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ここは、星降る夜にだけ、ひっそりと明かりが灯る店。 星空カフェバー・エトワール。
このお店にはメニューはございません。 その夜、その人だけの思いに、星のきらめきを重ねた一杯をお作りいたします。
今宵、お客様にお出しするカクテルは?
お待たせいたしました。ルナ・ミモザでございます。
綺麗。月の光みたいですね。
ありがとうございます。黄色いミモザに月の光を重ねた一杯です。
へえ。なんだか不思議と落ち着く色合いですね。
月は不思議ですね。満ちている日もあれば、細く見える日もある。 けれど、どちらも同じ月です。
心も、ちょっと似てますね。
そうかもしれません。
こんばんは。
あれ?ちえさん、今日はメイコさんと一緒でした?
え?どうしてわかったんですか?
これです。洋服の裾にシールがついてますよ。
ああ、抱っこした時についたんですね。
メイコさん、おいくつなんですか?
4歳です。それと、10ヶ月のおいっこもいて、もう二人とも可愛くって。
出来合いしてるんですね。
そう、完全におばばかです。
この前も、メイコを抱っこしようとしたら、
ちえちゃん、私のこと抱っこしたいんでしょ。いいよって。
かわいい。ちゃんと許可を取らないといけないんですね。
そうなんです。もう私がメイコ大好きなのが、完全にバレてて。
でも、それだけメイコちゃんも、ちえさんのことが大好きなんでしょうね。
だったら嬉しいです。
ただ、最近ちょっと保育園に行くのが嫌みたいで。
何かあったんでしょうか。
ちえさん、もしよければ、その続きは、
この一杯を飲んでからゆっくりお話ししてくれませんか?
あ、そうですね。いただきます。
数日前の朝、ちえの元に妹から電話がかかってきました。
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お姉ちゃん、聞いてよ。今朝もうちの上の子が大号泣でね。
今日も?
うん。保育園行きたくないって。
何かあったのかな?お友達とか先生とか。
私もそう思って聞いたんだけど、違うみたい。
じゃあ何?
プールが嫌なんだって。それと…
それと?
ママばっかり休んでずるいって。
ああ、そういうことか。
私が育休中で下の子と家にいるから、自分だけ保育園に行くのが嫌みたい。
そっか、4歳からしたらそう思うよね。
でも毎朝泣かれると、私もどうしたらいいのかわからなくなっちゃって。
ああ。
お姉ちゃん、今度また家に遊びに来てくれない?
もちろん行くよ。
数日後、しえは妹の家を訪ねました。
玄関を開けると、めいがこちらへ走ってきます。
わあ、お出迎えしてくれるの?
しえが両手を広げると、めいは少し得意そうな顔をしてこう言いました。
めいちゃん、私のこと抱っこしたいんでしょ?
いいよ。
ありがとう。じゃあお願いします。
しえはそっと彼女を抱き上げました。
ああ、今日も特別かわいいじゃん。
へへへへ。
すると、今度は10ヶ月の老いが小さな手を伸ばしてきました。
はいはい、君も抱っこね。
老いを抱き上げた瞬間、思わず声が漏れました。
重い。
重いの?
うん、君よりずっと重い。
男の子の赤ちゃんは小さくてもずっしりと重い。腕は少し疲れます。
それでも、二人が嬉しそうに笑っていると、その重ささえ愛おしく感じられました。
かわいいちゃん、保育園行きたくないんだって?
うん。
そっか、何が嫌なの?
プール。
プールが嫌なんだ。
あと、ママがお家にいるのに、私だけ保育園なの。
うーん、それは嫌だよね。ママと一緒にいたいんだよね。
うん。
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その時、知恵はすぐに励ます言葉を探しませんでした。
でも、保育園にはいかなきゃね、とも、明日は頑張ろう、とも言いませんでした。
ただ、彼女の気持ちを聞いていました。
知恵ちゃん、もっと、もっと、もっと、抱っこして。
はいよ、抱っこしますよ。
その小さな声を聞いた時、知恵の胸にある思いが浮かびました。
私、普段は心理セラピストとして、感情は消すものじゃなくて、聞いてあげるものですよって人に伝えているんです。
悲しいなら、悲しいままでいい。怒っているなら、怒っている自分もいていい。
寂しいなら、寂しいって言っていい。そう伝えてきました。
でも、自分が誰かの気持ちを受け止める時、私いつも、何とかしてあげなきゃって思っていたのかもって。
何とかしてあげたいですか?
はい。泣いていたら、泣きやませたい。困っていたら、解決してあげたい。苦しんでいたら、楽にしてあげたい。
それが寄り添うことだと思っていました。
でも、あの子が、もっともっと抱っこしてって言った時、なんだかわかった気がしたんです。
どんなことがわかったんですか?
受け止めるって、何かをしてあげることじゃなくて、そう感じているんだねって、その気持ちの隣にいてあげること。それだけでもいいのかもしれない。
めいっ子も、抱っこしてほしいって言ったんじゃなくて、抱っこしたいんでしょって言ったんですよ。
そうでしたね。
あの子、私に何かをしてもらったんじゃなくて、私に抱っこしてもいいよって、自分の気持ちで許してくれた。
私、抱っこしてあげたつもりだったけど、本当は、抱っこさせてもらってたんです。
素敵な気づきですね。
心も同じなのかもしれません。相手の気持ちをこちらの正しさで動かすんじゃなくて、その人がここにいてもいいって思えるまで隣にいる。
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それって、大人の心の保育士みたいですね。
ああ、そうかもしれません。
私、なんとかしてあげる人じゃなくて、その人の気持ちを安心して抱っこできる人になりたいのかもしれません。
雪も満ちたり欠けたりしながら、そのまま夜空にあります。
泣いてる日も、怒っている日も、寂しい日も、その人であることは何も変わらない。
じゃあ、めいっこさんも。
そうそう、明日も保育園行きたくないって泣くかもしれません。
それでも、そうなんだねって、まず隣にいてあげればいい。
それだけで十分な時もありますよね。
はい。私も焦らなくていいんですね。
え、しーさんも?
ええ、人を支えなきゃって、頑張りすぎてたの、私だったのかもしれません。
では、今夜はご自分の心も、少しだけぎゅっと抱きしめてから帰られてはいかがですか?
ありがとうございます。そうしてみます。
ありがとうございました。
こちらこそ、なんだか今日はいつもよりあったかい気持ちで眠りにつけそうです。
帰ったら、まずは、今日もよくやったねって自分に言ってあげようかな。
いいですね。どうぞ、良き夜を。
ありがとうございました。また来ます。
今宵、お客様にお出ししたカクテルは、ルナ・ミモザ。
揺れる心も、そのまま受け止める夜を映した一杯でした。
星空カフェバー、エトワール。
また、星降る夜にお会いしましょう。