バスの夫人車掌の言葉
ありがとうございます 宮本由里子
バスの夫人車掌は、後から後からと降りる客に向かって、いちいち、
ありがとうございます、ありがとうございます と言っています。
あれは関西の方から持って来られた風だそうですが、 混雑の朝いう、それでなくてさえ、
切符切りでのぼせている小さい体の夫人車掌が、 停留場の呼び上げ、
右往来、左往来、 ご無理でございましょうが、ご順にお膝を送りください。
そちらにおかけになれます。 など、実におびただしい言葉数と聞くばりをしているのに、
あの機械的な、 ありがとうございます、の連発を聞いて、心よい人が果たして何人あるでしょう。
会社はどうしても一人に一度のありがとうございますを与えたいというのならば、 ステップを降りるときバネで、
ありがとうございます と叫ぶ仕掛けを発明したら、
思わず苦笑するだけでも、ましであると思います。