その結果として、リピートの伸長速度が2段階あるモデルを提唱しています。
このモデルでは、最初はCAGリピートはゆっくりと伸びます。
例えば40回から60回に伸びるまでに平均すると50年かかります。
しかし、80ぐらいから加速して150になるのに数年しかかかりません。
そして、その何ヶ月か後には細胞死が起きるということを予測しています。
最初は伸長がゆっくりなわけですが、これはランダムな仮定なので、
早く80まで到達する細胞もいるし、遅いのもいるわけです。
でも、一旦到達した細胞は、その後急にリピートが伸びて、数年で機能を失って死んでしまうという形です。
そして、ある程度以上、神経細胞が機能を失った時点で症状が出るというわけで、
これに何十年もかかるというのが、発症までに時間がかかるメカニズムであるというのが、
今回導き出されたモデルになります。
ハンチントン病では、生まれた時点でリピートが長い方が発症が早いことが知られています。
つまり、40回の人と45回の人では、45回の人の方がだいぶ早く発症するわけです。
モデルによると、40から80まで伸長するのには長い時間がかかるわけですから、
スタートの時点が5違うだけで発症のタイミングが変わるというのも、このモデルで説明ができるわけです。
というわけで、今回の研究の結果から、ハンチントン病の進行は、
リピートが生きている間に伸びることが主な要因である可能性が高いことが示されました。
まだ確認は必要ですが、ハンチントン病の長年の謎に一つの答えを示す研究であると言えます。
今回の研究でこのような新発見があったのは、
実際の患者さんから提供された脳のサンプルを用いて、
シングルセル解析を巧みに組み合わせて行ったからこそであると言えます。
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現在、ハンチントン病に対する治療法として、
リピートを持ったタンパク質の発現を抑制する方法の開発が進められています。
しかし、この方法は臨床試験で十分な効果が確認されていません。
今回の研究結果から、リピートが伸びることが問題であることが示されたので、
このリピートの伸長を抑えることができれば、
ハンチントン病の発症や進行を大幅に遅らせることができる可能性があります。
そもそもなぜリピートが伸びるかなんですが、
DNAというのは通常は2本差になっていて、2本のDNAがくっついているんですね。
ジッパーが閉じられたみたいな感じです。
この状態は安定なんですが、
遺伝子の発現、つまりRNAを合成するときには、
2本差がほどけて1本差になることで情報の読み出しが可能になります。
で、それが終わるとまた2本差に戻ります。
普通の配列のDNAでは元の状態にぴったり戻るんですけど、
繰り返し配列があるとDNAがずれてくっついて2本差になることがあります。
そうすると変にDNAが飛び出しているような状態になるんですね。
遺伝子に異常があるときなんかもこんな状態になることがあって、
それは問題なのでこれを治す機構が細胞には備わっています。
この機構というのは細胞のDNAが変異だらけにならないために重要なんです。
でもリピートによってDNAにずれがあるときにこの修復機構が働くと、
DNAが伸びてしまうんです。
これが体の中でリピートが伸びる仕組みなんです。
この修復機構に関わる遺伝子というのはすでにわかっていて、
マウスの実験ではこれらの遺伝子を働かなくするとリピートの伸長が抑えられるという報告もあるんです。
だからこの修復機構をターゲットにすることで、
神経細胞でのCAGリピートの伸長を止めることができるかもしれません。
ハンチントン病の遺伝子を持つ人、40以上のリピートを持つ人でも、
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多くの神経細胞では長い期間は毒性を持たない150以下のリピートであることが今回の研究から示唆されているわけですね。
だから発症前あるいは発症後でもリピートの伸長を止めれば症状を抑えることができる可能性があります。
というわけでこの研究は治療ターゲットの新しい候補を示しているといえます。
また、ハンチントン病と同じようにDNAのリピートの伸長が原因である疾患というのは他に60以上知られています。
そしてその多くがある程度年をとってから発症する病気なんです。
なのでこれらの疾患でもリピートの伸長が病態に関与していることが考えられます。
今回の研究で分かったことはハンチントン病だけではなくてこれらの疾患にも応用できる可能性があります。
今日はこの辺で終わりにしたいと思います。
途中から声がガラガラになってしまってすいません。花粉症の影響ですね。
では最後までお付き合いありがとうございました。