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はい、「ニセモノをつくるにはよしたけしんすけ」。 あ、「ぼくのニセモノをつくるには」だね。よしたけしんすけ。
宿題、お手伝い、部屋の掃除。 やりたくないことだらけでげんなりしていたぼくは、ある日、いいことを思いついた。
ぼくのニセモノをつくって、そいつに全部やってもらおう。 さっそくぼくはお小遣いを全部使って、ロボットを1体買った。
一番安いお手伝いロボください。
今までの帰り道、ぼくはロボにニセモノ作戦について説明した。 今日から君にはぼくのニセモノになってもらうから。
はい。 ニセモノだってバレないように、ぼくそっくりになってもらわないとね。
そうですね。じゃあ、あなたのことを詳しく教えてください。 えーっと、何から教えればいいかな。
じゃあ、ぼくは〇〇って感じで、1個ずつ言ってみましょうか。 じゃあ、まずぼくは、
名前と家族がある。 名前、
名前、 名前、吉田健太。性別、男。
誕生日、6月17日。双子座、丑年。住所、りんご町3-6。 学校、アップル小学校、3年生。
身長、135センチ。体重、35キロ。血液型、A型。 家族、お父さん、たけし。お母さん、ゆうこ。ぼく、健太。弟、かんた。猫、にあた。
みんな、たがつく。 ぼくは、外から見るとこんな感じ。
秋っぽい。耳たぶが小さい。体が硬い。 興奮すると鼻の穴が大きくなる。
にあたに引っかかれた傷。左利き。 お尻にホクローがある。寝相が悪い。自転車で転んだときの傷。
足はそんなに速くない。 毎朝寝癖がつく。
頭が大きくて帽子が入らない。 UFOを見たことがある。鼻水がよく出る。
鼻水、一緒じゃん。鼻歌がうるさいとよく言われる。 太陽を見るとくしゃみが出る。
しゃっくりもよく出る。手のひらがいっつもペトペトしてる。 ここをつねっても、ここってあれか、肘のとこだね。
肘をつねっても全然痛くない。 この辺が一番くすぐった。この辺かな。
グランコから落ちたときのかさぶた。 かさぶたおじいちゃん。
靴下によく穴が開いている。 スキップが下手。
スキップ下手なの。
僕のこともわかったでしょ。僕の偽物をよろしくね。 うーん、まだケンタ君らしさがわかんないですね。
えー、僕らしさ?僕は僕なんだけどなぁ。 もうちょっと詳しく頑張ってみましょうか。
ロボはなかなかしつこかった。 仕方なく考えてみたけれど、自分のことを話すのって
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難しくてめんどくさい。 例えば僕は好きなものと嫌いなものがある。
好きなものは味付きのり、どんぐり、帽子付き、カニ、水中メガネ、おばあちゃん、スコップ。
嫌いなもの。作文の宿題、マフラー、 ハンドクリーム。ハンドクリーム嫌いなんだ。
香水の匂い。紐の靴。あー、めんどくさいんだね。 グレープフルーツジュース嫌いなんだ。えー、意外だね。
おばあちゃんは好きだよね。僕はできることとできないことがある。 できること。ウインク。
で、これできてるの?これ。
お風呂に反対向きに入る。すごい。
ピーマンだけを上手にどける。これは、確かにできるね。あなたもね。
一瞬ハンドルから手を離す。あー、ちょっと鼻が出てきた。
ハンドルから手を離す。
一度に手、本、一度?ん?一度に二本の木に登る。すごい。
これすごいね。みかんを一個丸ごと口に入れる。え、すご。
痛い痛い痛い痛い。大丈夫?爆笑して後ろのところに頭をぶつけた。
カニに挟まれても我慢する。え、ちょっとだいぶ我慢してる。この顔。
見えない敵と戦う。これやるね。男の子ね。
枕を使わずに寝る。あー、いいね。できないこと。卵を上手に割る。
これできるじゃん。夜12時まで起きている。あー、これはできないね。
素直に謝る。素直に謝る。これはできるね。
女子の気持ちを理解する。あー、これはちょっとみんなできないね。
ポテトチップスの袋を開ける。ポテトチップスの袋、これは難しい。
一人でスーパーの試食コーナーに行く。あー、試食今ないんだよな、コロナで。
赤ちゃんの頃に戻る。あー、これできないね。
どうしてこのおもちゃが必要かをうまく説明する。あー、難しいね。
こちょこちょされても我慢する。
我慢できないね。
僕は昔から僕。僕は最初赤ちゃんだった。
ちょっとずつ大きくなって、嬉しかったり悲しかったり、いろんなことを覚えて、今僕はここにいる。
小さい頃好きだったものは今でも好きだから、僕の中には小さい頃の僕も全部入ってるんだと思う。
あー、なるほどね。マトリョーシカみたいにね、ちっちゃい僕がどんどんどんどん大きくなっていくんだね。
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昔からギュッてされるの好きなんだね。
僕はお父さんとお母さんの子供。
昔ってゼロ系とかで走ってたとき。
おー、ゼロ系ね。うん、そうだね。新幹線のゼロ系ね。
僕は、そこまで、1964年とかだからさ、東京オリンピックの頃にはまだたぶん生まれてないと思う。
僕はお父さんとお母さんの子供。お父さんとお母さんにもそれぞれお父さんとお母さんがいるからずっとたどっていくとすごいたくさんの人が僕と関係あるみたい。
みんな僕のお父さんとお母さんをずっとね、たどってるんだね。
僕は後が残る。僕が使ったり作ったりしたものはなんだか全部僕っぽくなっちゃうらしい。
どういうことだこれ。
使ったり作ったものは僕っぽいんだ。
あー、こんなことするのはケンタだなとかね。
これ、これやったのケンタ君がやったんだねとか。
ケンタが昔描いてくれたのとか。
あーこれは、この変な服はケンタのです。
つまり僕のいた跡がいろんなところに残っているってことだ。
あーなるほどね。生きていた証みたいなんだね。
僕はマシーンでもある。
マシーン?
こんな風に考えることもできるかもしれない。
僕は毎日ご飯を食べてうんちする。
つまり僕はうんち製造マシーンでもあるわけだ。
あーなるほどなるほど。
髪の毛がどんどん伸びるから髪の毛工場でもあるわけだ。
確かに髪の毛伸びてくるね。
体がいつも暖かいからニャータンにとってはホカホカマシーンでもあるわけだ。
あーなるほど。
猫にとっては暖かいんだね。
靴下にすぐ穴が開くから靴下ボロボロマシーンでもあるわけだ。
どんどんボロボロした靴下ができるんですね。
夕方5時くらいにいつもお腹が鳴るからもうすぐ夕ご飯時計でもあるわけだ。
あーなるほどなるほど。
必ず5時にブーって鳴る。
いろんな歌が歌えるからケンタラジオでもあるわけだ。
おー。
いいねー。
ほっぺたが柔らかいから柔らかいものが好きな人を喜ばせるマシーンだ。
あーそれわかる。柔らかいもの好き。
あら気持ちいいあら気持ちいい。
僕はまだ作り途中。
毎年背が伸びているからこの後もまだまだ大きくなると思う。
大きくなって何かすごいものになっちゃうかもしれないのだ。
すんごい髭のすんごい靴屋さん。
すんごい髪の毛のすんごいパン屋さん。
どういうこと?
すごい歯のすごい本屋さん。
すごい筋肉のすごいおもちゃ屋さん。
よくわかんない。
僕はコロコロ変わる。
朝からなんだかワクワクしている日もあるし何をやっても楽しくない日もある。
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その日の天気とか前の日の出来事とかで僕の気持ちはコロコロ変わる。
いろんなね僕がいるねこれね。
いろんな僕になるけどこれすぐにこっちね。
やっぱり全部僕は僕だからね。
結構わかってきましたねロボが言った。
うん僕は答えた。でも僕って見た目も普通だし他の子とそんなに違わないよ。
僕みたいな子はいっぱいいるからね。
まあ確かにそうですよね。
それ。
ちなみにみんなから見たけんたくんって考えるとどんな感じですかね。
めっちゃロボが普通の子ともなっちゃった。
そうねロボはなかなかしつこかった。
どの子もおいしそうだね。
うん。
たべちゃんだったら別にどの子でもいいなってこんなこと考えてるんかーいライオントワニさん。
まじかー。
みんな食べる対象なんだ。
怖い怖い。
僕は多分人気者。
でも周りの人の頭の中にも僕は一人ずついるみたい。
僕はみんなにどう思われているのかしら。
自分では面白くてかっこいい人気者です。
おーいいね。知識高いね。
お母さんはマイペースで言うことを聞かない長男です。
弟はおもちゃを貸してくれないお兄ちゃんです。
だいぶ性格悪いね。
先生は算数が苦手でお調子者の生徒です。
あーまあよく理想な感じ。
ご飯をくれるからたまに遊んであげる友達です。
見合ったら上から目線だな。
お医者さんはよく風邪をひく注射が嫌いな患者さんです。
あーまあよくいる感じだね。
同級生は騒がしくて口応えの多い男子です。
あーなるほど。口応えの多いってちょっと一言多いね。
おばあちゃんは素直で可愛い孫です。
あーいいねいいね。さすがおばあちゃん。
水泳の友達は平泳ぎだけ上手な友達です。
うーんちょっと微妙。
宇宙人。小さめで弱そうな地球人です。
僕はいろんな居場所がある。
場所によって役目が違うから
いろいろ使い分けなくちゃいけない。
出番だ。
いろんなところに行って
家族とかおばあちゃん家とか
一人でいるときとか学校とか
水泳教室とか友達とかね
いろいろ関わる人によって
自分を使い分けてるんだね。
僕は僕しか知らないことがある。
僕が考えることは黙ってたら僕にしかわからない。
どんな人が何をしようと僕の頭の中には
絶対誰も入れない。
この人がカバみたいって思ってるんだけど
口に出さなければわかんないからね。
この人がなんかやってるけど
どこが面白いんだろうって思って
口に出さなきゃわかんないからね。
怒られてるときに背中かゆいなーって思ってても
口に出さなきゃわかんないからね。
女の子かわいいなーって思っても
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これは本当は口に出したほうがいいのか
でも微妙だな。わかんない。
つまり僕の内側には
僕しか入れない僕だけの世界が
もう一つあるってことだ。
ケンタ君しか知らない世界があるんだね。
自分しか知らない世界。
これってすごい。
これケンタ君の頭の中だからね。
ケンタ君の頭の中にケンタ君の世界があるんだね。
これってすごいことだ。
僕は一人しかいない。
おばあちゃんが言ってたけど
人間は一人一人形の違う木のようなものらしい。
クリスマスツリーみたいな人もいるんだね。
自分の木の種類は生まれつきだから選べないけど
それをどうやって育てて飾り付けするかは
自分で決められるんだって。
あーすごいいいこと言ってるこれ。
元々の木は人それぞれだけど
この飾りの仕方っていうのは自分で選べるんだね。
この子なんかはすごい綺麗な宝石を付けているから
多分モテモテなんだろうね。
いろんな人にね。
面白いな。
でもこうやってとにかく四角い木を作っている人もいるしね。
木の大きさとかはどうでもよくて
自分の木を気に入っているかどうかが一番大事らしい。
僕ってなんだろう。
考えれば考えるほどいろいろ出てきちゃう。
でも自分のことを考えるのってめんどくさいけど
なんかちょっと楽しい気もする。
うーん。
ていうかこんなにややこしいと
偽物になるのなんて無理じゃない?
うーん。
なんとかなると思います。
今日から私ケンタ君の偽物になります。
ほんと?
家の前まで来てやっとロボは分かってくれた。
分かってくれたね。
あなた誰?
もうバレてる。
おしまい。
こんな家ですか。
ということでおしまいです。