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2024-09-30 06:37

#162【青空文庫】犬と人形

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夢野久作「犬と人形」

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Yumeno Kyusaku title:The dog and the dool

サマリー

東京で大地震と火事が発生し、太郎と花子は婆屋のもとに避難します。夢の中で犬のポチと人形のメリーが無事であることを願う二人は、現実でもそれぞれを探し出すことに成功します。

夢と避難生活
犬と人形、夢の救済
東京では、今度大地震と大火事がありまして、たくさんの人が死にました。
死ななかった人も、お家や着物や食べ物がなくなって、大変に困りました。
太郎さんと花子さんは、お父様とお母様に手を引かれて、東京の近所の婆屋のところへ逃げてきました。
二人は久しぶりに親切な婆屋のお話を聞いて、喜んでおとなしく眠りました。
ところが、夜中になると、太郎さんは眠ったまま大きな声を出して、
「ポチ、ポチ!」と呼びました。
すると、花子さんも眠ったままで、
「メリーさん、メリーさん!」と呼びました。
そしてまた、すやすやと眠りました。
お父様とお母様は顔を見合わせて、犬とお人形の夢を見ているのですよ。
「どちらも焼けてしまっただろう。かわいそうに。」
と言われました。
あくる朝、太郎さんと花子さんは二人そろって、お父様とお母様の前へ出て、
「どうぞ、もういっぺん東京に連れて行ってください。
あたしたちは、ゆべ二人とも同じ夢を見ました。」
「ポチもメリーちゃんも焼けずにいて、早くお迎えに来てちょうだいって、お招きをしていましたから。」
と言いました。
お父さんもお母さんもたいそう大笑いになって、
「そんなことはない。犬は逃げたかもしれないが、人形は押入れにしまってあったのだから。
きっと焼けてしまったに違いない。
もう仕方がないから、二人ともおとなしく遊ぶのですよ。
そしたら、いまにまたいい犬とお人形を買ってあげるから。」
と言われました。
二人は悲しくなってしくしく泣きだしましたが、
やがて花子さんはバーヤの庭の隅にメリーさんのお墓と書いた木の札を立てて、
コスモスや系統の花をあげて拝みました。
太郎さんは、
「ポチが生きていれば、メリーちゃんもきっと焼けないでいるよ。
まだよくわからないのだから、お墓を立てるのはおよしよ。」
ポチとメリーの帰還
と止めましたが、花子さんはただしくしく泣いて拝んでいました。
火事がすっかり済んでから、
お父様は一人でお家の焼け跡を見にいらっしゃいましたが、
夕方になると急いで帰ってきて、
「うちはたった一軒焼け残っていた。さあみんな来い。」
と大喜びでバーヤも連れて東京のお家へお帰りになりました。
お家に来ると、花子さんは何より先に押入れをあけて人形を見ますと、
抱きしめて飛んで喜びました。
それと一緒に太郎さんはお家のまわりをくるくるまわって、
「ポチよ、ポチよ。」
と呼んでいましたが見つかりませんので、べそをかいて帰ってきました。
そうして今度は庭の隅にポチのお墓をこしらえ始めました。
花子さんはそれを見て、
「お兄様、お人形が焼けなかったからポチもきっと無事ですよ。
お墓を作るのはおよしなさい。」
と慰めましたが、太郎さんは聞かずに、
お墓を作ってお水をあげておがんでいました。
するとその晩遅く、わんわんわんと激しく犬が吠える声と一緒に、
「痛い痛い、ちくしょ、ああ痛い痛い、助けてくれ。」
といううちにバタバタと誰か逃げていく音がしました。
太郎さんは一番に飛び起きて、
「ポチだ、ポチだ。」
と表へ飛び出しました。
お父様もお母様も花子さんも驚いてみんな表へ出ますと、
泥棒のようななりをした大男が、
犬に食いつかれてびっこをひきひき向うへ逃げていきます。
その後からポチが一生懸命吠えながら追っかけていきますと、
やがて泥棒は通りかかったおまわりさんに捕まってしまいました。
帰ってきたポチを見ると、太郎さんは抱きついてうれし泣きをしました。
「えらいえらい、よく泥棒を追い払った。さあごほうびにおにぎりをあげるよ。」
とお父さんとお母さんは変わる変わるおほめになりました。
「やっぱりあの夢は本当だったね。」
と花子さんは人形を抱きながら太郎さんに言いました。
太郎さんは犬の背中をなでながらうれしそうにうなずきました。
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