かみさま
作:Ene @ene_oeuf 様
BGM:魔王魂
https://x.com/ene_oeuf/status/1898632739370537374
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サマリー
物語は、近所の小学生ハルトとの出会いから始まる。困難な状況にあるハルトに主人公が食べ物を与えることで、ハルトは主人公を神様だと信じ込む展開が描かれている。このエピソードでは、主人公が子供からのお願いを通じて、自分の役割とその重みを理解していく過程が描かれる。特に、神様という存在に対する誤解や、助けられなかったことへの後悔がテーマになっている。
ハルトとの出会い
何年前かな。 近所に小学生がいたんだよ。
なんつーのかな。 あんまり飯食わせてもらってなさそうってか、あんま家に親いないのかなーみたいな感じで、
まあ正直言っちゃうと、かなりみすぼらしいガキだったんだよ。 全身ガリッガリでさ、風呂入ってねぇから肌もカピカピで、髪とかもギトギト。
いつも同じ服着ててさ。 で、いつだったか会社帰りに通りがかったら、なんかその子がアパートの前でしょんぼりしてんのよ。
しょんぼりっていうか、なんだろう、もういかにも途方に暮れたって感じで、 目なんかもうつろでさ、
まっすぐ歩けてねぇのよ。 フラッフラなの。
多分、腹減りすぎてマジでやべぇって感じで出てきたんだと思うんだけどさ。 でも、どこに行くって当てもなくて、家に帰っても何もないって分かってて、
そういう、 わかる?なんかその周辺だけ世界の色がさ、
違ってんのよな。 そのガキの周辺だけ色がねぇのよ。どんより。
別に俺、スピリチュアルとかそういうの興味ねぇんだけど、 ああいうのマジで見てわかるもんなんだなーってさ。
それぐらい、なんて言うんだろう、壮絶なもんがあるんだよ。 本気で救いがない人間の空気ってのはさ。
でも、 そんなんさ、見ちまったらほっとけるわけもねぇじゃん。
ついうっかり声かけちまったんだよな。 なんか食うかって。
いや、分かるよ。お前はそういう顔するけどさ。 そう思って俺も話してんだけどさ。
でも考えてみ。相手、小学校低学年とかそれぐらいよ。 ガキよ。
で、手足とかマジで棒よ。 それがフラフラで立ってんの。薄汚れて。
あんまそういう子供に声かけたりするの良くねーって、俺も分かるよ。 でもいざ目の前にすると割り切れねぇのよ、そういうの。
なんかしてやれんじゃねえかなって思っちゃうのよ。 で、コンビニでおにぎり買ってやって渡したわけよ。
そしたら食うわ食うわ。すげー食うの。 おにぎり4個ぐらい食うの。
あんま急に食うと腹痛くなるからちょっとずつ食えよーとか言っても全然効いてねえの。
で、チョコとかも与えたらそれも食うの。 マジで何日まともに食ってねえんだろうって感じだったけど。
もうその辺もお察しよ。 ついでにウェットティッシュ買ってやってさ、手足とか顔とか拭いてやったんだけどさ。
そしたらようやく人心地ついたって顔になって、 それがまた案外普通の顔してんのよ。
普通のガキよ。 別に何も特別じゃないんだよ。
ああいうガキって本当に、なんて言うんだろう。 全然特別じゃねえんだよな。
名前もさ、聞いてもねえのにあっさり教えてくれんの。 ハルトってんだってさ。
晴れの日の晴れに人って書いて。 いい名前じゃんって思ったけどなぁ。
で、ねえその子がさ、ああそう、ハルトがさ、 マジマジと俺の顔見て何言うのかと思ったら
お兄ちゃん神様って聞くんだよ。 いや
神様だよ、神様。 言われたことある?
コンビニの握り飯とウェットティッシュくれてやったぐらいで神様になれんだったら全員になるわ。 週9、7日にするわ。
でもそいつは、ハルトはさ、なんつーの、真面目な顔してんだよ。
俺、あんまガキと接したことないからさ、 これ茶化しちゃダメなやつかなって思ってさ。
シャネから、おおそうだよ、神様だよ。 今は目立たないように人間の姿をしているんだ、とかやって話し合わせるしかなかったんだけどさ。
そしたらやっと笑ってさ、笑うと普通に可愛かったよ。 普通のガキだもん。
そんでさ、そんで、 神様お願いします。お父さんとお母さんが帰ってきますようにってさ、
俺に向かって拝むんだよ。 したったらずのさ、ガキ特有のあのタドタドしい感じでさ、わかる?
お前、 子供にガチで拝まれたことある?
お父さんとお母さんが帰ってきますようにってさ、
いやいやいや、 できるわけねえじゃん。
でもさ、目がさ、 目が本気なのよ。なんていうのかな。
目だけはガチなの。いや、さすがにあのガキも本気で言ってたわけじゃないとは思うよ。
いや、それもわかんねえけどさ、 初一いったら余裕でサンタとか信じてる年齢だし、もしかしたら本気で俺のこと神様だと思ってた可能性もあるよ。
あるけど、わかんねえけど。 でも、
とにかく目が違った。 俺を通り越して俺の後ろにいる何かを見てるみたいだった。
こいつには何が見えてんだろうって思った。 もしかしたらマジで何か見えてんのかもしれねえって。
それぐらい目がさ、違うんだよ。 結局さ、
わかったよ。伝えとくよ。お父さんとお母さんすぐ帰ってくるから心配すんな。 つってお茶にごすしかなかった。
だって他に何も言えねえじゃん。 俺としては精一杯の方だよ、あんなの。
その日はもうそこで話切り上げて帰るしかなくてさ。 気の毒ってより、なんか怖くなっちまって。
再会とその後
やべえもんに関わったなぁみたいな後味の悪さすごくてさ。 だってできるわけねえし、親の連絡先も知らねえし。
かわいそうだとは思うけど、下手になつかれてまた飯をおごってくれとか、家に入れてくれとか言われてもやっぱさ、困るしさ。
で、 何日ぐらいかな。2週間ぐらい経ってたかな。
春とかまた俺ん家の前うろついててさ。 俺もちょうど仕事帰りで出くわしまってさ。
あちゃーって思ったんだけど、無視するわけにもいかねえじゃん。 声かけるじゃん。
そしたらなんか元気なんだよ。嬉しそうなの。 どんよりしてた空気がちょっと明るくなってんのよ。
で、お父さんとお母さんが帰ってきました。 ありがとうございますって言って俺に手合わせるんだよ。
完全に俺のこと神様だと思ってんの。 マジで?って感じだけださ。俺からすりゃ。俺何もしてねえしさ。当たり前だけど。
まあでもさ、親帰ってきたならそれはそれで結果往来じゃん。 よかったじゃんって思ったよ。
これご利益あんじゃんみたいな。 でもよくよく話聞いたらなんか違えんだよな。
そいつの両親さ、多分本格的にどっか行くつもりで、 最後に金目のもの取りに来ただけなんだよな。
案の定、またすぐバカでけえカバン持ってどっか行っちまったって。 で、挙句の果てにはテーブルにこれ置いてったって見せてきたの、1万円札2枚だぜ。
2万で何日生きろってんだよ。 金の使い方もわかってねえようなガキがさ。
んでさ、 それ見たときすげえ嫌な予感したんだけど、そういう予感って当たるじゃん。
ハルトがさ、その金を俺に差し出してさ、言うんだよ。 またお父さんとお母さんが帰ってきますように、神様お願いしますって、
俺の顔見てキラッキラの目で手合わせてさ。 もう、はっきりとお願いなんだよ。
わかる? 祈りとか希望とかじゃなくて、俺に対するお願いなんだよ。
子供の願いを受け入れる
2万円でお父さんとお母さんを戻してくださいって、 ガキが精一杯にさ、俺に頼むんだよ。
だから、 だからさ、
できるわけねえじゃん。 だって俺はもう差し手だ。
この子は捨てられたんだって。 もう帰ってこないって。
多分、俺だけじゃなくて近所の大人たちも、多分みんなわかってた。 でも、そんなこと言えねえじゃん。
お前の親もう帰ってこないと思うよとか、 絶対言えねえじゃん。
かといってさ、 何をしてやればいいとかもわかんねえじゃん。
どこに連絡するとか、連絡したらどうなるとか、そういうの。 こっちとら独身のさ、ただのサラリーマンなんだからさ、何も知らねえよ。
知るわけねえじゃん。
でも、 そいつは信じてんの。
俺のことを信じてんだよ。 一度叶えてくれたから。
二度目もやってもらえると思って。 俺に頼めば何とかなると思って。
わざわざ俺が帰ってくるのを待ってたの。 俺、神様だからさ。
俺、 その時初めて
あっ、って思った。 自分が何をしたのかわかった。
でももう、後の祭りよ。 だってそいつは神様に出会っちゃったし、俺は神様じゃなかったし。
なんかもうとにかくそこから離れたくてさ。 走ってさ、逃げるみたいに帰ったことだけ覚えてる。
もう無理だと思った。 もう関わらないでおこう、と思った。
その日からしばらくは、外に出る時もちょっとだけドア開けて、 あいつがいないこと確認してから出る、みたいなセコいこともしてたよ。
だって、会いたくなかったから。 はいはい、そうですね。俺最低ですね。
わかるよ。 でも無理だったよ。
次に顔を合わせたら何を言われるんだろうって。 何をお願いされるんだろうって。
怖えよ、そりゃ。 で、
ねえ、1ヶ月ぐらい経ったかな。 ある日通りがかったら、そいつのアパートの前にいっぱい車が停まっててさ。
どっかの職員みたいな人が何人かいて、 あ、誰かが通報したんだなってわかったよ。
しばらく見てたらドアが開いて、ガリガリに痩せた子供が、 タンカで運び出されてるところだった。
毛布にくるまれててよく見えなかったけど、 辛うじて顔だけ出てて、酸素マスクみたいなの被せられてて、
生きてた。 ちゃんと生きてた。
春人。 ああ、やっとどっかの施設で保護されるんだろうなって思った。
良かったなって思った。 本当に良かったと思った。
笑っちまうけどさ、膝から力抜けて立ってられなくなるぐらい本気で安心したよ。 そしたら、
春人がさ、俺に気づいたんだよな。 結構な距離はあったけど、目が合ってさ、
何か言いたそうな顔してさ、俺の方に向かって体を起こそうとするの。 職員さんたちもびっくりして俺の方を見てさ、
知り合いですか?みたいな顔するんだけど、こっちも何とも言えねえから半端にえしゃくするぐらいで、 あーって感じなんだけど。
でも春人が俺の方を見て必死だから、誰かがマスク外してやってた。 俺も正直かなり気まずかったけどさ、
神様の役を中途半端にしてしまってた罪悪感みたいなのもあったし、 無事で良かったって本当に思ったから、せめて最後に手でも振ってやろうと思って近づいた。
よく頑張ったな、よく生きてたなって言ってやりたい気持ちもあった。 そしたら、何か変なんだよな。
口が動いてるんだよ。 例のカッサカサの唇でさ。
でも全然嬉しそうにしてねえんだ。 俺の顔見ても。
あ、そうかって思った次の瞬間に分かった。 嘘つきって言ってたんだよ。
その後どうなったかは分かんねえ。 そのアパートにはもう戻ってこなかったみたいだし、
俺も割とその後すぐぐらいに転職決まって引っ越ししまってそれっきりだったから。 風の噂みたいなもんもなかったし、親が逮捕されたみたいなことも聞かなかった。
それだけ。 ただ、ガキが一人そこにいたってだけ。
俺が下手こいてそいつに恨まれちまったってだけ。 ただ、
それだけの話なんだけどさ。
14:12
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