石を通る人々
ある日のこと、殿様は城の窓から城下町を眺めながら、家来にこう云いました。
この国の者たちは、一体どんな心を持っているのだろうなあ。
そこで家来は一つの考えを思いつきました。
一通りの多い城下の通りのちょうど真ん中に、大きな石をどんと置かせたのです。
次の日の朝、最初に通りかかったのはお百姓でした。
妄想な荷を背負い、汗を拭いながら歩いて来ましたが、石の前で立ち止まると顔をしかめました。
なんだこれは、まったく邪魔だなあ。
そう言って、うつうつ文句を言いながら、石をよけて通り過ぎて行きました。
しばらくして、お金持ちの御院居がやって来ました。
立派な着物に身を包み、背をついて歩いています。
こんなところに石があるとは、役人は何をしておるのだ。けしからん。
そうとなると、袖をひらりと払って、やはり石をよけて通り過ぎて行きました。
やがて馬に乗った武士が通りかかりました。
石を見て、きりっと眉をひそめます。
まったく、この国の者たちは高徳心が足りぬ。
誰も片付けようとせぬではないか。
と言いながら、武士もまた馬の手綱をひいて、石をよけ、そのまま去って行きました。
子供たちの協力
昼過ぎになった頃、今度は遊びに出来た子供たちが通りかかりました。
わあ、大きな石。これ、夜になって、見えなくてすまずく人がいるかもよ。
おばあちゃんとか転んだら大変だよね。
そう言うと、子供たちは顔を見合わせました。
みんなで動かそう。
小さな手をいくつも石に当て、せーのと声をそろえて押します。
何度も滑って転びそうになりながらもあきらめません。
やっとのことで石を道の隅まで動かすと、みんなで顔を見合わせて笑いました。
その様子を家来から聞いて、殿様は静かにうなずきました。
なるほどなあ。
そしてやさしく微笑んで云いました。
この国の二十年後が楽しみだ。