雨蛙との出会い
雨蛙と私、梅雨の雲が一瞬だけ切れた朝だった。
湿った空気を押し分けるように車を走らせ、いつもの道を学校へ向かっていた私は、不意に奇妙な光景に目を奪われた。
前を行く白い軽自動車の屋根の上に、小さな雨蛙が一匹しがみついていたのである。
風を切って走る車の上で、雨蛙は身を低くし、細い手足に力を込めて耐えていた。
その姿はあまりにも危うく、見ているこちらの胸が締め付けられた。
やがて信号が赤に変わり、車が止まる。
今なら飛べる。濡れた茂みはすぐそこだ。
しかし雨蛙は、振動の消えた屋根の上を、まるで確かめるようにゆっくりと歩くだけだった。
再び車が動き出すと、雨蛙は風に押され、また身を固くして動かなくなる。
私はその小さな生き物から何故か目を離すことができなかった。
そして気づいたのである。あの雨蛙は私自身なのではないかと。
私もまたこれまで自分なりに学び、努力を重ねてきた。
分かったつもりになれることが少しずつ増えてきた。
雨蛙で言えば、餌の取り方を覚え、何とか生き延びる力を身につけた段階なのだろう。
しかし世界は私の理解など意を介さず、容赦なく動いていく。
価値観は複雑に工作し、選択を迫られる場面は次々に現れる。
それでも私は自分が今どこに立ち、どこに向かおうとしているのかをつかめずにいる。
ただ流されないと踏ん張り、変化の中で身を固めることでしかできない。
その姿は屋根の上で飛ぶこともできず、絶え続ける雨蛙と重なって見えた。
進むべき場所はきっと今いる場所の外にある。
それが分かっていながら私はまだ飛べずにいる。
それでもいつか自分の意思で飛び立つために、今は学び続けたい。