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カランカラン
いらっしゃいませ。喫茶クロスロードへようこそ。
いよいよ週も後半。
ちょっと疲れたな。今週もなんだかバタバタしていたな。
そんな気持ちが膨らんでくる頃ではないでしょうか。
そんな時こそ一休み。
ここでのんびりしていきませんか。
喫茶クロスロードでは、毎週木曜日、月ごとのテーマに沿ったエッセイ朗読をお届けしています。
今月のテーマは雨。
今日は、雨の日が少しだけ好きになれそうなヒトさんのエッセイを、私池蝶がお届けします。
それではどうぞ。
雨の日のお楽しみ
ヒト、一人暮らしをしていた頃、雨の日が好きだった。
もう少し正確に言うと、予定のない雨の休日が好きだった。
雨の日は、一日中家にこもって、心ゆくまでダラダラするための免財布を得られる気がしたから。
別に休みの日なんだから、天気関係なく自分の好きなように過ごしたらいいと思うし、実際にそうしてきた。
だけどやっぱり、蜘蛛ひとつないピーカンバレーの日に、一日中家に引きこもっていると、
その日一日を無駄にしたような自己嫌悪を、一日の終わりに感じる。
対して雨の日は、家でのんびり過ごすことこそ正しく合理的な選択なのだと、安心して、怠惰でいられるのだ。
そんなわけで、天気予報で土日が雨予報だと、ひそかにワクワクした。
金曜日、仕事帰りにスーパーに寄って土日の食料を買い込む。
雨の中、一歩も外に出なくていいよ。
この時買う食料は、できるだけ食べるのに手間のかからないものがいい。
思いっきりダラダラすると決めたのだから、包丁や火を使う必要のないインスタントカップ麺や冷凍食品、
お惣菜、菓子パン、ツナくがしを選ぶ。
とりためていた録画やずっと読みたかった本を楽しみながら、思いっきり不健康な食事を好きな時間に好きなだけ食べる。
03:10
お腹がいっぱいになって、眠くなったら寝る。
ザーザーと降り注ぐ雨音をBGMに、窓ガラスにキラキラ光る雨粒を、
見るとはなしに見ながらぼんやりと過ごす一日は、なんとも贅沢。
雨足が強ければ強いほど、幸福感は増す。
子供の頃、雨の日のお散歩。
ユー・シェフラー文、ユー・ウェンゼル絵、若林ひとみ、訳。
という絵本が好きで、繰り返し読んだ。
少年の僕が、おばあちゃんと犬のルーカスと共に、雨の日にお散歩に出かける短いお話だ。
僕は長靴を履いているから、水たまりをバチャバチャ歩くことができる。
水たまりの中で溺れているテントウムシを助けてやったり、雨の日に小鳥がどこにいるか探してみたりする。
地面がぬかるんだ森を通り抜けるときは、両手を広げてサーカスの綱渡りみたいに丸太の上を歩く。
家に帰ると、ママとパパとおじいちゃんが迎えてくれる。
そうして窓のそばの丸いテーブルに座ってお茶を飲みながら、今日あったことを話してみせる。
そのあとおじいちゃんが本を読んでくれる。
絵本の最後、僕が窓の外に目を映すと、雨はまだ降り続いている。
満ち足りた僕の表情からは、お散歩の後の心地よい疲労感と、温かい家に帰り着いた安心感が伝わってくるようで、
じんわりとしたぬくもりが胸に広がる。
雨の日っていいな、そう思わせてくれる優しい絵本だ。
娘が生まれてから雨が降っても、以前のように一人だらだらと地堕落に過ごすわけにはいかなくなった。
その代わり、好奇心旺盛な彼女と一緒に窓を開けて降り込む雨の冷たさを感じてみる。
家中のおもちゃを引っ張り出して、足の踏み場もないほど散らかして、心ゆくまで遊ぶ。
06:00
外が薄暗くて静かだから、二人並んでいつもより長くお昼寝をする。
彼女が歩くようになったら、僕と同じようにお散歩に行きたがるのだろうか。
こうして一緒に過ごす雨の日々が、幸福な時間として娘の中に記憶されたらいいなと思う。
一人でも、誰かと一緒でも、雨の休日はしみじみ楽しい。
なじみの場所、それは家の中だったり外だったりするけれど、
で、ごく親密な人と過ごす。
素朴でプライベートな時間は、快活な晴れの日には味わえない良さがある。
雨の日は、やっぱりいい。
いかがでしたか。
さて、名残惜しいですが閉店のお時間です。
今後も喫茶クロスロードは、あなたがほっこりした時間を過ごせるよう、
毎週月曜日と木曜日、夜9時よりゆるゆる営業していきます。
それでは、本日はお越しいただきありがとうございました。またお待ちしております。