四月の風は冷たく、ダウンベストをパーカーの下に重ねて畑へ向かう。アストランティアに水をやり、枯れ草を刈り払い、体を動かすうちに気分が2から3へ上がっていく。農作業には、薬より早く効くものがある。
Kのハウスに入るたびに、気づけば草を1本抜いている。特に決めたわけじゃない。ただ来るたびに1本。いつの間にかそれが習慣になっていて、いつの間にかハウスは綺麗になっていた。意志よりも、動線の方が人を動かす。
水場でヤゴを見つけた。大きい。オニヤンマかギンヤンマか、まだわからない。去年の夏、帽子にオニヤンマの模型をつけてアブ対策をしていた話をする。効果はあったかもしれない。でも正直なところ、もっとも効果を感じたのはフマキラーのベープだった。吸血昆虫の「索敵」を妨げる成分が入っているらしい。見えているのに見えない。透明マントだ、と思った。
トラクターを持っていない。近所の同期や地主さんの形見のボロボロの3台を、タイミングよく借りながらこの5年をやってきた。使いたい時期がかぶる不便はある。でも2300万の投資をしていない、という事実もある。「持たないこと」も、れっきとした選択だ。
昨日は妻と二人で、イノシシに掘り返された軽の日扇を掘り上げた。早稲より奥手の方が球根の形が綺麗だった。その差を手で確かめながら、1芽ずつ植え直す。農業の判断は、いつもこういう細部の感触からできている。
声を録り終えたら、図書館の鳥図鑑の返却期限が今日だと思い出した。録っていなかったら、きっと忘れていた。偶然のありがたさ、と中島は笑う。
ヤゴの写真を画像検索した、オニヤンマ科かもしれない。
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サマリー
語り手は、春の冷たい風の中、畑作業で気分を高めていく。農作業の合間に見つけたヤゴから、虫除けの「透明マント」というアイデアを思いつく。トラクターを持たない選択や、イノシシに荒らされた畑の修復作業を通して、細部への感触から生まれる農業の判断について語る。
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